『白い刻印』/"AFFLICTION"





2000年6月24日よりシネマ・カリテにて公開

1998年度アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞
アカデミー賞最優秀主演男優賞ノミネート
ゴールデン・グローブ賞最優秀主演男優賞ノミネート
ニューヨーク映画批評家協会賞最優秀主演男優賞受賞
全米映画批評家協会賞最優秀主演男優賞受賞
1997年ヴェネチア国際映画祭正式出品作品


1997年/アメリカ/114分/ドルビーSR/カラー/ヴィスタサイズ/日本語字幕:林完治 /原作:狩猟期(早川書房刊)/配給:株式会社東北新社/宣伝協力:スキップ
(C)1997 LARGO ENTERTAINMENT,INC

◇監督・脚本:ポール・シュレイダー ◇原作:ラッセル・バンクス ◇製作:リンダ・レイズマン ◇撮影:ポール・サロシー ◇編集:ジェイ・ラビノウィッツ ◇製作デザイン:アン・プリチャード ◇音楽:マイケル・ブルック ◇キャスト:ニック・ノルティ(ウェイド・ホワイトハウス)、ジェームズ・コバーン(ウェイドの父)、ウィレム・デフォー(ウェイドの弟)、シシー・スペイセク(マージ・フォッグ)、メアリー・ベス・ハート(リリアン)、ブリジット・ティエルニー(ジル)、ジム・トゥルー(ジャック・ヒューイット)、ホルムズ・オズボーン(ゴードン・ラリビエール)、ショーン・マッキャン(エバン・トワンブレー)、スティーヴ・アダムス(メル・ゴードン)



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【解説】

人生の大いなる謎は苦労ではなく苦悩である
―シモーヌ・ヴェーユ(「神の愛と苦悩」)




ポール・シュレイダーがラッセル・バンクスの「狩猟期」を映画化すると聞いたポール・オースターは「二人で行う芸術活動は神の存在の証明となろう」と賛辞を贈った。英文にして500ページにも及ぶバンクスの長編小説の重厚さ、奥深さを削ぐことなく、シュレイダーが書き上げたその脚本は、原作者バンクスをして「不思議な感覚だった。自分が見ている夢の中へ入っていくようで、実は他人の夢だったという感じだ」と謂わしめたほどである。雪に閉ざされた過疎の町を舞台に、鹿狩りの最中に起きた事故死の捜査と平行して父と息子の対立、暴力による支配といった社会問題から現代アメリカの暗部をえぐり出すこの作品は、監督として、また『タクシードライバー』はじめ数々の傑作を書いた脚本家として、シュレイダーがこれまで追求してきた主題を描き出す。原作に惚れ込んだ彼は、情念に駆られる男を演じることに比類無き才能を発揮するニック・ノルティを主人公ウェイド役に据え、その父にジェームズ・コバーン、そして物語の語り部でもある弟にウィレム・デフォーを起用。さらに撮影監督に、アトム・エゴヤンとのコラボレーションで知られるバンクス原作の『スウィート・ヒアアフター』でも撮影を担当しているポール・サロシーを擁し、万全の体制で映画化に挑んだ。

そして、人間の性(さが)に根ざした深遠なるテーマを辛辣なリアリズムと眼も眩む雪景色の中に描いた本作は、重厚な作風ながら、1998年度アカデミー賞においてノルティ、コバーンがそれぞれ主演・助演男優賞にノミネートされ、本作で真骨頂を拓いたコバーンが助演男優賞に輝くという快挙を成し遂げた。

雪深い寂れた町に住む警官ウェイド・ホワイトハウス。彼にとって人生は辛いものだった。子供の頃はアル中の父の暴力に怯え、妻とは離婚して、現在は壊れたトレーラーハウスに住む。一方、一人娘を連れて町を出た彼女は裕福な男と再婚している。町を去るチャンスがあった者はとっくに出て行き、大学教授である弟ロルフもその一人だった。警官といっても重要な役目は学校の横断歩道での交通整理で、地元の名士から小遣い稼ぎの雑用を請け負うウェイドは、孤独を癒すために酒を飲んだり、恋人のマージと過ごしている。ある日、州の組合幹部が狩りの最中に事故死する。しかし、その背後に陰謀があると疑った彼は独自に調査を開始する。ウェイドにとって、この事件の解決はこれまでの人生を取り戻す契機になるはずだったが、父と同じ足跡を辿ることに怯え運命を変えようともがけばもがくほど、彼は破滅に向かってひた走っていることを知る…。

