「第24回東京フィルメックス」コンペティション出品作品

●2023年11月19日(日)〜11月26日(日)
●有楽町朝日ホールほかにて

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『クリティカル・ゾーン』"Critical Zone"
2023年/イラン、ドイツ/99分/監督:アリ・アフマザデ( Ali AHMADZADEH )
GPSの音声に導かれ、車で夜のテヘランをさまよう一人の男。アミールという名前のドラッグの売人である彼は、夜の暗闇と街の灯りの中、様々な顧客たちに会いに行き、そして彼らを車に招き入れる。介護施設に住む老人たち、海外から戻ってきたばかりの客室乗務員、ストリートに立つトランス・セクシュアルの街娼たち、そして麻薬中毒の息子を何とか救おうとする母親.......。.ベルリン国際映画祭フォーラム部門で紹介された『Atomic Heart 』(15)に続くアリ・アフマザデの第3作目の長編である本作は、ドキュメンタリー的な要素と超現実的な筆致を同居させながら、抑圧が続く社会の水面下でくすぶっている人々、とりわけ若い世代の人々の苦悩や欲望を直接的かつ直感的に描き出していく。イラン当局によって監督の海外への渡航が禁止される中、ロカルノ映画祭にて金豹賞(最高賞)を受賞した。


 


『タイガー・ストライプス』"Tiger Stripes"
2023年/マレーシア、台湾、シンガポール、フランス、ドイツ、 オランダ、インドネシア、カタール/95分/監督:アマンダ・ネル・ユー(Amanda Nell EU )
イスラム教の女子学校に通う12歳の少女ザファン。保守的な規範に厳格に従うことを周囲から期待される中、踊りながらスカーフを外し、服を脱ぐ行為を携帯電話で撮影するなど、彼女は友人たちと無邪気に遊びながら、危険な逸脱行為を屈託なく楽しんでもいる。そんな中、彼女は自分の体が他の誰よりも早く変化していることに気付く。友人たちは最初、彼女の違いを一種の特権として認識するものの、徐々にそれは親友のファラーや仲間たちからの排斥といじめに変わっていく。しかしながら、彼女の体の変化はそれだけに留まらず........。 2018年に企画段階で「タレンツ・トーキョー・アワード」を受賞したアマンダ・ネル・ユー監督の長編監督デビュー作。常に社会の視線に晒される女性の体とその変化に伴う思春期の焦燥と不安が、ホラー映画の意匠を用いて象徴的に描 かれている。カンヌ映画祭の批評家週間でグランプリを受賞した。


 


『黄色い繭の殻の中』"Inside the Yellow Cocoon Shell"
2023年/ベトナム、シンガポール、フランス、スペイン/178分/監督:ファム・ティエン・アン( PHAM Thien An )
バイク事故で義理の姉を亡くした青年ティエン。事故を奇跡的に生き残った幼い甥を連れて、彼は義姉の遺体をサイゴンから田舎の故郷の村に送り届けることになる。地元のキリスト教共同体での埋葬の儀式の後、ベトナムの田舎の美しく神秘的な風景の中、彼は何年も前に失踪した兄の捜索を始める。そしてその旅は、いつしか兄を探す旅から、彼自身の魂の在処を探す旅へと半ば変質していく。彼の見る景色の中で、過去と現在、目覚めている時と夢を見ている時、そしてこの世界と別の世界が互いに無造作に入り込んでいく........。 ベトナム出身の新鋭ファム・ティエン・アンの長編デビュー作である本作は、細心の注意が払われた長回しの撮影が鮮烈な印象を与える、新人離れした風格を持つ作品だ。重層的で緻密なサウンドデザインも見事で、ファムの恐るべき才能を感じさせる。カンヌ映画祭の監督週間で上映され、新人監督賞にあたるカメラドールを受賞した。


 


『冬眠さえできれば』"If Only I Could Hibernate"
2023年/モンゴル、フランス、スイス、 カタール/98分/監督:ゾルジャルガル・プレブダシ( Zoljargal PUREVDASHK )
モンゴルの首都ウランバートルの郊外に住む10代の青年Ulzii。数学に天才的な才能を持つ彼は、物理学コンクー ルで優勝し、良い学校へ進むための奨学金を獲得しようと決意を固める。しかし母が地方で仕事をすることを決め、彼と弟たちを残して家を空けることになったため、彼の計画は変更を余儀なくされる。彼は勉強する代わりに妹や弟の世話をし、厳しい冬を乗り切るために家の暖房を維持するという大変な仕事を強いられることになる......。2017年に企画段階で「タレンツ・トーキョー・アワード」を受賞したゾルジャルガル・プレブダシの長編初監督作品。敢えて言えば社会派リアリズム映画の系譜にある作品だが、陰鬱な社会や悲惨な状況をそのまま映すのではなく、どこかに常に希望や楽観的な視点が入り込んでいるのがこの作品の大きな魅力となっている。カンヌ映画祭公式部門に史上初のモンゴルの長編映画として「ある視点」部門で上映された。


