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『ゴースト・ドッグ』/"GHOST DOG / THE WAY OF THE SAMURAI"
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フランス映画社配給 バウ・シリーズ作品 No.149
1999年/米・日・仏・独合作アメリカ映画/製作=日本ビクター(JVC)、BAC FILMS (PARIS)、LE STUDIO CANAL+(PARIS)/撮影協力=PANDORA FILM (FRANKFURT)/ARD/DEGETO FILM (MUNCHEN)/PLYWOOD PRODUCTION 制作作品/ドルビーSRD/116分/日本語字幕=戸田奈津子/宣伝デザイン=小笠原正勝/(C)PRYWOOD PRODUCTION,INC.
◇監督・脚本:ジム・ジャームッシュ ◇撮影:ロビー・ミュラー ◇音楽:RZA ◇サウンド・デザイン:チック・チッコリーニ。 ◇録音:ドリュー・クーニン ◇編集:ジェイ・ラビノヴィッツ ◇美術:テッド・バーナー ◇衣装:ジョン・ダン ◇キャスティング:エレン・ルイス、ローラ・ロゼンタール ◇コー・プロデューサー:ダイアナ・シュミット ◇製作:リチャード・ゲイ、ジム・ジャームッシュ ◇キャスト:フォレスト・ウィテカー(ゴースト・ドッグ)、ジョン・トーメイ(ルーイ)、クリフ・ゴーマン(ソニー・ヴァレリオ)、ヘンリー・シルヴァ(ボス、レイ・ヴァーゴ)、イザーク・ド・バンコレ(アイスクリーム屋のレイモン)、トリシア・ヴェッセイ(ルイーズ・ヴァーゴ)、ヴィクター・アーゴ(ヴィニー)、ジーン・ルフィーニ(ヴァーゴ・ファミリーの長老)、リチャード・ポートナウ(“ハンサム”・フランク)、カミール・ウィンブッシュ(少女パーリーン)、RZA(迷彩服の男) ◇提供=日本ビクター、テレビ東京、フランス映画社 ◇配給:フランス映画社
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| 解説 | キャスト&スタッフ プロフィール | ストーリー | ジャームッシュ監督来日記者会見 |
【解説】
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』をはじめ、1作1作誰もまねできない作風で傑作をおくり続けるジャームッシュだが、『ゴースト・ドッグ』は『デッドマン』いらい4年ぶりの劇映画で長編第8作目。99年カンヌ映画祭正式出品作品としてワールド・プレミア。現代のニューヨークの殺し屋と日本の<葉隠>を結びつける、誰も考えつかないような設定で驚かせるが、そこから、今や円熟の境地に入ったジャームッシュ演出は、快い笑いを次から次に呼び起こし、友情をベースにした、爽やかな詩情の風が吹く心あたたまる物語を展開して、99年カンヌ映画祭で最高の拍手喝采を浴びた。
◆ユーモアとエレガンス。ジャームッシュならではのコミックのすばらしい贈りものだ。言葉が通じない二人の涙が出るほどのオカシさ、そしてサイレント時代のバーレスク映画を思わせる振りの楽しいこと。エレガンスにも満ちた演出も素晴らしい。ジャームッシュは豊かで深い過去の記憶を“今”のものにした。お見事。(仏・レザンロキュプティーブル誌 セルジュ・カガンスキ)
◆フォレスト・ウィテカーのゴースト・ドッグは『バード』でのチャールズ・パーカー以来の最高の演技だ。(仏・ルモンド紙 サミュエル・ブリュメンフェルド)
フォレスト・ウィテカーは『デッドマン』のジョニー・デップに続いて、ゴースト・ドッグは彼しかいないとジャームッシュが脚本の段階からイメージした人。クリント・イーストウッド監督の『バード』(88)でカンヌ映画祭史上最年少の主演男優賞を受賞し、『クライング・ゲーム』『プレタポルテ』『スモーク』などで名演を見せ、『ため息つかせて』で今では監督にも進出している大スターだ。そして音楽はジャームッシュ初のヒップポップで、超大物<ウータン・クラン>のリーダーのRZA(レーザ)による初の長編劇映画音楽。
