『タイタンA.E.』/"TITAN A.E."
2000年8月12日より日比谷映画ほかにて公開

2000年度作品/アメリカ/1時間35分/シネマスコープ/ドルビーSR.SRD.DTS.SDDS/字幕スーパー翻訳/戸田奈津子/配給:20世紀フォックス映画

◇監督:ドン・ブルース、ゲイリー・ゴールドマン ◇製作:デビッド・カーシュナー、ゲイリー・ゴールドマン、ドン・ブルース ◇脚本:ベン・エドランド、ジョン・オーガスト、ジョス・ウェドン ◇ストーリー:ハンス・バウアー、ランダル・マコーミック ◇オリジナル・スコア作曲:グレアム・レヴェル ◇音楽スーパーバイザー:グレン・バラード ◇キャスティング:マリオン・レバイン ◇プロダクション・デザイナー:フィリップ・A・クルーデン ◇アート・ディレクター:ケネス・バレンタイン・スレビン ◇アニメーション監督:レン・サイモン ◇製作総指揮:ポール・ガーツ ◇サウンド・デザイン:クリストファー・ボイエス ◇P.O.V.D.E.視覚効果スーパーバイザー:デビッド・ポール・ドゾレッツ ◇P.O.V.D.E.編集:ポール・マーチン・スミス、G.B.F.E.

◇ボイス・キャスト:マット・デイモン(ケール)、ビル・プルマン(コルソ)、ジョン・レグイザモ(グーン)、ネイサン・レイン(プリード)、ジャニーン・ガラファロ(スティス)、ドリュー・バリモア(アキーマ)、ロン・パールマン(サム・タッカー教授)、アレックス・D・リンツ(少年時代のケール)、トーンロック(テク)、ジム・ブリュアー(コック)



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【解説】

31世紀の未来、銀河系へ進出した人類は、新たな敵に遭遇する。人間のもつ不屈の精神に脅威を感じた悪辣で高い知能をもつエイリアン種族ドレッジであった。銀河を支配するドレッジとの戦いに敗退した人類は、唯一の希望を宇宙船タイタンに託す。だが、そのタイタン号が地球から脱出した直後、地球そのものが破壊されてしまう。故郷と呼べる母星を失い、難民として宇宙をさまよう生き残った人類は、漂流する宇宙コロニーで、あるいは奇妙なエイリアン社会で、奴隷扱いの3級市民として生きるのを余儀なくさせられる。

地球消滅後15年、敵意に満ちた宇宙の中で、主人公ケールは、古びた宇宙のスクラップ工場で仕事に追われる不幸な日々を送っていた。タイタン号を発明した科学者の父親はいつになっても現れず、裏切られた思いのケールは反抗的で怒りっぽく、仲間であるはずの人類になんの心の絆も感じていなかった。

そして、ケールの運命を変えるワルキューレ号が現れる。父の形見の指輪に、人類救済のカギを握る宇宙船タイタンの秘密が隠されていたことを知り、コルソ船長、美人パイロットのアキーマらワルキューレ号の乗組員たちとともに、否応なく、ケールはとてつもない冒険の旅へと出発する。執拗なドレッジの追跡をかいくぐり、仲間の裏切りにあいながらも、ケールは自分自身と人類について新たな発見を重ねてゆく…。


実写では無し得なかったハイパー・リアル映像を次々と繰り出し、オルタナティブ・ロックが鳴り響くという、劇場アニメーションの定義を書き換えるアクション満載の3D-CGIアニメーション映画『タイタンA.E.』。希望の復活とより良い未来を築こうとする人類の不滅の精神を描く、新ミレニアムにふさわしいこの物語を製作・監督したのは、1994年にアリゾナ州フェニックスにフォックス・アニメーション・スタジオを建設して以来、陣頭指揮をしてきたドン・ブルースとゲイリー・ゴールドマンのコンビ。ふたりは、ディズニー時代に『ビアンカの大冒険』や『ピートとドラゴン』を手がけ、独立後は『アメリカ物語』『リトルフットの大冒険/謎の恐竜大陸』で大ヒットをとばし、フォックス・アニメ第1作として『アナスタシア』を送りだした最高のクリエイティブ・パートナー同士、製作期間3年、製作費1億ドルのこのSF超大作アニメは、ハッブル宇宙望遠鏡を使って撮影された最新の天体写真を活用し、背景などを3D-CGIアニメーションで作成、魅力あふれるリアルな宇宙をクリエイトしている。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を手がけたVFXスーパーバイザーのデビッド・ドゾレッツとVFX監督のポール・マーチン・スミスの指揮のもと、『X-ファイル』や『エイリアン4』のブルー・スカイ・スタジオなどのCGアニメ会社が参加。

