『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語』共同監督 相川博昭さんインタビュー
●2011年9月3日東京都内にて
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【はじめに】

このインタビューは、作品公開から1週間経った2011年9月3日(土曜日)に収録された。相川さんと私どもは、1998年から東京国際映画祭、フランス映画祭等で取材写真を撮っていただいていた縁があり、インタビュアーとは学生時代からの旧知の仲ということもあったので、インタビューは非常にリラックスした雰囲気で行われた。内容は、本作のことから家族(本編に登場している息子さん)との関係、そして、彼のライフワークともいえるパノラマ写真のことまで多岐にわたる。この作品を、まるで家族のように語る相川さんの姿が非常に印象に残っている。作品が持つ魅力、素晴らしさとともに、相川さんの豊かなパーソナリティーが少しでも伝わるインタビューになっていれば幸いである。


【インタビュー】

◆(質問 以下Q):相川さんは、今回の『LIFE IN A DAY』の企画をいつ知ったんですか? そして、なぜ、応募しようと思ったんですか?

■(相川さん 以下A):7月23日に気付いたんです。YouTubeになんかの動画をアップロードしようとしていて、YouTubeへアクセスしたら『LIFE IN A DAY』の告知が表示されたのでそれで知りました。これ、おもしろそうだなと思って……で、明日じゃん! みたいな感じだったんですけど(笑)、これは、相当集まっちゃうだろうなと思って。

◆(Q):集まると思いましたか?

■(A):思いましたね。

◆(Q):なぜでしょう?

■(A):世界中でYouTubeへアップロードするだけで応募できる簡単さ。YouTubeを利用している人数を考えたら全員が応募するということがなかったとしても、何パーセントでもYouTubeを利用している人数からするとものすごい数だろうと思ったんです。これは、たくさん集まったらおもしろいものができるだろうと思った。

◆(Q):実際に8万本集まったわけですけど、この数は、相川さんにとって驚きではなかったですか?

■(A):思ってたより多かった(笑)。何千本も集まっちゃうだろうなくらいに考えてたんですけど(笑)、何万本っていっても2、3万とか1万何千本とか、イメージしていた枠はもっと小さかった。8万本って聞いた時にはちょっとショックでしたね。応募した後、僕が選ばれる前、メールで応募総数8万本4千5百時間って知ったんです。8万本もきたのかと……(笑)。その中でちょっとでも使ってもらおうと考えた僕は馬鹿だったかもなって一瞬思った(笑)。無理かもなって思ったんですけど、なんか、使われるかもしれないなって思ってたんですよね。

◆(Q):根拠があったんですか?

■(A):無根拠に。サンダンスに行くぞって気持ちはありました。冗談半分で行く気はあったんですよね。

◆(Q):もしも応募段階でサンダンスって告知がなくても応募しました?

■(A):多分応募しました。やはり映画になって世界中で上映されるってことが応募してみようという動機になりました。僕は映画学校出身なんで、やはり映画を撮りたいという気持ちがありました。

◆(Q):その点については前々から聞いてみたかったんですよ(笑)。

■(A):自主製作映画とか撮ったりしてたじゃないですか。諦めたりはしてなくて、デジタルになったりビデオの仕事をしたりしつつ、劇映画を撮ろうということでなくてもいいので、僕の場合は、動く映像を映画館でかけられればと思っていました。劇場でかけてもらえるんだったら、それはもう応募しなくちゃって気持ちでしたね。

◆(Q):アイディアは、7月23日に気付いたわけだから1日で考えたんですか?

■(A):ちょっと僕、記憶が定かではないんですけど、22日の深夜だったかもしれない……それはないかなあ……でも、微妙なんですよね。


◆(Q):YouTubeのページのどのあたりに告知があったんですか?

■(A):YouTubeで検索して、YouTubeをクリックすると多分最初に告知が出たんじゃないかな。もう1年半前だから忘れちゃいましたけど。でも、興味を引く内容ではありました。何で7月24日なの? みたいな。いつでもいいんだというところもおもしろかったし。特別な日ではないじゃないですか。世界中が特別な日とか選ぶとしたら大晦日とか、元旦とかだし。無作為に選ぶ感じがいいんだろうなと。

◆(Q):で、その告知を見てアイディアを1日で考えたんですよね?

