『ボクと空と麦畑』 RATCATCHER
mainpicture 3月31日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にてロードショー

1999年/イギリス/カラー/1時間33分/ドルビー/日本語字幕:小飯塚真知子/後援:ブリティッシュ・カウンシル/配給:オンリー・ハーツ+日本トラステック

◇監督・脚本:リン・ラムジー ◇製作:ギャヴィン・エマソン ◇製作総指揮:アンドレア・カルダーウッド、バーバラ・マキサック、サラ・ラドクリフ ◇プロデューサー補:ベルトラン・フェーヴル ◇撮影:アルウィン・カックラー ◇音楽:レイチェル・ポートマン ◇美術:ジェーン・モートン ◇編集:ルチア・ズケッティ ◇衣装:ジル・ホーン ◇ヘアメイク:アナスタシア・シャーリー ◇キャスティング:ジリアン・ベリー

◇キャスト:◇キャスト:ウィリアム・イーディー、トミー・フラナガン、マンディー・マシューズ、リン・ラムジー・ジュニア、リアン・マレン、ジョン・ミラー、ミシェル・スチュアート、ジャッキー・クイン、ジェイムズ・ラムジー、アン・マクリーン、クレイグ・ボーナー



| 解説 | ストーリー | キャスト&スタッフ |
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【解説】

“心にそっとしまっておきたい…”そんな物語がスコットランドから届きました。


感受性あふれるナイーブな少年の心を詩情豊かにつづり、誰の心にもある子供時代の思い出をよみがえらせるせつなく美しい作品、と英国マスコミの絶賛を受ける監督リン・ラムジーの記念すべきデビュー作が登場した。
『ボクと空と麦畑』はどこにでもいそうな少年の多感で傷つきやすい内面を丹念に追いながら、同時に出口のない工業街で暮らす人々の姿も描かれる。『ケス』などで知られる英国の巨匠ケン・ローチの世界に通じる庶民の生活をモチーフにしつつも、若い女性ならではの繊細な感性で写真や絵画を思わせる独特のビジュアル・センスを見せ、新しいタイプの映像詩人として、大きな注目を集めるリン・ラムジー。英国から久しぶりに登場したアート派の新人としてマスコミに大絶賛され、「タイムアウト」誌に“近年、最良の英国映画の一本”と讃えられた。また2000年英国アカデミー賞最優秀新人賞をはじめとする各新人賞を多数受賞。これは、1996年と1997年に発表した短編映画で2度に渡ってカンヌ映画祭短編映画部門審査員賞を獲得した才能が、さらに実を結んだ結果といえる。


スコットランドは英国の一部であると一般的に認識されているが、その起源はイングランドよりも古い。先住民族のケルト人の文化が今も息づき、使用されている英語も私たちが聞き慣れているものには無い強い訛りがある。イングランドとは異なる王国として歩み、現在でも教育制度、法制度の独自性を保ってはいるが、現実には、イングランドから経済的な差別を受け、決して対等な関係ではない。グラスゴーは人口80万、英国第3の都市である。18世紀から19世紀にかけては工業都市として発展したが、時代とともに衰退し、1970年代には、錆び付いたクレーンとからっぽの倉庫が落ちぶれた街の象徴になっていた。そんな鬱積した空気がこの作品からも感じとることができる。
そんなスコットランドの人々の70年代にスポットを当て、フランク&ナンシー・シナトラやトム・ジョーンズのノスタルジックなナンバーなどもドラマのアクセントとして登場する。「兄の子供時代の体験にインスパイアされた。彼の話を聞いたり、写真を見たりしてイメージをふくらませたわ」と語る監督。次回作は、今最も注目される英国新鋭作家アラン・ウォーナーの処女作にしてサマセット・モーム賞受賞作品である「Morvern Callar」を映画化予定。この新作も大きな話題になりそうだ。

