『アイランド』/"THE ISLAND"







アイランド [DVD]
2005年7月23日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開

2005年/アメリカ映画/監督:マイケル・ベイ/脚本:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン、アレックス・カーツマン&ロベルト・オーチー/原作:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン/製作:ウォルター・F・パークス、マイケル・ベイ、イアン・ブライス/製作総指揮:ローリー・マクドナルド/製作:ドリームーワークス・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース映画/全米配給:ドリームワークス、海外配給:ワーナー・ブラザース映画

◇監督・製作:マイケル・ベイ ◇製作:ウォルター・F・パークス、イアン・ブライス ◇製作総指揮:ローリー・マクドナルド ◇原作・脚本:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン ◇脚本:アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー ◇撮影:マウロ・フィオーレ ◇美術:ナイジェル・フェルプス ◇編集:ポール・ルーベル、クリスチャン・ワグナー ◇衣装:デボラ・L・スコット ◇視覚効果監修:エリック・ブレビグ ◇音楽:スティーブ・ジャブロンスキー ◇特殊効果監修:ジョン・フレイジャー ◇スタント・コーディネーター/セカンド・ユニット・ディレクター/アソシエイト・プロデューサー:ケニー・ベイツ

◇キャスト:ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン、ジャイモン・フンスー、ショーン・ビーン、スティーブ・ブシェミ、マイケル・クラーク・ダンカン



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【解説】

近未来 ─ それは、もう1人のあなたの物語

2019年 ─ 。
それは、生命がオーダーメイドされる時代。

退屈な毎日に、彼はうんざりしていた。
大気汚染から守られた、この味気ない都市空間を1日も早く抜け出したい。
抽選に選ばれて、地上最後の楽園「アイランド」へ移住すること
─ それが彼の夢だ。

訪れた幸運に、彼女は興奮を隠せなかった。
ついにめぐってきた"アイランド行き"の順番!
「アイランドで会えるわ」「アイランドで会おう」
─ それが2人の約束だった。

彼は、リンカーン・6・エコー(ユアン・マクレガー)。
彼女は、ジョーダン・2・デルタ(スカーレット・ヨハンソン)。
2人はその日まで何も知らずに生きてきた。
自分たちが"コピー"であるということを。
"アイランド行き"の名のもとに葬り去られる運命を ─ 。

僕らの命は、僕らのものではなかったのか?
生きたい。だから、彼は彼女の手をとった。
愛したい。だから、彼女は彼を信じた。

命の制限時間が迫る中、2人の生への脱出が始まった!!



『アルマゲドン』で世紀末の"現在"を描き、『パール・ハーバー』で歴史の"過去"を刻みつけたマイケル・ベイ監督が、その無尽のイマジネーションを、ついに"近未来"へと突入させた! リアルさを増すクローン技術というテーマに、今までとはまったく違う新たな視点を投げかける緊迫感のある設定、スタイリッシュな未来都市を舞台に生への逃走が展開されるダイナミックな超絶アクション、空中を疾走する未来型バイク・ワスプによる息もつかせぬチェイス・シーン、そして、絶対の定評を持つ透明感ある映像からあふれ出すかつてない無垢な愛。他を圧する壮大なスケールに、胸を打つドラマを吹き込み、比類なき感動のエンターテインメントへと結実させうる監督は、マイケル・ベイを置いてほかにはいない。製作を担うドリーム・ワークスのスティーブン・スピルバーグが直々に監督を指名したスペシャル・プロジェクトがついにその姿を現す。人類の未来へ向けて、今放たれる渾身の超大作『アイランド』 ─ 2005年夏、時代を貫く感動が、世界を覆う。

主演は、『スター・ウォーズ』(エピソード1〜3)のユアン・マクレガーと、『ロスト・イン・トランスレーション』のスカーレット・ヨハンソン。彼らを管理する統括者メリックに『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』『トロイ』のショーン・ビーン、追跡隊を率いるローレントに『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』『コンスタンティン』のジャイモン・フンスー、2人の逃亡を助ける研究員マッコードに『ファーゴ』『ビッグ・フィッシュ』のスティーブ・ブシェミ、そして"アイランド行き"の悲劇に見舞われる友人に『グリーンマイル』のマイケル・クラーク・ダンカン……めまぐるしく入れ替わる運命が、それぞれに予期せぬ結末を用意する。

真実を知り、決死の脱出に挑むリンカーンとジョーダン。大人の姿をしていても、実際には生まれてまだ数年しか経っていない2人は、世の中のことは何も知らない、あどけない子供と同じ。愛とは何かも知らぬまま、お互いに運命の人と出会ってしまった男女の無垢な魂が、真実の世界へと解き放たれた時、すべてが激しく動き出す。2人を捕獲するために組織された大規模なセキュリティーチームの容赦ない追撃、陸・空を駆けめぐる息詰まる攻防、冨と名声を得て"生命"を買ったもうひとりの自分との対面。初めて出会う世界に戸惑い、今まで知らなかった感情に胸をときめかせながら、必死で生き延びようとする2人。望むのはただ自分の人生を生きること、そして愛すること。彼らもまた、生きるために生まれてきたのだ ─ 。

DNAより強く、神の意志より激しく。誰にも犯すことのできないたったひとつの真実がそこにある。「生きたい」というこの世で一番純粋な祈り、「愛したい」というこの世で一番素直な想い。

この上もなく無垢な魂が生み出す、真実の"アイランド"へ ─ 。

ゼロからの限りない可能性を秘めて、この夏、もうひとりのまっさらな自分と出会う。



 


【プロダクションノート】

『アルマゲドン』『パール・ハーバー』のマイケル・ベイ監督が放つ、近未来のアクション・スリラー。主演にユアン・マクレガー(『ムーラン・ルージュ』、『スター・ウォーズ』エピソード1〜3)、スカーレット・ヨハンソン(『真珠の耳飾りの少女』『ロスト・イン・トランスレーション』)を迎える。

21世紀前半 ─ リンカーン・6・エコー(マクレガー)とジョーダン・2・デルタ(ヨハンソン)は数百名の住人とともに閉鎖的な居住施設の中で暮らしていた。厳重な管理下に置かれたこの施設では、住人たちの日常はすべて監視されている。だが、それも住人の安全を考えてのことらしい。施設の外に出られるただひとつの方法 ─ そして、住人の誰もが抱いている夢 ─ は"アイランド"行きのキップを手にすること。その島は放射能汚染を逃れた地上唯一の地で、人類は地球規模の環境破壊によってすでに死に絶えてしまったという ─ 彼ら住人を除いては。