物語は主人公の弟ロルフの語りで進められていく。兄と同じ血、父による暴力の記憶をもつ彼にとって兄の身に起きた事件を語る事は、自分と兄を苦しめている強迫観念から逃れる“厄払い”の意味を持つ。原作の冒頭でフランスの女流思想家シモーヌ・ヴェーユの言葉を引用し、バンクスが人間に課せられた大いなる謎と定義するウェイドの苦悩こそ、この映画のもう一つの主題である。アメリカきってのストーリーテラーであるシュレイダーは前半、組合幹部の事故死へのウェイドの強い疑問を描写し、観るものを映画に引き込むが、次第に我々はこの事件を契機に運命の呪縛から逃れ、人生を好転させようともがくウェイドの苦悩に圧倒されてゆく。その苦悩によってかえって破滅に近づいて行く皮肉な展開からこの作品はしばしばギリシア悲劇の「オイディプス王」になぞらえて評されるが、苛立ちから酒量の増えるウェイドの姿が次第に彼の畏れていた父グレンと重なってゆくところは、彼もまた体内に脈打つ父の記憶、そこに刻まれた「暴力の刻印」に抗えなかったという人間の性(さが)に根ざした悲劇性を象徴し、やるせない。

しかもウェイドが望んだ人生の好転とは、暖かな家庭を築くというささやかなものである。しかし、そんな家庭環境とは無縁だった彼にとってそれは思いのほか難しく、その苛立ちは彼の酒量、果ては暴力という形になって不幸な悪循環を招いてしまう。家庭内の暴力はアメリカだけでなく、日本でも最近になって急速に表面化し、社会問題となりつつあるが、映画はさらにその奥深くにある暴力の悪循環という辛い真実を突きつける。それは、これまでも社会の暗部を描き、人間関係を鋭くえぐり出す洞察力を評価されてきたシュレイダーだからこそ取り組めた難しい主題と言える。


―ギリシア悲劇「オイディプス王」
「父を殺し、母を娶る」という予言を受けたオイディプスは運命を畏れ、父母の国コリントスを離れて旅に出る。途中スフィンクスの謎を解いてデバイを救った彼は、死んだ前王に変わりデバイの王となり、その妻を妃とする。疫病によって再びデバイは危機に瀕しオイディプスは信託を求める。国に潜む前王殺しの犯人が元凶と知った彼は犯人探しの御触れを出すのだが、次第に明らかになるのは自らの出生の秘密、そして王の死に関する事実…。彼は暴いた真実とは、父と知らず父を殺し、母と知らず母を娶った自らの運命であった。皮肉な運命に打ちひしがれたオイディプスは自ら両目をつぶし、国を追放される身となる。



 




【プロダクションノート】

●“この話はポールが一生追求していくであろう人間の強迫観念について書いている”

ポール・シュレイダーが最初に映画化の話を持ち掛けた時、原作者であるラッセル・バンクスは即座に承諾し、「この話はポールが一生、仕事を続ける限り追求していくであろう人間の強迫観念について書いたものだ。それは父と息子を支配する親子関係であり、暴力の問題であり、アメリカ文化のなかで崇拝すらされている人並みの生活に対する深い信心である。この考えは非常にアメリカ的だ。そしてシュレイダーは私が知る中でだれよりもこのアメリカ的考え方を持った監督だ。まるで自分の兄弟のように思える。私と全く同じ仕事を成し遂げようとしている人間で、ただ道具が映画であって文学ではないということだ」と語った。

ニューズディ紙などで「スリラーの楽しみと心理の研究とアメリカの暴力の非難を含んだ」と評されたこの小説で社会病理といえる家庭内の暴力、ひいてはアメリカ社会の暴力性を告発したバンクスと、『タクシードライバー』『レイジング・ブル』といった作品において暴力で他人を傷つけ、暴力に傷つけられた男たちを描き、その奧にある人間真理をえぐり出すシュレイダーの息はぴったりというより、むしろコラボレーションが運命付けられていたようにさえ思われる。



