『クローサー・ユー・ゲット』/"THE CLOCER YOU GET"
2000年7月22日よりシャンテ・シネほかにて公開

2000年/イギリス/1時間33分/ビスタビジョン/ドルビーSR・SRD/字幕スーパー翻訳:松浦美奈
配給:TWENTIETH CENTURY FOX

◇監督:アイリーン・リッチー ◇ストーリー:ハービー・ウェイブ ◇脚本:ウィリアム・アイボリー ◇製作:ウベルト・パゾリーニ ◇共同製作:ボリー・レイス、マーク・ヒューファム ◇撮影:ロベール・アラズラキ、A.F.C. ◇編集:スー・ワイアット ◇音楽:レイチェル・ポートマン ◇プロダクション・デザイナー:トム・マクラーフ ◇衣裳デザイナー:キャシー・ストラシャン

◇キャスト:イアン・ハート、ショーン・マッギンレイ、ニーアム・キューザック、ルース・マッケイブ、ユアン・スチュアート、ショーン・マクドノー、キャスリーン・ブラッドレイ、パット・ショート、デボラ・バーネット、リスタード・クーパー、モーリーン・オブライエン、パット・ラファン、フランク・ラバティ、ブリッタ・スミス、パトリシア・マーティン、ドリーン・キーオウ、ポーリーン・ハットン、ニュアラ・オニール、デジー・ギャラガー



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【解説】

◆マジメで夢多き5人のアイルランド人
彼らの熱意は、アメリカン・ガールに
本当のオトコを教えるコト。
全世界の男と女のモンダイ。


全世界の男と女のモンダイは、いつの時代もやっぱり“愛”。アイルランドの片田舎に住むマジメで夢多き5人の男たちは、アメリカン・ガールに“本当のオトコ”とは何かを教えるべく熱意を燃やした…?

あの抱腹絶倒、スッポンポンのイギリス映画『フル・モンティ』を贈り出した敏腕プロデューサー、ウベルト・パゾリーニが再び放ったモンダイ作がやってきた。とんちんかんなオトコたちがイイ女をゲットしようとして繰り広げるズレまくりの結婚大作戦。静かで美しいアイルランドの小さな村は、ある1本の映画がきっかけでムズムズ、ドキドキ、時ならぬ恋の季節に突入する。

アイルランド、ドニゴールの小さな村。年々人口が減少しつつあるこの村では、最後に結婚式が行われてから何年もの月日が過ぎていた。離婚や葬式は世間並みに発生するけれど、適齢期の女性はほとんどおらず、新しいロマンスの花咲くきざしはまったくない。この村を出て行かない限り、独身の男たちは一生このままでいるしかない。そこで彼らが考えたのが、新聞広告を出してフロリダからアメリカ美人を呼び寄せること。年に一度のダンス・パーティに招待し、結婚までこぎ着けようというのだ。なんと無謀な作戦!だけれど、案の定これが失敗に終わろうとしたとき、今までずっと目の前にいながら無視していた女性たちとの間に予期せぬ恋の炎が燃え上がり始めた!?

“パブが恋人”のキーランは髪を金色に染めて筋力トレーニングを始め、未だ童貞のオリーは性の儀式を済ませておこうと焦りまくり、キーランの兄イアンは昔あきらめた恋の夢を思い出す。元サッカー選手のバーテンダー、パットはパブを花の香りで満たし、10代のショーンはセクシー・ポーズの練習にいそしみ、真面目なマローン神父までが触発されてヘンな映画を見始める…。

未来の妻を釣り上げようと必死になればなるほど見えてくる男たちの本当の姿。そして女たちもまた、いつしか夫を釣り上げようと躍起になっている。結婚大作戦が村に新たな誘惑の火花を散らせ、やがて、誰もが“大切なものは近くにあった”ことに気付くのだ。