しかし、意味不明の悪夢を見るようになったリンカーンは胸騒ぎをおぼえ、規律だらけの日常に疑問を感じ始める。日増しに膨らむ好奇心から、真実を探ろうとするリンカーン。しかし、その真実はあまりに衝撃的だった。彼の存在に関わるすべてはまやかしだったのだ。アイランドの話も単なる作りごと。そして、彼もジョーダンも施設に暮らす仲間たちも、死んで初めて価値が上がるのだ。時間が差し迫る中、リンカーンとジョーダンはまだ見ぬ外の世界へと命がけの脱走を試みる。施設の外へ出たふたりは監視の目から解放され、友情以上の関係を育んでいく。しかし、そんなふたりに施設から派遣された追っ手が執拗に迫る。リンカーンとジョーダンの使命はただひとつ ─ 生き延びることだ。

脇を固める共演陣として、リンカーンとジョーダンを追う警備隊長のアルバート・ロレント役に、『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』でオスカー候補となったジャイモン・フンスー、施設長のメリック役にショーン・ビーン、リンカーンの良き協力者で施設職員のマッコード役にスティーブ・ブシェミ。また、『グリーンマイル』でアカデミー賞にノミネートされたマイケル・クラーク・ダンカンが、アイランド行きに当選して祝福と羨望を受けるスタークウェザー役に扮する。


◆『アイランド』への船出

製作スタッフは当初、この『アイランド』を遠い未来を舞台にしたSFアクションと位置づけていたに違いない。なにしろテーマは"人間の複製"というフィクションの世界そのものだったからだ。しかし、クローン技術の進歩が刻々と報じられる昨今にあって、事情は一変した。製作のウォルター・F・パークスも「ふたを開けてみたら、タイムリーなスリラーを作ることになってしまいました」と苦笑する。

確かに、一昔前なら想像すらできなかった事態が急ピッチで現実になろうとしている。そこでスタッフはストーリーの時間軸を前倒しすることに決定した。カスピアン・トレッドウェル=オーウェンによる脚本の第1稿では、物語の舞台は21世紀の後半だった。監督・製作のマイケル・ベイが説明する。「ストーリーの設定をもっと現在に近づけて、今から約20年後の話にしようと考えたんだ。近い将来として描くことで恐ろしさも倍増するし、切実さも伝わるからね」

パークスが言葉を添える。「今の時代、科学は凄まじい勢いで進歩しています。まさに日進月歩ですよ。今回のストーリーも遠い未来のこととして描いてしまったら、説得力に欠けたでしょう。最近のニュースを見聞きしていると、この映画と同じことが15年後、20年後に実現しても不思議はありません。ここまで実現するかどうかは定かではありませんが……技術的には可能なんです」

原作・脚本を担当したカスピアン・トレッドウェル=オーウェンも同意する。「クローン人間が実現する日は必ずやってきます。これはもう避けようがない。合法であれ、違法であれ、いずれは誕生するでしょう。あとは誰がそれをやるかという問題です。科学の進歩を支えているのは探求心だけじゃない。需要もそのひとつなんです。そして、クローンに対する需要は高まっている。すでにヒトの臓器の一部は人工的に作り出すことが可能ですからね。でも、人間ひとりをまるまるコピーできるとしたら、どうなるか。そのコピーから臓器や手足をもらうことだって、夢ではないかもしれません」

製作のパークスと製作総指揮のローリー・マクドナルドは、以前からクローン人間をテーマにした別のプロジェクトを温めていた。それだけに今回のオリジナル脚本を一読した時は、その斬新な切り口に感服したという。「まず興味を惹かれたのは、このストーリーが科学者や第三者の目を通してではなく、クローン自身の視点から描かれていることでした」とパークス。「そのほうが観客の心に強く訴えることができる。『アイランド』のテーマは科学の弊害だけではありません。クローンたちが純粋な目でとらえた実社会が浮き彫りにされるんです」

「次々と明かされていく驚愕の真実を、主人公のリンカーンの目線から描くことがどうしても必要でした。観客はリンカーンに感情移入するはずですから」と脚本のアレックス・カーツマンがコメントする。「観客はリンカーンの視点に立つことで、早くも冒頭から悪い予感をおぼえると思います。最近の観客は非常に察しがいいですから、その時点で最悪の結末を想像するかもしれません。それでも、リンカーンが目の当たりにする真実には圧倒されると思いますよ」


カーツマンのパートナーで、脚本家のロベルト・オーチーも同じ意見だ。「たとえ物語の展開が読めたとしても、リンカーンを通して描かれる真実にはショックを感じずにはいられない。前半部分は、一般社会とは違う"もうひとつの世界"が話の中心。ですから、見る側としてはここを舞台にストーリーが展開すると思うでしょうし、"結末は読めた"と感じるかもしれません。でも、それは甘い。そこがカスピアンならではの構成力です。主人公が初めて体験することに、観客も巻き込まれるはずですよ」

脚本の第1稿はマイケル・ベイのもとへダイレクトに届けられた。送り主は製作会社ドリームワークスを率いるスティーブン・スピルバーグである。ベイが当時を振り返る。「ある晩、スティーブンから電話があって『今、そっちに脚本を送ったから、今晩中に読んでくれないかな』と言うんだ。脚本が到着したのは深夜の11時近く。140ページの長編だったけれど、一気に読んでしまったよ。読み終えた時は夜中の3時を回っていたかな。でも、あまりにすばらしい出来だったんで、翌朝スティーブンに電話して、『ぜひやらせてほしい』と返事をしたんだ」

製作のパークスは当初から、本作の監督はマイケル・ベイにしか務まらないと考えていた。「マイケルには熱意、スタミナ、独創性、自信がある。そして、これほどの大作を扱えるだけの専門知識が備わっています。彼ほどの適任者はほかに見当たりませんでした。今回の撮影は難題が山積みだったんです。ロケーション撮影の多さ、何百人ものエキストラ、大がかりなセット、実写やCGIの効果……と挙げていけばキリがありません。そのすべてを、自分のビジョンを失うことなくクリアできる映像作家は数えるほどしかいない。確かに、CGIやカーチェイスに手慣れた監督は大勢います。けれども、難題をクリアすることに気をとられて、肝心のシーンがおろそかになってしまうケースは少なくありません。その点、マイケルなら大丈夫。彼は現場スタッフの仕事にも精通していて、ディレクターズ・チェアからエネルギーを発してくれるんですよ。とはいっても、イスに座っているところは見たことがないんですが(笑)」