製作には『アメリカ物語』『チャイルド・プレイ』と実写とアニメの両方を手がけるデビッド・カーシュナーが加わり、脚本は、全米の若者からカルト的な人気を得ているTVシリーズ『ナイトフォール』(『バッフィ/ザ・バンパイア・キラー』のTV化)の企画者で、『トイ・ストーリー』『エイリアン4』のジョス・ウェドン。宇宙船のメカや異星人などのコンセプト・デザインを担当したのは『インデペンデンス・デイ』のオリバー・ショール、『バグズ・ライフ』のブルース・ジック、『アビス』のスティーブ・バーグ、SFアーチストのウェイン・バーロウ。衣裳デザインは『ロミオ&ジュリエット』や『マトリックス』のキム・バレット。アクション・シーンは、『レイダース/失われたアーク(聖櫃)』『スター・ウォーズ/ジュダイの復讐』『マスク・オブ・ゾロ』など実写のスタント演出を手がけたグレン・ランドールが、絵コンテ段階から参加し、目を見張る迫力シーンを生み出すのに成功している。音楽スーパーバイザーは、アラニス・モリセットなど数多くのアーチストの作曲やプロデュースをしているグラミー賞受賞者のグレン・バラード。音楽は、『チャイニーズ・ボックス』でベネチア映画祭音楽賞を受賞した『スポーン』『交渉人』のグレアム・レヴェル。音響は『ミッション・インポッシブル』『アルマゲドン』のクリストファー・ボイエス。

声優陣は、不本意にも人類の未来への鍵を握るヒーローとなる宇宙の孤児ケールに『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』『プライベート・ライアン』のオスカー受賞俳優のマット・デイモン、美しい敏腕パイロットのアキーマに『エバー・アフター』『25年目のキス』のドリュー・バリモア、カリスマ的で謎を秘めた船長コルソに『インディペンデンス・デイ』のビル・プルマン、うさん臭い一等航宙士プリードに『マウス・ハント』のネイサン・レイン、エキセントリックだが有能なナビゲーターのグーンに『ロミオ&ジュリエット』『サマー・オブ・サム』のジョン・レグイザモ、態度の悪い武器の達人スティスに『好きと言えなくて』のジャニーン・ガラファらハリウッド・スターがずらり出演。 CGIとセル・アニメによる映像、アクション満載の感動的物語、オルタナティブ・ロックを中心とする音楽、どれをとっても斬新な『タイタンA.E.』は、従来のアメリカン・アニメーションの概念を打ち破る、画期的な最先端SF映画である。



 


【プロダクションノート】

監督のドン・ブルースとゲイリー・ゴールドマンにとって、『タイタンA.E.』をスクリーンに結実させる過程そのものが、大冒険の旅だった。「今回の作品は、これまで手がけた映画とは、比較にならないほど大きな挑戦だった」とブルースは明言する。「前作の『アナスタシア』も大変だと思ったものだが、これで霞んでしまったね」

「観客の要求は際限がない」とゴールドマン。「だから、さらに上を狙って前進し続けないといけない」

2人の挑戦は、3倍に膨れあがった。SFXを使い、2次元と3次元の世界を統合し、アニメーション映画を新たなレベルに高めたいと考えたのだ。さらに、その最先端の技術効果を駆使し、観客の心をギュッとつかんで感動させる物語を作ろうと決意していた。最終的に、十代を含む従来のアニメーションの固定ファンを超え、観客層を広げる要素を見つけたかったのである。