■(A):まあ結局、アイディアは考えつかなかったんですよ。すごく一生懸命考えながら寝たんだけど……。

◆(Q):やはりそこは懸命に考えたんですね(笑)。

■(A):すごい良いものを考えたらいけるぞ! みたいな(笑)。で、いろいろ考えたんですけど、何を考えても凡庸というか、平凡な感じのものしか思いつかなくて、僕が考えてもおもしろいものは出てこないなと。で、失意の中、考えながら寝たけど、朝起きても何も思い浮かばないみたいな(笑)。ちょっと早く起きて、とにかく今日撮らないと絶対映画にならない。どんなつまらないものでも撮って出せば、どっかおもしろがって使ってくれるかもしれないだろうと思いました。“ちょうどコレがこの部分にハマる画だったんだよ”って感じにうまく使ってくれるかもしれない。全然何の考えもなしに、子供撮っておけばなんかおもしろいだろうみたいな。「さんまのカラクリTV」みたいな(笑)。それこそ、本当に凡庸な考えで撮影をし始めたという感じ。子供は起きてて寝室からTVがある部屋に行って、一応、起きてるんだけど、まだ眠いと言ってソファーに座っている状況。

◆(Q):それは、いつもの彼の行動なんですか?

■(A):今はちょっと違うけど、1年前はそうでしたね。

◆(Q):なるほど。

■(A):いつもTシャツとトランクスなんですけど、世界に公開されるわけだから、下着じゃマズイだろうと(笑)。そこは配慮しようと。見えちゃいけないものがポロっと見えちゃマズイだろうと(笑)。で、短パンは履いたの(笑)。そこはちょっと考えましたね(笑)。あとは、まったくノー・プラン。撮影のアイディアとしての撮り方に関しては……。

◆(Q):そこを聞きたかったんですけど、あの映像の冒頭はカメラを置くところから始まりますよね。それでは、あのカメラ・ポジションとフィックス(カメラ固定)は、子供がソファーにいるところを見てから選択したんですか?

■(A):まあ、ちょっと撮ったか覗くかして、その時決めました。

◆(Q):冒頭、カメラ手持ちというプランはまったくなかったんですか?

■(A):見づらいのでなかったですね。手持ちカメラの映像が見づらい原因はブレるってことと、ピントが合わなかったり、急にカメラを振ったりするから、画面から被写体がはみ出ちゃうっていうことがあると思うんです。子供が何をコミュニケーションしてるのか、まわりの状況が見え難いってことがあるんで、それを全部払拭する形で、魚眼(広角)レンズで、基本フィックスという選択をしました。もし、手持ちで動くにしても、魚眼なら手ブレもあまり気にならないし、背景がたくさん映り込むんで状況がわかりやすい。もともと魚眼レンズはパノラマ撮影の時に使っているから、レンズの特性みたいなことについては理解があったので、考え抜いてというよりは、自然にこのレンズを選択しました。本当は、一眼レフデジカメで撮る映像なので、明るいレンズを使って背景をぼかすであるとか、そういう方が綺麗な画が撮れる。実際にスペインの女の子を撮った映像は、そういう撮り方で綺麗な画を撮ってるじゃないですか。ああいう感じもいいなと思ったけれど、あれはあれでピントを合わせていくのが大変だから。まあ、ボケてる時もいいんですけどね。ただ、綺麗に撮ればいいってもんでもないし、画は綺麗だけど、そういう画が撮りたいわけでもないし。それよりは、全部見えたほうがいいかなと。全国で公開される、世界で公開される映画に、こんな画の端に、魚眼レンズの一部がちょっと見えてるような歪曲した映像を応募して使ってもらえるかという不安はありましたけど……。

◆(Q):不安があったんですか。

■(A):まあ、どっちかだろうなと。端が曲がっちゃってるようなレンズで撮ったものは観客も見づらいしダメだよってよけられちゃうか、コレおもしろいよねって思ってもらえるかどちらかだと思ってたから。おもしろいと感じてもらえるといいなと思って応募しました。でも、ダメかもなとも思った(笑)。

◆(Q):でも、非常にうまくハマッてましたよね。相川さんのシークエンスは7月24日の始まり、導入と言ってもいいんじゃないかな。

■(A):陽が昇った後に、朝のシークエンスが短くいくつか連続でパーっと始まった後、朝の風景として僕のは使われていましたね。楽しげに進んでいったところでちょっとショックを与えるみたいな要素として、すごく効果的に使われているなと思いました。