パークスが続ける。「マイケルは子供がそのまま大きくなったような人で、今でも遊び心を失っていない。そんな彼の個性が撮影現場に活気と刺激をもたらせてくれました。観客のみなさんにも、きっと伝わると思いますよ。現場のムードはスクリーンにも如実に反映されますから」

製作のイアン・ブライスも「マイケルは優秀な映像作家です。才能とセンスに恵まれているだけでなく、撮影現場を知り尽くしていて、しかも手際がいい。いろいろな点で、プロデューサーにはありがたい監督です。万全の準備をして撮影に臨み、1日で膨大な量の仕事をこなしてしまう。マイケルと組むことができて、とても勉強になりました」

マイケル・ベイは今回の依頼を引き受けた時点から、ふたつのアプローチを考えたという。「ひとつは、単純に楽しい夏の大作映画に仕上げること。もうひとつは、倫理という重厚なテーマを盛り込むこと。自分のクローンを作れるとしたら、作りたいと思うだろうか ─ そんな疑問を投げかけたかったんだ。観客を悩ますつもりはさらさらないけれど、ほんの少しでも、その疑問について考えてくれたらうれしいね。あとは存分に楽しんでもらえれば本望だよ」



◆"アイランド"の住人たち

アクション満載の近未来スリラーと現代社会のモラルを問う重厚なドラマ。その両者が見事に融合されているところに、リンカーン・6・エコー役のユアン・マクレガーは惹かれたという。「毎回、カラーの違う作品に出演したいと考えているんだ。この作品はアメリカならではのアクション大作だけど、非常に深いテーマを含んでいる。そこがユニークな点だね。行きすぎたクローン技術の問題がアクション大作の中で描かれるなんて、とてもおもしろいと思ったよ。それに、こういう役どころを演じるのも初めてだった」

マクレガーが続ける。「リンカーンが暮らす環境は規律と規則が支配する世界。そこでは何もかもが決められている。それこそ、着るものや食べるものから仕事に至るまでね。日常のすべてが他人によって管理されているんだ。住人たちは教え込まれている ─ 外の世界は放射能で汚染されているけれど、"アイランド"という美しい島だけは例外なのだと。時々抽選会が行われて、当選すると"アイランド"に行ける。アイランドでの仕事は地球の人口を増やすことだから、本当なら、いい仕事だよね。住人はみな、アイランド行きを夢見て暮らしているし、現状に何の不満もない様子なんだ。ところがリンカーンだけは疑問を感じ始めるんだよ ─ なぜ、こういう環境で暮らしているんだろう。一体、誰が決めたんだ? ってね」

リンカーンのフルネームは"リンカーン・6・エコー"。本人には知らされていないが、この名には第五世代のクローン、エコー(1978年以降に生まれた若者の総称)世代のクローンという意味が込められている。しかし、進みすぎた科学は迂闊にもリンカーン世代のクローンに、ある特徴を与えてしまった。「リンカーンの世代のクローンたちは恵まれている……いや、呪われているというべきでしょうか。彼らは共通した特性を持ち合わせているのですが、この特殊な世界ではそれが命取りになりかねない。それは、好奇心です。リンカーンは好奇心の強さゆえに、けむたがられてしまう」とパークスは明かす。

「世代によってクローンの特徴はさまざまだけれど、エコー世代は、ちょっと進化しすぎたのかもしれない」とベイが付け加える。「リンカーンの脳にはある種のDNAが組み込まれているんだ。そのせいで彼は夢を見るようになり、精神的に取り乱してしまう。自分には何か足りないと感じながらも、それが何なのかわからないんだ。ユアンは演技力の確かな俳優だし、初々しさがあって、少年の面影を感じさせてくれる。この役にピッタリだよ」

リンカーンの好奇心は疑念へと変わり、ついにすべてがまやかしだったことが明らかになる。リンカーンはさらに真相を追い、予想をはるかに超える恐ろしい事実に突き当たるのだ。マクレガーが話す。「リンカーンは、なにもかもが作り話であることを突き止めるんだ。抽選に当たった住人はアイランドに行くわけじゃない。アイランドなんてものは最初から存在しないからね。友だちのジョーダンがアイランド行きに決まり、リンカーンはジョーダンを逃がす決意をするんだ」

ジョーダンこと"ジョーダン・2・デルタ"は施設で暮らす住人のひとり。リンカーンの親友であるが、リンカーンのような問題意識は持ち合わせていない。ジョーダン役のスカーレット・ヨハンソンが語る。「ジョーダンは心根の優しい、素直な性格なの。でも、施設での生活以外は何ひとつ知らない。外の世界は放射能に汚染されていると信じ込んでいるのよ」

ベイが説明する。「ジョーダンは自由のない暮らしを素直に受け入れ、アイランドの存在を疑わない。けれども、リンカーンの友情を信じて、彼についていくことを決心する。リンカーンは『アイランドなんか、どこにもない。僕を信じてくれ』とジョーダンを説得するんだ」


それに対してヨハンソンは、「ジョーダンはショックを受けるけれど、彼についていくべきだと本能的に思うのね。リンカーンに対しては友情以上のものを感じているわ。ふたりは惹かれ合うんだけれど……肉体的に求め合うというより、魂の結びつきという感じね。ふたりとも男女の営みについては何も知らないから。ジョーダンもリンカーンも現実の社会に触れることなく、楼閣のようなところで暮らしてきたでしょう? だから、恋愛についてもまったくの無知。この映画はある意味で純粋なラブストーリーかもしれない。結ばれる運命にあるふたりが、さまざまな困難を乗り越えて、結ばれるんだもの」

ヨハンソンが出演を決めた理由は、ジョーダンとリンカーンの恋模様だけではない。「私、昔から"アクション"や"スリラー"みたいなジャンル映画の大ファンなの。脚本を読みながら、次はどうなるんだろうってワクワクしたわ。それに、ユアンやマイケルと組むのも楽しみだったし……。そんな理由から出演を決めたのよ」

ユアン・マクレガーの相手役にヨハンソンを抜擢した決め手について、ベイは「純粋な第六感だった」と語る。「ユアンの出演が決まった段階で、実力は言うに及ばず、ユアンと相性のいい女優を探したよ。スカーレットとは一面識もなかったけれど、大変な演技派だということは知っていたんだ。カップルのキャスティングは、時に賭けでもある。でも、ユアンとスカーレットは実に似合いのカップルになったよ」

