『M:I-2』 トム・クルーズ、ジョン・ウー監督 来日記者会見
 6月6日(火)帝国ホテルにて

●出席者(敬称略):トム・クルーズ、ジョン・ウー(監督)、戸田奈津子(通訳)
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【挨拶】

■ジョン・ウー: 日本に来られて大変嬉しく思っております。皆さまにお出でいただき感謝すると共に、この映画のサポートをしてくださった方々に心からお礼を申し上げたい。この映画は、私が今まで作った中で最も好きな映画ですし、とても誇りに思っております。また、トム・クルーズと一緒に仕事が出来たことに関して、とても嬉しく思っております。胸が一杯でちゃんとスピーチができないんですけれども、どうぞお許し下さい。

■トム・クルーズ: 本当に、いつもは時間厳守なんですが、今回は遅れてしまって申しわけありません(会場笑い)。東京のランチ・アワーがあんなに道が混むとは知らずに、大変失礼いたしました(会場笑い)。ちゃんと待っていてくれてありがとうございます(会場笑い)。戻ってこられて本当に嬉しく思っております。日本に来るのをいつも楽しみにしております。温かい歓迎をしてくださるし、人々はいい人たちですし、映画は好きでらっしゃるし……。いろんな映画を作りましたけれども、全部サポートしてくださいましたスタッフに、心から感謝いたします。また、今回『M:I-2』と共に来られたことを誇りに思っております。ジョン・ウーと仕事をすることは私の夢でした。この映画を演出してくれたことを非常に感謝しております。光栄でした。非常に敬意を持っております。どうぞ皆さまもこの映画を楽しんでください。



【質疑応答】

◆質問: 『M:I-2』は、あなたの沢山のフィルモグラフィーの中でも、ベスト1に入るのではないかと言うくらい魅力に溢れていましたが、プロデューサーとしてジョン・ウー監督を選ばれた理由、先ほども「夢だった」と言ってらっしゃいましたが、その辺をもう少しお伺いしたいのと、ウー監督の印象深い演出があったらお聞かせください。


■(トム・クルーズ): 私は、ジョン・ウーの映画を全て研究しました。アメリカのアクション映画を、過去15年間振り返ってみると、いかにジョン・ウーがアメリカ映画にインパクトを与えたかということがわかると思います。有名なスローモーション、タイミングの良いカッティング。ジョン・ウーの映画ファンは、VHSとかレーザーディスクを繰り返し繰り返し観るわけで、私ももちろんそうしたわけです。実は、ジョン・ウー監督は、続編、パート2というのはあまりお好みでなく、別の企画を話し合っていたんです。その時に私が監督に申し上げた。「これは、いわゆる続編というふうに考えないでください。ジョン・ウーの『ミッション:インポッシブル』はどうなるか私は観たい」と説き伏せた。で、私は、『ミッション:インポッシブル2』と呼びませんから。全然違う話になっていますから(会場笑い)。それで、『M:I-2』というタイトルをつけたんです。いろいろなタイトルを考えたんですが、改名案は、グラフィック的に美しくなるので、『M:I-2』に落ち着きました。

それで、私が一番楽しんだ場面は山登りの場面です。あの崖を登る場面は、一切コンピューターは使われておりません。全部生身でやっています。それから、いろいろなアクションも凄く楽しかった。とにかく、ウー監督は、アイディアがドンドン流れてきて、その場でディスカッションして、スローモーションであるとか、踊るようなアクションであるとか、スローモーションを駆使したカー・チェィス……と、もの凄く撮影は楽しかった。とにかく、ジョン・ウー監督のアクション場面は、オリジナルで、独創的で、今までになかったものです。それで、非常に楽しかった。それから、この映画は、一度観たら絶対(もう一度)観たくなる映画です。というのは、キャラクターがとても深く描かれている。それから、二度観なければわからないユーモアも隠されています。そういう意味で、サスペンスもありますし、絶対三度観たくなる映画です。とにかく、こういう映画を作る方はとても難しいわけで、本当にハード・ワークでした。でも、私はチャレンジが好きです。だから全力を出しました。本当にいい仕事が出来ました。