◆(Q):相川さんの映像に日本的なものを感じたんだけど、それは何なんでしょうか? 彼らが相川さんの映像をピックアップした意図は、そこにやはり日本的な何かを見たからなのではないかと……。

■(A):建物が古い住居だからってこともあって、僕らの世代には懐かしい感じというか、日本の住宅事情みたいなことを感じるのかもしれないですけどね……。でも、障子も襖も取っ払っちゃってて日本っぽいかというと何とも微妙な……。しかも、鴨居に棒を渡して洗濯物を干したりしてて、一般的な日本人の住み方とは違うような気もしますけどね(笑)。

◆(Q):そこは確かに違いますね(笑)。

■(A):まあ、もしかしたらテーブルの高さであるとか、そういうことなのかな……。

◆(Q):そうかもしれないですね。今回の映像は最終的にどうやって選ばれたんですか?

■(A):基本的には点数方式みたいな感じで、5段階評価みたいなのを付ける作業があったらしいですね。編集作業をする前に、20人くらいのスタッフで8万本の映像を順番に見ていく。で、「ちょっと良い」「見るべき部分がある」というところから、「これは是非本編に使うべきだ」というところまでの5段階評価があって、僕のはまず、一番上の評価が付いたところに持っていかれて、割と早い段階で「良いね」という評価が付いていたと聞きました。

◆(Q):具体的に監督、スタッフから感想とか言葉はあったんですか?

■(A):サンダンスではあらゆる人から感想を言ってもらいました。

◆(Q):印象的な感想はありました?

■(A):みな、ビューティフルとか言ってくれました。あとは、「奥さんのことはとても残念です」みたいなことは言ってもらいました。監督にも、あなたの映像はとても素晴らしかったと言ってもらったし、編集のジョン・ウォーカーという人にも、すごく評価されてましたね。

◆(Q):監督はどんな人でした?

■(A):ソフトで穏やかな感じの人でした。

◆(Q):彼は劇映画も何本か撮ってはいるけど、ドキュメンタリー出身でドキュメンタリーの作品が多い監督のようですけど、彼のドキュメンタリー作品はそれまで観たことがありました?

■(A):残念ながら観たことがなかったですね。

◆(Q):彼のドキュメンタリー作品の題材の、ハンフリー・ジェニングスっていう監督は知ってましたか?

■(A):知りませんでしたね。いろいろ質問をして答えを言ってもらうっていう、今回の映画のきっかけになったという人ですよね。

◆(Q):私も知りませんでした(笑)。今回のプロジェクトに参加して、サンダンス映画祭などの経験も経て、何か変わりましたか? 改めて自分にとっての映画を見つめ直したり、家族、子供について見つめ直したり。

■(A):家族との関係を見つめ直すきっかけにはなりました。それは、サンダンスでのインタビューでもそう答えたんだけど、そこはまさにそうですね。子供との関係もそうだし、妻との関係もそうだし、うちの家族というものについて、改めて考え直すきっかけにはなりましたね。子供と一緒にサンダンスへ行くことになって、父一人、子一人で連れて行くことになるわけだけれど、それは、間違いなく妻のおかげで、こういう状況でなければそうはなっていないと思ったし……。

◆(Q):奥さんが生きていれば応募もしなかったかもしれない?

■(A):応募はしました。それはしますよ。妻が死んだことをみなに伝えるためにこの映像を撮ったわけではないし。応募の動機からも、あの告知を見つければ応募はしました。でもまあ、できあがった動画を自分で見返してみても、あざといくらい良くできた映像になっちゃったなって自分でも思いましたね……。

◆(Q):本当にまったく計算はしてなかったんですか?

■(A):まったくしてませんでした。テーブルの上にカメラを置いた後、自分がどういう行動をするかもまったく考えてなかったから、いつものとおりにしていただけなんですよね。“おしっこ行かなきゃ”って僕が子供に促したんですけど、そこで、テーブルの上にカメラを置いておくって選択肢もあったはずなんですよ。だけど、その時、追いかけようって思って、カメラを持って追いかけた。だから、置き場も何も考えてなかった。たまたまオムツを捨てるゴミ箱が置いてあって、そこの上に置いたんですけど、良い感じで撮れてるんですよね。それは、魚眼レンズでノー・ファインダーでポンと置いても映るからうまく撮れてる。その後でいつもどおりにしてたら、朝、お線香をあげるってことになるんですけど、朝撮り始めた時には、お線香をあげることなんて全然考えてなかったんです。ただ、流れでこの後、お線香をあげるんだなと思って、そこはいい感じになるかもしれないなと思いました。で、それまでの流れだったら妻の遺影にカメラを向ける必要はないんだけど、でも、それだと説明不足だなと。お線香をあげるところも子供が鈴を鳴らすところも映るから、ここは妻の遺影も撮ったほうがいいと。妻の遺影も子供もギリギリ映る。カメラを置いた時に、それは確認できたのでそれでいいやと。瞬間瞬間と言えば聞こえはいいけど、行き当たりばったりで判断して撮ってるんですよね(笑)。子供が行っちゃうから追いかけるみたいな。カメラの移動に関しては、映画学校で撮影コースだったわけだし、撮影をし慣れているからうまく撮れたんだという感じはあります。