主役のジェイムズ役のウィリアム・イーディー、リアン・マレンといった子役たちはみんな素人の俳優。監督の期待にこたえ、見事な演技を見せる。父を演じるトミー・フラナガンはロバート・カーライル率いる劇団レイン・ドッグで活躍し、『グラディエーター』や『フェイス/オフ』などのハリウッド作品にも出演。母親役のマンディー・マシューズも同じ劇団のメンバー。また妹のアンを演じる9歳のリン・ラムジー・ジュニアは監督の実の姪である。
音楽を担当したのは『エマ』で米アカデミー賞音楽賞を受賞、最近では『サイダーハウス・ルール』を手がけたレイチェル・ポートマン。温かく叙情的なケルトの旋律が、少年期のやるせなさをいっそう切なく彩っている。製作担当のギャヴィン・エマソンはプラダの広告キャンペーンや英国の人気ロック・グループ、レディオヘッドのドキュメンタリーを手がけながら、ラムジーの短編も製作。撮影のアルウィン・カックラー、美術のジェーン・モートンもラムジーの短編でチームを組んでいる。



 


【ストーリー】 *作品観賞後にご覧になることをおすすめします。

悲しいときはここに来て
麦畑の向こうを眺めてごらん。
きっと、違う明日に会えるから。



70年代、スコットランドの工業都市、グラスゴー。街は今日もどんより暗く、処理場のストライキで回収されないゴミから悪臭が漂っている。ゴミの上には灰色のネズミたち。家の前を静かに流れる1本の水路…そんな街で暮らす12歳の少年ジェイムズ(ウィリアム・イーディー)は、繊細な感受性を持て余し、周囲から孤立し始めていた。心の支えは、1つのひそやかな夢─“郊外のきれいな家に引っ越すこと”。それが、“ここ”から逃げ出せる唯一の方法だと感じていた。
ある日、いつものように近所の少年ライアンと水路で遊ぶジェイムズ。しかし、遊んでいる途中にライアンは溺死してしまう。12歳のジェイムズにはあまりにも大きい衝撃。目撃者はいなかったが、ジェイムズの中には誰にも言えない罪悪感が芽生える。

ジェイムズの父(トミー・フラナガン)は家族のことを思いつつも、酒におぼれ、時には女遊びをすることもある。そんな父を母(マンディー・マシューズ)は優しく見守る。そして、しっかり者の姉やおしゃまな妹。好きなはずの家族たちにも、どこか距離を感じるジェイムズ。死んだライアンの家族にもらった遺品の靴も、ジェイムズの心に暗い影を落としていた。
秘密を抱え傷ついたジェイムズの心を癒したのは、2つ年上の14歳の少女マーガレット・アン(リアン・マレン)だった。水路の近くで彼女と出会い、ふたりは少しずつ心を通わせ始める。不良グループのリーダー、マット・モンローのいいなりになっているマーガレットもまた、言いようのない孤独を持て余していたのだった。また、おしゃべりで動物好きのケニーとも友情を深め、ジェイムズは少しずつ心が穏やかになっていくのを感じる。





ある日、姉の後を追いかけてバスに乗ったジェイムズ。到着したところは、果てしなく青空と麦畑が広がる郊外。小さな冒険にジェイムズの心は弾んだ。建設中の真新しい家に入り、大きな窓から身をのりだし麦畑のにおいを全身で感じとるジェイムズ。灰色の水路の街とは全く違う、そのすがすがしい景色は、ジェイムズに束の間の希望と開放感をあたえた。
街に戻れば、また同じ息詰まるような日々。そんな中、おどけ者のケニーが、誕生日にもらった白いネズミをジェイムズに見せる。スノーボールと名づけられたそのネズミに風船をつけて飛ばすケニー。彼はネズミが月まで飛べると信じていた。そしてこの街にいるより、ネズミが自由になれると。
そんなケニーが、ライアンと同じ運命に遭遇する。水路で溺死しそうになった彼を、下着姿で昼寝していたジェイムズの父が助け出す。水路に落ちた少年を救い出した勇敢な行為が認められ、彼は街の人々の前で金のメダルをもらうことになる。初めて父のしたことを誇らしく思うジェイムズ。
しかし授与式の後、ひとりで酒を飲みに行った父はチンピラとのケンカに巻き込まれ、騒ぎを起こす。面目を失い酔って帰った彼は、母に暴力をふるう。傷ついたジェイムズは、マーガレットの家に行き、彼女に抱かれながらベッドで眠る。
しかし、再び、激しい衝撃がジェイムズを襲う。マーガレットが、マット・モンロー・グループにもて遊ばれているのを目撃したのだ。行き場のない感情を抱えてジェイムズは走り出した。
全てから開放されるために、そして誰も彼を傷つけられないところへ…。



