【解説】
◆逃げるが勝ち マッシヴ“紳士強盗”エンターテイメント
夢を叶えるため、友情を守るため、愛を貫くため、彼らが選んだ手段は“紳士強盗”。
そう、この世はいつだって逃げるが勝ち!!3人の若者はわき目もふらずに、自分たちの道を、新たな世界めがけて疾走する―。
プランケットとマクレーンは18世紀半ばのロンドンに実在した強盗。“紳士強盗”と呼ばれたマクレーンは実際にレディたちの人気を集め、ブレヒト作「三文オペラ」のベースになった舞台「乞食オペラ」の主人公マックヒースのモデルとも言われている。彼の裁判は社会的事件にもなった。
そんな実話に基いたエキサイティングな設定に、オリジナルな味付けを施した軽快なストーリー。『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のロバート・カーライル、『トレインスポッティング』のジョニー・リー・ミラー、そして『アルマゲドン』のリヴ・タイラーという豪華なキャスト、そして、あのゲイリー・オールドマンの製作総指揮の下、リドリー・スコットの息子にしてMTV界の気鋭ジェイク・スコットが初めてメガホンをとった。これぞ、ストーリー&キャスト&スタッフと、すべてが揃ったマッシヴ“紳士強盗”エンターテイメント。シャープでスタイリッシュな新世代映像と音楽がスピード感いっぱいにスクリーンに広がる、型破りでゴージャスな映画なのだ。
営んでいた薬屋が破産して強盗稼業に手を染めたプランケットと、スコットランドの聖職者の息子として生まれ、高度な教育を受けたマクレーン。全く違う環境で育ち、たまたま牢獄で出会った二人は、それぞれの夢をかけて“紳士協定”を結ぶ。プランケットが提供するのは頭脳と盗みのノウハウ。マクレーンの強みは社交界のコネクション。両者が揃えば怖いものなし。マクレーンが上流階級の情報を集め、プランケットの指図で貴族の馬車を襲えばいい。金さえあれば、プランケットはアメリカに渡る夢が叶うし、マクレーンは紳士としての地位と裕福な生活を手に入れることができる。
二人の初めての獲物は裁判長ギブソン卿と姪のレディ・レベッカが乗った馬車。手荒な強盗など初めてのマクレーンは、美しく毅然としたレベッカに一目惚れし、“礼儀正しく”宝石を頂いていく。この日から二人は“紳士強盗”と呼ばれるようになった。ヤマを重ね、修羅場をくぐり抜けるにつれ、強い友情と信頼の絆で結ばれていくプランケットとマクレーン。
しかし、やがてチャンス卿の執拗な追跡が始まる。果たして、二人の夢は叶うのか?マクレーンとレディ・レベッカの恋の行方は?
映画化のきっかけは7年前に遡る。あるとき、ワーキング・タイトル社のエリック・フェルナーのために、ゲイリー・オールドマンが気に入った脚本の場面をいくつか演じることになった。その中の一本が“時代劇なのにアクション映画のような”この作品。彼らはこれをもとに企画をふくらませていった。
そして、彼らが監督として白羽の矢を立てたのがジェイク・スコット。ミュージック・ビデオという最先端のメディアにいる彼なら、史実や映画のセオリーにとらわれず、自由でビジュアル的に優れた作品が作れると考えたからだ。彼らの狙いはまさしく的中。父親譲りの鋭いセンスは、ダークな画面の中に毒気とエネルギーがみなぎる新感覚の“映像作品”を生み出した。
風刺に満ちた愉快なエピソード。アップテンポなアクション・シーンの興奮。胸が熱くなる男たちの友情。そして、ハラハラするロマンティックな恋の成り行き…。
ここには、映画のあらゆる娯楽要素がつまっている。まさに“2000年代版『明日に向かって撃て!』”とも言える楽しさだ。盗みのプロ、プランケットには『フル・モンティ』以降、007シリーズの『ワールド・イズ・ノット・イナフ』や『ラビナス』などハリウッドからも引っ張りだこのロバート・カーライル。恋する紳士強盗マクレーンには、最近ではアラン・ルドルフ監督の『アフター・グロウ』に主演しているジョニー・リー・ミラー。この二人が一緒にフレームに収まるだけで、不思議に“バディ(相棒)”の気分が流れ出す。紅一点のレディ・レベッカにはアメリカから『アルマゲドン』『クッキー・フォーチュン』のリヴ・タイラーがキャスティングされ、反抗的で意志の強い女性を快活に演じている。また、ケン・ストット、マイケル・ガンボン、アラン・カミングらイギリス映画・演劇界の名優たちが脇をがっちり固めている。
撮影監督は『ツイン・タウン』『ヴィゴ』のジョン・マティソン。撮影はチェコのプラハを中心に行われ、古都の歴史を感じさせる建物や町の雰囲気が映像に深みを与えている。プロダクション・デザインはノリス・スペンサー、ジョージア王朝の絵画やホガースらの作品からインスピレーションを受け、当時の猥雑で退廃的な空気を作り出している。