リンカーンとジョーダンが初めて登場するシーンでは、施設の住人たちがそろってビデオレターに見入っている。そのビデオは、元住人のスタークウェザーがアイランドで暮らす様子を映したもの。その後、リンカーンはスタークウェザーの悲惨な行く末を目にし、嘘で覆われた真実に気づくのだ。スタークウェザーを演じるマイケル・クラーク・ダンカンが自らの役を分析する。「スタークウェザーはストーリー展開の要なんだ。『アイランドで会おう』と住人たちに向けてメッセージを送ったかと思ったら、次の瞬間には手術台の上で目を覚ます。そして、慌てて起きあがって逃げ出すんだ。"ここはどこだ? 楽園のアイランドじゃなかったのか。そんなはずはない"と死の恐怖にかられながらね」

ダンカンが撮影に参加したのはわずか2日。しかし、『アルマゲドン』でもダンカンを起用したマイケル・ベイは「思い出深い2日間だった」と振り返る。「でも、マイケルは"いじめ抜かれた2日間"と言うんじゃないかな(笑)。走ったり、わめいたり、手術台の上に8時間くらい縛りつけられたりしたからね。さすがのマイケルも『あとワンテイクだけだぞ』と言い出したんだけど、『冗談じゃない。あと5テイクは付き合ってもらう』と返したよ。マイケルをいじめるのは本当に楽しい」

「マイケル・ベイはひとつの芸術さ」とダンカンはコメントする。「今回は出番こそ少なかったけれど、それでもマイケルは新しい注文を次々と出してくる。時には意見が対立することもあったが、マイケル・ベイは今の映画界を代表する名監督じゃないかな」

無菌状態の施設に暮らす住人は知る由もないが、実は彼らは地下深くに閉じ込められているのだ。その真上には放射能汚染などされていない現実の世界が広がり、メリック・バイオテックという大企業が社屋を構えている。地下の住人は施設長のメリックを"篤志家"ぐらいに考えている ─ いろいろと世話を焼くのも、自分たちの健康と幸せを気にかけてのことだろうと。

しかしメリックが本当に気にかけているのは、住人すなわち"アグネイト(同族)"の無限の"価値"を守ることだけ。アグネイトの存在を外界にも、アグネイト本人にも気づかれぬよう細心の注意を払っている。

メリックを演じるショーン・ビーンが役どころについて説明する。「メリックは顧客をだましているんだ ─ メリック・バイオテックはクローン臓器を製造しており、臓器の提供源を植物状態で管理している。だから、ヒトクローンの製造を規制した2015年の法律には触れていないのだと。ところが、提供源が植物状態では臓器を維持することができない。そこでアグネイトを覚醒させることにした。これはれっきとした違法行為なんだ」

しかし、製作のパークスはメリックというキャラクターを「基本的には優秀な人物」と見る。「メリックは自分の行いが正しいと信じ切っているんです。記憶に残る悪役というのはみんなそうですが、メリックも根っからの悪人というわけではありません。ただ単純に勘違いをしているだけ。科学を極めることが人類への貢献につながると考えているんです」

メリックの考えには大いに疑問が残るが、それは必ずしも悪意から発しているわけではない。ビーンもパークスに同意する。「メリックはその道の第一人者で、自分のしていることが世のためになると本気で考えている。憎めない男だとは思うけれど、人間味は感じられない。冷徹でビジネスライクで、なかなか興味深いキャラクターだと思うよ」

「ショーン・ビーンは実にクールな人で、都会的なイメージがある」とベイがコメントする。「ショーンの演じるメリックは洗練された人物だけど、決して腹黒いわけじゃないんだ。メリックがいかに自分を正しいと信じているか。ショーンの演技を見れば一目瞭然だよ」

施設の中でリンカーンが唯一信頼を寄せるのが、マッコードという職員だ。マッコードはリンカーンと親しく、時にはアルコール類などをこっそり融通してやる。「"製品"と仲良くすることはルール違反なんだけど、マッコードはその規則を破ってしまう数少ない職員のひとりなんだ」とベイが説明する。「マッコードは住人たちに罪の意識を感じている。こんな施設を運営することは間違っていると思いつつも、仕事だからこなさなければいけない。ほかに働き口がないからね」

マイケル・ベイがマッコード役に考えていた俳優はひとりしかいなかった。スティーブ・ブシェミである。ブシェミとは『アルマゲドン』に続く顔合わせだ。「最初からスティーブで決まりだった」とベイは言う。「スティーブはマッコードそのもの。彼のために用意された役と言っても過言じゃない。スティーブは複雑な立場に置かれる役どころをユーモラスに演じてくれた。彼はどんなキャラクターにも味を出してくれるんだ。現役の役者の中では1、2を争う実力派だと思うね」

それに対してブシェミは「マイケルと組むのはスリリングだよ。その場でアイデアを追加したり、アドリブで演じるように指示したりするんだ。脚本に従うのが俳優の基本だけど、マイケルはそれ以外のこと、それ以上のことに挑戦するのを恐れない。マイケルの現場は先が読めないんだ」

リンカーンはジョーダンを連れて大胆にも脱走するが、味方にできる相手はマッコード以外にいない。リンカーンはマッコードを探し当て、協力を求める。「リンカーンは真実を知りたい一心でマッコードを訪ねてくるんだけど、ふたりが現実の世界にいるのは非常にまずいんだ。彼らの存在は極秘中の極秘だからね。それに、ふたりと一緒のところを見られたら、マッコード自身の命も危うい。実にやばい状況なんだけど、それでもマッコードはふたりに手を貸す。マッコードにとっては、リンカーンもジョーダンも血の通った人間なんだ。だから、バカと言われるのを覚悟で、あえてふたりに協力する。自分の命を危険にさらしてもね」

マッコードの読みは正しかった。やがてふたりは追われる身となり、ふたりに手を貸す者も命を狙われる。しかしメリックは違法行為が発覚するのを恐れて、警察に届け出ることができない。そこで、彼は警備のエリート集団にふたりの捜索を依頼する。警備隊を率いるのは、ジャイモン・フンスー演じるアルバート・ロレントだ。「筋金入りのタフガイたちにふたりを追跡してほしかったんだ」とベイが明かす。「以前も海軍特攻隊や特殊部隊のメンバーに出演してもらったことがあるんだけど、彼らの中にはフリーの傭兵や警備員になる人もいるんだ。そのほうが収入もいいし、"戦場のルール"に則って行動できる。ロレント率いる警備隊も、そんなプロ集団にしたかった」

