『タイタンA.E.』ゲイリー・ゴールドマン監督来日記者会見
 2000年7月17日(月)帝国ホテルにて

●出席者:ゲイリー・ゴールドマン監督
| オフィシャルサイト | 作品紹介 | WERDE OFFICE | CINEMA WERDE |
【挨拶】

■ゲイリー・ゴールドマン監督: 2年ぶりに日本に参りました。とてもハッピーな気持ちです。日本という国は私にとって大切な国です。と申しますのは、以前、西船橋に住んだことがあります。1963年、1964年、1965年と西船橋に住みました。当時の私は若かったし、感性も今の私よりも若かった頃に住みましたので、日本は私の第2の故郷というふうに思っております。当時はまだ、東京のディズニーランドもありませんでした。あったのは船橋ヘルスセンターでした。今回は、この『タイタンA.E』を持って来たわけですけれども、私は、作った者として、非常に誇りに思っております。そして、今までのアメリカのアニメと違った路線のアニメです。ドン・ブルースと私が作りました中でも、最も、スタイル的にも内容的にも複雑な映画で、少し大人指向に作られた映画という意味でも、新しい路線です。是非、皆さんに見ていただきたいと思っております。

【質疑応答】

◆質問: 非常に楽しませていただきました。特に、アイスリングのシークエンスはドキドキしました。苦労話などをお聞かせください。

■(ゲイリー・ゴールドマン監督): 確かに、非常に興味深いシークエンスだと思います。非常にリアルに作られておりますし、でも、作った方のプロセスとしては、すべてのアニメーションの映画がそうであるように、絵コンテ、ストーリーボードを作るわけです。今回、あのシークエンスに関しましては、ジョージ・ルーカスの所からスペシャル・チームを呼びまして、彼らがラフな動きだけのものを作ってくれるわけです。それを見て、我々が試してみまして、彼らがファイナル・バージョンを作ってくるというプロセスを踏みました。ジョージ・ルーカスの所の人たちはみんな若くて、一番年を取っていて28歳くらいという感じで、つまり、若いチームが非常に情熱を持って作ってくれた。ジョージ・ルーカスのところは、ライブアクションが主で、アニメーションは初めてなんですね。そういった意味で、彼らにとっては新しいチャレンジなので、張り切ってやってくれて、素晴らしいものが出来た。本当に、あのアイスリングの場面は非常にユニークで、素晴らしい場面になったと我々も自負しております。鏡に映ってしまうというコンセプトは、前にもあったわけです。鏡の殿堂に入った時には、本物がどれかわからないというのは前にも作りました。つまり、かくれんぼをする形になるわけです。今回は、2000年のホール・オブ・ミラーということで、これだけの鏡のシーンはないと、いかにも2000年っぽい映像で自負しています。

◆質問: 以前の作品、『アナスタシア』などから回を重ねるごとに、3DのCGと、2Dのアニメーションの比率が変わってきている。3DのCGの部分がどんどん増えて来ているようですが、この辺の使いわけのコツみたいなものはありますでしょうか。