主人公ゴースト・ドッグは鳩を共に、世間を超越して生きる孤独な殺し屋。ニューヨークの闇に溶け込み、使命をクールに貫徹する彼の愛読書は<武士道といふは、死ぬことと見つけたり>で有名な<葉隠>の言葉をそのままに行動してファミリーと対決する…。
共演には、ファミリーのボスのヴァーゴ役で名優ヘンリー・シルヴァが70才で70本目の出演を飾るのを始め、その右腕のソニー(SONNY)・ヴァレリオ役にはクリフ・ゴーマン。レニー・ブルース役の隠れた第一人者でラップ調でノリ始めたら止まらないので、各国公開での字幕に関してジャームッシュ自ら、彼のセリフはある部分は字幕を入れずにノリにまかせてくれと注文しているほど。ゴースト・ドッグが<葉隠>にのっとって主(あるじ)と敬う、ファミリーの幹部ルーイ役には演劇のキャリアが長いジョン・トーメイを迎え、トーメイは実に深く渋い味を出す。ヴァーゴが溺愛する娘ルイーズ役には22才のトリシア・ヴェッセイが抜擢された。ゴースト・ドッグと本で心が通い合う少女パーリーンを演じる8才のカミール・ウィンブッシュとともにこの映画の花だ。ゴースト・ドッグと、英語と仏語で互いにチンプンカンプンのおかしな親友レイモン役には『ナイト・オン・ザ・プラネット』のパリ編の運転手でおなじみのイザーク・ド・バンコレ。ファミリーの長老で死ぬほどおかしい名演を披露してくれるのはジャーナリストを高齢で引退してから俳優に転じたジーン・ルフィーニ。ルーイの親友をベテラン俳優のヴィクター・アーゴが好演し、高齢化したマフィアのおかしさで楽しませてくれる助演陣をひっぱる。特別出演ではチンピラに襲われる中国人の老人役でニューヨーク少林寺派のマスターのヤン・ミン・シー、ゴースト・ドッグと間違われて襲われる一人に『デッドマン』のノーボディのゲーリー・ファーマー、そしてラスト近くでRZAも登場するという豪華さ。
脚本はジャームッシュのオリジナルで、全編で16回登場する<葉隠>の引用は講談社インターナショナルの英語版によるもので、若干の省略や編集はあるものの驚くほど忠実な引用で構成している。撮影は<映像のレンブラント>とまで呼ばれ、『ダウン・バイ・ロー』『デッドマン』のモノクローム、『ミステリー・トレイン』のカラーに続いて鮮やかな映像美を展開する名手ロビー・ミュラー。美術のテッド・バーナー、サウンドのドリュー・クーニン、編集のジェイ・ラビノヴィッツらジャームッシュ・クルーおなじみの顔ぶれに、音楽のRZA、衣装のジョン・ダン、そして製作にNYベースで脚本家としても活躍しているリチャード・ゲイが新たに加わり、キャスティングでは、ウディ・アレン映画のスタッフで『デッドマン』でも仕事したローラ・ロゼンタールとマーティン・スコセッシ映画での仕事が多いエレン・ルイスが組んで当たり、ICMのバート・ウォーカーが、日本ビクターを始めとする4カ国出資による製作をバックアップしている。撮影は98年の秋の最初の日から8週間、主にニューヨークで行われた。
原題のタイトル・ロゴを始め、クレディット・タイトルの文字はジャームッシュ本人の手書き文字をベースにしている。そのエンディング・クレディットには『ゴースト・ドッグ』にインスピレーションを与えてくれた人々として、山本常朝(聞書<葉隠>の著者)、芥川龍之介、メアリー・シェリー、セルバンテス、(『サムライ』の)ジャン=ピエール・メルヴィル(『殺しの分け前 ポイント・ブランク』の)ジョン・ブアマン、<ウータン・クラン>とともに、黒澤明、そしてかねて敬愛する鈴木清順ら各氏の名前を感謝をこめてあげている。
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【キャスト&スタッフ プロフィール】
◆ジャームッシュ フィルモグラフィー