●罠を仕掛け、観客を映画の「深い水底」に引きずり込む手法

主題への共鳴に加えて、シュレイダーは物語の構成にも惹きつけられた。「最も印象的なことの一つに、話が殺人事件の物語のような始まり方をするところにある。狩りの最中に事故が起きて、ウェイドが殺人だと思いこんでしまう。小説の(映画もそうであるが)素晴らしい点は話の3分の2が進行した時点で殺人などなかったうえに、我々はもっと水底の深い部分で魚を探しているのだと気付かされるところにある。映画の始まりの時点では見えないはずだが徐々にアメリカの男らしさの黒い部分が浮き彫りになっていく。それは父から息子に引き継がれていく家庭内の暴力だ」。この点についてバンクスも「殺人は単なる暗喩だ。ウェイドは自分の運命を殺人に置き換えて釈明しているんだ」と補足する。

暗喩を使って話を進行させながら実際のテーマを表現するという手法はシュレイダーの典型的スタイルであり、バンクスは「この物語の抽象的な部分を発展させ普遍的な寓話を書くと同時に、日常生活に根をはる話でもあるようにしたいと思っていた。この2つの要素を巧く組み合わせることは私が小説家として試みていることだが、映画を見て、ポールの映画製作者としての関心は私と同じ方向を向いていると実感した」と語っている。



●運命の非情さを暗喩するローフォードの地

舞台となったローフォードは架空の場所で寒いニュー・イングランド地方に点在する実際の街のようでありながら時間を超越して原始的とさえ言える様相も湛えている。「舞台を1990年代のニュー・イングランド地方に置きながら、11世紀の北欧の街のたたずまいや感情、響き、そして匂いを醸し出すことによって物理的描写から次第に抽象的な主題の描写に移る」原作に叶うロケーションとして、シュレイダーはモントリオールを選んだ。「とても冷たい世界だ」彼は語る。「外の世界に出て行くには多大な努力を要する。厳しい環境に生きる人々の物語だ」。デフォーはモントリオールの眼も眩むような真っ白い農場を前にして「風景を反映させた物語だ。風景が人に影響を与えているのか、人間が風景を変えているのか、自分でもはっきり分からない。ただただ美しい」と溜め息をつき、「しかし容赦ない厳しさを備えている。慈悲のかけらもないとは言わないが、非情な感じだ。しかも撮影は冬の間。何もかもが実際は眠っているのだが死んでいるように見える時だ」と続けた。ロケーションについての見解はノルティの「冷たさが重要な要素となっている。雪に閉ざされて真っ白に塗り込められた場所。普通の精神状態の人間なら、ここには住まない。それがまた暗喩なんだ」という言葉に集約される。


●ウェイドが抜け出せなかった暴力の悪循環

ノルティはウェイドについては「彼は人間関係の中で自分が叩き込まれたものとは違う何かを見つけたかったんだ。ただ、それが不可能だった。教えてくれる人がいなかった。平和な生活、愛、人との交わりを夢見ても、実際にどんなものかを感じることはできなかった」と分析している。この点についてバンクスは「人生のまず最初の時点で入り口は開いているか閉じているかのどちらかであり、ウェイドの人生の入り口は周りの自然、父親の性格と病気、父と母が作り出した家庭環境によって閉ざされていた」と補足する。シュレイダーは「特にこの国で証明されてきたことだが、男性の暴力という概念は父から子に血と骨を通じて受け継がれてきたものだ。これは非常に重要なテーマで、まさしく映画のタイトル(原題)となっているAffliction(=苦悩)なのである。多分ウェイドは歯の痛みが苦痛だと思っているが、代々受け継がれてきた痛みこそが彼の苦悩だ。それは彼の父のグレンも子供のころに経験した暴力であり、その前の世代の父親も経験したことだ」と語る。ウェイドを捕らえた暴力の悪循環はこのように皮膚の下に入り込むのである。


●“ウェイドについて、個人的には古代ギリシアのヒーローのようだと思っている”

ウェイドがなめてきた辛酸、生まれた社会的階級、生い立ち、そして現在の環境が彼に苦悩をもたらしたにも関わらず、バンクス、シュレイダー、そしてノルティは彼を犠牲者だとは見ていない。「虐待を描いた話のほとんどは、つまり犠牲者の話でもある」とノルティは語っている。「しかし、この話は英雄的立場に視点が置かれている。ウェイドの自己認識と事実に対面する過程を描いている。問題の根元を探る行為というのはとても英雄的な行為だ。彼は堂々巡りを崩したんだ。」