『タイタンA.E.』は、アメリカで何十年ぶりかに製作されたSFアニメーション――特に十代に人気のあるジャンル――で、エキゾチックな宇宙の光景、しびれるアクション・シーン、野性的なエイリアン・クリーチャーなど、様々な新機軸を見せてくれる。比較的このジャンルに馴染みの薄かったブルースとゴールドマンだが、すぐに熱心なSFファンになった。「天文学とSF的要素にはワクワクさせられた」とブルース。「新しい世界を創造し、刺激いっぱいの冒険だった。その一切合切をどうやってスクリーンに実現させるか、同時に、どうすれば観客がキャラクターたちに感情移入できるようになるか、それが挑戦だったね」

「表面的にはSFの展開だけれど、その下でもうひとつの物語が進行する」とブルースは続ける。「私にとってこの映画は、不屈の人間の精神と自分探しを描いたものだ。ここで問われているのは、我々は何者なのか?我々は救うに値する存在か?再び安住の地を得ることができるか?そして、その答えは、ケールという一個人の力が出発点になるんだ。この物語やキャラクターたちは、SFファンならずとも楽しめるはずだ。人間なら誰でも共感できると思う。西部劇であろうと、ミュージカルであろうと、どの映画もそうすべく努力してるんだ。もし観客が共感できなければ、重要なものが欠けてるのさ。心に響くものがあれば、存分に楽しめるはずだ」

「この作品は技術偏重の映画じゃない」とゴールドマンも同意する。「もちろん、これまでのアニメーションでは見たこともないような、見た目に楽しい特殊効果や最先端のアニメーションを、できるだけたくさんお見せする。それと同時に、観客が気に入り、共感し、もっと知りたくなるほど魅力的なキャラクターたちを登場させたいと望んだわけだ」



■声優について

ケールの声を演じるのはアカデミー賞受賞のマット・デイモン。ドン・ブルースによれば、ケールのキャラクター作りにデイモンは役立ったという。「マットは、ケールの本質を生み出すのを手助けしてくれた。ケールの反抗的な性質を表現するために、マットも自分の心から大切な部分を引き出してくれたんだと思う。彼にとってもチャレンジだったろうね。なにしろ、あらゆることが急展開で起こり、その急激な変化をケールは体験するはめになるんだから。マットはそうした場面ごとの心理をすべてまとめ、ケールの“精神”を作り上げている」

反抗心はあるものの、ケールはいろいろな面で経験不足。たとえば、長い間、女性をひとりも目にしていない。ワルキューレ号の美しく生真面目なパイロット、アキーマとの出会いで、彼は大きく変化する。彼女はケールより少し年上で、世間知らずではない。「彼女は確かにセックス・アピールにあふれている」とゴールドマンは指摘する。「それにエキゾチックなだけじゃない面をもっている」


ドリュー・バリモアは、アキーマのキャラクターに芯の強さとバイタリティを与えている。ドン・ブルースはこう語る。「ドリューは楽々と、優しくて素敵なキャンディのような役回りを演じることもできただろう。しかし、彼女はそんな演技は望まなかった。彼女に「芯のあるキャラクターに、タフな女性にしたいの」と言われ、私たちがもとめていた役柄は、まさにそれだと思ったね。プライベートな時間は、とても物腰がやわらかく優しい人間なんだが、いったんワルキューレ号のパイロットとなると、したたかで誰も口だしできなくなる。私はドリューにタフにしてほしいと言い渡し、彼女はその通り演じてくれた」

バリモアはブルースと仕事のできる機会を楽しみ、この作品のアニメーションに対する新たなアプローチを楽しんだ。「ドンは最高のアニメーション監督のひとりで、彼の感覚を心から信頼しているの。それに加え、『タイタンA.E.』は未熟さのかけらもなく、すごく興味が持てる。ビジュアル的にも心理的にも、とてもリアル」

ケールの旅で重要な役割をはたす、もうひとりの人物が、カリスマ性をもつワルキューレ号船長で、かつて最高機密のタイタン計画でケールの父親の側近として働いたコルソである。ケールを探しだし、タイタン号を無事回収するために彼を導く人物こそ、コルソに他ならない。