1953年1月22日オハイオ州アクロン生まれ。父方はチェコ系、母方はアイルランド系。コロンビア大学文学部に在学中に9ヶ月滞在したパリで映画に目覚め、75年に卒業後、NY大学大学院映画学科に入学してニコラス・レイの助手をつとめた。ヴィム・ヴェンダースと『ニックス・ムービー』で知り合う一方、ロックバンド<デル・ビザンティンス>でヴォーカルとキーボードを担当。卒業制作の長編第1作『パーマネント・バケーション』で80年マンハイム映画祭でジョセフ・フォン・スタンバーグ賞を受賞。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の第1部<新世界>(82)を、ヴェンダースから貰った「ことの次第」のストック・フィルムで撮り、83年ロッテルダム映画祭で国際映画批評家賞を受賞したが、長編として完成したのは2年後で、84年カンヌ映画祭カメラドール最優秀新人監督賞を受賞。世界の若者の心をとらえ、今も神話的な人気に輝いている。ジョン・ルーリー、トム・ウェイツ、ロベルト・ベニーニを主演にすえた長編第3作『ダウン・バイ・ロー』は86年カンヌ映画祭正式作品に選ばれ各国で大ヒット。長編第4作『ミステリー・トレイン』では、3話同時進行の斬新な手法で89年カンヌ映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞。長編第5作『ナイト・オン・ザ・プラネット』(92)ではさらに、“同時刻の5つの町の物語”に展開。その間、<コーヒー&シガレット>の短編シリーズを始め、『コーヒー&シガレット3』では93年カンヌ映画祭短編部門のパルムドール大賞を受賞。95年、ジョニー・デップを主演に迎えた叙事詩映画『デッドマン』で話題を呼び、音楽を担当したニール・ヤングのドキュメンタリー『イヤー・オブ・ザ・ホース』を発表。『ゴースト・ドッグ』は劇映画としては長編第7作。<葉隠>とニューヨークの殺し屋という突拍子もない結びつきから、またまた誰にもまねのできないユニークな傑作を誕生させた。
1980『パーマネント・バケーション』
1984『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
1986『ダウン・バイ・ロー』『コーヒー&シガレット』
1989『ミステリー・トレイン』『コーヒー&シガレット2』
1990「イッツ・オールライト・ウィズ・ミー」
1992『ナイト・オン・ザ・プラネット』
1993「コーヒー&シガレット3」
1995『デッドマン』
1997『イヤー・オブ・ザ・ホース』
1999『ゴースト・ドッグ』
※「」は日本劇場未公開作
【スタッフ】
◆ゴースト・ドッグ/フォレスト・ウィテカー
ジャームッシュは撮影台本の前文でゴースト・ドッグのイメージを、“長身、孤独、相手を威圧する巨体のチンピラ。黒いフードのなかの顔は、何も語らないことで全てを語る顔。あなたが道で彼とすれ違った瞬間、アイ・コンタクトなしに、彼はあなたのすべてを見て取っている”と書いている。その時すでに、というよりも企画の最初からゴースト・ドッグ役はこの人とジャームッシュが心に決めていたのがフォレスト・ウィテカーだ。『スモーク』などですでに名優として知られていたウィテカーだが、KONISHIKIばりの巨体でいながら敏捷で繊細、童顔に凄味と優しさを同時にたたえ、シャイで詩情さえ感じさせる、知られざる魅力が『ゴースト・ドッグ』で爆発する。