■(ゲイリー・ゴールドマン監督): 『アナスタシア』で申し上げますと、あの映画の全編の映像の60%は、CGが使ってあるという比率です。ところが、実際に製作が動き出しますと、日進月歩で新しいソフトウェアが作られる。結果的には、この映画での87%の映像に、なんらかの形でCGが入っている。『アナスタシア』は時代ものでありましたし、コスチュームも20世紀初頭のものだった。それと今回の映画を比べますと、これは1000年先の話です。ということで、話的にもCGを使いやすい環境を持った映画ですので、そういう部分も増えてくるわけです。ですから、バックの星空であるとか、星雲とか、そういう使いやすい、使って当然という道具としてCGが入ってくる。で、1988年の『オール・ドックス・ゴー・トゥ・ヘヴン』などと比べると、活気的に増えている。私が考えるに、CGというのは素晴らしいんですけれども、これは映画作りの道具の1つにすぎない。やはり、人間のアーティストというものは必要なんです。で、この映画のバックグラウンドをCGで作りましたけれども、この映画が完成する4ケ月前に、マイヤという会社がまた新しいソフトを作ってしまったんです。その方が更に良くなるということで、また取り直しをしたんです。結局、200シーンを最新のもので差し替えまして、それでもっと3D的で、しかももっと本物に見えるものにしたんです。そういうふうにして、最新のものを取り入れたりしたのがこの映画なんです。ですから、3ケ月ごとに、ハイテク、ソフトウェアは進んでいきますので、所謂、1つの映画を長期のスパンで撮っていますと、技術は変わっていきますから、考えてみれば恐い話です。本当に、スケジュール的にデッドラインがあるものは困ってしまうというわけです。新しいものを求めると、1本の映画を作るのに10年あっても出来ないということになってしまうわけです。

◆質問: 今回、そうそうたる俳優陣が声優として参加されていますが、アニメーションに声をあてるということは、演技するのとは別に大変なことだと思うのですが、それぞれ、たとえば、マット・デイモンさん、ドリュー・バリモアさん、ビル・プルマンさんの声優ぶりはいかがでしたでしょうか。


■(ゲイリー・ゴールドマン監督): 最近、アニメの声優に人気の俳優さんたちが起用されますよね。なぜかと言えば、スターという人は、なるべく理由があってスターになっているんです。その理由とは、たとえば、ドリュー・バリモアさんは、4歳くらいから演技をしているのかなぁ。非常にキャリアの長い女優さんですが、それだけの経験をアキーマというキャラクターに生かせるし、マイクロフォンとの付き合いも非常にうまいということもあります。とても、彼女はこの企画に入れ込んでくれまして、シナリオも好きだし、このキャラクターも好きということで、非常に入れ込んでやってくれた。どの声優さんも1回で録るんではなく、分けて録っていくので、ドリューの場合、この制作は19ケ月なんですが、その中で、10回から12回ぐらいの録音セッションで彼女の部分を録るわけです。

ビル・プルマンに関しては、非常に面白いキャスティングなわけです。というのは、彼が演じる役は、ダークな面を持った男です。ところが、実際に見た今までのビル・プルマンの映画は、ミスター・ナイスガイ的な役が多くて、こういう暗い役は、彼はあまりやらないのにキャスティングした。で、この映画の中の彼の役は、陰謀企む男で、結局、最後はバッド・ガイだったということがわかる男ということです。我々の話し合いでは、この男を最後には贖罪させていい男に戻すべきか、悪者にして殺しちゃうかということで議論したんです。で、結論は、この映画自体のテーマというのは、「希望」ということを大事にしようということがあるんです。結局、人間の魂というのは、どんなことがあっても死なないということが、この映画での1つのテーマなわけですね。ですから、彼は最後に改心して、ケールという青年の影響もあり、魂を取り戻すという方が、この映画のテーマに添っているということで、彼は最後に心を入れ替える。ですから、ビル・プルマンは、ミスター・ナイスガイのイメージをこの映画でも結果的には保ったわけで、大変彼は喜んでいると思います。

マット・デイモンは、素晴らしい俳優でもありますが、『グッド・ウィル・ハンティング』でアカデミー賞の脚本賞を受賞した、素晴らしいライティングの才能もある方なので、このケールという役のキャラクターは、彼の貢献度は非常に高い。レコーディングの時に、ドンドン自分の意見を言ってくださいとこちらから言ったんです。そうしたら彼は、この企画に関わった気持ちで、大変良いサジェスチョンをくれたんです。ただ与えられたセリフを読むだけではなくて、今やこの映画の一部になるくらいの役割を果たしてくれたんです。彼もまたナイスガイで、決して大物気取りで威張るとか扱いにくいことはなくて、すべてこの映画で関わった俳優さんたちは、一緒に仕事がしやすい性格の方ばかりで、とても楽しい経験が出来ました。

