『八月のクリスマス』ホ・ジノ監督インタビュー
●『八月のクリスマス』(1998年/韓国/1時間37分/シネマスクエアとうきゅうにて公開)
●監督・脚本:ホ・ジノ
●脚本:オ・スンウク、シン・ドンファン
●出演:ハン・ソッキュ、シム・ウナ ほか
●配給:パンドラ
| オフィシャルサイト | WERDE OFFICE | CINEMA WERDE |
ホ・ジノ監督
◆質問:東京は初めてですか?

■ホ・ジノ監督:去年、福岡には映画祭で来ていますが、東京は初めてです。

◆質問:夕張も初めてですよね。

■ホ・ジノ監督:はい。

◆質問:ゆうばり映画祭に行かれてのご感想は?

■ホ・ジノ監督:ゆうばり映画祭というのは、大変騒々しい商業的な映画祭ではなく、地元の人が映画が好きで開催されている感じで、特に私は観客賞を受賞させていただいたこともあり、とても喜んでおります。

◆質問:ゆうばり、福岡ともいずれもとても好評だったと伺っております。ほかにもいくつかの国の映画祭に出品されていますね。

■ホ・ジノ監督:はい。

◆質問:国によって、観客の反応の違いはありましたか?

■ホ・ジノ監督:個人の情緒という部分で、共感を覚えていただいた方が多かった思います。文化も違いますし肌の色も違いますけれども、人間の持っている感情や情緒的な共感というものは、どこの国も変わらないんだと思いました。そして、日本で好意的に受け止めていただいていることを大変光栄に思っております。

◆質問:この『八月のクリスマス』では、共同ではありますが脚本も書かれていますね。この映画の着想にまつわるエピソードなどをお伺いしたいのですが。

■ホ・ジノ監督:日常の生活で、自分で感じる情緒、これで映画を作るのはどうかと普段から考えておりました。韓国の有名な歌手で、夭折されたキム・パンソクという人がいたんです。彼のお葬式をたまたまテレビで見ていました。大変悲しい雰囲気でのお葬式だったんですが、彼の遺影だけが笑顔だったんです。それが大変印象的だった。そこで、限られた人生を生きている写真家が、死を目前にして自分の遺影を「笑顔」で撮るというのはどうだろうかと考えました。これが、今回の映画の最初の発想でした。

◆質問:主人公を演じられたハン・ソッキュさんの笑顔は素晴しかった。キャスティングはご自身でなされたのでしょうか。

■ホ・ジノ監督:最初にシナリオが完成してそれから製作費を集めたのですが、これがなかなか大変だったんです。このシナリオでは、商業的にちょっと難しいということで……。ハン・ソッキュさんは、韓国の映画界ではトップスターなんです。自然な感じの方です。私のこの映画も、自然さを求めておりました。いろいろな経緯がありましたが、私はハン・ソッキュさんを選ばせていただきました。

◆質問:「笑顔」のほかにもうひとつ、印象的な場面がありました。全体に「食べる」シーンが多かったように思うのですが、それがまた、作品の中で効果的に機能しているように思いました。

ホ・ジノ監督
■ホ・ジノ監督:私は、日常のシーンを大事にしています。それでは、日常的なシーンというと、一体何が浮かぶかというと、まず「寝ること」ですね。それから「食べること」です。次に、食べた後の皿洗いですとか、足の爪を切るですとか、そういったことを自然に取り入れるようにしたんです。ですから、日常的なシーンを大事にしていった結果、自然に「食べる」シーンが多くなったわけです。

◆質問:作品の中で、写真館は一種、街のコミュニティーとして描かれているようでしたね。この街はスモール・タウンですか?

