『パーフェクト・ストーム』/"THE PERFECT STORM"
2000年7月29日より丸の内ルーブルほかにて公開

2000年/アメリカ/2時間10分/字幕翻訳:菊池浩司
オリジナルサントラ盤:ソニー・クラシカル
配給:ワーナー・ブラザース映画

◇監督:ウォルフガング・ペーターゼン ◇製作:ポーラ・ワインスタイン、ウォルフガング・ペーターゼン、ゲイル・カッツ ◇脚本:ビル・ウィットリフ ◇原作:セバスチャン・ユンガー ◇製作総指揮:バリー・レビンソン、ダンカン・ペーターゼン ◇撮影:ジョン・シール,ACS,ASC ◇美術:ウィリアム・サンデル ◇編集:リチャード・フランシス=ブルース,A.C.E. ◇衣装:エリカ・エイデル・フィリップス ◇音楽:ジェイムズ・ホーナー ◇視覚効果監修:ステファン・ファングマイアー ◇スタント・コーディネーター:ダグ・コールマン ◇特殊効果監修:ジョン・フレイジャー

◇キャスト:ジョージ・クルーニー、マーク・ウォールバーグ、ジョン・C・ライリー、ダイアン・レイン、ウィリアム・フィッチナー、ジョン・ホークス、アレン・ペイン、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、カレン・アレン、チェリー・ジョーンズ、ボブ・ガントン、クリストファー・マクドナルド、マイケル・アイアンサイド、ラスティー・シュイマー、ジャネット・ライト、ダシュ・ミホク、ジョシュ・ホプキンズ



| 解説 | プロダクションノート | ストーリー | 監督&主演 |
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【解説】

その日、地球がゆがんだ。 大西洋上にひとつの嵐が誕生した。
その嵐の本当の姿を世界はまだ知らない。
波の高さビル10階分。雷のエネルギーは合衆国全体の消費電力の4日分。
それは、3つの嵐が会場で激突して誕生した、自然界の常識を覆す“嵐を超えた嵐”。
発生したこと自体が奇跡のその嵐に、人間たちは名前をつけることすらできなかった。
ただ、“PERFECT”という形容詞を与えただけで…。




◆この夏、スクリーンで今世紀最大の嵐と遭遇する。

その大嵐は、3つの嵐が浮上して激突して生まれた。高さ約30メートル、10階建てのビルに相当する波、合衆国全体の消費電力の4日分に当たるエネルギーを持つ雷、そして海上にいながら溺れてしまうほどの水しぶきを巻き上げる圧倒的な強風…。普通なら、これほどの大嵐を人が体験することは、ない。奇跡的な確立で、しかも限られた条件を満たす海上でしか起こり得ない現象だからだ。そかし、この史上最大の嵐と遭遇した人間が、この世に6人だけいた。「アンドレア・ゲイル」号のクルーたちだ。封印された彼らの未曾有の体験を、映画『パーフェクト・ストーム』によって、世界はこの夏初めて目撃する―!

この映画は実際に起こった事故をもとにしており、「アンドレア・ゲイル」号はもちろん、すべての登場人物が実在する。彼らが遭遇したのは、バミューダ海域から北上してきたハリケーン・グレイスと五大湖上空で発生したジェット気流によって海上に流された北東の爆弾低気圧、カナダ付近の寒冷高気圧の3つが北大西洋上でぶつかって発生した、前代未聞の大嵐だった。気象学の常識ではありえない成り立ちと威力をもち、あっという間に形成されてふくれあがったこの嵐に、どんな学者も名前をつけることができなかった。のちに“完璧な”という形容詞をつけて呼ばれるようになった奇跡的な大嵐は、出会ってしまった者に、生きて帰ることを許さない怪物、まさに“パーフェクト・ストーム”なのだ。





◆その嵐が姿を現した時、恐怖からの逃げ場は360度どこにもない!

マサチューセッツ州グロースター。北大西洋最大の漁港として知られるこの港を、1991年10月のある日、1隻の漁船が出航した。船の名は「アンドレア・ゲイル」号。乗り込んでいるのは、船長のビリー・タインをはじめ、勇敢さと向こう見ずさにかけては右に出るもののいない海の男たちだ。

結婚を約束した愛する女性を残して港を離れる者、この漁で得られるだろう大金のことだけを考えている者、そして、海の上での命がけの冒険によって孤独を忘れようとする者…。彼らにとって海とは生きる糧を得る場であり、自然との闘いの中で、“生きていること”を実感する場だった。スリルと高揚感、歓喜と絶望、信頼と駆け引き、一攫千金の夢、愛する者と生きる将来への夢…。すべてが海の上にあったのだ。

今日もまた命がけの漁に出る男たち。しかし、美しく晴れ渡ったこの秋の日の船出こそが、おそるべき悲劇の始まりだった。100年に一度の巨大な嵐が北大西洋上で彼らを待ち受けていることを、この時はまだ、誰も予想だにしなかった…!