これは、愚かだけれどカワイイ男たちと、強くてカシコイ女たちが繰り広げる愛すべきコメディ。世界的なヒットになると同時に、アカデミー賞4部門(作品、監督、オリジナル脚本、オリジナル作曲賞)にノミネートされ、みごとオリジナル作曲賞(アン・ダドリー)に輝いた『フル・モンティ』を世に贈ったパゾリーニは、今回男性側の視点に女性からの視点も盛り込んで、魅力的なキャラクターが躍動する愉快でリアルな恋の物語を作り出した。

彼は今回も『フル・モンティ』と同じく、脚本家と監督に新人を起用した。テレビ・シリーズを見て白羽の矢を立てられたウィリアム・アイボリーとともに4年をかけて脚本を練り上げ、短編映画での手腕を買ってアイリーン・リッチーを監督に指名した。アイボリーは、アイルランドならではの風俗やコミカルな会話の妙を脚本に取り入れ、キャラクターがストーリーを引っ張っていくタイプの群像ドラマを書き上げた。そして、ここの描かれた人間関係の機微と感情に魅了されたリッチーは、キャラクターに命を吹き込み、ロマンチシズムとユーモアが微妙に溶け合うこの作品でその秀逸なセンスを遺憾なく披露している。

製作者たちはキャスティングに当たって、村の住人が実在するかのように感じられ、観客が感情移入できるように、既成のイメージのない俳優を選んだ。中には、シボーンを演じたキャスリーン・ブラッドレイやエラに扮した10歳の少女デボラ・バーネットのように、地元の演劇サークルで発掘された人もいる。結果、『ナッシング・パーソナル/報復の無差別爆破』でベネチア映画祭助演男優賞を受賞した若手イアン・ハート、フルート奏者でもあり舞台で活躍しているニーアム・キューザック、『マイケル・コリンズ』『ブレイブハート』のショーン・マッギンレイ、『タイタニック』『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』のユアン・スチュアートらベテランと、演技未経験者が入り交じった編成で、生き生きとした演技のアンサンブルを生み出した。

ドキュメンタリーとも言えるほどにリアルな村の情景を捉えた撮影監督は、『プロヴァンス物語/マルセルの夏』などのロベール・アラズラキ。彼は村の飾り気のない雰囲気を出すために、美しい風景をあえて平凡に見えるように撮影した。衣裳デザイナーのキャシー・ストラシャンもまた、村人の現実に即した衣裳を選び、それがキャラクターの性格を雄弁に物語っている。プロダクション・デザイナーのトム・マクラーフは、田舎の村のイメージを作るために、実際にはもっと現代的だったドニゴールのキンカズラ村を一変させた。より古ぼけてみえるよう、建物などすべてがくすんだ色に塗り替えられた。ほかに、バートンポートの浜、マゴリーの農場などでロケが行われた。



 




【プロダクションノート】

■製作について

プロデューサーのウベルト・パゾリーニは、数年前に読んだ新聞記事からこの映画のアイデアを思いついた。それはバルセロナ近郊の山間に住む男たちが、新聞に花嫁募集の広告を出したというものだった。彼が興味を抱いたのは、共同体社会の中にいる人々だった。「文化と文化の衝突を描くのではなく、小さな共同体で暮らす人々の人間関係が、外から新たな女性たちを呼び込むというアイデアによってどのように影響を受け、変化していくのかということに興味を引かれた」と語る。

彼は、テレビ・シリーズ“Common As Muck”で目をつけた脚本家のウィリアム・アイボリーにアプローチし、4年の歳月をかけて脚本に手を加えていった。そして、短編映画『Double Nougat』を見てアイリーン・リッチー監督に声をかけた。

アイボリーはテレビドラマを執筆するためにアイルランドに滞在した経験があり、ここに住んでいる姉妹もいた。彼が「あの辺りの話し方である重いリズムで書いた」と言うように、脚本は本物のアイルランド人の会話を彷彿とさせる。