■ホ・ジノ監督:まず、私のこの映画のアイディアは遺影の写真でした。そして、小さな写真館で働いている主人公が、自分の遺影を撮るとどういう写真になるのかということを考えました。「死」と「写真」というのは ─ 写真を撮る瞬間というのは、止まってしまうんです。それがひとつおもしろいと思いました。そしてまた、写真館を訪れる人々の日常もおもしろいと思い、写真館で働く写真家という設定になりました。

また、実際の撮影に使われたのは都会の外れにある街です。けれども、都会の時間の流れの中でこの作品を描くのは、とても難しいと思ったんです。この映画は、限られた人生の中で生きる人間の、時間の流れにそった物語です。そして主人公は、何らかの形で思い出を回想する。つまり、そういう気持ちになれる場所がいいだろうと思いました。それで、時間の変化が少ない都会の外れの小さな街という設定になりました。


◆質問:監督と私は、さほど年齢差がないように思うのですが、この映画に出てくる風景は、私にとっても懐かしいものでした。

■ホ・ジノ監督:最初にこの映画のターゲットにしたのは、30代の人だったんです。そんな人たちが共感できる情緒がいいだろうと思いました。それと、普遍的に人間の思い出ということを考えた時に、こういう風景がいいだろうと思いました。ですから、機械的で、現代的で、変化が激しい中でも、普遍的な思い出に対する思いや考え方を描きたかったので、あのような風景を選びました。

◆質問:この作品はラブ・ストーリーとも言えると思うのですが、監督ご自身の恋愛体験が元になっている部分もあるのでしょうか?

■ホ・ジノ監督:含まれている部分もあると思います(照れ笑い)。

◆質問:脚本の執筆や作品を作られる時には、やはり、ご自身の体験というのは大きく反映されるのでしょうか。

■ホ・ジノ監督:私は、映画というものは情緒がとても重要だと思います。私の普段の生活で感じた小さな経験、小さな瞬間といったものが、この映画には多く含まれています。

◆質問:この作品を貫いている、淡々とした時間の流れについてお伺いしたいのですが。

ホ・ジノ監督
■ホ・ジノ監督:我々は、老若男女、限られた時間に生きている。けれども、時にそれを忘れてしまう。主人公は病気で限られた時間を生きている。限られた時間を生きているということにおいては、本来、私たちと変わらない。しかし、私たちはすぐにそのことを忘れてしまう。これを自覚、認識した時に、ものに対する見方が変わってくると思うのです。同じような皿洗いでも、限られている人生の皿洗いなんだと思うと、それが一瞬輝かしく見えたりするんです。そういったところを、私は追っていったわけです。

◆質問:このような淡々とした時間の流れで語る映画は、韓国でも珍しいのですか?

■ホ・ジノ監督:日々の生活の写実を描いた映画は少なかったんです。そういうところが、今までの韓国映画との違いではないでしょうか。

◆質問:この映画で描かれていることで、監督ご自身がもっとも重きを置かれたのは?

■ホ・ジノ監督:一番重要なのは、日常生活だと思います。個人の日常生活を構成しているものとしては、家族ですとか、友人ですとか、仕事で出会う方々ですとか、それから、恋ですね。この恋というのは、日常生活のひとつなんです。そして、この恋というものは、自分の日常生活を揺るがすことの出来るものだと思います。けれども、恋だけでは人は生きていけない。つまり、重要なのは日常すべてだと私は思います。

◆質問:次回作の構想がありましたらお聞かせください。

■ホ・ジノ監督:日常生活を垣間みることができるものになると思います。『八月のクリスマス』は、恋の始まる前で終わっています。そこでのトキメキの感情がメインになっているんです。そこで、次回作で考えているのは、新しく出会った男女の「幸せ」「悲しみ」といったものを作っていきたいと思っています。

◆質問:最後の質問になりますが、タイトルである『八月のクリスマス』は、なぜこのようなタイトルになさったのでしょうか。

■ホ・ジノ監督:タイトルに関しては、私も説明のしようがないんです。あえていえば、この映画は、時間の流れがとても重要なテーマになっているんです。ですから、出来れば季節的な意味を与えたかった。もうひとつは、『八月のクリスマス』というタイトルには、相反するものが共存しているわけです。「八月」という「夏」と、「クリスマス」という「冬」ですね。私たちの人生には、悲しみがあると思うのですが、悲しみの中には、ユーモラスな部分もある。また、ユーモラスな中には悲しみもある。こういった相反するものがぶつかった時に初めて生まれる情緒的なもの。そういうものをタイトルにしたいと思いました。そして後は、観ていただいた方々の想像にお任せしたいという気持ちがあります。

◆質問:お忙しいところありがとうございました。次回作も期待しております。

■ホ・ジノ監督:ありがとうございます。

 
(INTERVIEW : K.FURUYAMA / PHOTO : H.AIKAWA)