『U・ボート』『アウトブレイク』『エアフォース・ワン』のウォルフガング・ペーターゼン監督が放つ『パーフェクト・ストーム』は、観客を超弩級の嵐のまっただなかに放り出す。360度逃げ場のない大海原で大嵐と遭遇する恐怖、そして観る者を圧倒する臨場感は、『タイタニック』『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』と大ヒットが続くディザスター・ムービーの歴史を塗り替える今世紀最大の超大作だ。





◆その時、何があったのか!
『U・ボート』から18年、海の上での“運命の瞬間”を、巨匠ペーターゼンが描く!


運命のその日に、本当は何があったのか。その時、彼らはどう闘ったのか。それを知る者は誰もいない。「それは、いまだ解明されていない偉大なミステリーだ。私がこの題材に魅せられた理由のひとつが、それに答えを出すことなんだ」と、ペーターゼン監督は語る。

世界中に衝撃を与えた『U・ボート』から18年。あの名作と同じ、海の上の“運命の瞬間”を、巨匠はどう描くのか。世界中の熱い期待が、この1本に注がれている。

主演は『ER 緊急救命室』で一躍大スターとなり、『スリー・キングス』の演技が評論家から絶賛されたジョージ・クルーニーと、『ブギー・ナイツ』で注目されて快進撃が続くマーク・ウォールバーグ。『スリー・キングス』で共演したクルーニーの強い要望で、ウォールバーグとの2度目の共演が実現したという。ダイアン・レイン、メアリー・エリザベス・マストラントニオほかが脇を固めている。

CGIを手がけるのは、『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ』シリーズで知られるSFX工房、ILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック社)。実在のキャラクターが遭遇する実際に起きた出来事を、観客にライブ感覚で体験してもらうには、既存のデジタル処理を超える視覚効果が必要だとペーターゼン監督は判断した。そして、本作における最強にして最大のキャラクターである“嵐に弄ばれる大海”を表現するために、ILMの協力を求めたのだ。

ラブコールを受けたILMは、これまでにない映像を誕生させるべく、最高の布陣を送り込んできた。視覚効果監修のステファン・ファングマイアーを先頭に、テクニカル・ディレクター・チームが結成されたが、SF以外の作品でこれほどの人数を動員したのはILM始まって以来だという。

また、CGアーティストのチームは、本作のために独自のデザイン・ソフトを開発。ストーリーのキーとなる自然の猛威をダイナミックに表現した。

ペーターゼン監督は語る。「この作品ではミニチュアは使わない。模型もなしだ。それでいて観客は、100フィートの高波に翻弄される実感を得られるんだ。とにかく最新型ジェット・コースターに乗った気分になれるはずだよ」

脚本ビル・ウィットリフ、製作ポーラ・ワインスタイン、ウォルフガング・ペーターゼン、ゲイル・カッツ、製作総指揮バリー・レビンソン、ダンカン・ヘンダーソン、撮影ジョン・シール,ACS,ASC、美術ウィリアム・サンデル、編集リチャード・フランシス=ブルース,A.C.E.、衣装エリカ・フィリップス。また、本編のCGIをILMが。視覚効果をジョン・フレイジャーが担当。世界配給ワーナー・ブラザース映画。

パーフェクト・ストーム それは神の怒り
それを見た者は 生きては帰れない。



 




【プロダクションノート】

■世界一大きな水槽タンクで撮られた息詰まる救出シーン。

ワーナー・ブラザースのステージ16は撮影所で一番天井が高く、スペンサー・トレイシー主演の『老人と海』などの映画を撮った、底の浅い小型タンクがあった。『パーフェクト・ストーム』に必要な条件を満たすために、製作者はタンクを縦、横、深さ、95フィート×100フィート×22フィートの大きさに改造し、このタンクはサウンドステージに作られた世界一大きなものとなった。

ジョシュ・ホプキンズとダシュ・ミホクはパラジャンパー、ダリル・エニス大佐、ジェレミー・ミッチェル軍曹を演じる。彼らの任務は嵐の中でヨットで立ち往生する3人を救出することだ。