シュレイダーの言う「家庭内暴力の深い水底」に沈んでいきながらもウェイドはできる限り素晴らしい最期へと努力を続ける。苦悩する心を持った男についてバンクスはこうまとめた。「個人的には古代ギリシャのヒーローのようだと思っている。彼を妨害する神の意志はあまりにも大きく、社会的影響のような抗えないものでも、ウェイドは威厳を保ち、屈することなく立ち向かっていく。彼の話は、私が考えつく中で最も崇高な威厳ある戦いの物語である。」



 




【ストーリー】

「これはわたしの兄の奇妙な犯罪行為と失踪の物語である…」



兄ウェイド・ホワイトハウス(ニック・ノルティ)はローフォードという小さな、経済的にも寂れた町で暮らしていた。冬になれば雪に閉ざされてしまう歴史もなければ未来も見えてこないような町だ。彼にとって人生は辛いものだった。暴力的で酒浸りの父グレン(ジェームズ・コバーン)のおかげで私も兄も子供の頃の生活は地獄のようだった。高校時代に知り合ったリリアン(メアリー・ベス・ハート)と兄の2度に渡る結婚生活は既に終わりを告げており、壊れかけたトレーラー・ハウスに住む兄とは対照的に、彼女は娘のジル(ブリジッド・ティエルニー)を連れて町を出て行き、彼よりずっと裕福な男と再婚してしまった。おかげで兄は娘にもめったに会えない始末である。ローフォードを後にするチャンスがあった者はみな町を離れていった。今では都会で大学教授をしている弟の私(ウィレム・デフォー)も高校を卒業すると、二度と戻らないと告げ、家と町から離れた。町で唯一の警官とはいっても兄の最も重要な役目は学校の横断歩道での交通整理ぐらいなもので、小遣い稼ぎのために地元の有力者ゴードン・ラリビエール(ホルムズ・オズボーン)の雑用を請け負っている彼は孤独を癒すために行き付けの店で酒を飲んだり、ウェイトレスをしている気立てのいいガールフレンド、マージ・フォッグ(シシー・スペイシク)と過ごしていた。そして深夜度々私に長い電話をかけてきた。

その年のハロウィーンで、兄は娘のジルにひどく惨めな思いをさせられる。週末を彼と過ごすために泊まりに来ているのに家に帰りたいと言い出したのである。それもラリビエールがハロウィーンのために催したパーティでだ。ジルが自分よりも母親と裕福な義理の父親をよく思っているのは明らかで、兄はそれが気に入らない。彼は親権をとる決心をする。

ハロウィーンが過ぎると、町は鹿狩り目当ての観光客で一時的に活気づく。ラリビエールの命で、今年は兄の友人ジャック・ヒューイット(ジム・トゥルー)が州の組合幹部エバン・トワンブレー(ショーン・マッキャン)の狩りの案内をすることになっていた。プロ野球選手として将来を嘱望されていたのに腕を痛めてあきらめた若いジャックは、この町で何とか有意義な人生を見出そうとしていた。

その冬はじめての吹雪の中、兄は学校の前で交通整理にあたっていた。そこでトワンブレーの義理の息子メル・ゴードン(スティーヴ・アダムス)が兄を無視してスピード違反を犯す。ゴードンの違反を取り締まろうと兄は家に押しかけるが、トワンブレーが狩りの最中に自分の弾に当たって亡くなり、それどころではなくなってしまう。兄の心には疑惑が湧いていた。トワンブレーに同行したジャックが事故を目撃していない。死体にも触っていないと証言したのである。彼の袖には血が付いていたのにだ。夜、いつものように電話をしてきた兄は自分の推理を話す。ラリビエールがトワンブレーの義理の息子ゴードンと共謀してジャックを雇いトワンブレーを殺したのではないか。一帯の土地を買収しスキー・リゾートを建設しようという秘密を隠すために。私は彼の話に賛同した。ほどなくして兄は独自に調査を開始した。実をいうと、彼は時を同じくしてマージにプロポーズもしていた。しっかりした家庭をもてば、もっとジルに会えるようになるだろうという考えがその背後にはあったのだろう。兄はマージを紹介しようと両親を訪れたが、そこで彼を待っていたのは父が起こしたボイラーの事故による母の死であった。家族の不幸の時には帰るという唯一の例外によって、私はかつて捨てたローフォードの地に再び足を踏み入れた。母の葬儀には信心深い妹夫婦とその子供たち、そしてリリアンとジルも同席した。アル中の父はそんな時でも飲んだくれて悪態をついている。ところが、意外にも年老いた父に責任を感じた兄は、葬儀を終えるとマージを説得し父の農場へ移ったのだった。それは破滅への序曲であった。