リッチーにとっては「とんでもないボーナス、大きなチャンス」だった。もともとライターでもある彼女は、この脚本の物語とキャラクターの味わいに圧倒された。「素晴らしいキャラクターと、彼らの人間らしい真摯な感情に魅了されたわ」と、彼女は語る。多くの舞台経験を持つ彼女は、リハーサルに多くの時間をかけた。

ケイトを演じたニーアム・キューザックは「アイリーンはセットでいつも素晴らしい雰囲気を作りだしていた」と言う。「だから誰もが、自分も映画に貢献してるって感じるの。彼女は俳優を大切にする監督。演技に真正面から向き合ってくれるわ」。イアンを演じたショーン・マッギンレイは「彼女はそのシーンで欲しいものをはっきり把握している。それが俳優にとって働きやすい環境を作る」と同意する。パット役のユアン・スチュアートも、「ビジュアル面と演技面の両方に対して鋭いセンスを持つ稀有な監督だ」とリッチーを大絶賛している。

撮影監督のロベール・アラズラキは、リッチー監督と緊密に連携し、各テイクの微妙なニュアンスを捉えてみせた。「アイリーンはすべてのシーンを感情の衝突に収束していく。観客に“ここに注目しろ”ということなしにね。彼女は人間関係の機微がどう作用しあうかに焦点を定めている。それこそ作り手が集中すべきこと。笑いはストーリーと脚本が生み出してくれるって信じていればいいんだ」と語っている。



■愚かな男たちと強い女たち

アイボリーは田舎の労働者階級の共同体を描きたいと考えた。「私自身もそこの出身だし、あの世界独特のユーモアを反映したかった。人々が互いの事情をよく知っている世界をね。それはとてもありがたいと同時に、大変煩わしいものさ」。

彼はイギリス北部の出身だが、鉱山町で暮らした経験があり、この映画の地域社会の雰囲気を描き出すことができた。「キャラクターは私が実際に知っている人間関係をベースにしている。それは、昔から村々で続いてきた男女の役割分担なんだ」。

彼は鉱山で2年間ゴミ収集人として働いた。「鉱山は一見男社会だが、実際には男たちに気付かれることなく、女たちがコントロールしてるんだ。男たちの集団はみな、同じように行動する。彼らの間には独特の群衆心理というものがあって、それが消え去ることはない」と、アイボリーは笑う。

俳優たちはアイボリーの脚本を大いに楽しみ、彼がアイルランド人社会の空気を完璧に描き出したと感じた。「男どもが交わす気さくな冗談が実にいいね」とパット・ショート。自らも田舎に住んでいる彼は、「あんな風に互いに緊密に関わり合ってるんだ。パブでのおしゃべりなんかとてもうまいね」と、太鼓判を押す。

ニーアム・キューザックは、「とにかく脚本が新鮮でコミカル。キャラクターたちは肝が据わってるし、ここに登場する女性たちは本当に素晴らしいわ」と語っている。



■隣の芝生は青い…

スタッフ、キャストが声を揃えて言うこの映画のテーマは“隣の芝生は青い”。

つまり、すぐ目の前にいるものの美しさをよく見ろ、ということだ。「人生の答えはどこか遠いところから来るものだと夢みるばかりじゃなく、自分の周りをもうちょっと見回してみようってこと」と、パゾリーニ。リッチーも「私たちの世界に対する見方、そして時には目を開いて違った見方をするべきだってことを描いているのよ」と語る。

キーランを演じるイアン・ハートは自分のキャラクターが置かれる皮肉なシチュエーションを楽しんだ。「変化を促すようなきっかけや刺激もなく、人々は淡々と人生を生きて、時間だけが彼らの上を通り過ぎて行く。キーランとシボーンは、新聞に広告を出すというバカげたアイデアがなかったら、つき合うようになっていなかっただろうね」。

アイボリーは言う。「たとえすぐ近くで暮らしていても、人々は“愛している”とか“君こそ運命の人だ”なんて言わないものだ。我々のキャラクターが徐々にそういうことを実行するようになるにつれ、彼らの人生はより彩りに満ちたものになる」。