コルソ役にビル・プルマンをキャスティングしたのは、『あなたが寝てる間に…』などの映画のナイスガイぶりに反するものだった。「ビルが英雄的なタフガイを演じるのを誰も期待してないだろうが、彼はそれをやってのけたんだ」とブルースは語る。 プルマンは、興行的大ヒットを記録した『インディペンデンス・デイ』の役柄と同じく、地球の破滅もしくは消滅を企てるエイリアンと再び戦うチャンスが訪れたことを喜んだ。「恐るべきエイリアンから世界を救うのが、だんだん上手になってると思うよ」とプルマンは笑った。また、コルソの肉体的な面も気に入っているようで、「彼はぼくのバージョン・アップ版さ。この映画の中では、僕はもっと大きいし、強いし、はるかに速く走れるんだ」

ケールとコルソの関係は、ドン・ブルースの好みの設定である。「ケールは、若者になった自分を探し出すと約束してくれたのに、それを守れなかった父親に腹を立てている」とブルースは説明する。「成長しようと努力するのだが、本物の親からのアドバイスがないので、不良っぽくなってしまう。しかし、ケールとコルソが親しくなるにつれ、ケールは自分の怒りを抑えられるようになるんだ。それが彼に成長を促し、本物のヒーローに変化させるのさ」

脚本家のジョス・ウェドンは、ケールとアキーマ、ケールとコルソの関係をリアルなものにするのを助けた。「『タイタンA.E.』は、スケールの大きな冒険絵巻であると同時に、心の底から感動する物語でもあるんだ」とウェドンは語る。「巨大なキャンバスを背景に、ケール、アキーマ、そしてコルソを描いた作品なんだ。優れたSFが与えてくれる“センス・オブ・ワンダー”体験を観客は味わうだろうし、その一方、個人レベルで物語に自分を重ね合わせて見てくれると思うよ」

一日中、TVシリーズの「バッフィ/ザ・バンパイア・スレイヤー」のセットで過ごした後の深夜や早朝の時間を使って脚本を書き上げたウェドンは、「ケールが他のキャラクターと心の交流を築き、それがどう彼を変えるか描きたかった。なによりも、父親の思い出からくるケールの皮肉な態度や、心の葛藤がどんな形で表にでるのかを、きちんと描きたかった」

また、ウェドンらしいオフ・ビートなユーモアも、映画の中で際立っている。「いくつかジョークを盛り込んだけれど、そのうちのひとつは、監督たちが残したままにしたなんて、信じられなかったよ!映画のクライマックス近くでね…お楽しみを奪うつもりはないけど―アキーマとケールがらみで…」

ウェドンはさらに、出身星も外見も異なるエイリアンから成るワルキューレ号の残りの3人の乗組員の台詞にも貢献した。皮肉屋の一等航宙士プリードは、クラシック作品『イヴの総て』の辛辣な演劇評論家アディソン・デ・ウィットなど、様々な役柄を演じた性格俳優ジョージ・サンダースを思い起こさせると、演じるネイサン・レインは語る。「プリードは薄気味悪く、ほとんどなにも信じていないやつだね。でも、この映画の中でも最高の出来のセリフがいくつか与えられているので、それを演じるのは楽しかったよ」

ジョン・レグイザモが独特の声の才能を提供するのは、聡明だが型破りなナビゲーターのグーン役。銀河を巡るために必要なあらゆる知識をもつグーンこそ、ケールの手に浮かぶ地図を解読し、タイタンへ至る最良のルートを決める男である。「ジョンは、レコーディング・セッションにやってくると、自分から役に合ったアイデアをたくさん出してくれた。グーンのキャラクターを膨らませてくれたんだ」と監督のゴールドマンは語った。



■デザイン&イフェクツ

3D(立体的)と2D(平面的)、CGIとセルのアニメーションを統合し、表現の幅が広がったことで、『タイタンA.E.』にはユニークな映像が生まれた。それはまた、この作品の作り手たちにとっては、最高のチャレンジともなった。たとえば、あるシーンで、2Dで描かれたキャラクターが3Dの宇宙服を着て、3Dの乗り物に乗っている。「難題だったが、苦労の甲斐はあったよ」とゲイリー・ゴールドマンは語る。手書きの質感がCGIの“クリーン”な映像をやわらげ、2Dと3Dの世界を組み合わせるのに役立った。「我々は常に2Dと3Dをミックスすることで、その境界を取り払おうと努力してきた」と作画監督のレン・サイモンは付け加えた。