撮影に入る前に、彼らはアリゾナのパラジャンパー訓練プログラムに参加した。ミホクが説明する。「プログラムで救出活動が実際にどんなものかを体験できた。水に入り、頭上わずか50、60フィートにヘリコプターが停止していると、視界は悪いし、息することも、連絡し合うことも難しい。おかげで、救助隊の技術と彼らの集中力には本当に敬服するようになった」

救助場面の撮影は現実の救出活動とは違い、命の危険はまったくなかった。しかし、身体を鍛えている若い俳優でさえ、肉体にはかなりの負担だった。ホプキンズが様子を語る。「ウォルフガングとみんながスタジオで何をするかを説明すると、僕は『おいおい、ちゃんと脚本は読んだし、大丈夫だ』と思っていた。救命具を付け、サバイバルスーツを着て、あとは水に浮いているだけでいいと思ったんだ。それから、撮影の最初の日に、あの巨大なタンクを見た。嵐を作る機械を設置した水の中にはCPR(心肺機能蘇生法)訓練をしたスキューバー・ダイバーが8人もいて、今までにない光景だった。それで水に入り、それでも僕はまだ、『俺は運動選手だ。平気だ』と思っていた。でも、最初のテイクで、波が頭上に崩れ落ちてきて。風や騒音がすると、本当に溺れそうな気がして、『カット!』と叫ばずにいるのが精一杯だった」



■アメリカ最古の漁港、グロースター。

マサチューセッツ州グロースターは米国最古の漁港であり、地元の魚市場は世界中のマーケットの魚の値段を決めるほどの影響力を持っている。いま、この歴史的な漁港が深刻な問題に脅かされている。

グロースターから東に約150マイルのジョージズ・バンクスの海は、かつてはオヒョウ、タラ、メカジキが豊富だった。この海の金鉱は、2世紀以上も商業漁業に比較的荒らされずにいた。その後、1827年に、グロースターの漁師がここを発見し、それから150年もしないうちに。ジョージズ・バンクスの魚はほぼ採り尽くされた。ロシアのトロール工船により乱獲されたのだ。ジョージズ・バンクスの魚量は1977年から1987年の間に、さらに65パーセント減少している。

ジョージズ・バンクスが数世紀にわたり、商業漁業の利益に比較的荒らされずにいたには理由があった。船には桁外れに危険な場所だったのだ。異例の海流が突然の嵐により生まれる激しい天候と混じり合い、漁師の間には超自然の力を物語る話が生まれていた。 20世紀の中頃になると、ニューイングランドの漁師のほとんどはさらに北に向かい、ノヴァスコシアの南、セーブル島とニューファンドランドの間にあるグランド・バンクスまで航行するようになった。ジョージズ・バンクスと同じく、グランド・バンクスも世界有数の「最悪の嵐の通り道」に位置するが、少なくとも、海の生物が完全には枯渇しないですむという利点はある。

ところが、1991年までに、グランド・バンクスもまた魚量が減少しはじめた。恐らくトロール工船によるものだろう。家賃を払い、家族を養うだけの魚を収穫して帰るには、さらに大西洋まで出なくてはならないと感じた漁師もいた。彼らはしばしばフレミッシュ・キャップまで船出さえした。アンドレア・ゲイル号が最後に錨を下ろしたのは、遠隔だが魚の豊富なこの漁場だった。



■本物の台風が撮影隊を直撃!荒海での決死の撮影。

グロースターでのロケで、撮影隊は思いがけない危険にさらされることになった。第1週目の撮影を行っていた時、フロリダ州では史上最大の緊急避難に備えていると報道されたのだ。最大風速155マイル(風速249キロ)、一時はテキサス州規模にまでなったハリケーン・フロイドはフロリダ州、ジョージア州で猛威をふるい、東海岸を北上するまでには実に260万人が非難していたのだ。

「グロースターが襲われるかもしれないとすごく心配だった。巨大ハリケーンを描いた映画に、大型ハリケーンが大混乱を引き起こすという皮肉な事態を意識していたんだ。船やセット、撮影用に改装したふたつのドックを失ってはたまらない。町の人たちはあらゆることに備え、建物を安全にして道を封鎖して、臨時の非難所を提供してくれたよ」とプロデューサーのゲイル・カッツは語る。