1961年7月15日、テキサス州ロングウェー生まれ。ロサンジェルスのコンプトンで育ち、高校時代はアメリカン・フットボールの花形選手として活躍する。やがて俳優を志し、USC(南カリフォルニア大学)で演劇を学ぶ。映画デビューは、82年『初体験/リッジモントハイ』。『ビジョン・クエスト/青春の賭け』(85、ハロルド・ベッカー)、『ハスラー2』(86、マーティ4ン・スコセッシ)、『プラトーン』(86、オリヴァー・ストーン)、『グッドモーニング・ベトナム』(87、バリー・レヴィンソン)など話題作に出演。そして、ウィテカーが世界的に注目されたのは、伝説のジャズ・サックス奏者チャーリー・パーカーに扮した、クリント・イーストウッド監督『バード』(88)だ。この作品でカンヌ映画祭主演男優賞を最年少で受賞した。『レイジ・イン・ハーレム』(91)ではプロデューサーもつとめ、撮影の栗田豊通と組んで音楽プロモーション・フィルムにも進出。その後、『クライング・ゲーム』(92、ニール。ジョーダン)、『プレタポルテ』(94、ロバート・アルトマン)、『スピーシーズ 種の起源』(95、ロジャー・ドナルドソン)、『スモーク』(95、ウェイン・ワン)、『フェノミナン』(96、ジョン・タートルトーブ)など、幅広い役柄をしなやかに演じて高い評価を得ている。監督として、93年にTVドラマ「ハード・ジャスティス」(ビデオ発売)でトロント映画祭最優秀新人監督賞を受賞。95年、ホイットニー・ヒューストン主演『ため息つかせて』で劇場映画監督デビューを果たし、サンドラ・ブロック主演『微笑みをもう一度』(98)も監督している。
◆ファミリーのボス、レイ・ヴァーゴ/ヘンリー・シルヴァ
黙っているだけでも画になる名優ヘンリー・シルヴァは1928年ブルックリン生まれ。両親はプエルトリコ人。『革命児サパタ』(52、エエイア・カザン)で映画デビューし、ハリウッドからヨーロッパ、南米、日本まで世界を舞台に活躍し、『ゴースト・ドッグ』は70才で70本目の出演作。『夜を逃れて』(57、フレッド・ジンネマン)、『緑の舘』(59、メル・ファーラー)、『影なき狙撃者』(62、フレッド・フランケンハイマー)、『ひとりぼっちのギャング』(63、ウィリアム・アッシャー)、『シャイアン砦』(66、デヴィッド・ローウェル・リッチ)、『復活の日』(80、深作欣二)、『シャーキーズ・マシーン』(82、バート・レイノルズ)、『シークレット・レンズ』(82、リチャード・ブルックス)、『野獣捜査線』(85、ゲーリー・ネルソン)、『ディック・トレイシー』(90、ウォーレン・ベイティ)、『エンド・オブ・バイオレンス』(97、ヴィム・ヴェンダース)など。“ヒッチコック劇場”などテレビ出演も85番組を数え、ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイでも活躍。
◆ルーイ/ジョン・トーメイ
少年ゴースト・ドッグの命を救う心暖かい人物だが、マフィアの幹部としての辛味の経験もいっぱい滲んでいる男ルーイ。この難役に、過去の映画の色の付いていない俳優を見つけるという容易でない選択の中で決定したのが、ジョン・トーメイだ。演劇俳優としてニューヨークを拠点に40年を超えるキャリア。ブロードウェイでは<マラ・サド>で知られ、地方巡業ではシェークスピアから現代戯曲まで、主役も脇役もこなせる貴重な俳優で、映画に出るようになったのは近年からで数少ない。その1本が、『リアル・ブロンド』(97、トム・ディチロ)で、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の撮影など、ジャームッシュの親友でもあるディチロが強く推薦し、トーメイに決定した時にはディチロも得意満面だったという。
◆ロベルト・“ソニー”・ヴァレリオ/クリフ・ゴーマン
ヴァーゴの右腕で副ボス。とはいえ、ファミリーの隠れオフィスでも、ファミリーが経営するクラブでも、家賃を催促されるのを凄みでかわすのが実状。ラップ大好き。そのソニー(SONNY)役を演じるのは、レニー・ブルースを演じたらピカイチのクリフ・ゴーマンで、舞台でもトニー賞最優秀男優賞を受賞、ボブ・フォッシーの映画『オール・ザット・ジャズ』でもレニーを演じた。『真夜中のパーティー』(70、ウィリアム・フリードキン)、『警官ギャング』(73、アラム・アバキアン)、『アレキサンドリア物語』(69、ジョージ・キューカー)、『オール・ザット・ジャズ』(79、ボブ・フォッシー)、『結婚しない女』(78、ポール・マザースキー)、『ジャグラー ニューヨーク25時』(80、ロバート・バトラー)、『エンジェル』(83、ロバート・ヴィンセント・オニール)、『ホッファ』(92、ダニー・デヴィート)、『ナイト・アンド・ザ・シティ』(92、アーウィン・ウィンクラー)で強烈な個性を見せつけている名優。