兄は親権取得のために弁護士を探していた。以前から悩まされていた歯の痛みは急にひどくなっている。ゴードンやラリビエール、ジャックに対する執拗な捜査のせいで兄は職を失った。酒量の増える兄と父グレンに疲れたマージは農場から出て行こうとしていた。兄はそんなマージを引き止めようとし、止めに入ったジルを殴ってしまう。結局、マージはジルを連れて農場を後にした。この最悪の出来事、急速な運命の暗転はなぜなのか?追い込まれた兄は自分の運命も自分自身もどうすることもできないでいた。そんな兄にとって父の「お前も俺と同じだ」という言葉は辛かった。兄と父は口論になり、遂に取り返しのつかない事が起こってしまう。もはや兄の絶望感は頂点に達していた。そしてそれは予想外の形で暴発するのだった…。



 




【キャスト&スタッフ】

■ポール・シュレイダー(監督・脚本)

情念に憑き動かされた人々の姿を描きながら、アメリカの暗部を徹底的に暴き出すポール・シュレイダー監督。その人間心理を鋭くえぐり出す洞察力は高く評価されており、現代アメリカ映画界において圧倒的な存在感を誇っている。

1946年7月22日、アメリカのミシガン州グランド・ラビッツ生まれ。オランダ・カルヴィン派の厳格な家庭に育ち、17歳になるまで映画を観ることを禁じられていたという。

カルヴィン・カレッジを経てUCLAの映画学科へ入学、今までの鬱憤を晴らすかのように映画漬けの日々を送る。卒業後は映画評論家として活動すると同時に脚本家を志し、1974年にシドニー・ポラック監督作『ザ・ヤクザ』ではじめてクレジットにその名が刻まれる。1976年、自身の体験を元に描いた『タクシードライバー』がマーティン・スコセッシ監督の手で映画化されカンヌ国際映画祭グランプリを受賞、一躍新進の脚本家として脚光を浴びた。1978年にはハーヴェイ・カイテル出演の『ブルーカラー/怒りのはみだし労働者ども』で監督デビュー。その後も、ロバート・デ・ニーロに二度目のオスカーをもたらした『レイジング・ブル』、物質主義の現代社会に警鐘を鳴らすピーター・ウィアー監督、ハリソン・フォード主演作『モスキート・コースト』の脚本を手がけ、監督としてリチャード・ギアをトップスターへと導いた『アメリカン・ジゴロ』、三島由紀夫の生涯を大胆に映像化したカンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞した『Mishima:S Life in Four Chapters』など、脚本家として、また監督としてセンセーショナルな題材に積極的に取り組み、多くの傑作、問題作を創出している。最新脚本作はスコセッシと4度目の顔合わせを果たし話題を呼んだ『救命士』。



■ラッセル・バンクス(原作)

1940年ボストン郊外で生まれ、ニューハンプシャーで育つ。彼の家庭は労働者階級であり、家族で初めて大学に進学した彼は、配管工事、靴のセールスマンなど様々な職を経験して物書きとして生計を立てるようになる。アメリカ文学では硬派として位置付けられ、骨太なリアリズムに幻想的な要素を交えた独自の作風で高く評価される。

「サクセス・ストーリーズ」「大陸漂流」「狩猟期」「この世を離れて」「Rule of the Bone」の他、8作の小説と4冊の短編小説集を出版している彼は、グッゲンハイム、NEAフェローシップ、O・ヘンリー、ベスト・アメリカン・ショートストーリー賞をはじめ多くの賞に輝き、「大陸漂流」では1986年にピューリツァー賞候補にもなる。また、「タイム」誌の1998年度ザ・ベスト・オブ・フィクションの5作品の中に「Cloudspilitter」が選ばれ、本作「狩猟期」もPEN/フォークナー賞フィクション部門とアイリッシュ・タイムズ・インターナショナル賞の候補となる。「狩猟期」の前にアトム・エゴヤンによって映画化された「スウィート・ヒアアフター」から彼の作品は映画界からも注目されるようになり、現在「Rule of the Bone」「大陸漂流」の映画化が予定されている。

