「第27回東京フィルメックス」プログラム・ディレクター 神谷直希氏による開催コメント
●2026年11月20日(金)から11月29日(日)まで有楽町朝日ホール、丸の内ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町にて
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私たちが生きる世界は日ごとに複雑さを増し、未来を見通すことが難しい時代を迎えています。映画が映し出す光は、私たちが生きる現実の鏡とも言えます。今年の東京フィルメックスでは、多様な文化や背景を持つ人々の切実な営みを捉えた作品群を通して、私たちが分かち合う世界のかたちを深く見つめ直します。

今年の映画祭に集まった作品たちの一つの特徴として、たとえ「わたし」という個人の視点から描かれる作品であっても、家族や共同体といった「わたしたち」という単位で世界を捉える視線が際立っていることが挙げられるかもしれません。ネパール辺境の「第3の性」のコミュニティを描いた『霧の中の象たち』や、タイの先住民族カレン族の運命を追う『燃える巨神』に見られる共同体の葛藤。そして過酷なガザの病院で連帯する医師や医療関係者たちの姿を捉えた『American Doctor(英題)』。さらに、私たちにとって最も身近な共同体の一つである家族の多様な姿を捉えた『嘘の生活』、『十月のうた』、『ひとすじの光』、『阿Girl』、『天に至る9つの寺』、『無用の人』、そして『みんな他人じゃない』といった作品たちを通じて、現代社会の輪郭の多面性が鮮やかに浮かび上がります。

そして今年もまた、作家たちによる新たな映像言語への挑戦が続いています。中国の故事を織り込み家族の沈黙を政治的な寓意へと広げる『ものがたり』や、ウイルスの流行で牛が絶滅した近未来を描く『牛曲』、そして上述した『燃える巨神』といった作品が神話や寓話の力で重い現実を射抜く一方、音声アプリの謎を静謐な映像と音響で描いたネオ・ノワール『リモート』や、映画の中で別の映画が進む入れ子構造の『22世紀の猫』は社会を強烈に風刺します。さらに、コゴナダ監督がごく少数の仲間たちと香港で自主製作した『Zi』や、世界各地を極端に遅い速度で歩くツァイ・ミンリャン監督の「行者」シリーズ、ジャ・ジャンクー監督による短編『トリノの影』など、名匠たちによる商業の枠にとらわれない自由な実験的アプローチが映画の表現の地平を大きく広げています。

世界各地の「いま」が孕む痛切さと美しさを同時に味わえるこれらの濃密な映画体験を、ぜひスクリーンで心ゆくまでご堪能ください。