船内や室内、圧倒的な宇宙の光景、武器、宇宙船など、映画の80パーセントはCGIによって作成されたものだが、ワルキューレ号の乗組員は2Dによって作られたキャラクターである。「私にすれば、2Dのほうが人間の手のぬくもりが感じられるのさ」とドン・ブルースは説明する。「すべてをCGIにすると、気持ちがこもってない気がするんだ」

その他、半透明で流体エネルギーが脈打っているドレッジのようなキャラクターには、CGIのお呼びがかかった。「手描きでは不可能なドレッジの細かなニュアンスが、CGIなら可能だからね」とプロダクション・デザイナーのフィリップ・クルーデンは言う。「スケルトン構造で内部をエネルギーが脈動するドレッジを描くような場合はね」

地球の破滅は、この作品の大掛かりな特殊効果のひとつである。3Dのチーフ・アニメーターのチャーリー・ブレーキロンは、3Dで作ったCGI要素を30層も重ねて、地球が爆発するシーンを作り上げた自分の役割を、冗談で「爆破のプロ」と呼んだ。壮大でファンタスティックなシーンにもかかわらず、ブレーキロンは地質学的な事実に基づいて描いた。「ドレッジの母船から発したエネルギー・ビームが、地球の回転をどんどん速め、地盤がはがれはじめるんだが、実際の断層に対応している。とてつもない爆発の後、その衝撃波が避難する宇宙船ばかりか、月さえも巻き込んでゆくんだ」

フォックス・アニメーション・スタジオで進行する特殊効果に加え、製作にはトップクラスのSFX工房の高名なエキスパートたちの協力も得た。ブルー・スカイ・スタジオは、映画のラストで人類の新たな故郷となる世界が衝撃的に創造されるシーンをCGIで作り上げた。

『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の編集者ポール・マーチン・スミスと視覚効果スーパーバイザーのデビッド・ポール・ドゾレッツを含む精選されたアーチスト・チームのパーシステンス・オブ・ビジョン・デジタル・エンタテインメント(P.O.V.D.E.)社も、大きく貢献した。プロダクション・デザイナーのクルーデンと密接に作業を進めながら、P.O.V.D.E.はコンピュータを使ったプリ・ビジュアライゼーションと呼ばれる作業で全体コンセプトをまとめ、映画の中で最もサスペンスあふれる「ティグリンのアイスリング」を抜ける危険な旅のシーン用にCGIを製作した。

この“氷の結晶群”の場面は、巨大な氷の結晶が80Kmもの距離に渡って群れ集い、ひとつの銀河にも似たアイスリングを形成する宙域に突入したケールの宇宙船を、ワルキューレ号が位置を突き止め、追跡しようとするシーンである。氷の表面が反射するドラマチックで危険な“鏡の間”を宇宙船同士が抜けてゆくときに生じる緊張感が、このシーンの見所である。スタッフは、『レッド・オクトーバーを追え!』や『深く静かに潜航せよ』といった映画の緊迫するシーンと比較してみるのだった。

プロダクション・デザイナーのフィリップ・クルーデンが描いた氷のクリスタルのデザインに触発され、ドゾレッツとスミスは、プリ・ビジュアライゼーションのアニマティックスを開発し、場面展開を決定する最初の手助けをした。「フィルの考えついた反射する表面というのが、とりわけ気に入ったんだ」とスミス。「鏡張りの家みたいな効果は、観客にトリックを仕掛けられるし、場面の緊張感を高めることができるからね。観客が座席で固唾を飲むシーンにしたかったんだ」

最初はアニメーション映画の仕事をすると考えただけで抵抗を感じたスミスとドゾレッツだったが、『タイタンA.E.』でふたりは驚きを体験した。「結局、素晴らしい時を過ごさせてもらったのさ」とスミスは熱をこめて言う。「とても刺激的だった」

P.O.V.D.E.はまた、『ウェイク・エンジェル』のシーンのキー・コンセプト作りと特殊効果作業も担当した。これは、ケールが初めて宇宙船を操縦するチャンスを得て、聖堂じみた星雲の空洞を抜けるとき、イルカのような宇宙生物たちが戯れながら伴走するシーン。3Dアニメーション・プロダクションのリアリティ・チェック・スタジオが、このシーンの3Dショットを完成させた。さらにP.O.V.D.E.は、再びクルーデンのアートワークを基に、ドレッジがケールを捕まえ、タイタンの所在を探るセシャリム星を舞台にしたアクション満載のチェイス・シーンのプリ・ビジュアライゼーションを助けた。ドン・ブルースが考え出し、フォックス・アニメーション・スタジオで作成するこの複雑なシーンには、実際に呼吸しているかに見える爆発性水素球ばかりでなく、無数の2Dや3Dのキャラクターや背景が混在するあたりを、飛びまわるようなキャメラ移動が含まれている。