<日本での出版物>(全て早川書房刊)
「サクセス・ストーリーズ」(1991)「大陸漂流」(1991)「狩猟期」(1992)「この世を離れて」(1996)



■リンダ・レイズマン(プロデューサー)

シュレイダーとのコンビが長いリンダ・レイズマンは、本作以前にもウィレム・デフォー、スーザン・サランドン出演の『ライト・スリーパー』(1991)、クリストファー・ウォーケン、ナターシャ・リチャードソン出演の『迷宮のヴェニス』(1990)、ニコラス・カザン脚本のTV映画「テロリズムの夜/パティ・ハースト誘拐事件」(1988)で製作を務めている。

シュレイダー作品以外では、キース・ゴードン監督、ニック・ノルティ出演の『マザーナイト』(1996)でエグゼキュティブ・プロデューサーを担当。現在はジョディ・フォスターのEgg Production最新作でビリー・クラダップとジェニファー・コネリー出演の『Waki-ng the Dead』を製作中。



■エリック・バーグ(プロデューサー)

ニュージャージー生まれ。本作以前、エリック・バーグはプロデューサーのポリー・プラットとともにCarsey-Werner Moving Picturesの開発取締役を務め、それ以前はJames L.Brooks' Gracie Filmsの開発部門で重役を務めていた。現在はニック・ノルティの映画会社Kingsgate Filmsに籍を置き、幾つかのプロジェクトを進めている。

<その他の主な仕事>
役者として1995年に『ジェファソン・イン・パリ/若き日の大統領の恋』(1995)に出演。1996年『マザーナイト』で製作部門にクレジットされている。



■ポール・サロシー(撮影監督)

1988年にカメラマンとしてのキャリアをスタートさせて以来、数々のテレビ作品や映画を撮っており、本作でバリャドリード映画祭Best Cinematography賞にノミネート。その年パトリシア・ロゼマの『ホワイト・ルーム』で撮影を担当し、遂にこの賞を獲得する。1991年に再びエゴヤンと組んで『The Adjuster』を、1993年には『エキゾチカ』を撮りCanadian Cinematography賞とジェニー賞を手にした。また、エゴヤン監督のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『スウィート・ヒアアフター』でも撮影を担当。この作品はラッセル・バンクスの小説に基づくものである。最新作はエゴヤン監督作『フェリシアの旅』(1999)。

<その他の主な作品>
『Mariette in Ecstacy』(1996)『ピクチャー・パーフェクト/彼女が彼に決めた理由(わけ)』(1997)『Jerry&Tom』(1998)『Pete's Meteor』(1999)TV映画『ミストライアル』(1997)



■ジェイ・ラビノウィッツ(編集)

ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)で初めて映画の編集を務める。以後ロバート・フランクの『Last Spper』(1992)、ジャームッシュ製作、サラ・ドライヴァー監督作『豚が飛ぶとき』(1993)、バリー・レビンソンの『ジミー・ハリウッド』(1994)、ロッジ・ケリガンの『クリーン・シェーブン』(1995)、キース・ゴードンの『マザーナイト』(1996)と続く。また『デッドマン』(1995)『イヤー・オブ・ザ・ホース』(1997)、最新作『ゴースト・ドッグ』(1999)とジャームッシュとのコラボレーションも多い。

映画以外での活躍も多く、トム・フォンタナとバリー・レビンソンがエグゼキュティブ・プロデューサーを務め注目を浴びたTVシリーズ「Homicide:Life on the Street」のうち初回を含めた15本の編集を手がけているほか、トム・ウェイツやニール・ヤングのミュージック・ビデオの編集も行っている。



■アン・プリチャード(製作)

アン・プリチャードは映画、テレビの両方で製作デザインの経験を持つ。映画における初期のキャリアではブライアン・デ・パルマの『愛のメモリー』(1976)、クロード・シャブロル監督の『刑事キャレラ/血の絆』(1977)などがある。その後ルイ・マル監督作『アトランティック・シティ』(1980)、ノーマン・ジェイソンの『結婚しない族』(1982)、テッド・コッチェフの『スイッチング・チャンネル』(1988)など多くの作品を手がける。最近の仕事はデ・パルマ監督作『スネーク・アイズ』(1998)、『36時間』(1999)。現在はジョン・タトゥーロ出演作『2000 and None』に取りかかっている。