■(ジョン・ウー): ロック・クライミングとかカー・チェイスなどは、トムのアイディアなんです。トムがあれを考えて、これをああいう風に撮ろうとトムから出たんです。彼は非常にクリエイティブで、この映画のロマンティックな部分とか、映画の質を良くすることに、非常に貢献してくれた。本当に、今回の映画はトムの貢献が大きいと思います。私は今回、トムと一緒に仕事が出来て非常に良い体験が出来たと思っています。

◆質問: パート3を作る予定とかはありますでしょうか。

■(トム・クルーズ): ちょっとわかりません。それを考えている時間がありませんので、(今は)考えておりません。ジョン・ウーさんは、この後企画がありますし、私は私で、自分は出ない映画のプロデュース作を2,3本抱えておりますので、それを片づけてからですね。

◆質問: スタントなしで今回はアクションをされてますが、そのシーンで、辛かったシーンと、是非、観てもらいたいというシーンはありますか。

■(トム・クルーズ): みんな難しかったのですが、山のシーンは楽しかった。誇りに思うことは、あれだけのアクションをやって、怪我が、指をちょっと違えたくらいで何もなかったということ。ジョン・ウー監督は、私が山の上に登ろうとするのを、とてもとても嫌がったんです。


■(ジョン・ウー): ネットがないんですから。トムは、山登りは楽しいと言ったけれども、私にしてみれば、あんな恐い、ドキドキする場面はなかった。最初から、トムは、全部スタントは自分でやると言ったわけです。私は、それをやめようと言おうとしたけれども、トムはどうしても自分でやると言って、ロック・クライミングも彼がやったんです。あれは、本当に2000フィートの断崖で、しかも、1箇所からポンと飛びますよね。そして滑り落ちる。あれをやるわけです。それで、本当に私は恐くて、傍で見ていて目をつぶりっぱなし。汗だくだくでパニックしておりました。

あの場面は、トムのお母様も見てらっしゃったんです。で、お母様は、「監督、大丈夫です」と言ってくれたけれども、もちろん、お母様もドキドキしていて、2人で手を握り合ってどうなるかと思って見ていたんです。私は私で、お母様に「大丈夫です」と言ったんだけれども、実は、私の方が胸がドキドキしておりまして、本当に冷や冷やもので見ておりました。

そして、ワンテイクが終わった時、すぐにアシスタントに連絡を取ってもらったら、トムは、崖の真ん中で、「大丈夫、もう1回やるよ」と言うんです。結局、完全主義のトムは、危険な崖のジャンプを7テイクぐらいしたんです。彼は、完璧なものができるまで、絶対に納得しないんです。彼は、インチキに場面を撮るということを絶対にしない方です。その精神は全て、モーターバイクのシーンだとか、素手での殴り合いのシーンも、全てスタントなしで、彼がやったんです。あのモーターサイクルシーンもカーチェイスも、特撮は一切使ってないんです。全部生で撮っている。あのナイフシーンも特撮ではないんです。トムは本当に素晴らしい仕事をするんです。


◆質問: お2人、それぞれにお伺いしたいんですけれども、『M:I-2』でジョイントされたことで、お互いの印象が変わったところがあったんでしょうか。新たな発見等がありましたならば、教えてください。

■(トム・クルーズ): ジョンの感想は、初対面から変わっていないというのが率直な感想です。最初から、ジョン・ウーという監督は、素晴らしい監督であり人間であるというのは存じていて、今もその印象はずっと続いています。非常に思いやりのある監督で、私の安全ということを凄く気遣ってくださった。もちろん、仕事に関しては、自分の思った通りのことをやるハードワーカーです。それから、先ほどパニック状態だったとおっしゃいましたけれども、でも、実際、見かけはいつも冷静なんです。そして、しっかりと自分の仕事をこなすという素晴らしい監督なんです。私は、本当に人間として彼を尊敬できる。