物語の中心にあるのは、夢を見始めた人々に何が起こるのか、その夢が実現しなかったときに何が起こるのか、という普遍的なアイデアである。ショートは言う。「人々は理想の女性、住みか、ライフ・スタイルについて決まった考えを持っているものだ。そして、現実というのは、いつもそれとは違っているのさ」。



■単なるコメディではない

「これはベルイマン・タッチのコメディなんだ」とアイボリーは言う。「コミカルなシチュエーションのすべてで、いつも魂の根源に迫るような、ときには胸を締め付けるような何かがある」と。

リッチーは、キャラクターをリアルに人間臭く描きたいと思った。「彼らはみな葛藤を抱えている。自分で克服しなければならないことを、彼らが成長していく過程で降りかかることの中には、コミカルなこともあるわ。でも同時に、物語はとても大切なことを伝えようとしているの」。

ユアン・スチュアートは、パットが抱えるジレンマが中年男性にとってリアルで一般的なものだと言う。「結婚という事実がパットにとっては重荷だったんだ。彼は一人の女性とだけ暮らして人生を終えることをどうしても受け入れられなかったのさ。人生が自分の横を通り過ぎていくような気がして、彼は人生のチャンスを逃したくないんだ。これは老いつつある人がごく普通に陥る症候群だと思うね」。

リッチーは地方ならではの習慣や行動様式を観察して、映画のためのリサーチを行った。「作品に登場する物事の多くは私たちが実際にドニゴールで目にしたことなの。それはこの地方独特のもので、グラスゴーでは見かけないもの。ローカル色豊かなものにすることで、逆にストーリーを普遍的なものにできると私は考えているの」。



■初めての挑戦者たち

この映画はアイボリーとリッチーにとって初めての長編映画である。パゾリーニはこれまで『フル・モンティ』や『パルーカヴィル』でも新人を起用してきた。「それが私の好きなやり方なんだ。キャリアのスタート地点にいる者は、全力投球以上のものを作品につぎ込もうとする。それに彼らは、与えられた試練にじっくり取り組もうとする。それは経験不足を補って余りあるものだと思うんだ」。

リッチーにとってこの経験は素晴らしいものだった。「初めての長編はもっと自分自身の経験や出自に近いものだろうと思ってたわ。この映画に関わった人たちとはこれまで一緒に仕事をしたことがなかったけれど、みんな信じられないくらい協力的で勇気づけてくれた。でも、一日に数時間しか撮影できなくて辛いこともあったわ。長編映画の撮影はマラソンね。ものすごく退屈な日もあるけれど、うまくいっているときはアドレナリンが駆け巡るのが感じられて、ウキウキした気分になる。それがまた前進する原動力になるの」。



■共同体社会のキャスティング

「キャストに関しては、既にイメージができ上がっている俳優を避けることが重要だった」とパゾリーニは語る。「観客が以前の役柄を思い出すことなく、村の人々があたかも実在するように感じ、感情移入できるようにね」。これを念頭に置いて、パゾリーニはアイルランド人のベテラン・キャスティング・ディレクター、モーリー・ヒューズにアプローチした。 彼らはベルファスト、デリー、ダブリン、ロンドンなど様々な地域でオーディションを行った。シボーンを演じたキャスリーン・ブラッドレイとエラを演じた10歳のデボラ・ガーネットは、ドニゴールの地元の演劇サークルで発掘された。

ニーアム・キューザックは最初からケイトの候補に挙がっており、ショーン・マッギンレイが早い時期にイアン役に決定した。オリー役のパット・ショートは『ジ・アンビリーバブルズ』というショーに出演しているところを見出された。マローン神父役のリスタード・クーパーは、リッチーが舞台で一緒に仕事をしていた縁で選ばれた。村全体がキャスティングされるころには、映画未経験者、著名なベテラン俳優、その中間が入り交じった編成となった。ショーン・マッギンレイは、この組み合わせが演技の上で好材料となったと言う。「経験豊かな者は、ときにすべてを当たり前に受けとめがちだ。アイリーンは誰もが平等な環境が大切だと考えているタイプだ。だからこの作品では、皆がゼロからスタートしてるんだ」。



