『春香伝』
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春香伝 [DVD]
12月9日よりシネ・ラ・セットにてロードショー

2000年/韓国/カラー/ドルビーデジタル/2時間0分/字幕翻訳:根本理恵/「春香伝」:岩波文庫刊/配給・宣伝:シネカノン

◇監督:イム・グォンテク ◇製作:イ・テウォン ◇原案「春香歌」唱歌:チョ・サンヒョン ◇脚色:キム・ミョンゴン ◇撮影:チョン・イルソン ◇照明:イ・ミンブ ◇編集:パク・スンドク ◇美術:ミン・オンソク ◇衣装:ポン・ヒョンスク、ホ・ヨン

◇キャスト:イ・ヒョジョン、チョ・スンウ、イ・ジョンホン、キム・ソンニョ、キム・ハギョン、イ・ヘウン



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【解説】

■まったく新しい『春香伝』の誕生

『春香伝』は、韓国の人々の心に永遠に刻み込まれている愛の物語。16歳の美しい娘 春香(チュニャン)と貴族の子息 夢龍(モンニョン)が身分を越え試練を越えて結ばれるまでを描いた、韓国古典の傑作である。これまで何度も舞台化、映画化が繰り返されてきているが、パンソリによって全編が歌い継がれる「春香伝」は、本作が初めてである。
イム・グォンテク監督は「春香伝」が本来パンソリによって語られ、作り上げられてきた物語であることに改めて着目した。そのため本作では二人の物語と並行して、観客が実際に舞台上のパンソリ「春香歌」を聴くという演出を凝らしている。その演出によってパンソリと映像が伝えるダイナミズム、エモーションが互いに深く結びつき、膨らみ、観る側はこのシンプルなラブストーリーに一気に引き込まれてしまうのだ。
まさに伝統に基づきながらも極めて斬新な解釈によって、ここに新しい『春香伝』が誕生した。


■月も太陽も、その恋を引き裂くことはできない

愛し合う喜び、別離の悲しみ、恋い焦がれる時間の苦しみ―、春香の初めての恋が命をかけて貫く愛へと姿を変えていく。春香のひたむきさは、現代にあっても命を懸けるほどの愛の力は存在するのか、有効であるのかどうかを真摯に問いかけてくる。
春香と夢龍を演じる二人は、ともに本作で映画デビューを飾った。従来「春香伝」というとベテランの役者たちを迎えることを売りにするのが通例だが、イム・グォンテク監督はその慣例をここでも覆し、新人を大胆に起用した。威風堂々たるパンソリと並んで、その溢れんばかりの瑞々しさと軽やかさでスクリーンを彩っている。


■パンソリと映像がもたらす、圧倒的な調和
 豊饒なる映画の完成


大空をめがけて勢い良くブランコを漕ぐ春香と夢龍の出会いのシーンから、夢龍が死迫る春香を救い出すラストの胸をすく大団円まで―。躍動感に満ちたパンソリと映像美は驚くほどの調和を保ち、観る者を圧倒する。その撮影を担っているのは、イム・グォンテク監督の名パートナー、チョン・イルソン。アジアを代表する撮影監督であり、欧米からも高い評価を受けつづけている世界有数の撮影監督である。風格とともに撮り上げられた春夏秋冬の自然、随所に散りばめられた赤の色、そして何よりパンソリのリズムと映像のリズムの一体化が、まさに映画のもつ豊饒さを感じさせずにはおかない。パンソリを歌うのは、人間国宝である名唱チョ・サンヒョン。まさに各界の第一人者たちが結集して本作はつくりあげられた。若手を圧倒するであろう円熟した手腕による傑作として、『春香伝』は韓国映画として初めて、本年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選ばれている。


 