◆ルイーズ・ヴァーゴ/トリシア・ヴェッセイ
父ヴァーゴが溺愛し、ファミリーの全財産のカギを握る令嬢ルイーズは、マンガのベティ・ブープとアクタガワのRASYOMONが大好き。バスに乗った筈なのにフランクの殺しの現場にいたので、ゴースト・ドッグは、ファミリーの指示通りに殺しを実行して、ファミリーの殺しの標的になる。妖しい美しさの令嬢ルイーズを演じるのは22才のトリシア・ヴェッセイ。97年に、端役ながらジョニー・デップの初監督作品『ブレイブ』、『コレクター』(ゲイリー・フレダー)、『ビーン』(メル・スミス)と出演作が続き、98年には『TOWN&COUNTRY』(ピーター・チェルソム)でウォーレン・ベイティとダイアン・キートンの娘役に抜擢され、さらに『COMING SOON』(コレット・バーソン)も撮り終えている、注目の女優。
◆レイモン/イザーク・ド・バンコレ
『ナイト・オン・ザ・プラネット』で午前4時のパリのタクシー運転手を演じてジャームッシュ映画のおなじみ。『BLACK MIC MAC』(86、トマ・ジル)でセザール賞新人男優賞。クレール・デゥニ監督のデビュー作『ショコラ』(88)でアメリカでも知られ、『間違いだらけの恋愛講座』(89、ジャック・ブノワ)、『ネネットとボニ』(96、クレール・ドゥニ)『A SOLDIER'S DAUGHTER NEVER CRIES』(98、ジェームズ・アイヴォリー)などに出演。舞台でもパトリス・シェロー演出作品で活躍している。
◆パーリーン/カミール・ウィンブッシュ
彼女の弁当箱の中味は本。<たのしい川べ>は英国の作家ケネス・グレーアムが1908年に発表した童話、<黒人の魂>はデュイボス著の黒人解放運動の名著(岩波文庫、92年刊で絶版)、<夜の看護婦>はパルプ本、<フランケンシュタイン>はメアリー・シェリーの名著。パーリーン(レイモンは仏語流にペルリーヌと呼ぶ)を演じるカミール・ウィンブッシュは映画出演は『デンジェラス・マインド 卒業の日まで』(95、ジョン・N・スミス)、『イレイザー』(96、チャールズ・ラッセル)など数作だが、テレビの人気番組に数多く出演していて、歌も<THE GARAGE CLUB>のリードヴォーカルとしてCDを出している。
◆ファミリーの長老/ジーン・ルフィーニ
突拍子もない声で驚かせるファミリーの長老を演じるのは、90年に新聞ジャーナリズムを引退した、劇作家、小説家のジーン・ルフィーニ。引退後、俳優に転じて『ゴースト・ドッグ』は12本目の作品。『リトル・オデッサ』(94、ジェームズ・グレイ)『カジノ』(95、マーティン・スコセッシ)、『ボディ・バンク』(96、マイケル・アプテッド)『ヘンリー・フール』(98、ハル・ハートリー)『アナライズ・ミー』(99、ハロルド・ライミス)などでこの長老をご注目。
◆ヴィニー/ヴィクター・アーゴ
ルーイの親友ヴィニーを古風なキャラクターの典型で演じるヴィクター・アーゴはマーティン・スコセッシ作品(『明日に処刑を』72、『ミーン・ストリート』73、『タクシー・ドライバー』76、『アフター・アワーズ』85、『最後の誘惑』88)や、ウディ・アレン作品(『重罪と軽罪』90、『影と霧』92、新作『SWEET AND LOWDOWN』)の常連で、『キング・オブ・ニューヨーク』(90)などのアベル・フェラーラ作品、『スモーク』などウェイン・ワン作品でもおなじみ。『ザ・ファミリー』(73、リチャード・フライシャー)、『アーノルド・シュワルツネッガー ゴリラ』(86、ジョン・アーヴィン)、『恋におちて』(84、ウール・グロスバード)、『マドンナのスーザンを探して』(85、スーザン・シーデルマン)、『トゥルー・ロマンス』(93、トニー・スコット)、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(98、ポール・オースター)、『ワンダーランド駅で』(98、ブラッド・アンダースン)などの名脇役。