また、『日陰のふたり』や『ウェルカム・トゥ・サラエボ』などを手がけているジャンティ・イエーツが18世紀のファッションにヒップな匂いを加味した衣装も、重厚にして新鮮、時代がかった重みと今的なリズムを融合させた音楽は『ロミオ&ジュリエット』などで有名なクレイグ・アームストロングが手がけている。
【実在の紳士強盗 プランケット&マクレーン】
ジェイムズ・マクレーンは“紳士強盗”としてイギリス中を騒がせた実在の人物である。1724年にアイルランド北部のモナハンで生まれた彼は、スコットランド人の長老教会の聖職者の末息子だった。ジェイムズはきちんとした教育を受け、ラテン語を学び、商人になるべく、文章と経理の術をマスターした。彼が18才の時に父が他界、つつましい生活を送っていた父親は、息子が商売を始められるだけの財産を残していた。しかし、ジェイムズ・マクレーンは退屈な商売に興味を持てなかった。財産を手にした彼は手に入る最も派手な衣装を用意して、馬を手に入れ、“しゃれた”男となった。
その後ダブリンに移り、そこで悪い仲間と知り合い、有り金を使い果たしてしまう。しばらく、下男や執事などをした後、向かったイギリスで宿屋を経営する男の娘と結婚する。そして、500ポンドの持参金で、雑貨屋を始める。しかし、商売よりも、快楽的な生活やギャンブルを好み、“紳士”になることを目指すものの事業は失敗。妻も他界と不幸がふりかかる。運命を変える男プランケットと知り合ったのはそんな時期であった。破産した薬屋であるプランケットは、これまで狡猾に世渡りしてきた“いかがわしい人物”だった。
失った財産を取り戻す計画を立てたのはプランケットだった。ピストルや馬を手に入れ、覆面をかぶり、スミスフィールド・マーケットから戻る放牧者を待ち伏せた。ある人物から70ポンドを奪ったプランケットとは対照的に、マクレーンはすごく上がってしまい、強盗などできなかった。彼は自分で行動を起こすわけではなく、ただ恐怖にふるえた。次にふたりは聖アルバーンの馬車を襲ったが、マクレーンは恐ろしさのあまり、その場を去ってしまった。残されたプランケットが、その場をひとりで収集するはめになった。しかし、その時、マクレーンが戻ってきて、乗客たちの所持品を盗む手助けをし、ふたりの共同作業が始まった。その後、プランケットとマクレーンは精力的な行動を続け、6か月に16件の強盗を働く。ある夜、彼らは著名な作家のホレス・ウォルポールをハイドパークで襲った。緊張したマクレーンは、この時、ミスをした。誤って銃を発砲してしまったのだ。しかし、弾はウォルポールの顔をかすめただけですんだが、マクレーンは自責の念にかられる。翌朝、ウォルポールは強盗から詫び状を受け取った。ウォルポールは後にこう語っている。「すべての事件は礼儀を伴って行動に移された」。
“紳士強盗”と呼ばれるようになったマクレーンは、高級な生活を送るようになる。豪華な部屋を聖ジェームズ通りに持ち、見事な衣装を見にまとい、ぜいたくな愛人がいて、ロンドン中のギャンブルの場やサロンで知られる存在となった。会話はウィットと魅力にあふれ、彼はレディたちの人気の的となる。マクレーンは女好きの強盗を主人公にした「乞食オペラ」(注:後にブレヒトの「三文オペラ」の原作となったジョン・ゲイの作品)の主人公マックヒースのモデルともなった。
次第にふたりは自制心を失っていった。そんな矢先、ハウンズロー・ヒースで強盗を働いた際、エグリントン卿から貴重品と黄金モールが縫い込められた見事なコートを奪ってしまう。このコートがマクレーンの運の尽きとなる。質屋を通してコートを処分しようと考えたが、珍しい品物だったので、足がつき、逮捕される。相棒よりも狡猾だったプランケットは証拠も残さずに失踪し、生涯捕まることもなかった。
オールド・ベイリーで行われたマクレーンの裁判は社会的な事件となり、裁判所は著名人や着飾った人たちでいっぱいになった。そこには被告と交際していた貴婦人たちの姿もあった。弁護側の証人のひとりとなったレディ・キャロライン・パターシャムはこう言ったという。「お近づきになれて、本当に幸せでした。彼は私の家にも参りましたが、なくなったものは何もありません」。
マクレーンは有罪宣告を受け、死刑が決まった。監禁生活を送っていた時、彼がいるニューゲイトの死刑囚監房を3,000もの人が訪ね、大半の人々は彼に同情していた。死の直前に彼は聖書を読んでいたという。1750年10月3日に処刑されたが、彼は別れのスピーチはせず、「神は私の敵をお許しになり、私の魂を受け入れて下さるでしょう」とだけ語った。
(参考資料“Highwayman & Outlaws”by John Gilbert 1971 pub.Severn House)
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