◆(Q):なるほど。

■(A):子供が“お水ちょうだい”って言うんですよね。あれ、うまくハマッたなと。というのは、映画の主題曲が、“水を飲みたい”っていう歌で。

◆(Q):確かに。

■(A):そんな主題曲は全然想像してなかったけれど、だから、ここまで使ってくれたんだろうなという気がしました。

◆(Q):意図せず、パズルのパーツが合っていく感じですね。

■(A):そうですね。

◆(Q):重複してしまうかもしれないけれど、子供との関係とか作品に参加して何か思ったことはありますか?

■(A):子供にはいろいろと経験させてあげられるといいなと思ったし、サンダンスとロンドンへ行ってすごくいろいろな人と会ったから、大勢の人とコミュニケーションがとれるという経験ができたことは良かったと思います。忘れちゃうかもしれないギリギリの年齢なんだけど、だから、全部パノラマを撮って、こういう空間だったということを残さなきゃと思って残してきました。もともとパノラマ写真を撮り始めたというきっかけって、家族で一緒にいる風景を残したくて撮り始めたんですよね。子供が小さいころの写真を撮った時、その時、自分はどうだったのかとか、どういう空間にいたのかということが、子供の写真だけではわからないから。家族3人でいるような状況をちゃんと残せたらいいなというふうに思って撮り始めたんですね。

◆(Q):何年くらい前から撮り始めたんですか?

■(A):何年前だろう……。まだ、妻も生きてたし……まあ、でも……パノラマの技術は、その前から知ってて興味はあった。で、パノラマをやりたいなと思い始めたのは、最近になってから。当時の技術よりもクオリティーが高くなってからなんだけど、ここ数年なんです。僕のサイトは見てくれてます? サンダンスとか載せてるんだけど。

◆(Q):見せてもらってます。

■(A):これからロンドンもアップするのでよろしくお願いします(笑)。

◆(Q):はい(笑)。ところで、相川さん自身は今回の映像投稿からサンダンス映画祭、ロンドン・プレミアと、いろいろな経験をして何か変わったことはないですか? たとえば、映画製作への意欲が昔以上に湧いてきているとか。

■(A):それは元々強くあるし、全然諦めてないから変わってないです。

◆(Q):ああ、なるほどね(笑)。

■(A):ただ、どうだろう……。強くあるって言っても撮ってないから、強くないのかもしれませんね。たとえば、自主製作にしても、どんな駄作だとしても、1本映画を撮って完成させている人は素晴らしいと思うしすごく尊敬できる。それは、自分ができてないから。1本映画を完成させてないから。まあ、撮影に参加したものは完成させてるんだけど、自分で作りたいと思っていてもなかなかできない。なんだかんだ言って、のらりくらりと忙しいからとか、そういう状況じゃないとか、あまり何も思い浮かばないで、撮ってないという状況が続いてたんだけど、今回、何を撮ってもいいから何か撮ったものを送ってくれたら映画にするよ、というようなインスタントな企画が持ち込まれた感じで(笑)。不精な人には千載一遇のチャンスというふうに思えて応募しました。

◆(Q):応募して完成した映画、ああいう映画の完成形は想像してました?

■(A):いや、まったく想像してなかった。想像できなかったんですよね。本当に、どんな映画になるんだろうと、そこまでは考えたけれど、そこから先は考えなかった。僕は、8万本は想像してなかったから、たとえば、何千本のクリップがきて、それを使って1本の映画にするなんていう馬鹿げたことは僕はしないと思って。そんな収拾がつかなくなっちゃうようなことをしようという人がいるんだったら、やってみろ(笑)、僕も応募するから。観てやる、というような気持ちでいました。偉そうに……(笑)。

◆(Q):実際にできあがった映画を最初に観たのは、サンダンス?