◆“ハンサム”・フランク/リチャード・ポートナウ
令嬢ルイーズが首ったけの“ハンサム”・フランク役には、一見意外なキャスティングでポートナウが選ばれた。『ラジオ・デイズ』(87、ウディ・アレン)、『グッド・モーニング・ベトナム』(88、バリー・レヴィンソン)、『ハバナ』(90、シドニー・ポラック)、『バートン・フィンク』(91、ジョエル・コーエン)、『花嫁のパパ』(91、チャールズ・シャイアー)、『天使にラブソングを…』(92、エミール・アルドリーノ)、『セブン』(95、デヴィッド・フィンチャー)、『マッド・シティ』(97、コスタ=ガウラス)、『ラスベガスをやっつけろ』(98、テリー・ギリアム)など映画出演が40本を超えるベテラン。ヤクザっぽい色気が画面にみなぎる。
◆音楽/RZA
『デッドマン』の音楽はニール・ヤングだったが、『ゴースト・ドッグ』でジャームッシュが白羽の矢を立てたのはヒップホップの超大物、RZAだ。
RZAは日本では<レーザー>と発音。本人は<リーザー>と発音するものの、名前がいくつもあることを楽しむかのように、発音も表記も、THE RZAでもRZAでも、<レーザ>でも<ザ・リーザ>でも<アール・ジー・エー>でも、これまでよく知られている<プリンス・ラキーム>でも、<ボビー・スティール>でもまったく意に介しない。最近はボビー・ディジタルという名前でも活動し、ロバート・ディッグスという本名はそれもあるという具合。今をときめく<ウータン・クラン>(日本既発売CDは<ウータン・クラン>として3点4枚で、別にボビー・ディジタルとして1枚、いずれもベストセラー。来日も2回)の創始者でリーダー。
ストリート・カルチャーとして70年代にニューヨークのブロンクスの若者たちの間で生まれた<ヒップホップ>は<ラップ>を通じて80年代に異常な人気で世界に飛び火した。ソニー・ヴァレリオがお気に入りの<パブリック・エナミー>が登場したのは87年。この映画のヴァレリオが字幕不要のノリでラップしているのはフレイヴァー・フレイヴの<コールド・ランピン・ウィズ・フレイヴァー>で、彼が奇妙な名前の例にあげるのは、スヌープ・(ドギー・)ドッグSNOOP (DOGGY) DOG、アイス・キューブ ICE CUBE、Q・ティップ Q-TIP、メソッド・マン METHOD MANら、いずれもミリオン・セラー級のヒット作をもつ90年代のヒップホップのビッグ・ネームだ。
RZA本人は映画のラストで迷彩服姿で登場し、その哲人風の存在感で<ヒップ界のセロニアス・モンク>と呼ばれるのを十分に納得させるが、普段のRZAは少年のようにおチャメな人。<ニューヨークのシャオリン(少林寺)>呼ばれるスタッテン島を本拠に、<ウータン・クラン>(メソッド・マン、GZAや、『誰がラッパーを殺したのか?』=小林雅明著・扶桑社99年刊=の主要登場人物として詳述されるオール・ダーティー・バスタードら)の現在9名のメイン・メンバーから、2軍3軍まで、一説には総勢300人とも言われるラッパーの集団から次々にスターを生み出しているスゴ腕のプロデューサーでもある。『ゴースト・ドッグ』はRZAの初の長編劇映画音楽だ。
◆撮影/ロビー・ミュラー
