「第26回東京フィルメックス」メイド・イン・ジャパン

●2025年11月21日(金)〜11月30日(日)
有楽町朝日ホール、ヒューマントラストシネマ有楽町にて

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『猫を放つ』"Leave the Cat Alone"
2025年/日本/102分/監督:志萱大輔( SHIGAYA Daisuke ) /配給:Iha Films
写真家の妻マイコとの距離に悩む音楽家のモリは、かつての友人アサコと偶然に再会する。この再会は、互いの古い感情を呼び覚ますものの、2人の記憶は微妙にすれ違っていく。モリとアサコは長い散歩の果てに、軌道が逸れた2つの人生とそれぞれの現在地を見つめ直すことになる。

芸術家としての情熱を維持するのにも疲れ、新進の写真家として活動する妻のマイコとの関係も停滞気味の音楽家のモリ。彼は漠然とした健康不安から休職し、孤独な日々を送る中で、かつての恋人アサコと再会する。物語は、この再会をきっかけとした数日間の出来事を中心に、彼らが過去に抱いた夢や理想と現在の生活の乖離を静かに見つめ直していく。志萱大輔監督の長編デビュー作となる本作では、それぞれが芸術を志す(あるいはかつて志していた)主人公たちが過去の自分と再接続することで、新たな創造のきっかけやエネルギーを取り戻していく軌跡が描かれている。言葉にされない感情や、表層下でくすぶる焦燥感が控えめな筆致の中で繊細に捉えられており、自己探求と芸術的再起動というある意味では使い古された主題に新しい息吹が吹き込まれている。本作は釜山国際映画祭に今年新設されたコンペティション部門でワールドプレミア上映された。


 



(c)張曜元
東北短編集:「ハーフタイム」「相談」「祝日」
"Northeastern Shorts Collection: Half-Time, Life Is Snow, Selection"
2025年/日本、中国/83分/監督:張 曜元( ZHANG YaoYuan )
日本を舞台に、中国東北部出身の移民が直面する厳しい現実と差別的待遇を描いた連作短編集。技能実習生、工場労働者、そして非合法な職業といった立場にある彼らが、困難な状況から抜け出そうと奮闘する姿が描かれている。

借金や体罰、故郷への思いなど、心身ともに大きな苦痛を抱えながら、実習先を決める面接選考に臨もうとする中国人技能実習生を追った『ハーフタイム』、弁当工場を不当解雇された際の上司との揉み合いが原因で上司を訴えた男が、事件の担当弁護士と対話する姿を描いた『相談』、そして東京で違法タクシー業に従事する中国出身の元プロサッカー選手の男が、何とか息子をサッカー・クラブへの入団セレクションに合格させようとする姿を描いた『祝日』。いずれも中国の東北部(狭義には遼寧省・吉林省・黒竜江省の三省)出身の人物を主人公に据えて日本で製作された短編作品で、すべての作品に、それぞれ違う男の役柄で阿部力が出演している。法や制度、あるいは人間関係の中で理不尽な状況に追い込まれた彼らがそこから抜け出そうと奮闘する姿がこれらの作品では描かれており、いずれの作品も、チョウ・ヨウゲン監督の高い演出力を感じさせるものになっている。