<その他の作品>
『殺しに愛のバラードを』(1977)『男と恋と銀行泥棒』(1979)『マッド・ティース』(1983)テレビ作品「引き裂かれた天使」(1990)「状況泥棒」「Hiroshima」(共に1995)



■マイケル・ブルック(音楽)

マイケル・ブルックは製作・技術・俳優・作曲・共同製作という経験をもとにコンテンポラリー・ミュージック界で自身の存在を確立する。また、ギタリストとしては世界を演奏してまわり、有名ミュージシャンのアルバムに参加する。トロントで生まれ育ち、ヨーク大学で学んだブルックのデビュー・アルバムは1985年の「Hybird」。これは『コバルト・ブルー』(1992)のサウンドとともに、これまでもよく映画のサウンドトラックに使われ、マイケル・マンの『ヒート』もその一つである。映画音楽を最初に手がけたのは、U2との共演による『Captive』(1986)で、これにはシンニード・オコナーが初めて歌った作品も含まれている。ケビン・スペイシーの監督デビュー作『アルビノ・アリゲーター』(1996)の音楽もブルックによるもの。最新作はエマニュエル・セイナー出演作『Buddy Boy』(1999)。



■ニック・ノルティ(ウェイド・ホワイトハウス)

地方劇団で14年間、国中を旅しながらキャリアを磨いてきたノルティは、1976年伝説的テレビシリーズとなった「リッチマン・プアマン/青春の炎」の役を射止めて転機を迎える。『ザ・ディープ』(1977)で映画デビュー。カレル・ライス監督の『ドッグ・ソルジャー』(1978)、『ノース・ダラス40』(1979)、ウォルター・ヒルの『48時間』(1982)などでスターとしての成功を固めた彼は、バーブラ・ストライサンドと共演した『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』(1991)でゴールデン・グローブ主演男優賞を受賞。またアカデミー賞にもノミネートされる。

『戦場』(1989)でジョン・ミリアス、『ミューヨーク・ストーリー第一話:ライフ・レッスン』(1989)、『ケープ・フィアー』(1991)でマーティン・スコセッシ作品に出演するなど、重厚な作品を創出する監督に好んで起用される彼は、伝説の監督テレンス・マリックの20年ぶりの作品『シン・レッド・ライン』(1998)に出演し、話題となった。最新作はアラン・ルドルフの『Teixie』、ジェームズ・アイボリーの『The Golden Bowl』。

プロデューサーも務めた本作ではアカデミー最優秀主演男優賞、ゴールデン・グローブ主演男優賞にノミネートされ、ニューヨーク映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞を獲得した。

<その他の主な作品>
『ダブル・ボーダー』(1987)『48時間PART2/帰って来たふたり』『Q&A』(共に1990)『ロレンツォのオイル/命の詩』(1992)『アイ・ラブ・トラブル』(1994)『マザーナイト』(1996)『Uターン』『アフターグロウ』(共に1997)『ナイトウォッチ』(1998)



■ジェームズ・コバーン(グレン・ホワイトハウス)

大学で演技を学んだ後、舞台やテレビでの出演を経て、1959年の『Ride Lonsome』で映画デビュー。しばらくは『荒野の七人』(1960)『シャレード』(1963)他で様々な脇役を演じていたが、1966年の『電撃フリントGO!GO!作戦』、その続編『電撃フリントアタック作戦』(1967)が彼をスターに押し上げた。サム・ペキンパーやウォルター・ヒルといったアクションで素晴らしい作品を輩出した監督達に高く評価され、中でも『ダンディー少佐』(1964)、『現金作戦』(1966)、『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(1973)、『戦争のはらわた』(1975)など、ペキンパー作品への出演は多い。

1960〜1970年代はジョン・スタージェスの『大脱走』(1963)、ウォルター・ヒルの監督デビュー作『ストリートファイター』(1975)、『弾丸を噛め』(1975)、『大いなる決闘』(1976)など、西部劇やアクション映画で活躍。『ミッドウェイ』(1976)では三船敏郎と共演。最近は『マーヴェリック』(1994)『イレイザー』(1996)『ペイバック』(1999)などで成熟した演技を披露している。