ジャームッシュとロビー・ミュラーの仕事は86年『ダウン・バイ・ロー』に始まり、『ミステリー・トレイン』『コーヒー&シガレット2』『デッドマン』に続いて『ゴースト・ドッグ』は第5作。1940年4月4日オランダ領キュラソー島生まれで、69年『アラバマ:2000光年』で撮影監督デビュー以来、数々のヴェンダース作品で、モノクロで、カラーで、光と影の魔術を展開して“映像のレンブラント”と賞賛される。『忍冬(すいかずら)の花のように』(80、ジェリー・シャッツバーグ)、『バーフライ』(87、バーベット・シュローダー)、『コルチャック先生』(90、アンジェイ・ワイダ)、『恋に落ちたら…』(93、ジョン・マクノートン)、『豚が飛ぶとき』(93、サラ・ドライヴァー)、『奇跡の海』(96、ラース・フォン・トリアー)、『タンゴ・レッスン』(97、サリー・ポッター)などミュラーを望む監督は多い。
◆美術/テッド・バーナー
NYでイラストレーターをしていたバーナーが映画美術への関心からLAに移ったのは90年代に入ってから。『ウォーターダンス』(91、ニール・ヒメネズ/マイケル・ステインバーグ)、『ドラゴン ブルース・リー物語』(93、ロブ・コーエン)、『ブギーナイツ』(97、ポール・トーマス・アンダーソン)、『スクリーム2』(97、ウェス・クレイヴン)などで美術監督をつとめ、ジャームッシュ作品は『デッドマン』に続いて2作目。
◆衣装/ジョン・ダン
『カメレオンマン』(83、ウディ・アレン)、『マドンナのスーザンを探して』(85、スーザン・シーデルマン)、『MARRIED TO THE MOB』(88、ジョナサン・デミ)、『希望の街』(91、ジョン・セイルズ)、『最高の恋人』(93、アンソニー・ミンゲラ)、『カジノ』(95、マーティン・スコセッシ)、『バスキア』(96、ジュリアン・シュナーベル)、『私の愛情の対象』(98、ニコラス・ハイトナー)など、ジョン・ダンの仕事は多彩で、活躍は映画と舞台にまたがっている。ジャームッシュとは初仕事だ。
◆製作/リチャード・ゲイ
NYベースの脚本家だったリチャード・ゲイは、ジョン・セイルズやジョナサン・デミの作品スタッフとしてプロデューサーの仕事を始め、ナンシー・サヴォカの一連の作品を共同プロデュースした。96年にはジョナサン・デミ、デッド・デミ、アベル・フェラーラ、アリソン・マクリーン、ジュリー・ダッシュ他の短編からなる長編『SUBWAY STORIES』もプロデュース。ジャームッシュとは『ゴースト・ドッグ』が初仕事。
◆<葉隠>、THE BOOK OF THE SAMURAI
武士道とは死ぬことと見つけたり、という1節で有名な<葉隠>は、江戸時代の享保元年(1716年)頃の書で、岩波文庫版、ニュートンプレス社版、新潮社版(三島由紀夫著<葉隠>入門)、現代語訳・笠原伸夫)が現在日本で普及しているが、英訳は講談社インターナショナル刊(1979年初版)の<THE BOOK OF THE SAMURAI,HAGAKURE>がペーパーバッグ版で版を重ねていて有名だ。
『デッドマン』で来日したジョニー・デップはもとから大変な読書家だが、ツネトモ・ヤマモトの<ハガクレ>はすばらしい本だと熱狂していたし、ジャームッシュもこの英訳版を読んで『ゴースト・ドッグ』映画化を決めた。ツネトモ・ヤマモトとは、武士道THE WAY OF THE SAMURAIについて語った、鍋島藩(今の佐賀)の武士、山本常朝のことだ。全11章からなる聞書<葉隠>の英訳版は、抄訳と断ってはいるものの、全180頁で全11章のほとんどの主要な部分が訳出されていて、章の一節一節は日本語同様に数行の簡潔なもので、節と節の間にいろんな家紋が区切りがわりに入っている。(映画の始まりで、ゴースト・ドッグが読む英訳本ではこの区切りが3羽の鶴をあしらったマークで、それが彼のフード・ジャケットの背中のマークになっている日本の家紋集の本をフォレスト・ウィテカーとジャームッシュが見て選んだというが、江戸時代に実在し、<糸輪に金輪鶴>と呼ばれていた家紋だ。)
映画に登場する<葉隠>の各節は、時に省略や部分と部分をつなげはしても、言葉は英訳をそのまま、つまり原典の言葉で引用している。
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【ストーリー】