しかし、嵐の通り道はまったく予測がつかない。ハリケーン・フロイドはカロライナ2州の内陸を北上して、その夜、ニューヨーク州に達するまでには勢力が衰え、熱帯嵐になっていた。危険が通りすぎると、今度は製作者がまったく当てにしていなかった絶好の機会が訪れたのである。

当時撮影現場で、監督のウォルフガング・ペーターゼンはこう語っている。「もう2、3日したら本物のハリケーンに出会えるから、2隻の船が実際にどうなるかじかに見られると思うんだ。大嵐を実現するのに技術的にはなんの問題もなかったが、やっぱりリアルに見せるには本物が最高だからね」カッツは語る。「最も激しい嵐の日が過ぎた翌日は、波の高さはまだ10フィートから15フィートもあったが、アンドレア・ゲイル号を出航させて、セカンドユニットのフッテージを幾つか撮影することにした。船には本物の漁師も乗り込んでいたが、彼らも楽ではなかった。キャメラを積んだ船のクルーの中には、多少船酔いをした者がいたのは言うまでもないね。それでも、その翌日には、操舵室にメアリー・エリザベス・マストラントニオを乗せてハンナ・ボーデン号を出し、彼女の場面を撮影した。前の日ほどひどくはなかったが、それでもまだ荒れていて、すごいフッテージが撮れた。つまり、48時間で、ハリケーン・フロイドは最大の脅威から最高の味方になったんだ。特殊撮影効果じゃ、あんなものは得られないよ」



■グロースターの人々と作り上げた、アットホームなロケ現場

グロースターの町の人たちが示した多大な支援と歓待のおかげで、映画は円滑に撮影できた。地元の港湾パトロールは船の航行を管理し、町は車や人の往来を整理する警察を提供してくれた。俳優たちはセットで一緒に仕事をしながら多くの漁師と知り合いになり、仕事が終わるとごく自然に話をしたり、ビールを飲んだりするようになった。

しかし一方で、映画のクルーは現実に残酷な悲劇に襲われた漁師達の生活圏で過ごすことに非常に気を使っていた。クルーニーは言う。「この映画は実際に生きて、そして死んでいった人々を描くものなんだ。それでも映画としてはエンターテイメント性抜きには語れないからね」ダイアン・レインとメアリー・エリザベス・マストラントニオが台風に遭遇して命を落とした漁師達の女友達を演じている。「これまでに本人と交流するようになる役を演じたことはなかったわ。クリスティーナ・コッターと一緒に過ごして、彼女はとても大らかで親しみやすかった」ダイアン・レインは自分の役柄のモデルであるクリスティーナ・コッターと実際に何度もお酒を飲み交わし、親交を深めていった。「原作本が発行された後、あの人達は色々とセンセーショナルな出来事に巻き込まれたみたいなの。あれやこれや噂されるし、遭難現場もみさせられたらしいから」メカジキ漁船の船長、リンダ・グリーンローはメインに引っ越していたが、『パーフェクト・ストーム』で彼女を演じるメアリー・エリザベス・マストラントニオに会うために、再びグロースターを訪れた。「正直なところ、彼女に会うのはちょっと緊張した」とマストラントニオは認める。「でも、彼女はとても温かい人だった。男中心の仕事をする女なら、ちょっとタフでけんかっぱやい人だと思うかもしれないけれど、彼女はまったくそんなことはない。自信を持ち、スマートな人だったわ」



■海に生きるグロースターの男たち

漁業は、危険な職業だ。他の職業と比べると、アメリカでは、他のどんな職種よりも就業中の死亡率が高い。1632年に14名のイギリスの漁師が住み着いて以来、グロースターは漁業に支えられてきた。これまで海難事故の犠牲になったグロースターの男たちは“4世紀で1万人を超えた”という。ちなみにこれはグロースターの全戦死者数を上回る数字である。

漁業を生業とし、海の上で生きる漁師という職業について、世界的ベストセラー「パーフェクト・ストーム 史上最悪の暴風に消えた漁船の運命」の原作者、セバスチャン・ユンガーはこう語る。「この本を書き上げた理由のひとつとして、沖合い漁業がどれほど危険で、大変なものかわかって欲しかったということがあります。危険を伴う様々な仕事の中で、漁師という職種は時代の影響をあまり受けてこなかった点でユニークだと思うんです。何カ月も海の上で過ごし、いったん陸から離れれば自分だけが頼りです。その仕事の形態は100年前と一緒。でもそこが、この仕事のドラマチックな部分でもあるわけです。この仕事に携わる誰もが、海難事故で知り合いを亡くしている。どの漁師に聞いても、一度や二度は命を落としかける経験をしています。そんな彼らは、仕事への取り組み方が非常に厳しい。私達は“究極のスポーツ”に生きる運動選手だけが脚光を浴びる時代に生きています。でも、もっと危険で、もっと社会に貢献する仕事についた人たちが完全に無視されている。そんな現実をこの本がすこしでも変えることができればと思ったのです。結果的には多くの人に受け入れてもらえてうれしかった。私がグロースターの漁師たちを知るにつれて感じた直感が正しかったこともわかりました。危険を承知で誇りを持って仕事を続ける漁師たちに対する敬意を感じます。」