■(A):サンダンス。

◆(Q):感想はどうでした?

■(A):泣きそうでしたね。子供がいなかったら泣いてた。子供と見ているというのもその要素のひとつではあったけど。

◆(Q):その感動の要素は情緒的なことだけ? それとも、やはり作品自体の素晴らしさもあったのかな?

■(A):そこは、1回目は曖昧というか消化しきれてなくて……。とにかく、字幕がない。喋ってるセリフがわからない。わかるのは、ウチのパートだけ(笑)。でも、隣に自分の子供が座って映画を観ている。その映画には子供が映っていて、それに自分も映っている。それは自分が撮った映像。それだけで泣ける。しかも、すごく会場は客が入ってるわけです。それで大絶賛。客の反応も良い。それは、もうすごい感動するシチュエーションに飛び込んだみたいな感じだったので、映画を冷静に判断するっていうことが無理な状態。一応、通訳の人が隣でセリフを説明してくれたんですけど、やはり、全編きちんと理解したのは、日本で日本語字幕が付いた最初の試写を観た時でしたね。

◆(Q):1回目のサンダンスと2回目のロンドン・プレミアは違いました?

■(A):いや、あまり違いはなかったけれど、今度はいよいよ隣に通訳がいないし(笑)。ただ、理解は深まっていきますよね。まず、サンダンスで出会った15組の人たちがいて、サンダンスで5日間くらい一緒に過ごして、プレミアを観た。プレミアを観る前は、誰が何を撮ったのか知らずに一緒にいて、実際映画を観て、この人がこれを撮ったのかとか、この子はこういう境遇の子なんだとか、お互いにみな初めて気付くんですよ。その後でまたパーティーがあって、そういう一連の事に感動してた。この人があんなに素晴らしい映像を撮った人なんだと思ったりして興奮してた感じ。

サンダンスから5カ月後の今年の6月にロンドンへ行ったんですけど、その間にDVDで観れたわけでもなかったので、1回しか観てないから何だったのかわからない部分も一杯あった。でも、もう1回観ると英語も何となくわかる部分もあるから、気付いていなかったことに気付いたりする。でも、概ねの印象は変わらなかったですね。まあ、ロンドンのプレミアも大きく盛り上がる上映だったので、すごく温かく迎え入れる感じでしたし、また、サンダンスで出会った人たちとももう1回会えたし、監督やスタッフとも会えたことが単純に嬉しかった。まさに、多くの人たちと家族ぐるみで知り合えた感じなので、そういう人との繋がりができた点が自分にとっては大きく変わった部分だったかもしれない。映画の印象は変わりなかった。むしろ、日本語字幕がついたものを日本の試写で初めて観た時、思っていたよりおもしろかった。映像は全部見慣れてるんですけど、言っていることがいちいち新鮮で。


◆(Q):特に新鮮に感じておもしろかった場面はどこですか?

■(A):たとえば、あの金婚式のセリフ。そこは、サンダンスでもロンドンでも爆笑なんですよね。でも、あそこは字幕がないとわからない(笑)。大体どんなことを言ってるのかはわかるんだけど、やはり腹を抱えて笑うには、ちゃんと何を言ってるかがわからないとね。あれは、本当に笑ったね。すごいイカシたおやじだなと思って(笑)。何よりあの神父がいいですよね(笑)。

◆(Q):相川さんが自分以外のシークエンスで気に入ったシークエンスってありますか?

■(A):印象に残っているのは、靴磨きのペルーの少年のシークエンスですね。サンダンスで、息子があの子と一緒に一杯遊んだんです(笑)。楽しかったんですけど、遊んでる間はその子のことがわからないわけ。プレミアで初めて映画を観たら、靴磨きの子なんだとか、お父さんがご飯作ってるんだみたいな話で、全然そんなの知らなくて、考えてみるとお母さんが来てなかったりして。そういうことだったのかとすごく印象に残りましたね。

◆(Q):今回はある種、悲劇的な映像から日常の美しい映像、それから一見凡庸に見える映像まで入ってるんだけれど、どれも素晴らしく効果的に使われているところは隙間がないと感じたんですけど。

■(A):やはり、8万本の中から5段階評価で上位のほうだけを選んで、その中でも厳選して上のほうだけを印象的に使っているということだと思うんです。だから、並べ方次第で非常に良いものになるのはわかりますよね。

◆(Q):この映画はポピュラリティーもある。いろいろな人たちに開かれている素晴らしい映画だと思います。

■(A):ありがとうございます。

◆(Q):でも、プレミアに関して、ジャパン・プレミアとサンダンスとロンドン・プレミアの盛り上がりはまったく違ったわけでしょう?

