| 『ミリオンダラー・ホテル』ヴィム・ヴェンダース監督来日記者会見 |
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●3月6日(火)帝国ホテルにて ●出席者:ヴィム・ヴェンダース監督 |
| | WERDE OFFICE | CINEMA WERDE | |
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【挨拶】 ■ヴィム・ヴェンダース: まずはじめに、今日は本当に嬉しいという私の気持ちを申し上げたいと思います。なぜかといいますと、私はこの映画が大好きだからです。監督である自分の映画が好きだということもあるんですが、これはそういう意味で言っているのではなく、自分が作った映画の中で、この映画が大好きであるという気持ちをここで言いたいのです。監督というものは、撮影が終わったらホッとするものだと思うんですよね。その昔、フランソワ・トリュフォー監督が、いくら一生懸命やっていても、しばらくすれば本当に終わらせたいものだという事を言っていらっしゃいましたが、今回、自分は出来ることならこのまま撮影していたい、出来ることなら終わらせたくない、出来ることならこの人たちと一緒にいたいと本気で思いました。ただ、予算が限られていますので、やめなければなりませんでした。そして撮影をやめたので、今日こうして皆さんと幸運にもお会いすることができたわけです。 【質疑応答】 ◆質問: なぜ、U2のボノと一緒にこの作品を作ることになったのでしょうか。 ■(ヴィム・ヴェンダース): ボノとは昔からの友人で、もう14年になります。彼らのミュージック・ビデオを私が幾つか作りましたし、彼も私の映画の曲を4、5曲書いてくれました。ボノが脚本を書いているなんて考えもしませんでした。ある日、彼が僕にアドバイスをして欲しいと言ってきたんです。彼は、脚本家のニコラスと一緒に書いたんだけれども、これを製作するにあたって、ハリウッドへ持っていくべきなのか、それとも、インディペンデント映画で自分たちで頑張るべきなのか、長いし、監督も誰にすべきかいろいろ迷っているので、脚本を読んでアドバイスをしてくれないかということでした。今考えてみると、ボノはとても賢かったと思います。で、読みました。私としては結構真剣に読みました。プロダクションやいろいろ、当然、監督についても幾つかの候補を考えました。そのことについて彼らと何時間も話し合って、ドンドンドンドン話が盛り上がってきたんです。ただ、その時は、監督のリストは見せてません。最後に、彼が私になんでアドバイスなんかを求めてきたのか、彼のいわゆる“汚い手”がわかりました。でも、彼が私をその気にさせたことを今では良かったと思っています。結局、彼とは、脚本を手直ししたり、キャスティングを決めたり、編集にも立ち会い撮影も立ち会った、もちろん、音楽も彼が責任を持ってやってくれた。6年かけました。 ◆質問: 前作では、キューバのミュージシャンたちと、本作ではボノとということで、二作続いてミュージシャンたちとのコラボレートが続きましたけれども、それは偶然なんでしょうか。 ■(ヴィム・ヴェンダース): 俳優とコラボレーションすることと同時に、私にとっては音楽家とコラボレートすることは重要なことです。自分でも思います ― 自分たちの友人のミュージシャンの原案から始まった映画が続いたということですね。考えてみれば、それには絶対に理由があると思うんです。それについては語るつもりはありませんが(笑)。そのロジック、論理を他の監督がマネするといけないのでやめます(会場笑い)。 ◆質問: 映画人ではなくて、ミュージシャンとの仕事の中で触発される部分があると思うのですが、それはどういうところでしょう。 ■(ヴィム・ヴェンダース): 結局、あの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の中で登場してくれたミュージシャンたちと、1年間共にしたわけです。その1年間、1秒たりとも仕事をしていると思ったことがなかったんです。彼が知っている喜びの中で、心底、自分も生きているという実感がある1年間でした。私は、大体人の文句ばかりを言っている国の出身者です。あの、ドイツ人は、それなりにちゃんと生きているんですが、結構文句を言う国なんです。この年老いたミュージシャンの人たちで、結構、たくさん文句を言ってもいい時もあったのに、私は1年間、文句を言ったり後悔したりしたことがありませんでした。まず、彼らはとても慎ましい人たちで、本気で言っていましたね、「今が俺達にとって最高の時なんだよ」って。その彼らは、70歳、80歳の人たちなんです。私はこれから老いていくわけですけれども勇気づけられました。現代の文化は若者向け文化です。この映画の『ミリオンダラー・ホテル』は、確かに若い人を主人公にしています。ただ、この老齢のミュージシャンたちから習った愛というか、ゆったりとしたリラックスする楽しさ、その全てをこの映画の中にそそぎ込んでいます。もともと映画は、物語を作る、昔からの古いメディアだと思います。西洋文明の中で、物語を伝える古い人はフォーマーです。彼は吟遊詩人で歌っていたわけです。 *以下、内容に関するものあり(気になる方は観賞後にご覧になることをおすすめします)。 ◆質問: ジェレミー・デイヴィスとミラ・ジョヴォヴィッチを起用されたのは? ■(ヴィム・ヴェンダース): 監督の一番の仕事は演出だと思うのですが、キャスティングが決まった時点でもうその80%は終わったというくらい、キャスティングは大事なんです。私は、脚本を読んだ段階でもこの2人が好きなキャラクターだったので、演じる俳優としては、私が望む高いレベルの要望に応えられるような役者じゃなきゃ絶対にいやだと思いました。特にトムトム、あれは難しい役です。