 




【ストーリー】


1991年10月のある日。マサチューセッツ州の港町グロースターを、「アンドレア・ゲイル」号が出航しようとしていた。船長はビリー・タイン(ジョージ・クルーニー)。北大西洋上で多くの危険な漁を経験してきた男だ。

しかし、女船長リンダ・グリーンロー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)が率いる「ハンナ・ボーデン」号が大漁続きなのに対し、ビリーの船はいまひとつふるわなかった。

時に恐るべき牙をむく海との戦いに命がけで挑んできたビリーは、そのたくましい身体だけでなく、魂にまで潮の匂いがしみついている男。みずからの誇りのためにも、クルーのためにも、彼は今回の漁で、何としても大きな成果をあげるつもりでいた。


ビリーを何者にも屈しない男として尊敬し、兄のように慕うボビー(マーク・ウォールバーグ)は、恋人クリスティーナ(ダイアン・レイン)と新しい生活をスタートさせようとしていた。彼女は、命の危険がつきまとう長い漁に愛する男を送り出したくはなかった。しかし、二人の将来のために今回の漁に賭けたいというボビーの決意は固かった。その他のクルーもそれぞれに「自分の生きる場所は海しかない」と思いさだめて出航に臨んだのだった。

沖に出た「アンドレア・ゲイル」号は順調に操業を続けていたが、その頃、地元のテレビでは、気象予報士のトッド(クリストファー・マクドナルド)が“グレイス”と名付けられたハリケーンの発生を伝えていた。グレイスの進路には、爆弾低気圧と寒冷高気圧がある。もし3者がぶつかれば、気象観測史上例のない大嵐となる。しかし、ビリーもクルーたちも港に引き返す気はなかった。

その時、彼らはまだ知らなかったのだ。自分達が遭遇しようとしているのがただのハリケーンではなく、のちに伝説となる100年に1度のすさまじい大嵐“パーフェクト・ストーム”であり、想像を絶する過酷な戦いが行く手に待ちかまえていることを…。





 




【監督&主演】

■ウォルフガング・ペーターゼン(監督・製作)

かつて名作『Uボート』を世に送り出したペーターゼン監督にとって“海”は特別な意味がある。『Uボート』から18年の歳月を経た今、彼はようやくあの名作と共通する“何か”を感じるテーマにめぐり逢った。そして誕生したのが『パーフェクト ストーム』だ。「海は人間を冒険家にする最後の大舞台だ」とペーターゼンは語る。「私はベストセラーになった原作のノンフィクションを一読したとたん、虜になってしまった。これは海を舞台にした現代のドラマだ。『Uボート』が戦争という極限状態での人間と海との闘いを描いているのに対し、『パーフェクト ストーム』は人間と自然の脅威との闘いであり、そこに私は興味をひかれた」

真実のみが持つ桁外れのスケールと迫力を持ち合わせた原作を映像化するに当たって、ペーターゼンはいくつもの大きなハードルを覚悟しなければならなかった。

「登場人物の誰をとっても、それぞれに英雄なんだ。しかも一人一人にドラマがある。それが海で、陸で、ヘリコプターで、漁船で、並行して展開していく。もちろん、嵐そのものもメインキャラクターのひとつだしね。交錯するストーリーをひとつの力強いドラマとして収めることができたのは、優秀な脚本家たちの力によるものだ」

本編に必要とされる映像技術もまた、前例のないものばかりだった。「嘘っぽさを感じさせない嵐を作り出すこと――それが私たちに課せられた使命だった」とペーターゼンは振り返る。「天候、そして海水は、リアルに撮ることが最も難しいとされる被写体。この映画では、今まで誰も使ったことのないあっと驚く技術を使って、空前のレベルの視覚効果に成功したよ」

ペーターゼンにとってこの映画を作ることは、まだ解決されていないミステリーに挑戦することでもあった。あの日、あの海で本当は何が起こったのか、誰も知るものはいないのだ。