フンスーが今回の役どころについて語る。「ロレントはフランス特殊部隊の出身で、今は傭兵のようなことをしている。どんな任務も仕事と割り切って淡々とこなすんだ。今回の任務は逃走者2名の身柄の確保、あるいは抹殺。そのためには、どんな犠牲を強いてもかまわないことになっている。何しろ、ふたりの正体がばれたらとんでもないことになるからね。ところがメリックはふたりの経歴や逃走した経緯について、ロレントに説明するのを忘れてしまうんだ。ふたりの事情を知って、ロレントは動揺する。ほかでもない、人としてのモラルに関わる問題だからね」


製作のウォルター・パークスも製作総指揮のローリー・マクドナルドも、フンスーとは長いつきあいだ。フンスーが初の大役を演じた『アミスタッド』から近年の『グラディエーター』に至るまで、その成長ぶりを見守ってきた。「有望な俳優の成長を間近で見ることができて本当に光栄です」とパークス。「ジャイモンは見た目はいかついし、今回はタフガイを演じていますが、素顔はまるで正反対。あんなに心優しい青年はめったにいませんよ。タフな役柄とジャイモンのデリケートな人柄。そのキャップがロレントというキャラクターを魅力的にしているのだと思います」

フンスーをはじめとする警備隊員役の俳優は、海軍特攻隊出身のハリー・ハンフリーズから指導を受けた。ハンフリーズは特殊部隊のアドバイザー・軍事スペシャリストとして活躍しており、マイケル・ベイ監督の『ザ・ロック』『アルマゲドン』『パール・ハーバー』などでもアドバイザーを務めてきた。また、俳優陣に混じって現職の軍人や警察関係者、そのOBが撮影に参加。こうして本格的な先鋭警備隊が誕生した。



◆島(アイランド)めぐり

今回のストーリーは極端に異なるふたつの世界を舞台にしている。ひとつは、スタッフの間で"センタービル"と呼ばれた地下の居住施設。管理の行き届いた、無機質で人工的な空間だ。そして、もうひとつが天然色にあふれる雑然とした現実の世界。この両者の違いを明確にするため、ビジュアル面であらゆる工夫が施された。

撮影を担当したマウロ・フィオーレはマイケル・ベイと打ち合わせを重ね、それぞれの世界にふさわしいライティングやカメラワークを決めていった。「地下施設のライティングは人工的な雰囲気にしました。殺風景な感じを出したかったので、ほとんど白一色です。それに対して、地上の世界は色の洪水にしようと思いました。アグネイトにとっては太陽の光も、自然の色も、初めて目にするものですから。あとは、カメラワークにもコントラストをつけました。前半は、厳重に管理された施設の中でストーリーが展開しますから、派手なカメラワークを控え、行儀のいい客観的な撮り方を心がけました。そしてストーリーの舞台が地上に移った時点で、躍動感と臨場感を一気に出したんです。そのときはハンドカメラを多用しました」

クランクインは2004年の秋、カリフォルニアとネバダの砂漠地帯から撮影がスタートした。ウォルター・パークスが説明する。「マイケルの意向で"施設から逃れたふたりが初めて目にする世界は、よそ者に冷たいところ"という設定にしました。汚染されてはいないけれど、ふたりを歓迎する気配もない。そのあたりは二段階に分けて描いています。初めて地上に出たふたりは外気が安全なことを確認しますが、南西部の砂漠地帯という過酷な自然に圧倒されます。次に、ロサンゼルスに行き着いたふたりはオモチャ屋に入った子供と同じようになる。こんな世界が存在するとは夢にも思わなかったという表情になるんです」

撮影終了後、視覚効果監修のエリック・ブレビグとSFX工房のインダストリアル・ライト&マジックのスタッフは、この砂漠地帯の実写映像にCG製のエレメントを合成。地下施設に空気を送り込む幅300メートルもの換気扇や未来のリニアモーターカーを制作した。リンカーンとジョーダンはこの列車に乗って、ロサンゼルスへ流れ着く。

砂漠地帯では空撮を含む多くのシーンが撮影された。空撮コーディネーターのアラン・パーウィンはマイケル・ベイ作品の常連スタッフ。今回もパイロット・チームを引き連れての参加となった。パーウィンの用意したヘリコプターはカメラの前と後ろで大活躍。警備隊を乗せるヘリとして作中に登場するほか、地上や空中の映像を上空からおさめてくれた。警備隊が乗り込む"ウィスパー(ささやき)"と呼ばれる黒のヘリには、ユーロコプターEC120という最新モデルが使われている。EC120がスクリーンに登場するのは今回が初めてだが、従来のヘリコプターに比べて騒音が少なく、最先端のハイテク機能を搭載し、時速240キロで飛行することも可能だ。


砂漠地帯で1週間のロケを終えた撮影隊は、ミシガン州のデトロイトに移動。この都市を近未来のロサンゼルスに見立てて撮影を行った。プロデューサーのイアン・ブライスが語る。「ロスの"代役"を探してアメリカ中を歩き回った結果、デトロイトにたどり着きました。ロスの街並みに一番近かったんです。特に建造物がよく似ていました」

ベイが言葉を添える。「デトロイトはロサンゼルスを彷彿とさせる街。それに撮影にもよく協力してくれたよ。街中を一度に8ブロックも封鎖してくれて、好きなだけ撮影させてくれたんだ。デトロイトのロケは本当に楽しかったな……寒さはこたえたけどね」。ちなみにベイは生まれも育ちもロサンゼルスである。

美術班は撮影隊に先立ってデトロイトに入り、数週間がかりで市内を"お色直し"。近未来の大都市にふさわしい標識や信号機などを設置した。

美術のナイジェル・フェルプスが語る。「デトロイトには時代を超越したクラシックなたたずまいがある。キャンパスとしては最高でした。そのキャンパスに、近未来をイメージした信号機やバス停などをプラスしたんです。あとはデジタル技術を使って、現存する建造物を未来風にアレンジしました」

ブレビグが解説する。「今の世の中に未来の建物は存在しませんから、実在しないビルや交通機関に関してはやはりCGIが必要でした。でも、コンピューター・グラフィックスを全面的に使うより、実写と組み合わせたほうがリアルな仕上がりになります」

いにしえのミシガン・セントラル駅では見せ場となるシーンが撮影された。1913年に誕生したこの駅はボザール様式の建造物で、1988年にその役目を終えた。設計は、伝説の建築事務所であるウォーレン&ウェットモアによるもの。この由緒ある建造物を舞台に、リンカーン・6・エコーは"スポンサー"のトム・リンカーンと対面を果たす。どちらのリンカーンもユアン・マクレガーが演じている。