それから、今回、私にとって非常に難しいロケがありました。その難しいロケでも、彼は工夫して場面を作っていく。それを見ているのが非常に面白かった。で、これは非常に大きな映画です。スケジュールもハード。その中でのプレッシャーと戦っているんです。小さいことかもしれませんけれども、あの研究所の場面です。そこで火花が散ってくるということをパッと考えて、素晴らしい効果を作るというのが監督の手腕です。で、本当にカメラワークとか、オリジナルなものをその場で考えていくというのが素晴らしいんです。それから、フォーカスを移すタイミングも素晴らしい。それで、フォーカスをこちらからこちらへ移すだけで、ストーリーを語るのみならず、その人物の内面、ドラマ性というものをあらわしてしまう。たとえば、アンブローズたちが取り引きをしている場面。取り引きが終わってフォーカスが引くと、初めて、アンブローズは、彼の目でイーサンを見るというドラマが、そのフォーカスだけでわかってしまう。今の例ですけれども、ウー監督は、あらゆる場面でそういうことをなさるんです。だから、彼のショットは全てがエキサイティングなわけです。そのワンショットの才能が素晴らしい。白い鳩もしかり。


■(ジョン・ウー): プロデューサーとしても、彼はとてもクリエイティブですし、とても謙虚な方なんです。非常に寛大です。たとえば、例をあげますと、このシーンはこれくらいで撮るというのがあるんですが、撮っていると延びていくんですね。もっと時間をくれと。そういう時に、トムは決してノーと言ったことがない。プロデューサーとしてOKをくれて、私が心ゆくまで撮らせてくれるんです。本当に、そういった意味で、監督に心配はさせない良いプロデューサーだったんです。必要なものは全て提供してくださる。とても謙虚ですから、ヘルプはしてくださいますけれども、コントロールしようとする態度が全然なくて、その姿勢を貫いてくれた。

(そして彼は)非常にクリエイティブですしハードワーカーです。朝の4時頃、電話がかかってくるんですね。このアイディアどう?とか、昨日撮った場面がいいのか、もう一度撮ろうか、とか ― 夜中にそんな電話がかかってくるんです。とにかく、彼は映画のことしか考えていないし、本当に、情熱と理解をかけてこの映画をトムは作った。私も、友人として、彼と共に仕事が出来て、本当にいい経験ができました。

トム・クルーズはスーパースターですけれども、彼は、自分を1人のアクターとして考えて仕事をしている。それで、仕事は完全に良心的にきっちりやる。それから、トムという俳優さんは、ハートからの演技をする。私はそこも凄く好きです。いつも誠実に、心からの演技をみせる。私は、本当に、いいチームとして仕事が出来た。この映画製作という思い出は、今、私の心の中で忘れられないものになっています。


◆質問: トム・クルーズさんにお伺いします。撮影現場にお子さんたちがいらしていたという話ですが、何かエピソードがありましたなら、おきかせください。

■(トム・クルーズ): 確かに撮影現場に連れていきました。子供たちはウーさんがお気に入りで、彼らが撮影を見る席は ─ 監督はいつもモニターに囲まれているのですが ─ その傍で、静かに撮影を見ていました。私が、モーターサイクルでもの凄い撮影をしなければいけないという日、絶対、あのシーンは見たいという息子を連れていったんです。彼が見られる場所は、監督が座って指示を出しながら見る、モニターに囲まれたトラックの上だったんです。そして、私が長い撮影を終えて戻りましたら、なんと息子は、監督の胸のところで寝ているんです。監督は、指示を出しながら息子を寝かせているという、素晴らしい場面を見たことを覚えています。

●司会者: それでは、最後の質問です。

■(トム・クルーズ): 遅刻したから少し延ばしてもいいよ。

●司会者: そうなんですか?(会場から拍手)では、次の方どうぞ。

◆質問: トム・クルーズさんにお伺いしたいんですが、今回のアクションに際して、事前にトレーニングとかされたんでしょうか。それと、ジョン・ウー監督にお伺いしますが、今回も鳩が飛ぶシーンがあるんですが、あのシーンに込められた意味をお伺いしたいんです。それと、あれは監督ご自身が飼ってらっしゃる鳩ではないんですよね。

■(トム・クルーズ): 私は少しやりました。けれど、私は、通常、身体は鍛えていますし、昔から体操をやっていますしスポーツもやっていますから、健康とか体作りには自信がありました。でも今回は、身体に柔軟性を与えていくということを心がけました。ですから、毎日、ストレッチと、いつ出番がくるかわからないので、いつも身体を温かくしておくということが必要だった。空手とかは、その場で付けてもらってやるという感じにしました。チョコレート・アイスクリームも食べましたよ。カロリー的にも必要だったし(会場笑い)。