【ストーリー】

君は死んだら花になれ
私も死んだら蝶になろう
春の良き日におまえの花びらを抱きしめん


李朝時代。全羅道(チョルラド)、南原(ナムウォン)府の代官の長子である李夢龍(リ・モンニョン)は、父の赴任に従ってこの地で暮らしはじめて数カ月が経っていた。勉学ばかりに嫌気が差した夢龍は、憂さ晴らしに召使いの房子(パンジャ)を連れて廣寒楼(クァンハルル)に出かける。折しも端午の日、戸外では賑やかなラッパの音と共に相撲が繰り広げられ、林の中では少女たちがブランコ遊びに興じていた。
その中でもひときわ美しい春香(チュニャン)が大樹のふもとでブランコを漕ぐさまを見た夢龍は、一目で心を奪われてしまう。春香が妓生(キーセン/引退した芸伎)の娘であることがわかると、夢龍は即座に春香を呼ぶように房子に命じる。だが春香はその旨を聞くと「雁受海、蝶受花、蟹受穴」という言葉を残してその場を立ち去ってしまうのだった。「雁は海を慕い、蝶は花を慕い、蟹は穴を慕う」という言葉の意味から直接会いに来るべきという春香の意図と聡明さを察した夢龍は、深夜、闇に乗じて春香の家を訪れる。彼女は平民の身である自分を正式に妻に迎えてくれることを条件に、彼を受け入れた。夢龍は「与月日一心」という念書をしたため、この心が永遠に変わらぬことを誓う。二人が身も心も打ち解けるのに時間はかからず、互いに愛し合い、夢のような日々は過ぎていった。
しかしその幸福も束の間、すぐに試練が訪れる。夢龍は父の昇進に伴って漢陽(ソウル)へ戻らなければならなくなる。南原に残ることも、都へ春香を連れていくこともままならない夢龍には為すすべもなく、春香は再会を誓いながら涙ながらに夢龍と別れた。

春香は夢龍との再会をひたすら待ち続けている。季節が過ぎ、南原に新しい長官が任命されることになった。春香の美しさを聞きつけ、大きな任地を辞退して田舎の南原府に赴任してきた下学徒である。彼は国の法律によって母親が妓生なら、その娘も妓生の身分であるとし、春香にそば仕えを強要する。春香は自分が妓生名簿に登録していない上、前官の子息と結婚の約束を結んだ以上、二夫従事はできないとかたくなに拒んだ。烈火の如く怒り狂う下学徒は、春香に反逆罪という濡れ衣を着せて過酷な拷問を加えるが、春香は断じて屈しようとせず、その場で投獄されてしまう。

その頃、漢陽で勉学に励んでいた夢龍は、科挙試験に見事主席で及第した。密使の任務を得て南原の調査にあたることになった夢龍は乞食に変装し、そこで農夫達の口から現長官の暴政に対する不満と、春香の気概に対する称賛の声を聞くことになる。夢龍は獄中の春香にこっそり会いに行くが、ぼろをまとっている彼の姿に春香の母である梅月(ウォルメ)は驚き、落胆を隠せない。娘の運命を案じ、嘆き悲しむのだった。
変わらぬ愛を誓う春香と夢龍だったが、春香の身は下学徒の誕生日の祝宴の後、処刑される運命にあった。正体を明かせぬままの夢龍だが、その憤怒で胸が張り裂けそうになる。
翌日、廣寒楼に各地の守令たちが招かれ、下学徒の誕生日を祝う宴が盛大に催される。宴が佳境に入る頃を見計らい、夢龍は単身、廣寒楼に乗り込んだ…!



 


【キャスト&スタッフ】

■イ・ヒョジョン(春香)

歴代、ベテランの女優が演じることの多い春香役に抜擢されたイ・ヒョジョンは役柄と同様、若干17歳。本作で映画初出演となった。聡明で気高く、純粋で時に大胆な春香のキャラクターを見事に演じきり、伝説的なヒロイン像に新しい息吹を与えた。撮影中、イム・グォンテク監督の指導の元に完璧な演技をこなした彼女は、スタッフからも拍手を浴びている。

■チョ・スンウ(夢龍)

イ・ヒョンジョンと共に激戦のオーディションの末に選ばれたチョ・ソンウもまた、本作が映画デビュー作となる。夢龍のもつ初々しさ、貴族の長子である優美さと勇敢さを堂々とこなした。次作が待たれている有望株である。

■キム・ソンニョ(月梅)

愛娘である春香への深い愛情と、人生に対する明朗な姿勢、持ち前のコミカルさを併せ持った春香の母親という役柄を見事に演じ、若い役者たちの脇を締め、作品に厚みを与えている。

■キム・ハギョン(房子)