マクレガーは二役を演じ分けるにあたって、いくつかのアイデアを提案した。見た目は同じふたりのリンカーンに、個性の違いをもたせるためだ。「トムをスコット人という設定にしたらどうかと思ったんだ。リンカーンのほうはアメリカ育ちだから、アメリカなまりで話したほうがいいんじゃないかと考えたよ。あとは、ふたりの雰囲気にも違いを出したかった。トムは金持ちで横柄なナルシスト。こいつのマンションに飾ってある写真は自分の写真ばかりなんだ。リンカーンはその反対に、とてもデリケートな青年という感じだよ」

「ユアンのおかげで、トム・リンカーンが実にいやらしい男になった」とベイが絶賛する。「ふたりのリンカーンを別の人格として演じきってくれたユアンに感謝している」

この重要なシーンでも視覚効果が効果的に使われた。ふたりのリンカーンが絡むショットには何の違和感も感じられない。ブレビグがその秘密を明かす。「ひとりの役者にふたつのキャラクターを演じてもらうときは、キャラクター同士を接触させないようにするのが原則なんです。そういうショットは非常に難しいですからね。けれども、マイケルはぜひ挑戦したいと言ってきた。一方のリンカーンが、もう一方のリンカーンの手首をつかむショットを実現させたいと。それだけでも難しい注文なのに、カメラをドリーに乗せて動かしたいと言うんです」。それでもブレビグは、「これが成功すれば、迫真のショットになることはわかっていましたから、一計を案じましたよ。(自動制御で同じ動作を繰り返し行う)モーション・コントロール・カメラと念入りなリハーサルのおかげで、一方のリンカーンが、もう一方のリンカーンに触れる画が完成しました。目の前にユアンがふたりいるような錯覚をおぼえますよ」

マイケル・ベイが撮影の詳細を明かす。「モーション・コントロール・カメラを専用のレールに乗せ、カメラの動きを設定しておく。そうすると、どのテイクもそっくり同じ画になるんだ。ユアンには一度にひとりずつ演じてもらったよ。仕上がりを見ると、ふたりの影が重なり、目線もばっちり合っている。こういう芸当は3D効果では無理だろうね。寸分違わぬタイミングが大切なんだ」

トム・リンカーンは近未来の先進国で暮らすリッチなプレイボーイ。愛車ひとつにも贅の限りを尽くしているに違いない。しかし、トムの財力と人柄を象徴するような車を用意することは思いがけない難題になった。「いろんなデザインを考えてもらったんだけれど、どれもこれもダメ。今ひとつイメージに合わなくてね」とベイが言う。

ロケ地のデトロイトは"モーター・シティ"の異名をとるほど自動車産業が盛んな街。ベイは、かねてからつきあいのある世界屈指のカーデザイナーたちに連絡をとった。「GM(ゼネラル・モーターズ)には過去の作品でも協力してもらったし、GMのコマーシャルを僕が演出したこともある。そこで、どういうコンセプトカーがあるか問い合わせてみたんだ。実際に何台か見せてもらったんだけど、やっぱり、最高級のキャデラックCIENに目が行ったよ。ドアはガルウイング(跳ね上げ式)で、おまけに一点もの。この1台を作るのにいくらかかったのか見当もつかないけれど、GMの人は700万まで計算したところで手を止めてしまった。僕はその場で約束したね ─ 命に代えてもこの車を守りますから、と。だから撮影現場でも『車のそばにスタンドを置くな! もっとライトを離せ!』なんて調子だった。スタッフのひとりが泥だらけの靴で運転席に座ろうとしたときは、『こら、700万ドルの車だぞ!』と厳重注意したよ」

そんなベイに救いの手を差し伸べたのが特殊効果監修のジョン・フレイジャー。キャストやスタントマンがハンドルを握るシーンに備えて、700万ドルの車の"クローン"を作ってくれたのだ。これなら、実際に走らせても、あるいは傷をつけても、高い代償を払わずに済む。フレイジャーが振り返る。「スタッフから依頼が来たんです。キャデラックのコンセプトカーを使うことにしたけれど、走らせるわけにいかないから、同じタイプのものを作ってほしいと。そこで、そっくりのレプリカを17日間で作り上げ、航空便で送りました。その翌日から、早速カメラの前で走ったようですよ」

そのキャデラック以上に目を引くのが豪勢なボートである。最初はリンカーン・6・エコーの夢の中に、後にトム・リンカーン所有のボートとして登場する。ベイはキャデラック同様に見栄えのするボートを探したが、これほどの時間と手間がかかるとは想像もしなかっただろう。理想の一隻にめぐり会えたのは、なんと撮影終了後。しかも、アメリカから遠く離れたヨーロッパでようやく発見できたのである。ベイが当時を振り返る。「世界一クールなボートを使いたくて、いろいろと検討した結果、118ウォーリーパワーという代物に目をつけたんだ。持ち主はイタリア在住のルカという男性。とてもいい人だったよ。でも、使用許可をとりつけるまでに随分時間がかかってしまったんだ。なにしろ2500万ドルもするボートだからね。だけど、惚れ惚れするほど見事だよ。ステルス鑑を思わせる外観に、ハリアーエンジンを3基も積んでいる。時速110キロは出るんじゃないかな。でも撮影は終わっていたし、ユアンもスカーレットも次の作品に取り掛かっていたので、ボートのシーンは1日で撮影しなければならなかった。早速スタッフを連れてイタリアへ向かったんだけど、天気は最悪。現地は大雨続きで、ホテルの部屋が雨漏りする始末さ。翌朝、部屋のブラインドを開けてみたら、外はひどい土砂降り。仕方ないから、またブラインドを閉めて、ベッドの中にもぐったよ。そこへ撮影監督から電話がかかってきて、『起きろ、起きろ。日が出てきたぞ』と言う。結局、雨はすっかり上がって、撮影時間も十分にとれたんだ。でも、海上での撮影は本当に怖かったね。スカーレットをボートの上に立たせたのはいいけれど、波は高いし、手すりはないし。その上、南の島という設定なのに、外は凍えるくらい寒かった。まあ、なんとか無事に撮り終えたけどね」

本作に登場する乗り物の中で、もっとも未来を感じさせてくれるのが、ワスプという空飛ぶバイク。ロレントたちはこのバイクでリンカーンとジョーダンを追跡する。ワスプのコンセプトについて、ベイは「文字どおり、空中を走るマシンとして登場させたかったんだ。造りはコンパクトでも、パワーとスピードはすごい。日本製のスポーツバイクみたいに、飛び魚のような走りをしてくれたら、どんなにかっこいいだろうと思ってね」