 


『雪雲』"Absence"
2023年/中国/102分/監督:ウー・ラン( WU Lang )
10年間の刑務所生活を経て海南島に戻ってきたJiangyu。彼の不在中、島では住宅業者による開発が進み、社会は大きな変化を遂げていた。彼は小さな美容室を営むかつての恋人のHongと再会する。そして彼女が養う少女が自分の娘ではないかと考えている彼は、新しい社会に適応し、自分自身を立て直そうとするが......。カンヌ映画祭で上映された同名の短編作品を拡張した、新鋭ウー・ランの長編初監督作品。都市計画の不備により、何百もの建設途中の空き家と、住宅を切実に必要とする多くの人々が存在する当地の状況を背景にした社会意識の高い作品だが、説明的な描写は極力抑えられ、強烈なイメージと巧みな画面構成によってその多くが捉えられている。メロドラマの部分も同様で、主人公たちは基本的に寡黙だが、ちょっとした仕草や表情の変化によって深い感情 や微細な感情が表出される演出が素晴らしい。ベルリン映画祭のエンカウンター部門にてプレミア上映された。


 


『川辺の過ち』"Only the River Flows"
2023年/中国/101分/監督:ウェイ・シュージュン( WEI Shujun )
1990年代の中国の田舎町。川辺で老婦人の遺体が発見され、刑事課主任のMa Zheが事件の捜査を指揮することになる。すぐに容疑者は逮捕され、警察の上層部は喜んでこの容疑者を殺人者と認定し、事件を解決済みとする。しかし更に遺体が発見され、犯行現場で目撃された女性も見つかっていない状況を受け、Ma Zheは何かがおかしいと感じ、上司の意向に反して捜査を続けるが......。16mmフィルムで撮影され、赤茶色や色褪せた青、そして黒を多用した陰影に富む画面設計が印象的なフィルム・ノワール作品。不条理なダーク・コメディの趣もあり、 二転三転する事件捜査の進展がウィットに富んだ筆致で描かれている。その一方で、それが最近の好景気以前、そして天安門事件以後の中国への社会批評にもなっているところにウェイ・シュージュンの確かな力量を感じる。今作は彼の3作目の長編作品で、前2作品に続いてカンヌ映画祭にてプレミア上映された。


 


『ミマン』"Mimang"
2023年/韓国/92分/監督:キム・テヤン( KIM Taeyang )
変わりゆくソウルの街を散歩したりドライブしたりしながら、若い画家と映画講師の移り変わる運命と人生の節目を本作は捉えていく。恋愛関係やキャリアの目標、あるいは地元の記念碑について思いを巡らせ、会話を交わしながら、旧友である彼らは横断歩道や路地を肩を並べて歩く。そして彼らが同じ場所や物語、そして同じ会話のポイントを巡って戻ってくる様子が、数年に渡る撮影の中で観察されていく。題名の「ミマン」という韓国語 にはいくつかの定義があり、言葉では言い表しにくい概念の一つだと思われるが、本作が扱っているのもまさにそのような言語化しにくい感情であり、日常的でありながら、それでいて普段は忘れているような感情が、ここでは巧みに掬い上げられている。望遠レンズを用いて美しく切り取られた街並みと、街の環境音を含めた音響デザインも秀逸。新鋭キム・テヤン監督の長編デビュー作で、トロント映画祭ディスカバリー部門でプレミア上映された。


 


『熱のあとに』"After the Fever"
2023年/日本/127分監督:山本英( YAMAMOTO Akira )/配給:ビターズ・エンド
自分の愛を貫くために恋人を殺そうとした過去を持つ女、沙苗。数年の服役後、彼女はお見合いの席で林業に従事する健太と出会う。ある意味で自分を檻に入れてくれる存在として、彼女は健太を受け入れ、彼と結婚する。 一方で、沙苗の過去を知る健太もそのことを十分に認識した上で、結婚に踏み切ったのだった。一見平穏に見える二人の結婚生活。しかし、そこに足立という謎めいた女性が隣人として現れたことで、彼らの運命の歯車は狂い始める......。東京藝術大学大学院修了制作『小さな声で囁いて』(18)がマルセイユ国際映画祭や全州国際映画祭に出品され、注目を集めた新鋭・山本英監督の長編第2作。時おり物語は極端に振れるが、それを俳優たちの見事な演技が支えている。とりわけ自分にとっての愛の形を模索し、極限まで突き詰めようとする沙苗を演じる橋本愛の存在感が忘れがたい印象を残す。第28回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門でプレミア上映された。