地表の暗赤色、物陰、明るい色の水素球の浮かぶセシャリムでは、特定の感情や雰囲気を、色調やライティングを映画的に使って醸し出している――これがブルースとゴールドマン作品の特質である。「作曲の仕事にすごく似てるんだが、色を編成するように常に心掛けているんだ」とブルースは説明する。「色や音響を使って送り出すバイブレーションで、観客に様々な感情を伝えることができる。だから、私たちの仕事は、適切な感情を現わす色を発見することなんだ」

CGIのきついライティング、くっきりとした影、人工的な強い炎の明かり―『タイタンA.E.』の変わった照明プランは、実写のような映像をもたらしてくれる。クルーデンが“インダストリアル・デザイン”と名付たこのライティングは、映画全体のイメージを統一する重要な役割を果たしている。「すべてが現実的で、いんちきはない。実写と同じアプローチでデザインに取り組んだので、実写映画のプロダクション・デザイナーが、我々のデザインに基づいてセットを組むのも可能なはずだ」とクルーデンは言う。ワルキューレ号の船内も、『深く静かに潜航せよ』の潜水艦をモデルに、スケールに狂いのない設計図によって作られているし、外観は、「コルベットをイメージしてほしい」というクルーデンの言葉どおり、スマートなデザインになっている。

クルーデンは、各分野のトップ・デザイナーやアーチストと協力して作業を進めた。ワルキューレ号の船内デザインは、『インディペンデンス・デイ』のオリバー・ショール、タイタン号と宇宙のスクラップ工場のタウ14は『バグズ・ライフ』のブルース・ジック、ドレッジの宇宙船と宇宙環境のいくつかは『X-MEN』『ターミネーター2』のスティーブ・バーグ、そしてプリードを含む数体のエイリアン・デザインは『バビロン5』のウェイン・バーロウが担当した。

『タイタンA.E.』の複数多岐にわたるデザインには、膨大な量の調査が必要だった。「映画に直接使用しない資料を、これほど多く集めたのは初めてだ」とクルーデンは冗談を言った。「調査資料とスケッチで20冊分の本が出来るくらいさ。アニメーターの古い諺にいわく、『自分の頭だけを頼りに描けば、間違ったものを描くことになる』」

自称“SFフリーク”のクルーデンは、いくつかの領分でインスピレーションを得るために、『エイリアン』や『フィフス・エレメント』(これは色調プランを立てるのに役立った)などのSF映画を参考にした。ただし、『タイタンA.E.』に登場するエイリアン、宇宙の光景、乗り物や武器のほとんどは、なにも参考にしておらず、スタッフのイマジネーションから生まれたものである。

「存在しない世界を創造したんだ」とクルーデン。「架空の世界だからこそ、奔放な想像力に拍車がかかったのさ」



■音楽と音響

『タイタンA.E.』は、映画音楽と音響の面でも新境地を切り開いている。特定のアーチストが歌うポップ・ソングと、それに密接に結びついたオーケストラによる背景音楽という従来のアニメーション映画音楽に代えて、『タイタンA.E.』では、現在最もホットなバンドによる先鋭的なロック音楽が起用された。

そうしたバンドと仕事を組む好機に加え、『タイタンA.E.』のユニークなビジュアル・スタイルに心ひかれ、グラミー賞受賞の音楽プロデューサー、グレン・バラードがプロジェクトに参画した。「宇宙に新しい環境を創造したアニメーション・チームが成し遂げた作品、色彩と3Dにあふれた映像に、視覚的に刺激された」と、この映画で音楽スーパーバイザーをつとめるバラードは語る。「だから、『タイタンA.E.』は、前代未聞の映像とエキサイティングな音楽を結合させる絶好の機会だった」