■(A):そうですね。

◆(Q):この温度差は何だと思います?

■(A):英語圏かどうかということが大きいと思います。彼らは自分たちが使っている言葉で映像の告知を見て、自分たちが参加するっていう感覚だったと思うんですよね。だから、参加している気持ちが強い人が多くいる国は、アメリカとイギリスだった。ほとんどのスタッフはイギリス人で、イギリスで編集も行われているみたいだし、YouTubeがアメリカだから。サンダンス映画祭でも『LIFE IN A DAY』のプレミアのチケットはあっという間に売り切れたと聞いているし。でも、他の国にしても、日本ほど冷静な国はないみたい。

◆(Q):なぜでしょう?

■(A):日本のメディアは、この映画に関して興味を示しませんでしたね。

◆(Q):なるほど。

■(A):僕がサンダンスへ行くということで取材を申し込んできたのは、朝日新聞社NY支局1件でしたし。

◆(Q):1社!? しかもアメリカからですか(笑)!?

■(A):(笑)。それは日本で記事になったんですけど、その他は、特に誰も興味を示さなかったんですよね。

◆(Q):マスコミ試写後の反応はどうだったんですか?

■(A):……?

◆(Q):取材された時の映画のマスコミの評判はどうだったんでしょうか?

■(A):マスコミの取材? これが初めてです。

◆(Q):え!? 映画関係からの取材、なかったんですか!?

■(A):特に興味がないみたいですね。

◆(Q):これが初めて!? 驚きですね……。

■(A):アメリカとかイギリスでは一杯インタビューを受けているから、日本とは違いましたね。向こうでは、この映画に対しての期待値が高かったっていうのもあると思います。まあ、日本ではドキュメンタリー映画なんてうけないじゃないですか。そういうことなのかな? とは思ってますけど……。

◆(Q):なるほど。でも、この素晴らしい映画は一般の人に多く見てもらいたいですよね。この映画は簡単にできている作品じゃない。応募されてきた中から厳選された映像が使われていて、今回選ばれた映像、特に、中でも印象に残る映像を撮ったプログラムに載っている人は、相川さんのように映像の仕事をやっているプロの人たちが結構多い。世界中から選りすぐりの映像を集めたと言ってもいいくらい。

■(A):プロ参加OKとなっていたから、僕はそこで残れたことが嬉しかったですね。

◆(Q):そんなプロジェクトに参加して、世界に触れて、より世界を身近に感じることはできました?

■(A):特に今回、サンダンスのワールド・プレミアに招待された人たちは、プロの映像関係の人たちが多いんだけれど、彼らとは今でもFacebookでやりとりがあるんですよ。彼らと知り合いになれたということ。そこで、自分の撮った映像を見てもらったりすることができる。今回の映画がこういうグループを作ってくれたということには感謝したいし、大事にしたいと思っています。

世界目線でとかは特別思ってないんですけど、たとえば、僕は今パノラマ撮影をメインでやってるんですけど、これに関して、日本ではまだあまりユーザーが少ない。でも、海外では多くの人たちがパノラマ撮影をやっていて、すごく信じられないようなパノラマ写真が世界中にある。だから、パノラマ写真に関しては、世界中の人たちに向けて撮っていかなきゃなと思っています。世界でも通用するようなパノラマ写真を撮ろうとは思っています。


◆(Q):パノラマの魅力ってどんなところなんですか?

■(A):パノラマの魅力は空間全体を記録できるということですね。自分がいた場所のその印象というか、瞬間を……まあ、瞬間といっても何枚も撮って繋げているので、微妙な合成写真でもあるんですけど、でも、その時の空間を、ある一点から見たすべての方位を記録できる。それについて他の記録方式に比べると、僕はある面で大きなメリットを感じています。

◆(Q):それは動画だとできないことなんですね。

■(A):(動画も)あるんですよ。

◆(Q):動画のパノラマもあるんですか?