ニューヨーク。海や造船所が見える夕暮れの空を、鳩が飛んで人知れぬビルの屋上へ。そこはゴースト・ドッグ(フォレスト・ウィテカー)の隠れ家だ。
哲人のような風貌で、本が大好き。座右の書は、「武士道といふは、死ぬことと見つけたり」で有名な<葉隠>だ。伝書鳩が持ち帰ってきた殺しのオーダーを確認して、彼は全身を黒のフード・ジャケットに包んで出発する。
慎重に、クールに。その殺しのオーダーは、マフィアのヴァーゴ・ファミリーの幹部ルーイ(ジョン・トーメイ)からのもので、ルーイは、若い頃に命を救ってくれた<葉隠>に照らせば、主(あるじ)として敬い、忠を尽くすべき恩人だ。
殺すべき標的はヴァーゴ・ファミリーの一員の“ハンサム”・フランク。ファミリーのボス、レイ・ヴァーゴ(ヘンリー・シルヴァ)は一人娘ルイーズ(トリシア・ヴェッセイ)を溺愛し、ファミリーの全財産まで彼女の名義にしたほどなのに、ルイーズは“ハンサム”・フランクを愛してしまったのだ。
フランクを“消す”ほかない。しかし、ルイーズに父の指令と悟られることは間違ってもしてはならない。奇妙な状況で、奇妙な完全犯罪の実行人にルーイが選んだのがゴースト・ドッグだったが、彼にそんな裏の事情までは説明していない。
<一が二になるは、悪(あ)しきことなり…。>
No.1とは名ばかりの、町はずれの中華料理店の裏の一室に、ファミリーの隠れオフィスがある。ボスのヴァーゴを中心に、右には右腕の“ソニー(SONNY)”ことヴァレリオ(クリフ・ゴーマン)が、左にはファミリーの長老(ジーン・ルフィーニ)が座して3人で首脳会議。マフィアとはいえ、ファミリーの高齢化が進んで、平均年齢はヒイキ目でも60才以上。中国人の家主に家賃の支払いを迫られて、脅して分納を納得させるのもソニーの大事な仕事だが、今夜、何より大事なのは例の計画だ。呼び出したルーイにソニーは確認する。
娘のルイーズはジョニー・モリーニが海辺のリゾート行きのバスに乗せた。
フランクは一人で家にいて、今、百発百中の殺し屋が向かっている。
計画通り、ゴースト・ドッグはフランクをレーザー・ガンでしとめた。ルーイの指示通りに、<葉隠>の心に照らしても完璧に。
しかしその同じ部屋に、ベティ・ブープ大好きで、<RAINBOW>を読む不思議な若い女がいた。ルイーズだ。彼女はゴースト・ドッグにその本を貸すと言い、私のパパの指令で来たの?と問う。
翌朝、狂った計画ですべてが逆転し始める。
ルーイはヴァーゴからじきじきの呼び出しを受け、仲間のヴィニー(ヴィクター・アーゴ)をつれてファミリーの隠れオフィスに赴く。
ソニーはルーイに、身内のフランクを殺した男はファミリーの敵で抹殺しなければならん。お前が責任者だ、そいつを消せ、しかしそいつの名は?
ゴースト・ドッグ…。ゴースト・ドッグ…?
ソニーはもともとヒップホップが大好き。最近の黒人のチンピラはとんでもない名を名のる。ラッパーたちもそうだと、(ここのところはどこの国でも字幕はあきらめてほしいとジャームッシュが世界中に発信した)見事なノリでラッパーの名前を列挙し、フレイヴァー・フレイヴ調でラップ。それに答えてボスのヴァーゴも、インディアンの名をインディアンのノリで列挙するので一同唖然。新しい使命のためにファミリーの幹部が呼ばれるが、どの幹部もヘンな名前ばかりだ。
新しい使命とは、ゴースト・ドッグを抹殺すること。本人だろうと似た男だろうと屋上で鳩を飼っている男はことごとく消せ。
そんなことは知らないゴースト・ドッグは公園でくつろぎ、アイスクリームを食べる。<アイスクリームのお城においで!>と誰もわかるはずのないフランス語で朗々と呼びかけるレイモンの声が公園に響く。ハイチからの不法入国者レイモンはゴースト・ドッグの親友だ。彼はフランス語しかわからず、ゴースト・ドッグは英語しかわからない。なのに一語一語心では通じてしまう、不思議な親友だ。本が大好きな少女パーリーンが登場する…。
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