本作ではアル中なうえに暴力でしか人と対峙できない孤独で年老いた父という難しい役どころで渾身の演技を披露、遂にアカデミー最優秀助演男優賞を受賞する。

<その他の主な作品>
『ネバダの決闘』(1959)『地上最大の脱出作戦』(1966)『夕陽のギャングたち』(1970)『リベンジャー』(1970)『ハドソン・ホーク』(1990)『天使にラブ・ソングを2』(1993)『ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合』(1996)テレビシリーズ「コンバット」



■ウィレム・デフォー(ロルフ)

高校を中退し、前衛劇団に参加。アメリカ・ヨーロッパを巡演する。1981年、マイケル・チミノの『天国の門』(1981)で映画デビュー。その後トニー・スコットの『ハンガー』(1983)、ウォーター・ヒルの『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)、ウィリアム・フリードキンの『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985)に立て続けに出演。1986年、オリバー・ストーンの『「プラトーン』でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。

その強烈な存在感で他を圧倒するデフォーは名匠と呼ばれる監督からも高く評価され、マーティン・スコセッシの『最後の誘惑』(1988)、アラン・パーカーの『ミシシッピー・バーニング』(1988)、オリバー・ストーンの『7月4日に生まれて』(1989)、デヴィッド・リンチの『ワイルド・アット・ハート』(1990)。ポール・シュレイダーの『ライト・スリーパー』(1991)、そしてヴィム・ヴェンダースの『時の翼にのって/フェラウェイ・ソー・クロース!』(1993)など出演作をもつ。1996年にはアカデミー最優秀作品賞に輝く『イングリッシュ・ペイシェント』、1998年にはポール・オースター初監督作品『ルル・オン・ザ・ブリッジ』と話題作にも多く出演。最新作は『eXistenZ』(1999)、『アメリカン・サイコ』(2000)。

本作ではナレーションも担当している。

<その他の主な作品>
『生きるために』(1989)『クライ・ベイビー』(1990)『愛しすぎて/詩人の愛』(1994)『今そこにある危機』(1994)『バスキア』(1996)『スピード2』(1997)



■シシー・スペイセク(マージ・フォッグ)

いとこで俳優のリップ・トーンの勧めで女優を志す。アクターズ・スタジオで学び、1972年『ブラック・エース』でデビュー。1973年にはテレンス・マリックの初監督作品にして伝説的な『地獄の逃避行』に主演する。そして1976年、ブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』で戦慄的な役を見事に演じアカデミー最優秀主演女優賞にノミネートされる。 その後、ロバート・アルトマン監督の『三人の女』(1977)に出演、ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞。1980年の『歌え!ロレッタ愛のために』ではアカデミー最優秀主演女優賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞を受賞する。様々な役を演じられる彼女は、これまでに5回もオスカー候補となっている。

最近では『グラスハープ/草の竪琴』(1995)などの映画への出演のほかに数多くのTV映画にも出ている彼女は、TVドラマ「A Place For Annie」でエミー賞を受賞している。

<その他の主な作品>
『ロサンゼルス・それぞれの愛』(1976)『ザ・リバー』(1984)『すみれは、ブルー』(1986)『JFK』(1991)『いつも隣りにいてほしい』(1992)



■メアリー・ベス・ハート(リリアン)

1973年セントラル・パークで開催されたシェイクスピア・フェスティバルで役者としてのデビューを果たした後、ウディ・アレンの『インテリア』(1978)でスクリーンに登場。その後ジョージ・ロイ・ヒルの『ガープの世界』(1982)、ジェームズ・アイボリーの『ニューヨークの奴隷たち』(1989)、ポール・シュレイダーの『ライト・スリーパー』(1991)、マーティン・スコセッシの『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』(1993)、フレッド・スケピシの『私に近い6人の他人』(1993)などに出演する。

『インテリア』でイギリスのアカデミー最優秀新人賞にノミネートされているハートは、ニューヨークの舞台では最も完成された女優の一人と評価されており、『Trelawney of the Walls』ではトニー賞にもノミネートされている。

次回作はポール・シュレイダーが脚本を書き、マーティン・スコセッシが監督する『救命士』。

<その他の主な作品>
『LOVEシーズン』(1980)『ダリル/秘められた巨大な謎を追って』(1985)『ディフェンスレス/密会』(1991)テレビシリーズ「Tattinger」



 












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