これまで幾度もパンジャ役を演じているベテラン俳優。パンジャは『春香伝』のもうひとつの魅力をユーモラスに、いきいきと引き出している。

■イ・ジョンホン(下学徒)

舞台でも活躍し、その実力を認められている存在で、本作でもその技量を存分に発揮した。暴君、下学徒という役柄は従来では滑稽な要素も持ち合わせているが、今回は理知的な学徒像を演じている。

■イム・グォンテク(監督)

1936年5月2日、金羅南道(チョルラナムド)の長城(チャンソン)生まれ。50年代、映画製作会社に就職、助監督を経て1962年『さらば豆満江よ』で監督デビュー。70年代前半まではアクション、メロドラマ、歴史物、戦争物などあらゆるジャンルの商業映画を撮り続ける。次第に独自のスタイルを確立し、1973年の『雑草』で高い評価を受ける。『族譜』(1978年/NHKで1983年に放映され話題になる)、『曼陀羅』(1981)、『シバジ』(1986)、『嵐の丘を超えて〜西便制』(1993)、『祝祭』(1996)など、国内外多数の賞を受賞、90年代に入ってからはフランス、ドイツ、アメリカをはじめとする海外で「イム・グォンテク映画祭」も盛んに行われている。また、『嵐の丘を超えて〜西便制』は日本公開時に単館公開のアジア映画では異例の大ヒットを記録し、パンソリを広く国内に紹介するきっかけともなった。韓国社会のアイデンティティや韓国文化の本質を描き続け、監督本数は本作で97本目、本国のみならずアジアを代表する映画監督の一人である。

■イ・テウォン(プロデューサー)

泰興(テフン)映画社の社長として長年傑作を生み出し、韓国映画人協会の会長も務める、文字どおり韓国映画界を代表する映画人。イム・グォンテク監督と共にいくつもヒット作、受賞作を手掛けてきた。主な作品に『ハラギャティ』(1989/第28回大鐘賞最優秀作品賞、第16回モスクワ映画祭最優秀主演女優賞)『将軍の息子』(1990/第11回清龍賞最優秀韓国映画最多興行賞、韓国ギネスブック最多観客動員記録)『風の丘を超えて〜西便制』(1993/大鐘賞最優秀作品賞、ベルリン映画祭正式出品)など。他、『膝と膝の間』(1984/イ・チャンホ監督)『桑の葉』(1986/イ・ドゥヨン監督・韓国映画評論家賞最優秀作品賞)『ばら色の人生』(1994/キム・ホンジュン監督)などの作品があげられる。

■チョン・イルソン(撮影監督)

1929年2月19日生まれ。ソウル大学工学部を卒業。アジアが誇る撮影監督であると同時に、スコセッシ監督などの欧米の映画人からもオファーを受けるなど、その評価は世界的に高い。まさに世界で最も知られる撮影監督のひとりである。イム・グォンテク監督とは『曼陀羅』以来のパートナーシップを保ち続けている。その代表作は『霧の村』『将軍の息子』『曼陀羅』『キルソドム』他多数。イ・テウォン社長を加えた3人で「黄金トリオ」と呼ばれるほど、多数の名作、ヒット作を生み出してきた。『風の丘を超えて〜西便制』では韓国のアカデミー賞にあたる大鐘賞で7度目の撮影賞を受賞。他多数の映画賞の撮影賞を受賞しつづけている。1993年には文化芸術大統領賞を受賞している。

■チョ・サンヒョン(パンソリ)

1939年、金羅南道(チョルラナムド)、宝城(ポソン)に生まれる。天性の声をもって生まれてきた彼は、13歳でパンソリの名唱の門下に入り、7年間に渡って「春香歌」「鎮清歌」「水宮歌」を歌う。1959年以降は光州(クァンジュ)で学び、1971年にソウルに上京して「興甫歌」を学びつづける。その後国唱文化財の指定を受ける。以降、中央大学院で後続の養成に尽力しながら、活発な活動を展開している。彼の声は力強く、豊かな声量をもち、なめらかで透明感のあるスリ声と呼ばれる唱法を得意としている。名唱としての好条件をすべて兼ね備えた、まさに「現代の名唱」と呼ばれている。