プリードという役を演じてくれた彼(ネイサン・レイン)はブロードウェイのベテランで、映画も沢山撮ってらっしゃいますし、そういう役を彼がやっているというのも知っている方はビックリされるわけですね。その彼は、プリードという不思議なキャラクターに生命感を与えた。もともと、プリードはつかみ所のないエイリアンで、悪人なのか善人なのかわからない曖昧な役を、彼は、セリフまわしもプロらしく、お客さんを楽しませる人物に仕立てたことは、やはり、ネイサン・レインのベテランの技がさせたことだと思います。

それから、最後にあげるのは、グーンをやったジョン・レグイザモなんですかれども、彼は、大変アメリカでは人気のあるスタンダップ・コメディアンなんですね。でも、映画では、『サマー・オブ・サム』などシリアスな演技もしますけれども、彼が電話をしてきまして、「僕は、グーンというキャラクターでこういう声を使いたい」という。彼はそんな年ではありません。33歳くらなはずです。それなのに、1940年代に非常に有名だったピーター・ローリー風にやりたいと、自分の声で物真似をしたんです。ビックリしたんですけれども、でも本当にセリフを言ってもらうと、グーンというキャラクターに合っているし、で、彼は、セリフまで書き直していいですかと言いました。時々、俳優がセリフを書き直すという時に、自分の時間を増やしたいということで書き直すということがありますけれども、彼の場合は、このグーンという役を一致させるために、いろいろなサジェスチョンをくれたんです。非常に一生懸命やってくれました。


◆質問: この映画のラストなんですが、地球をまったく新しく作ってしまうという非常に興味深くて面白かったんですが、その発想とはどういうところからきているんでしょうか。


■(ゲイリー・ゴールドマン監督): 映画をきっちりご覧になればわかるんですけれども、このタイタンというのは、人類を救う救命船でもないし、人間を救うもののために作られたものではないんです。映画のセリフの中で、このタイタン・プロジェクトというのは、ずっと前から計画されているもので、これは、3000何年の話ですから、人類は宇宙を開発して、宇宙を見て、その時点でもう1つ地球を作りましょうという目的で作られたのが、タイタン・プロジェクトなんです。決して脱出するものではないんです。ドレッジは脅威なもので形がないんですね。ところが、人類というのは個人、インディビジュアルなんです。それが人類の素晴らしいところです。人間というのは、個人の自由を大切にする生物なんです。それを、形のないドレッジは、非常に恐いものとして滅ぼそうとするわけです。そこをちゃんとわかっていただきたい。それで、地球はドレッジによって破壊されてしまう。その後で、新しい地球を作る。ここは最初にシナリオからあったんです。それがこの話の骨格です。シナリオライターがこのコンセプトを最初に考えたんです。

では、地球をどう破壊するかということは、我々がリサーチして考えていったことです。だからドレッジが襲ってきた。地球は回転する。その回転が止まらないくらい速くなって、壊れていくという風に考えた。もう1度よく見るとわかると思うのですが、いわゆる、大陸プレート通りに地球が割れていくんです。本当に、世界において地質学的に正しい研究に基づいて、この映画は作られているんです。それからドンドン崩れていくと、中からマグマが吹き出てきて、大陸の周りに出てくるところもちゃんと描かれている。あの地球が破壊される場面は、ロジカルに科学的にちゃんと作られているんです。でも、確かに科学的に基づいて作ったんですが、CGアーティストでもっと凝った人がいて、アメリカが北米、南米とあって、都市に電気が付いている。で、エネルギーが押し寄せていくように、段々電気が消えていくというところまで細かくなっているんです。つまり、そのくらいディティールに凝っている。ということは、見ている人も面白いわけです。そういうものを踏まえてこの映画を作りました。