■(ジョン・ウー): あの鳩には、いろんな意味が込められています。まず、鳩と言いますと、純粋さ、愛、平和、イノセンス、いわゆる無垢な心ですね。それから、聖なるもの。私はクリスチャンですから、そういう意味合いもあります。で、私は、クリスチャンとして育ちまして、教会でポスターを書いていた。その時、いつもテーマとして、鳩を使うポスターを書いていました。そういう意味で、私には鳩というのは意味があるのです。

もう1つは、私は、1970年代、ヒッピーだった。旅をしていたんですが、もちろん、ヒッピーは、ピース&ラブということもあります。それから、この映画のイーサン・ハントという人物は、とてもチャーミングであります。純粋な心を持っていて、とてもエレガントなんです。それが、鳩のシンボル的なものと重なるので使っています。お客さんも入り込める、フレンドリーなイメージもあるので鳩を使いました。イーサン・ハントというのは、鳩のように純粋であるということをあらわしているんです。そして、鳩のように純粋なヒーロー像というのは、新しいヒーロー像ではないか。で、この映画のヒーロー、イーサン・ハントはですね、周囲の人々を気遣うヒーローなんですね。非常にエネルギッシュではありますけれども、その、生きるということに情熱を持っている。そして、人を愛することに情熱を持っているということで、ニュー・ヒーロー像ではないかと思っている。それをあらわすために、そこの部分を強調するような工夫を演出的に試みました。


■(トム・クルーズ): 本当に、ロッククライミングでぶら下がってしまうところがあります。カメラは、クローズアップで私をとらえる。その時、監督に、私は何を考えればいいのか聞いたんです。すると監督は、とにかく高い所ですから、世界はどんなに美しいものかを考えなさいと言ったんです。それを考えながら演技をしました。

■(ジョン・ウー): トムは、当初から、このイーサン・ハントという人物を生身の人として演じたいと言っていた。どこにでもいる若者。そして、生きることに情熱を持った普通の男に描きたいと。いわゆる、ジェームズ・ボンド的なスパイ・ヒーローではなく、今までになかったヒーローにしたいと言って、彼が作っていったんです。

◆質問: トム・クルーズさんに。今回、イーサン・ハントはリーダーに昇格しているということで、トムさんの中での理想のリーダー像をお聞かせください。

■(トム・クルーズ): 私が考えるリーダー・シップとは、人生をどう生きるかということの答えにもなってくると思います。私はいつも、人々に対する敬意というものを忘れません。そして、自分が相手から扱われるように人を扱うというのが私の主義です。そして、周囲の人も、私が尊敬できる人で固めます。そして、彼らの意見を尊重し、彼らが自由に仕事が出来る環境をつくる。そうすれば、彼らは私をサポートし、彼らも私をサポートしてくれます。

そして私は、こうして長い間、映画作りをしてきましたけれども、本当に私は幸運だった。でも、人間的にはあなた方となんら変わらない人間です。でも、幸運にも、私は自分の好きな仕事が出来る。こういう幸運に恵まれて今日まで来たわけです。で、人生の中で、私が作れる映画の本数は決められています。1本1本、全力を投球する。これが、一番限られた映画をやっていく姿勢だと思います。

で、スタッフには私が尊敬できる人を集めて、そして、難しい点は、そういう人たちが間違いをしたときですね、私は理解力をもって、上に立つものとして、各々が持っている力を最大限に発揮できる場を与えるという心がけをリーダーとして持つこと。で、その分、私は自分にも厳しいです。現場での私は、怒ったり感情を爆発させることはありません。いつも話し合いで解決させる。そうすれば、みんながヘルプしてくれて、良い映画が出来てくるんです。誰でもミスはあります。それはOKです。そのミスをどうするか? ネガティブなものを逆転させて、それを利用していく、それが良いリーダーではないか。目的にしっかりしたフォーカスを合わせることが出来、それを持っているのが私が考えるリーダー・シップだと思います。私は、権力を持とうとか支配しようなんてことは考えていません。ヘルプし合って楽しい仕事をするというのが私の生き甲斐です。


(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


『M:I-2』は2000年7月8日より日本劇場ほかにて公開。