そのワスプが活躍するのは、本作の中でも特にスリリングなアクション・シーン。撮影は、デトロイトからカリフォルニアに戻って行われた。

撮影が行われた週末の3日間、スタッフはカリフォルニア州サンペドロのターミナル・アイランド・フリーウェイを6キロにわたって封鎖。ここでリンカーン、ジョーダン、警備隊による激しいチェイスシーンが展開した。大型トレーラーの荷台に飛び乗ったリンカーンとジョーダンは、トレーラーに積まれた列車の車輪を路上に落とし、追っ手を牽制。その後、リンカーンはワスプを拝借することに成功するのだ。

この一連のアクションをとらえるため、ベイは計15台のカメラを使用。そのうちハンドカメラは、ほとんど自らの手で回した。また、撮影用のトラックにアームつきのジンバル(ブレを防止する撮影機材の一種)を設置し、そのアーム上にワスプを固定。こうすることで、ワスプは宙に浮いた格好となり、フリーウェイを"飛行"しているように見せることができる。ジョン・フレイジャーが説明する。「あのアームは上下に動かせるんです。スタントマンがアーム上のワスプにまたがり、セット・コーディネーターのジム・シュウォームがアームを操作しました。本当にバイクが空中を走っているようでしたよ。そんな撮影を2〜3日続けたんです。とてもいい経験になりましたが、正直言って、もうたくさんという感じですね(笑)」

サンペドロのフリーウェイとロサンゼルスの街中で撮影されたワスプのシーンは、後に視覚効果によって補足された。ブレビグの効果班は、俳優たちを実寸大のワスプに乗せ、その様子をブルースクリーンをバックに撮影し、実写と合成。また、コンピューター・グラフィックスで一部のワスプとライダーを制作し、実写に加えた。

マイケル・ベイは脚本家のアレックス・カーツマン&ロベルト・オーチーと密に連携を取りながら、一連のアクション・シーンを練ったという。「アレックスたちと脚本を練るのは本当に楽しかった。まずは思いついたことを片っ端から文字にして、それを3人で相談しながら推敲するんだ」。ここでベイがにやりと笑った。「でも、現場ではアドリブも入れないとね」

ベイは観客にも生々しいアクションを体感してもらうため、特別仕様のカメラカーを使用した。『バットボーイズ2バッド』で初めて採用したこの車両は"ベイ・バスター"の愛称で知られる。車体にはロールケージ(カーレーサーを保護する金属製のフレーム)が取りつけられており、過激なアクション撮影の最中でも、カメラをしっかりガードすることができる。フレイジャーが解説する。「ロールケージを車内ではなく車外に装備したことで、車体とカメラの両方を保護することができます。今回は一度に3台のカメラを積み込むこともありましたが、車列に突っ込んでも、他の車を横転させても、カメラはびくともしない。それがベイ・バスターの特長です」

スタント・コーディネーターのケニー・ベイツは、いくつかのシーンで実際にベイ・バスターを操縦した。「クラッシュのすさまじさや衝撃を、いつになく生々しく体験してもらえると思います。臨場感が違いますからね」

ベイツはこの撮影のために新しいカメラカーを発明。名づけて"ベイツ・カート"。ベイツ・カートは高速・高性能のゴーカートといった趣で、遠隔操作式のカメラを車体の前後に装着できる。ギアチェンジをしなくても、時速200キロ強までスムーズに加速することが可能だ。おかげでベイは、カーチェイスからフット(足での)チェイスへと変わる一連の逃走劇を、安全な場所から演出することができた。ベイツ・カートは見事に初仕事をこなしたのだ。

この後は、ワスプに乗ったリンカーンとジョーダンがロスの繁華街を疾走し、高層ビルの70階に突っ込むシーンが展開する。ふたりは高層ビルから落ちそうになり、ビルの看板のRの文字にかろうじてつかまるが、頭上には追っ手のヘリコプターが迫っている。

これだけの大がかりなアクションともなると、撮り直しはきかない。そこで、このシーンの撮影は要所要所に計13台のカメラを設置して行われた。


フレイジャーが明かす。「今回の場合、一部のアクションにはデジタル効果を使わざるをえませんでしたが、それ以外はほとんど実写なんです。Rの文字にぶら下がって、はるか地上を見下ろしているのは、本物のユアンとスカーレット。当然、そんなスタントを何度もやり直すわけにはいきません。マイケルも『1度しかやらないから、一発で決めよう』と言っていました。これが噂の"ベイヘム(マイケル・ベイと"狂気の沙汰"を意味するメイヘムとを掛けている)"。マイケル・ベイの流儀なんです。スタッフはいつ何時でも万全の準備で臨み、110パーセントの力を出し切らなくてはなりません。でも、これだからマイケルの現場はおもしろい。退屈する暇なんてありませんよ」

こうしたアクション・シーンでは入念なプランニングが欠かせない。人員の安全を最優先しなくてはならないからだ。「限界に挑戦したいからといって、安全が確認できなければ、実行には移しません」とフレイジャーは言い切る。「とりわけケニー・ベイツは安全に配慮してくれました。映画1本のために犠牲者を出すわけにはいきません」

ベイも同じ意見だ。「ケニーとは15年来のつきあいで、兄弟みたいなもの。お互いに切磋琢磨して、もっといいものを作ろう、デカイことをやろうと頑張ってきたんだ。ケニーのすごさは物理に明るいところ。常に3つ、4つ、5つ先を読んで、問題を未然に防ごうと努める。キャストやスタッフを危険にさらす以上、できる限り安全に配慮しなければならないと思っているよ」

安全への配慮がとりわけ重要になるのは、キャスト自らがスタントに挑戦する時だ。「ユアンとスカーレットには際どいスタントに挑戦してもらったけれど、ふたりとも非常に勇敢だった」とベイは感心する。「身を伏せたり、飛び込んだり、這いつくばったり、走ったり、ジャンプしたり、転落したり、よじ登ったり……。びしょ濡れになることも、ほこりにまみれることもあったけれど、ふたりのやる気は変わらなかった」

「あんな経験は初めてだったわ。日頃から身体を鍛えておかなきゃだめね」とヨハンソンが振り返る。実は、ヨハンソンは病み上がりの身体で撮影に臨んでいた。のどの手術を受けたばかりで、役作りに向けたトレーニングをする時間はほとんどなかったというが、「自分の限界に挑戦するのは楽しかった」と話す。「実生活では命がけで走ったことなんてなかったけれど、セットでは毎日がその連続。精神的にも、肉体的にも、自分が変わっていくのがわかったわ」