■(A):どんどん良い機材も出ていて、動画のパノラマも素晴らしいですよ。動画のパノラマも好きなんです。でも、静止画のパノラマの良さっていうのは、その時静止した世界だから、本来は一方向しか見えないはずの世界を、ゆっくり見回せるということに僕はメリットがあると思っていて、動画のパノラマだと時間軸がどんどん進んでいくので、見られない部分が出てきてしまう。そこが残念なことになっちゃう。

◆(Q):なるほど。これからもパノラマ写真を撮っていくんですね。

■(A):そうですね。

◆(Q):『LIFE IN A DAY』の話に戻りますが、これからまだ全国順次公開しますよね。

■(A):横浜のシネマ・ジャック&ベティとか京都のみなみ会館とか、地方のミニ・シアター系で順次公開されていくと思います。ちなみに、映画の最後のセリフってどうでした?

◆(Q):私は良かったと思う。

■(A):日本では賛否両論で、蛇足だという人も多いみたい。僕もすごく良かった(と思う)。これ、応募した人は、みな、グッとくるセリフなんだと思う。みな、同じ気持ちで撮っていたはずだから。まあ、カメラに向かって独白することは、日本人にはなじみがない行為だから、受け入れられ難いのかもしれない。僕も最初、独白してる映像を観た時は、どうなんだろうって思ったんですよ。でも、セリフの内容がわかったら、すごくいいことを言っているって思ったんです。(映画プログラムを見ながら)こうやってさ、パンフレットのストーリーってところにピックアップされてる映像のサムネイル、うちもピックアップしてくれてるんだけど、こうするとピックアップされている映像は思い返すことができるんだけど、この他にも一杯ある。

◆(Q):332。

■(A):そう。その332クリップ全部欲しい。全部のサムネイルがあったら思い返せるかもって思う。この映画は1回観ただけでは全部思い返せないんですよ。僕は4回も観ているのに、やっぱり全部思い返せない。さすがに、初めて見たよっていう映像はないけど、何度も何度も繰り返し観たい。だから、DVDが欲しいんだけど、日本ではDVDの発売がなくて、ブルーレイのみの発売みたい。一応、ハイビジョンだからってことみたいですけど……。

◆(Q):なるほど……。では、最後に、これから映画を観る方々へメッセージをお願いします。

■(A):世界中から8万本集められた中から、特に厳選された映像だけで作られている映画なので、どのショットを観ても観るに耐える、印象に残る映像だけで構成された映画とも言えるので、観ている間、退屈することなくご覧いただけるかと思います。

◆(Q):私も本当にそう思います。

■(A):本当にそう思いますよね(笑)。別に、卵を割るところのカットがどうだというわけではないけれど、実際に何度も観ればわかるんだけど、たとえば、「あなたのポケットの中にあるものは何ですか?」みたいな質問があるじゃない。「あなたの恐いものは何ですか?」とか。ああいうところに長いシークエンスで出てくる人たちが再び登場してたりするんですよ。最初は気付かなかったりするけど。選ばれている映像は332個なんだけど、カット数としてはもっと一杯ある。

◆(Q):そうですよね。

■(A):僕のは1個しか使われてないけど、他の人のは結構何度か使われている。「ポケットの中」とか「恐いもの」とかよかったら撮ってね、と書いてあったんだけど、いいやって思って撮らなかったんですよ(笑)。後で、この映画のメインとなるのがそっちだったことを知って正直驚いた。僕は、ある1日に起こったことを世界中から集めるということがメインだと思っていたから。なんか、質問に答えるほうは蛇足的なことだと思ったんですよね。まあ、カメラの前で改まって何かをさせることがウチの子は無理なんで(笑)。


(インタビュアー:古山慶/編集・構成:紺野美樹)


相川博昭(あいかわ ひろあき)

1969年神奈川県生まれ。中学時代に自主映画の世界に触れ、そこから映画の世界を志すようになる。1991年日本映画学校撮影科卒業。自主制作映画の撮影などを行ないながら、1993年よりシネ・ヴィヴァン・六本木に勤務。1998年よりフリーのカメラマンとして活躍。

阿部和重「シンセミア」の連載写真、青山真治監督作品『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』のスチールを担当。KAKUTA、散歩道楽、文月堂、チェルフィッチュなどの劇団にカメラマンとして参加。

最近ではAMARONA:Pというユニットで360°パノラマ撮影を中心に活動している。



『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語』は2011年8月27日よりオーディトリウム渋谷ほか全国にて公開中。