【解説】
都内の2DKのアパートで大好きな母親と幸せに暮らす4人の兄妹。
しかし彼らの父親はみな別々で、学校にも通ったことがなく、
3人の妹弟の存在は大家にも知らされていなかった。
ある日、母親はわずかな現金と短いメモを残し、兄に妹弟の世話を託して家を出る。
この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの「漂流生活」が始まる ─ 。
◆子供たちの心の叫びが胸に突き刺さる
『ワンダフルライフ』(1999)、『ディスタンス』(2001)に続く是枝裕和(監督/脚本/編集)の最新作は、1988年に実際に起こった事件をモチーフに、東京という街で暮らす子供たちに起こる出来事を、彼らの目線に寄り添いながら精緻に描写している。初めて脚本が書かれたのはまだ劇映画デビュー以前の1989年。その後何度も手が加えられ、着想から15年の歳月を経て遂に完成した作品だ。その間に世の中では少年に関わるさまざまな事件が起こり、幼児虐待の問題も毎日のように取り沙汰されるようになってきた。『誰も知らない』はそのような現代的なテーマを持ちながらも、いつの時代にも共通する普遍的な子供たちの内面世界を描いている。
母親に捨てられるという過酷な運命に巻き込まれながら、それでも4人の子供は自分たちだけの小さな世界で、自分たちだけのルールに従ってたくましく生きていく。しかし、かろうじてバランスを保っていた彼らの世界は、外の世界との接触によって、だんだんと崩れてゆく。母を想う無垢な心、外の世界に対する憧れと葛藤、そして次第に苦しくなってゆく生活に対する焦燥感。子供たちの言葉にできない心の叫びは、観る者の胸に突き刺さり、知恵と勇気を振り絞って助け合いながら精一杯毎日を生きる彼らの姿は、深い感動を呼び起こすだろう。
◆是枝作品の集大成にして最高傑作
撮影は2002年の秋から2003年の夏まで四季を通して行われ、季節毎に編集し、そのたびに次の季節の構想を練るという作業が繰り返された。オーディションによって集められた演技経験のない子供たちとコミュニケーションを重ねながら、独特の演出によって彼らの姿をフィルムに焼き付けてゆく。そこには物語とともに、演技を超越したリアルな子供たちの成長が確かに刻まれている。過去の作品でもドキュメンタリー的手法を劇映画に取り入れてきた是枝だが、これほどまでに2つの境界線を軽々と行き来して、何の違和感もなく見事に融合させた作品はなかっただろう。
子供たちの感情は彼らの手の表情やマニキュア、ピアノ、キュッキュサンダル、カップラーメン、アポロチョコといったディテールの積み重ねによって表現され、2DKのアパートで繰り広げられる密室劇をある時は情感豊かに、ある時はスリリングに描き出す。それは、このような特殊な環境に生きる子供だけでなく、幼い頃誰しもが経験したであろう楽しくて甘い記憶や、切ない感情を観る者の心にも呼び起こす。そしてカメラは子供たちに寄り添うように存在し、温かいまなざしを向けながらもそれと同時に子供たちを取り囲み呑み込んでゆく社会にも厳しい視線を投げかける。これは監督自ら「この作品を撮らないことには、先に進めない」と語る、是枝作品の集大成にしてひとつの到達点=最高傑作と言えるだろう。
キャストは5人のフレッシュな子供たちのほかに、母親役でバラエティ番組などで活躍中のYOUが本格的に映画初出演、その独特の存在感で強い印象を残すほか、加瀬亮、寺島進、遠藤憲一、平泉成など実力派の俳優陣がしっかりと脇を固めている。
また、『無能の人』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞した人気デュオのゴンチチが、ギターとウクレレだけのシンプルだが心に残るスコアを映画のために書き下ろし、新人タテタカコ(コンビニの店員として出演もしている)の「宝石」が挿入歌として、まるで主人公の心情を映し出すかのように歌われているのにも注目である。
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