◆スタートへの帰還

最後の数週間を費やして撮影されたのは屋内シーンの数々。その大半は、映画の冒頭に登場する居住施設内のシーンだ。この閉ざされた施設はスタッフの間で"センタービル"と呼ばれた。センタービルは、実物のセットとコンピューター・グラフィックスの融合によって見事に作り出された地下都市。居住用の高層ビルが3棟あり、ビルの中には作業場や娯楽施設を有するセントラル・アトリウムという共有スペースもある。

美術のナイジェル・フェルプスが説明する。「我々がイメージしたセンタービルは、地下に建設された非常用のシェルター。有事の際に最大10万人を収容できるよう、軍が建設した施設だったのではないかと考えたんです。そのシェルターを保養施設のようなところに改造したのが、今のセンタービル。住人たちはここを地上だと思い込んでいます。まさか、地下に作られた軍の施設だとは夢にも思わないでしょう」

フェルプスはリアルな居住空間をデザインするにあたって、軍の施設や最新の工学技術をリサーチした。「マイケルが貸してくれた本には巨大な地下施設がいくつも紹介されていて、大いに参考になりました。北海の石油採掘現場にもヒントを得ましたよ。あそこの設計には目を見張るものがある。高さ数十メートルのコンクリート製のタワーが海中に建っているんです。とにかく、デザインの参考になりそうな巨大施設は片っ端から当たりました」

フェルプスの手によるセンタービルはコンクリート、ガラス、スチールを建材とし、直線と鋭角が多用され、色味が単調。どこまでも統制のとれた空間だ。後にリンカーンとジョーダンが目にする雑然とした地上とは、まるで趣が違う。アグネイトたちは窓から青空を覗くことができるのだが、その青空もプロジェクターによって投影された作りものにすぎない。

フェルプスは衣装デザイナーのデボラ・L・スコットとも連携し、美術と衣装に統一感を出すことに成功した。フェルプスのコンセプトは、地下施設の住人・職員のユニフォームにも反映されている。「あざやかな色を採り入れるわけにはいきませんでした。そんなことをしたら、ナイジェルが設計した無機質なセットの雰囲気が損なわれてしまいますから」とスコットが話す。「私の仕事はセットに違和感なく溶け込む衣装を考えること。赤や黄色を使ったのでは、美術全体のトーンが台無しになってしまいます。とはいえ、白衣のような白一色ではあまりに見栄えが悪いので、部分的に色を加えたり、生地の裁断に工夫を凝らしたりしました」

今回はメインキャストに加え、数百名のエキストラまでもがそろいの衣装を着ることになる。それについてスコットは「アグネイトのユニフォームは決して着やすいものではありません。まわりの人からも、『白のストレッチ素材で作るの? うそでしょう?』と言われました。でも、どんな体型にもフィットする衣装を考案するのは至難の業。いろいろ考えた結果、シンプルですっきりしたデザインに落ち着いたんです。男女兼用で、ややタイトですが、機能性にはすぐれています」

センタービルを構成する複数のセットは5カ月がかりで建設された。場所はロサンゼルス最大の撮影所であるダウニー・スタジオ。以前はNASA・ボーイング社の宇宙航空研究所として使われていただけに、約9万8000坪という広さを誇る。しかし、その敷地内に建つ巨大な2棟の建物も、センタービルのセットに占拠されてしまった。総面積1万7260坪の第1棟には、最大のセットであるセントラル・アトリウムが建てられた。

ベイが語る。「各セットを点在させるのではなく、なるべくひと続きにしてほしいとナイジェルにお願いしたんだ。そのほうが広がりと奥行きが出ると思ってね。そうしたら、僕の監督人生の中で最大のセットができあがった。ここで撮影するのかと思ったら、正直足がすくんだよ。なにしろ、奥行きだけでフットボール場5つ分もあるんだ。どうやって照明を当てようか、途方にくれてしまったね」

アトリウムの"ニュートリション・プラザ"はアグネイトたちが一堂に会して食事をとる場所だ。このセットは第1棟内の水槽に設置された。底面積が6038平方メートルという巨大なタンク(北米一の大きさ)だが、撮影時には完全に水が抜かれた。

一方、メリックのオフィスのセットには彼のステータスを象徴する工夫が随所に見られる。壁にかかったピカソの絵画もそのひとつ。「メリックは一流のビジネスマンだからね」とベイ。「趣味のほうも一流でなくちゃいけない。それにメリックは世界の富豪を相手に商売をしているわけだから、かなり見栄を張らなくてはいけないんだ」

第1棟よりわずかに小さい第2棟には、手の込んだ未来志向のセットが2種類建設された。ひとつは、アグネイトを培養する"インキュベーション・サイロ"。もうひとつは、誕生したばかりのアグネイトに偽りの記憶をインプットする"ファンデーション・ルーム"だ。この部屋にいる発育段階の異なるアグネイトたちは、一部のエキストラを除いて、クリーチャー制作の第一人者グレッグ・ニコテロとKNB EFXグループのスタッフが制作したもの。ニコテロはアグネイトのクリーチャーを手がけるにあたって、カリフォルニア科学博物館で開催された人体展に足を運んだ。

また、"プロダクト・エクストラクション・ルーム"で展開するシーンでは、アグネイトが誕生するプロセスをつぶさに見ることができる。ベイはこの驚愕のシーンの描き方に明確なビジョンを持っていた。「トラックの運転手が積み荷を出し入れしているような、そんなイメージにしたかったんだ。ルーティーンワークというか、流れ作業というか。以前、脚本のカスピアンにこの作品のコンセプトを尋ねたことがあるんだけど、その時の彼の返事がふるっていてね ─ 『誰もが肉を食べているけど、屠殺場の様子を知りたいとは思わない』。その表現をこのシーンに生かしたかったんだ」

ウォルター・パークスが結ぶ。「この作品は、クローン技術にまつわる倫理的な問題をテーマにしているわけではありません。けれども、それは避けようにも避けては通れない問題です。実際、どのシーンを観てもモラルについて考えさせられますが、それはそれで構わないとおもいます」

マイケル・ベイも同感だ。「スタッフと初めて顔合わせした時も言ったんだけど、この映画を観た人には"もし自分のクローンが作れるとしたら、作りたいと思うだろうか?"と考えてほしい。スタッフ一同、そんなことを考えながら仕事をしてきたよ。誰だって長生きしたい。それは人情だけど……そのための犠牲も覚悟しないとね」