バラードが揃えたバンドには、ウェイリング・ソウル、(「レネゲイド・サバイバー)、ブリス(「ノット・クワイト・パラダイス」)、ジャミロクワイ(「ゴーイング・トゥ・ザ・ムーン」)、ファン・ラヴィン・クリミナルズ(「エブリシング・アンダー・ザ・スターズ」)、ルーシアス・ジャクソン(「ダウン・トゥ・アース」)、パワーマン5000(「ジ・エンド・イズ・オーバー」)、エレクトラシー(「コズミッリせられている。自作において、ブルースはすべてのキャラクターをデザインし、絵コンテのキー・アーチストをつとめ、興にのれば、元気で愉快なキャラクターにマッチする気のきいた歌を作曲することでも有名である。こうした役割ではまだ忙しくないと言わんばかりに、脚本のほとんどを執筆、または共作している。

テキサス州エル・パソで7人兄弟の一家に生まれたブルースは、非常にクリエイティブな環境に育ち、『白雪姫』(1938)を見て、自分の天職を発見した。6歳から絶えず絵を描きつづけ、まもなく、彼の夢はディズニー・スタジオで働き、映画で見たように自分の描いた絵に命を吹き込むことに膨らんでいった。一家がカリフォルニア州サンタモニカに引っ越し、高校を卒業すると、自分の作品を持ってバーバンクにあるディズニー・スタジオに向かった。すぐに採用され、アニメーション部でアニメーターの描いたキー・ドローイングの間をつなげて動きを完成させるイン・ビトゥイーナー(中割り)の仕事につく。ブルースは1955年から翌年にかけて、ディズニー・クラシックの『眠れる森の美女』(1959)で働く。正規の教育を続けて受けようと決めたブルースは、ブリンガム・ヤング大学に入学して英文学を専攻するが、在学中、夏休みにはディズニーで働きつづけた。卒業後、弟のフレデリックと共にサンタモニカで劇場をはじめ、ポピュラーなミュージカル・コメディをプロデュース・演出するが、3年後、アニメ界への復帰を決める。最初の復職先は、ロサンゼルスにあるTVアニメ会社やフィルメーション・スタジオで、アニメーターのために背景やセット・デザイン、キャラクターの配置などを決めるレイアウト・アーチストとして雇われ、3年のうちにアニメ界のトップに昇進していた。

1971年、ディズニーにアニメーターとして戻ったブルースは、2年でチーフ原画アニメーター、翌年には作画監督、次の年にプロデューサー/総監督と、目覚ましいスピードでトップに上り詰めた。1971年から1979年の間、彼の手がけた作品には、『ロビンフッド』(1974)、『くまのプーさん名作物語 プーさんとティガー』(1974・V)、『ビアンカの大冒険』(1977)、『ピートとドラゴン』(1977・V)、『The Small One』(1978)などがある。1979年、同僚のアニメーター、ゲイリー・ゴールドマン、ジョン・ポメロイと3人で、夜間や休日を利用し、ブルースの自宅ガレージで作ってきた短編アニメ『バンジョー/いたずら子猫の大冒険』が1975年3月から4年半の歳月をかけて完成。その年の始め、長編の劇場用アニメへの出資話を持ちかけてきた業界関係者に良いサンプルとなり、同作品はTVスペシャルとして放映され、全米映画顧問委員会最優秀賞とSFファンタジー・ホラー映画協会のゴールデン・スクロール賞を受賞した。9月、ブルースの誕生日に3人はそろってディズニーを辞め、ドン・ブルース・プロダクションを設立。その輝く第1作となったのが、ロバート・C・オブライエン原作の『ニムの秘密』(1982・V)であり、翌年には新たなレーザーディスクの技術を利用した初のインタラクティブ・レーザー・ディスク・ゲームも完成させている。1984年12月にはスピルバーグと組む『アメリカ物語』(1986)に着手。1986年にはスタジオをアイルランドのダブリンに移転、ヨーロッパ最大のアニメ・スタジオに成長する。その後の作品には『リトル・フットの大冒険/謎の恐竜大陸』(1988)、『天国からきたわんちゃん・チャーリーのお話』(1989・V)、『サンベリーナ おやゆび姫』(1993)、『セントラルパークの妖精 スタンリーのゆかいな冒険』(1993・V)などがある。

