「香川京子 FIAF 賞受賞記念記者会見」
●2011年9月6日(火)FCCJ (日本外国特派員協会)にて
●出席者:香川京子、岡島尚志東京国立近代美術館フィルムセンター主幹、都島信成東京国際映画祭事務局長(敬称略)
| 第24回東京国際映画祭 | WERDE OFFICE | CINEMA WERDE |
【挨拶】

■岡島:FIAF賞は、80カ国150団体からなるフィルム・アーカイブ連盟が、2001年より映画保存に貢献した人たちへ贈呈する賞であり、これまでも数々のすばらしい方々に贈呈されてきました。今回は、2010年アメリカにて、香川京子さんに贈呈することが決定しました。これは、日本人としてだけでなくアジアの映画俳優としての初めての受賞となります。香川さんは、これまでフィルムセンターに数々の貴重な資料を寄贈、映画保存のために発言、キャンペーンなどにも快く協力してくださいました。そういった貢献が、主な受賞理由だと考えています。香川さんからお預けいただいたのは大体10年前くらいからで、代表作の写真やスナップ写真など、300点ほど贈呈していただきました。


■都島:この場を借りて今年の東京国際映画祭の特徴を話させていただくと、TIFF ARIGATOプロジェクトと名付け、被災者の方への支援、募金活動に力を入れます。今回、「香川京子と巨匠たち」という素晴らしい特集を組むことができて大変光栄に思います。


■香川京子:FIAFのことをあまり存じ上げておらず、フォルム・アーカイブという素晴らしいお仕事をされていた方々がいることを知りました。私個人といたしましては、スチールやスナップ写真、資料などを自分では保存しきれなかったので、フィルムセンターにお預けしただけだったんです。今回の受賞は、もちろん大変光栄なのですが、これまで受賞されてきた方々のお名前をお伺いして大変ビックリいたしました。私なんて足元にもおよばないくらい大御所の方たちばかりで……。是非、この受賞に恥じることのないような活動を今後もしてきたいと思います。4年前、東京国際映画祭の審査委員をさせていただいた際に、国内外のいろいろな方々から、「東京物語」観ましたなど、私が出演した映画を気にいってくださったとたくさん声をかけていただきました。古い作品が立派に保存されてきたことは素晴らしいことだなと改めて思いました。


【質疑応答】

◆質問:50年以上にわたり女優として活躍され、数々の名監督や俳優とお仕事をされてきたと思いますが、どなたが思い出に残っていますか?

■(香川京子):女優でしたら、田中絹代さんですかね。『おかあさん』という作品でご一緒させていただいた大先輩なのですが、その役になりきるさまや、声を掛けることもできないような鬼気迫る演技はもちろん、その生き方からはいろいろと学ばせていただきました。また、私にとってひとつ作品を選ぶとしたら、溝口監督の『近松物語』なんです。溝口監督は、まったく演技指導をしてくださらず、できるまで何回もやらせるんですね。逆に、小津監督は、すべてを決められて撮影されるような監督でした。溝口監督と黒澤監督は似ているんですよね。女性があまり出てこないので、逆に存在が難しい。溝口監督から教わった“リアクション”が黒澤監督作品に出演している際にも大変役に立ったので、やはり、私にとっては溝口監督がすべてを教えてくださった方だと思っています。

◆質問:今の若い俳優や映画人に向けて何かメッセージはありますか?

■(香川京子):私なんかが言うのはおこがましいのですが、日本映画に限らず、昔の素晴らしい作品を観てほしい、それが一番だと思います。また、若い人にはいろいろなことに興味を持ってほしいですね。その時には無駄だと思ったことも、後から考えると素晴らしい経験になることが多いですよね。無駄なことなんてないんです。私も、キャリアが60年以上になりましたが、そのさまざまな経験が豊かにしてくれたと思っています。

◆質問:昔の映画にあって今の映画にないものは何ですか?

■(香川京子):撮影所がなくなったのが一番の違いじゃないでしょうか? 昔は大きな会社がバックにありましたが、今は、ほとんどを独立プロダクションがつくっている。昔は、監督と言えば偉すぎて声をかけることもできなかったのに、今では、監督と女優さんがまるで友達のように接していて……。私たちでは考えられないことですよね。自由があっていいことだとは思いますが。



<香川京子 KYOKO KAGAWA>

プロフィール: 東京都出身。1949年に新東宝入社。その後フリーになり、各社の作品に出演。代表作に『おかあさん』(1952/成瀬巳喜男)、『ひめゆりの塔』(1953/今井正)、『東京物語』(1953/小津安二郎)、『近松物語』(1954/溝口健二)、『どん底』(1957/黒澤明)、『深い河』(1995/熊井啓)など巨匠たちの傑作に数多く出演。『式部物語』(1990/熊井啓)でキネマ旬報助演女優賞、『まあだだよ』(1993/黒澤明)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞などを受賞。同年、毎日映画コンクールにて長年の業績を称えられ田中絹代賞が贈られた。1998年秋、紫綬褒章、2004年秋、旭日小綬章を受賞。著書に「ひめゆりたちの祈り」(1992年/朝日新聞社刊)がある。


<岡島尚志 HISASHI OKAJIMA>

プロフィール: 東京国立近代美術館フィルムセンター主幹。映画史家・評論家。2009年、国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)第12 代会長にアジア人として初めて就任(任期2年。本年4月より副会長(4期目))。 FIAF70周年記念マニフェストの起草・立案者。2008年サンセバスチアン国際映画祭審査員。東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ協会(SEAPAVAA)フェロー。


<都島信成 NOBUSHIGE TOSHIMA>

プロフィール: 東宝株式会社からの派遣で、2006年10月より東京国際映画祭事務局勤務。東宝では入社以来映画興行の道を歩み、2002年4月より映画興行本部番組編成室に勤務。2009年4月より、映画祭事務局長として東京国際映画祭全体を統括するとともに、昨年にひき続き「特別招待作品」部門のプログラミング・ディレクターを務める。


<国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)>

国際フィルム・アーカイブ連盟(略称FIAF(The International Federation of Film Archives))とは、世界の映画保存機関から構成される国際組織であり、文化遺産として歴史資料としての映画フィルムを破壊・散逸から救済し保存する諸機関からなる。1938年にパリで結成され、当時4つの保存機関から構成されていたが、現在は77カ国を超える150以上の機関から構成されている。現在の本部はベルギーのブリュッセルにある。東京国立近代美術館フィルムセンターはその会員である。


<FIAF賞>

国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)が、映画遺産の保存活動に貢献した人物を表彰するため2001年に定めた賞。 授賞式は各国の主要な映画祭などで行われ、受賞者には1000フィート缶をかたどった純銀製賞牌が渡される。

<過去の受賞者>

 2001年 マーティン・スコセッシ(アメリカ)
 2002年 マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガル)
 2003年 イングマール・ベルイマン(スウェーデン)
 2005年 マイク・リー(イギリス)
 2006年 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
 2010年 リブ・ウルマン(ノルウェー)



第24回東京国際映画祭(10月22日(土)〜10月30日(日))
 特集「香川京子と巨匠たち」国立近代美術館フィルムセンター共催
 会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズほか