「第24回東京フィルメックス」メイド・イン・ジャパン

●2023年11月19日(日)〜11月26日(日)
●有楽町朝日ホールほかにて

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『Last Shadow at First Light(英題)』"Last Shadow at First Light"
2023年/シンガポール、日本、スロベニア、フィリピン、インドネシア/108分/監督:ニコール・ミドリ・ウッドフォード( Nicole Midori WOODFORD )
シンガポールで父と暮らす高校生のアミ。彼女の母は日本人で、東日本大震災の際に日本に帰国したきり、ある時期を境に行方不明になっていた。頻繁に母の夢を見るアミは母がまだ生きていると確信している。彼女の残したテープや手紙を新たに発見したアミは、自分が夢で見た道を辿ることを決意し日本に向かう。そして母の最後の居場所を知る唯一の人物で、現在は東京に住むタクシー運転手の叔父と共に、東北地方へ母の足跡を辿る旅に出るが......。短編作品で注目を集め、エリック・クーが製作を務めたHBOアジアのテレビシリーズ『フォークロア2』の一篇「お出かけ」を監督したニコル・ミドリ・ウッドフォードの長編デビュー作は、喪失の痛みに人々がい かに向き合うかを描いた作品だ。名手浦田秀穂による見事な撮影に加え、幽霊や死者の魂が生者の世界と共存す る超自然的な描写も大きな効果を上げている。サンセバスチャン映画祭の新人監督部門でプレミア上映された。


 


『お引越し(4Kデジタルリマスター版)』"MOVING (4K Digitally Restored Version)"
1993年/日本/124分/監督:相米慎二( SOMAI Shinji )
京都で暮らす明るく元気な小学6年生、レンコ。しかし父親が家を出ていき、母ナズナとの二人暮らしが始まる。ナズナは新生活のための規則を作るが、レンコは変わっていこうとする母の気持ちが理解できず......。離婚寸前の両親の間で揺れ動く少女が、自分の中の少女と決別する瞬間を描いた傑作。大人不在の世界で少年や少女があてどもなく彷徨い、その結果成長するという極めて相米的なモチーフが、最も高い完成度で結実した作品でもある。1993年に日本で劇場公開され、カンヌ映画祭「ある視点」部門でも上映。それから30周年に当たる今年、35mmオリジナル・ネガフィルムから4K解像度によるデジタル修復作業が行われ、8月から9月にかけて開催され た第80回ベネチア国際映画祭のクラシック部門(Venice Classics)にてプレミア上映され、最優秀復元映画賞を 受賞した。


 


『広島を上演する』"Performing Hiroshima"
2023年/日本/133分/監督:三間旭浩( MIMA Akihiro )、山田 咲( YAMADA Saki )、草野なつか( KUSANO Natsuka )、 遠藤幹大( ENDO Mikihiro )/配給:一般社団法人マレビト
広島市内のアパートでパートナーと暮らしている女性が友人と川辺で定期的に会い、詩を共作していく姿を描く三間旭浩の「しるしのない窓へ」。原爆投下時に爆心地から約1kmの場所で胎内被曝した女性が、自身として、 自身の母として、そしてある人生の語り手としてカメラに向かって語る山田咲の「ヒロエさんと広島を上演する」。大切な存在を失ったばかりの女性が「喪失」と向き合いつつ日常生活を送る様を描く草野なつかの「夢の涯てまで」。ある劇団が広島についての演劇作品のリハーサルを行う様子と、そこに音響スタッフとして参加している青年が野外で音を採取する姿を追う遠藤幹大の「それがどこであっても」という4編の短編から成る、被爆都市である広島をテーマにしたアンソロジー作品。演劇カンパニー「マレビトの会」により、『長崎を上演する』(2013〜16年)、『福島を上演する』(2016〜18年)に続く長期プロジェクトの一環として制作された。


 


『うってつけの日』"They give me a day I will never forget"
2023年/日本/69分/監督:岩崎敢志( IWASAKI Kanshi )
フリーランスで音響関係の仕事をしている琴は、かつて同棲していた昭一がフィリピンから一時帰国するのを空港で出迎える。二人の恋人としての関係は昭一が海外に渡ったことにより実質的に終わりを迎えていたが、昭一 はかつて二人が同居し、今は琴が一人で住む団地の部屋にそのまま滞在することになる。とはいえそれで二人がよりを戻すということもなく、琴は自分の日常生活を淡々と続けるが......。映画美学校で万田邦敏監督から演出を学び、宮崎大祐監督や清原惟監督作品で助監督や録音を務めてきた岩抽ク志の初長編監督作品。さりげないカメラワークと音響へのこだわりが秀逸な作品だが、何より素晴らしいのは琴を演じた主演の村上由規乃の佇まいで、特別なことが何一つ起きない物語の屋台骨を彼女の存在感が支えている。身の回りの世界を描いた小さな作品ではあるものの、琴の仕事の場面等を通じて日本社会の一側面が垣間見えてくるのも興味深い。