1994年、ブルースとゲイリー・ゴールドマンは、アリゾナ州フェニックスに創設されたフォックス・アニメーション・スタジオのプロデューサー/総監督に就く。その第1作『アナスタシア』(1997)は世界中で1億4000万ドルの興行収入をあげ、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の候補となった。1998年には『アナスタシア』からスピノフしたオリジナル・アニメ・ビデオ『バルトーク/ザ・マジシャン』を製作。第2作の『タイタンA.E.』を完成させたブルースとゴールドマンのコンビは、タイトル未定の“アフリカ”企画をすでにスタートされている。



■ゲイリー・ゴールドマン(製作・監督)

ディズニー・スタジオで、ゴールドマンがドン・ブルースと出会ったのは、1972年のことだった。まもなく二人は、古典アニメーションの良き伝統を今日のアニメ映画に取り戻したいと互いに願っていることが分かり、すぐに固い友情が結ばれ、その絆は実際のクリエイティブ・パートナーとなって25年以上続いている。

1944年にカリフォルニア州オークランドに生まれたゴールドマンは、ワトソンビルで育ち、子供のころはピアノを学び、模型作りや絵を描くのが趣味だった。アメリカ空軍で電気技師として兵役につき、その後は絵画に没頭。カリフォルニアのカブリロ・カレッジで文系準学士号を取得後、1971年12月に生物デッサンで芸術学士号を取得してハワイ大学を卒業、1972年の初めにディズニー・プロダクションに就職して、アニメのキャリアを積み始める。初仕事は『ロビンフッド』(1973)でフランク・トーマス付きのイン・ビトゥイーナーだった。その後、ドン・ブルースとともに『くまのプーさん名作物語 プーさんとティガー』(1974)、『ビアンカの大冒険』(1977)でアニメーターとして関わり、『ピートとドラゴン』(1977・V)、『The Small One』(1978)ではチーフ原画アニメーターをつとめる。

1979年、TV放送された自主製作作品『バンジョー/いたずら子猫の大冒険』を作ったドン・ブルース、ジョン・ポメロイとともにディズニーを退社し、独立プロを旗揚げ、その第1回作品『ニムの秘密』(1982・V)は、SFファンタジー・ホラー映画協会から最優秀アニメ映画部門としてサターン賞を与えられる。続く『アメリカ物語』(1986)では、それまでのアニメ映画の最高収益を記録し、主題歌「サムウェア・アウト・ゼア」はグラミー賞受賞、アカデミー賞のオリジナルソング賞にノミネートされた。1986年、ゴールドマンとブルースは、アイルランド政府の招聘を受けて、87人のスタッフとその家族を引き連れ、ダブリンに仕事場を移す。アイルランドでの初作品で長編第3作目となる『リトルフットの大冒険/謎の恐竜大陸』(1988)は、アニメ作品としては記録破りのオープニング成績を達成した。その後の作品には、『天国から来たわんちゃん・チャーリーのお話』(1989・V)、『サンベリーナ おやゆび姫』(1993)、『セントラルパークの妖精 スタンリーのゆかいな冒険』(1993・V)などがある。ドン・ブルースとともに作っている。ゴールドマンは現在、フォックス・アニメーション・スタジオのクリエイティブ面のリーダーという重責を、同じプロデューサー/総監督のドン・ブルースと分かち合っている。



■フォックス・アニメーション・スタジオ

1994年、フォックス・フィルムド・エンタテインメントの会長ビル・メカニックが、アニメーション界で最も信頼されるアーチスト・コンビ、ドン・ブルースとゲイリー・ゴールドマンを招いて、長編アニメーション製作に乗り出すと発表した。 アリゾナ州フェニックスに建設されたスタジオは、6万6000平方フィートと広大なもので、トップ・クラスのSFXスタジオだけがもつスーパー・コンピューターを導入し、アニメでは使われたことのない最新鋭のスキャナー、台詞の録音、ダビング機器に加え、必要に応じて新たに独自のソフトやテクノロジーを開発し、より自由な表現を可能にする最先端のアニメーション技術を駆使している。その結果生まれた第1作『アナスタシア』(1997)は高い評価を受けてアカデミー賞候補にのぼり、ビデオ市場向けに続編の『バルトーク/ザ・マジシャン』(1998)も製作している。