地球を作る方の話ですけれど、まず氷があって、それが水になって、地球を作る時に作用しているという、非常にロジカルに、実際に地球が出来た時と同じように再現しているわけです。でもそれは、『スター・トレック』で前にありましたね。でも、全然違うやり方で別の画にしているわけです。なぜ、あのアイスリングのシーンがあるかというと、ロジック的にもわかっていただけるでしょう。破壊の場面は、フォックス・スタジオで撮り、作る場面は、ニューヨークのブルースカイで撮影をしました。ですから、いろんな人達の協力を得てこの映画は出来ているわけで、先ほど、ジョージ・ルーカスのチームの話もしましたし、彼らの本拠はアリゾナにあるわけです。ロサンゼルスのプロダクションも使ったし、いろんなところのプロダクションが協力し合いながらこの映画は出来たわけです。


◆質問: この映画を通して、いろんな所で作った画のすり合わせをどういう風に行ったのでしょうか。それと、今回起用された俳優さんのイメージが、画に反映されたことがあるんでしょうか。それと、今回のキャラクター名は珍しい名前が多いのですが、これはどこから来たのでしょうか。


■(ゲイリー・ゴールドマン監督): 2番目の質問に関しては、ないです。声優は声のみをやるだけで、動きに関しましては、ステージ・アクターを雇ってきて、その人たちに声優のセリフを聞かせて、その気持ちになって演技をして、その動きをアニメーターたちが、参考にしたということです。確かに、雇ってきたステージ・アクターが、ドリュー・バリモアの声を聞くと、ドリュー・バリモアっぽい演技をしちゃうことはありました。で、ケールがマット・デイモンっぽいと思われたのは、アニメーターもマット・デイモンを知っていますので、彼の身振りとかを入れちゃうということもあるので、どうしてもマット・デイモンに似てくるということもあるかもしれません。意識的ではなくて、無意識にというこです。

統一性に関しては、デザインは、ドン・ブルースと私とフォックスの重役さんが全部検証するシステムをとって、統一性のあるデザインがこないとOKを出さないわけです。それを元に繋げて、統一性がないと全部返却してやり直してもらうという。そういうシステムで統一性をはかりました。いろんな人に任せるわけですから、200万のパズルのピースを繋ぎ合わせるのが映画なんですけれども、そういうシステムがあるから安心できるわけで、安眠もできるわけで、もし、そういうシステムがなければ夜も眠れません。それで、この映画は、全部の制作日数は、アニメとしては短いですが19ケ月です。毎週2分間ずつ仕上げていかないと、19ケ月じゃできないわけです。毎週、2分間分のストーリー・ボード、アニメーション、録音部門など、28部門が毎週2分間分作るわけです。それを我々がチェックするんです。でなければ間に合わないんです。そういうスケジュールで作っていったわけです。

名前は、最初のシナリオから付いてました。書いたライターと話し合って、人物の内面、背景も最初から書かれていました。たとえば、ケールという人物は多分アメリカ人だろう。お父さんはプロフェッサーで、お母さんはすでに死んでいるだろうと、いう具合に。アキーマは日本的な名前ですが、多分これは混血で、お母さんが日本人、お父さんはアメリカ人か、ヨーロッパ人の白人。そういう混血の少女です。コルソはアメリカ人の軍人で、将校だった。タックの助手をしていて、悪いんだけど最後は善人になる。その辺は最初から出来ていた。プリードは、私はSFフリークではないので、悪人やなんかがどういうものかわからないんですけれども、ライターにクレジットされている3人は、非常にSFに造詣が深いので、SFっぽいものに関しては、全部この3人にお任せして、彼らが知識を駆使して、このユニークなエイリアンを作ってくれたんです。それで出来たのがこのエイリアンたちで、エイリアンの創造主は彼らなわけです。

(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


『タイタンA.E.』は2000年8月12日より日比谷映画ほかにて公開。