■リアリティの追求

“リリカルなものよりリアルなものを”というのが撮影監督ロベール・アラズラキの狙い。パゾリーニは、人々が実際にこの村に暮らしているような、ドキュメンタリーのようにリアルなものを欲しがっていたからだ。

ドニゴールでの撮影は、ときとして計画通りには進まなかった。「ここの光は本当に素晴らしいが、一瞬で変わってしまう。と編集のスー・ワイアット。「一方から撮っているときには青空でも、5分後に別の角度から撮ろうとするともう灰色に変わっている」とアラズラキ。彼らは、画面の統一感のためにしばしば撮影の中断を余儀なくされた。

アラズラキは、この作品の映像をロマンチシズムに陥ることなく真実味を追求したものにしようとした。「シーンを実際以上に美しく見せないように心がけた。醜くすることはないが、もっと平凡に見えるよう工夫しなくてはならなかった。そうすれば観客はここがどれほど素晴らしいところか気付かない。素晴らしい環境の中で毎日を過ごしていることに気付かないんだ」。

衣裳デザイナーのキャシー・ストラシャンも、現実に即した飾り気のない衣裳を心がけた。「モダンで風変わりな趣があり、デザイン性は強くないのにどこか突拍子もない、といった衣裳」である。「どこに住んでいるか、どんな音楽が好きかということを知らずにワードローブをデザインすることはできないわ」とストラシャンは言う。使われた衣裳の大半は、慈善事業用の古着や中古品店で調達された。



■こだわりのロケーション

撮影はドニゴールの北西の村々で行われた。ロケーション・マネージャーのスティーブン・キーレンは、「僻地らしい感じのする村で、アイルランド版『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』のような場所を探した」と言う。西海岸を細かく辿った末、ドニゴールで数週間を過ごした彼らは、ロケ地の70パーセントをここで見つけることができた。キンカズラの村が“海のそばの教会”を意味する架空の町キルバラに最も近い雰囲気を備えていた。ここには、キーランの肉屋やパットのパブ、メアリーの郵便局など、必要としていたものが既にあった。

プロダクション・デザイナーのトム・マクラーフはキンカズラを僻地の村らしく変えていった。実際の村はとても現代的だったからだ。「家々の多くがとても明るい色で、我々の求めていた雰囲気にどうしても合わなかった。退屈な感じ、飽き飽きするような感じが漂うようにしたかった」とマクラーフ。彼らは陽気な村を地味に装い直し、古ぼけたように見せなければならなかった。結果、すべてがくすんだ色に塗り替えられ、道路の白いセンターラインまでが砂利で隠された。

村のダンス・パーティーが行われる会場を天幕にしたのはマクラーフのアイデアだった。「子供のころ。集会場がない地域に大きな天幕がそびえ立っていたのを覚えている。よりイベントらしさが出て、とてもいい効果が出せた」。



■教会探し

製作チームはキルバラの教会に対する確固としたイメージを持っていた。州の中にある70もの教会を見て回った末、二つの教会で撮影が行われることになった。外部のショットに使われたのはキンカズラ・パリッシュ・チャーチ。満潮時には壁まで潮が達する入江に建つこの教会は、ドラマティックな環境に打ってつけだった。内部の撮影に使われたのはドアリー教会。マクラーフは木製のバルコニーを取り付けて古びた感じを出すなど、大規模な作業でこれも地味に作り変えた。

また、ほかにバートンポートの浜、マゴリーの農場などがロケ地になった。



 




【ストーリー】

アイルランド北西部に位置するドニゴール。ここはケルト文化を育んだ美しい土地。青々とした草原では羊たちが草をはみ、動物と人間が共存している。けれど…、若者たちは羊に夢中になれないし、毎日判でおしたような生活は退屈でしかない。