これまで数多くの俳優さんが知的障害者の役を演じていました。ダスティン・ホフマン、トム・ハンクス、レオナルド・ディカプリオなどが演じたものと同じような知的障害者ではなくて、まったく新しいものを作りあげたいと思いました。その子供時代に持っている純粋さ全てを、今も役の中で上手く演じきれる俳優さんを探しました。ジェレミー・デイヴィスは、私の期待に十分添う人でした。しかし、それ以上にショーン・ペンに感謝したいんです。「彼がいいぞ」と言ってくれたのはショーン・ペンでした。実は、トムトムのキャスティングは決まりかけていたんですが、そのショーン・ペンに言われて、『プライベート・ライアン』を観まして、「あっ!ここにトムトムがいる」と満足しました。それにくらべれば、ミラの方は楽でした。というのも、彼女の『フィフス・エレメント』は、頭がブッ飛ばされるほどでしたので。もちろん、ほかの候補者を考えなかったわけではないのですが、ミラの方は、脚本の読みの段階で、「私はこの役をやるために生まれてきたんだ」って言ったんです。それで彼女は、「もしも私の他に誰かを考えるようであればもう一度来ます。絶対にもっと上手くやってみせるから、次のチャンスをください」って、ハッキリ言いました。 ◆質問: 今回の映画は、“無償の愛”というのがテーマになっているように思うのですが、監督の作品の中では、『ベルリン天使の詩』というのもそういう映画だと思うのですが、この2作品についての違いと今回のこのテーマを描かれる時に気をつけられた点は? ■(ヴィム・ヴェンダース): 全く動きが違うと思います。『ベルリン天使の詩』は、飛び上がって生命を得たわけですね。トムトムの場合は、落ちちゃって死んじゃったんです……でも、違いはそれだけです(笑) ― 。ただ、それは大変な違いだと思っています。もともと無償の愛を描くのは難しいと思います。愛を描くのは難しい。情熱を描くのは簡単。トムトムの愛は、大袈裟なわかりやすいものではないんです。すぐにはわからないと思いますけれども、彼がやっているのは自分のためのことではなくて、全て他の人に良かれと思う行動で決まっているんです。たとえば、エロイーズに対する彼の愛は所有ではありません。彼にとっては眠り姫ですね。自分が何者か認識していない。だから彼は、眠り姫エロイーズを自分にかけて起こした。そして、本当の自分に気付いてもらった。ただ、彼の愛の対象はエロイーズだけではなくて、全員が彼の愛の対象です。私は、段々トムトムと同じ視点になっていって、観客も、はじめはこんなゴミだめみたいなところと思っているのですが、次第に宮殿のように居心地の良いところになるだろうと思うし、こいつらみんな狂ってるんじゃないかと思ったのに、段々とみんな素敵な人たちなんじゃないかと視点が変わってくると思うんです。 ◆質問: 以前、「ドイツを捨ててハリウッドへ行ったのですか?」と質問をされていたようですが、まだ映画には国境がないということを勘違いされている方がいるのですが、今回のキャスティグはとてもバラエティに富んでいます。そういう人にもわかるように配慮されたんですか? ■(ヴィム・ヴェンダース): 自分自身のアイデンティティーから逃げることは出来ないと思います。北極で映画を撮ったとしても、私がドイツ人であることに変わりはない。エスキモーとして映画を撮ったとしても、皆さんはドイツ人が撮ったとわかると思います。そういう意味で、『ミリオンダラー・ホテル』は、アメリカ映画だとは思いません。なぜなら、もともとのアイディアはアイルランドのミュージシャンから生まれたものだからです。カナダ人の脚本家に協力を求めて脚本を書き始めて、監督と製作者はドイツ人を選んで、その監督はギリシャ人の撮影監督を使うことにして、ウクライナ生まれの主演女優、オーストラリア人のバッド・ガイ(笑)を連れてきて…。そういう意味のアメリカ映画だと思っています。 ◆質問: トムトムのタンクトップの胸の所に漢字があったのですが、あれは市販されているのですか? ■(ヴィム・ヴェンダース): トムトムはドイツ軍のアーミージャケットを着ていました。何処で見つけてきたのかわかりません。ただ、衣装はロサンゼルスのダウンタウンの中古品屋で掻き集めました。あの漢字は、誰も読めませんでした。ただ、ドイツのアーミージャケットに何が書いてあるか、私たちには読めました。トムトムの格好は独特で、いろいろなものを重ね着しています。あれは、ロサンゼルスのダウンタウンの人たちの特別な着方です。 ◆質問: メル・ギブソンとの関係は? ■(ヴィム・ヴェンダース): 今回のスキナー役は、この映画の中で一番難しい役です。彼は、本当に特別捜査官の人たちが背負っている累計的な陳腐なものを全て持っている役ですので。ところが、彼はタマネギのような男で、そういう累計的な部分を一枚一枚剥いでいってもそうなんだけれども、それでも剥いでいく男なんです。そういう役は素晴らしい俳優にお願いするしかない。その時、自分が昔、凄く好きだった、あの『マッドマックス1』『マッドマックス2』の役者さんの事を思い出しました。あれほどの演技が出来た人ならば、もちろん、今やスーパースターと誰しもが思っていると思うけれども、今も優れたスーパー俳優であるに違いないと思いました。彼にとっては、当然、大きなチャレンジだったと思います。チャレンジだったからこそ、彼がこの作品に出てくれたのだと思います。彼の演技を私は誇りに思っています。それで、撮影が始まって1週間ほどたったある日、テイクとテイクの間に彼が私の所に来て囁いたんです ─ 「この役、ハムレットより難しい」(笑)。私はジョークで言ったんだと思っていますが。
(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)
『ミリオンダラー・ホテル』は4月、シャンテ・シネにて公開予定。 |