「あの船のクルーたちは、引き返す地点を見失っていたのだと思う。彼らは何としても大きな漁獲をあげなければならなかった。そして彼らは、自分たちが出した結論の代償を払うことになった。私がこの映画を見て観客に考えて欲しいのは、こうした極限の選択を迫られた時、自分ならどうするか、ということなんだ。漁に出ることは、毎回、死と背中合わせ。極限のスリルと危険をはらんでいる。この作品は海に生きる人々の壮絶なサバイバル・ストーリー。持てる勇気と力をふりしぼって、自然界の“最終兵器”に立ち向かう人間の姿を描いたんだ」


商業性と芸術性を両立させた作品を数多く世に送り出してきたペーターゼン監督の名を世界中に知らしめた最初の作品は、外国語映画としては異例の全米大ヒットを飛ばし、アカデミー賞6部門にノミネートされた『Uボート』(1981)。脚本と監督を兼ねたこの作品では、ペーターゼン自身も脚色賞候補に加え、ドイツ語映画の監督として初の監督賞候補にもあがった。これを機にアメリカ進出を果たし、『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984)、『第5惑星』(1986)で脚本と監督を兼任。その後、アメリカ永住権を獲得し、『プラスチック・ナイトメア 仮面の情事』(1991)を発表。クリント・イーストウッド、レネ・ルッソ、ジョン・マルコビッチを起用した1993年の『ザ・シークレット・サービス』では監督に徹し、アカデミー賞3部門にノミネートされた。1995年の監督作『アウトブレイク』も大ヒットを記録。また、製作も兼任し、これもまた大ヒットした『エアフォース・ワン』(1997)は、アカデミー賞の複数部門で候補にあがった。最近ではロビン・ウィリアムズ主演の『アンドリューNDR114』(1999)を製作。また、『Uボート』のディレクターズ・カット版をリリースしている。



■ジョージ・クルーニー(ビリー・タイン船長)

「常に死に直結する仕事の中で生きている。それが海の男たちだ」 撮影中、役者に過酷な要求を課すことで知られるペーターゼン監督が、最初にキャスティングしたのがクルーニーだった。 「ジョージはスターとしても役者としてもスケールが大きい」とペーターゼンは絶賛する。「この役にはリーダーとしての風格や責任感を表現できる俳優が必要だった。しかし、アンサンブルキャストの中で一人浮いてしまうようではまずい。観客の目には“ハリウッドスター”ではなく、“メカジキ漁船のキャプテン”として映らなければならないからね」

ペーターゼンの現場に生半可な気持ちで臨むことはできない。クルーニーはまず、全長22メートルの大型漁船の操作を学んだ。

「撮影で使うアンドレア・ゲイル号を実際に操舵したんだ。3週間の間に、いくつかのドックで並列宿泊の練習もしたんだよ。幸い、船もドックも壊さずに済んだけれど、“そのくらいは船長として当然”と言われてしまった(笑)。あとは延縄釣りに挑戦したり、海の上で寝泊まりもしたよ」

フランネルのシャツとジーンズに身を包み、無精ひげを生やしたクルーニーは、撮影開始時にはすでに、どこから見てもたくましく野性的な“海の男”になりきっていた。 「僕の故郷はケンタッキーなんだけど、子供の頃は夏になるとタバコの葉を刻むバイトをよくやった。それも重労働ではあったけれど、ヘマをしたからといって命を落とすことはまずありえない。ところが漁の仕事には、死に直結するような落とし穴がゴロゴロしているんだ。次元の違う世界だね」


大病院を舞台にした人気シリーズ「ER 緊急救命室」のダグラス・ロス医師役で人気が沸騰。エミー賞、ゴールデン・グローブ賞、映画俳優協会賞、ピープルズ・チョイス賞にノミネートされた。最近では、エルモア・レナード原作のオスカー候補作『アウト・オブ・サイト』(1998)で脱獄囚のジャック・フォーリーを好演。また、数多くの映画賞をさらった『スリー・キングス』(1999)では、アーチー・ゲイツ役で批評家の絶賛を浴びた。今秋にはコーエン兄弟監督作『O Brother, Where Art Thou?』が公開される予定。その他の代表作に『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1995)、『素晴らしき日』(1996)、『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』、『ピースメーカー』(1997)など。最近はテレビ・映画制作会社“メイズビル・ピクチャーズ”を率いてプロデュース業にも進出している。