18歳のショーン(ショーン・マクドノー)はこの村を出て違う人生を経験したいと思っている。少々ニブくて太り気味のキーラン(イアン・ハート)は、満潮になると船を漕いで唯一の楽しみであるパブへと通う。マローン神父(リスタード・クーパー)は毎週水曜日、説教の後に映画上映を行っている。今日の映画は『十戒』のはずだったが、なぜかスクリーンに映ったのは『テン』。ボー・デレクのセクシーな肉体を目にして、男たちの価値観が変わった、のかもしれない。


扇情的すぎる『テン』の上映を許すべきか否か?彼らは元サッカーのスター選手パット(ユアン・スチュアート)と妻のケイト(ニーアム・キューザック)が経営するパブに集合した。マザコン気味のオリー(パット・ショート)は、村を愛するならボー・デレクは諦めるしかないと思っている。キーランは兄のイアン(ショーン・マッギンレイ)に、男たちが夢中になるのはしかたないと訴える。だって彼らには他に何もすることがないから。村には適齢期の女など誰もいないのだ。

そんなとき、肉屋で働くシボーン(キャスリーン・ブラッドレイ)のひとことがヒントになって、男たちはあるアイデアを思いつく。新聞に“女性募集”の広告を出そう!プレイボーイ誌を見て決めたのはマイアミのヘラルド紙。毎年恒例の聖マルタ祭のダンス・パーティーにアメリカ人女性を招待しようというのだ。

食料品店兼郵便局を経営するショーンの母メアリー(ルース・マッケイブ)は、怪しい手紙を見つけると開封して盗み見する名人。男たちが新聞社へ出した手紙を見て、この“結婚作戦”は村中に知れ渡った。実はキーランに気のあるシボーンの胸中は穏やかではない。昔からケイトに気のあったイアンの恋心も再燃し始める。男も女も、誰もがこの“作戦”のせいで忘れていたロマンスの香りを思い出したのだ。

キーランは髪を金髪に染め、“ラブ・マシーン”に生まれ変わるべく腕立て伏せを始めた。股間に手をやる下品な癖はまだ直らないが、女たちに愛嬌を振りまいて“いい男”をアピールする。実はまだ女を知らなかったオリーは、準備を整えるために童貞を捨てる決心をするが、うまくいかずに落ち込んでいる。やがて新聞に広告が掲載された。男たちは毎日期待に胸を膨らませながらバス停にアメリカ女を迎えにいくが、来る日も来る日も降りる客はいない。一方、キーランに冷たくされたシボーンは、女同士の井戸端会議で話し合い、港に入港中のスペイン人の漁師たちをダンスに誘うことにする。

やがて、祭りの日がやってきた。男たちはそれぞれめかしこんで会場に入るが、アメリカ女など一人もいない。代わりにやってきたのは陽気でセクシーなスペイン男たち。女たちはこぞって彼らの方に走っていく。ドレス姿のシボーンを見て初めてその美しさに気付いたキーランは、彼女を誘うがこっぴどく拒絶されてしまう。一方、イアンとケイトはお互いの気持ちに気付き、感情は高まるばかりだが、いかんせん彼女は人妻だ。パーティーの夜が明けたとき、男たちの心に残ったのは孤独とフラストレーションだけだった。

翌朝、ささいな言葉が引き金になってキーランとパットは殴り合いのケンカをする。止めに入るイアン。パットは冷え切っていたケイトとの結婚の解消を決意し、娘のエラ(デボラ・バーネット)にそれを告げる。これを知ってイアンをけしかけるキーラン。けれど、ケイトはこの町を出ていこうとしている。キーランはシボーンの家に愛を告白に行くが、彼女はなかなか彼を許そうとはしない。

一方、海外からエロ雑誌を取り寄せてメアリーにこんこんと説教されたオリーは、セックスへの夢を詩的に語って彼女を感動させる。

はたして男たちの夢はかなえられるんだろうか…?身近すぎて気付かなかったカップルの愛の行方は…?