 


【キャスト&スタッフ】

■リン・ラムジー(監督・脚本)

今最も注目されている新進監督、リン・ラムジーは、1995年にナショナル・フィルム・アンド・テレビジョン・スクールを卒業。卒業制作となった短編映画『Small Deaths』は翌年、カンヌ映画祭の審査員賞を受賞した。その後も短編映画『Kill the Day』がクレールモン・フェランで審査員賞、そして『Gasman』はカンヌ映画祭の短編映画部門で再び審査員賞を受賞するとともに、1998年度スコットランドBAFTAの最優秀短編映画賞に輝いた。ラムジーにとって長編映画デビューとなる本作は、これら短編映画時代からともに仕事を続けているスタッフたちの手がけたもので、短編で培われたストーリーテラーとしての卓越した才能と、独自ともいえる繊細な映像感覚は、本国イギリスで数多くの賞賛を得、公開とともに大ヒットを記録した。次回作はカンパニー・ピクチャーズ製作、イギリスの新鋭作家アラン・ウォーナーのベストセラー小説「MORVERN CALLAR」(「モーヴァン」アーティストハウス刊)を映画化、早くも期待が集まっている。


■ウィリアム・イーディー(ジェイムズ・ギレスピー)

父親への反発心、淡い恋心、少年の揺れる心を印象的に演じている。本作でデビューを果たしたウィリアム・イーディーは、グラスゴーに住む12歳の男の子。撮影は楽しかったものの、撮影中の待ち時間が退屈だったようで、将来は役者よりもサッカーの選手になりたいそうだ。


■リアン・マレン(マーガレット・アン)

ジェイムズと互いに心を通わす14歳の少女を演じる。危うさを持つティーンエイジャー役を探していたラムジーに抜擢され、本作で秘密めいた少女マーガレット・アンを好演。


■トミー・フラナガン(パパ=ジョージ・ギレスピー)

快楽主義者で息子に疎まれていることにも気づかないダメな父親をユーモアを交えて演じる。ロバート・カーライルがグラスゴーで旗揚げした劇団レイン・ドッグに1991年に入団したトミー・フラナガンは、数多くの新作公演に携わったスコットランドの新鋭。現在はアメリカ人の妻とロサンゼルスに移り住み、アンジェリーナ・ジョリーの新作『The Simian Line』の撮影を控えている。


■マンディー・マシューズ(ママ=アン・ギレスピー)

頼りない父親にかわって家族を思いやる母親を好演。イギリスのお茶の間ではお馴染みマンディー・マシューズは、劇団レイン・ドッグをはじめとする、多くの演劇プロダクションに携わってきた舞台女優。本作では見事、映画デビューを果たし、現在は劇団レイン・ドッグの舞台に再び立つことが決まっている。


■リン・ラムジー・ジュニア(アン・マリー・ギレスピー)

ジェイムズのおませな妹役を演じる。淡々とした物語の中でその無邪気さがいとおしさを誘う。グラスゴー出身。まだ9歳のリン・ラムジー・ジュニアは、監督・脚本を手がけたリン・ラムジーの実姪。伯母の短編映画にすでに出演している彼女は今回、長編映画デビューを果たせたことがとても嬉しいそうだ。ラムジー・シニアと仕事をしたかった理由に「親戚だし、怖い人じゃないから」と彼女は語っている。にもかかわらず、ラムジー・ジュニアは以前、伯母の短編映画に出演するかわりに、10ポンド支払わせたという。演技や歌うことが大好きな彼女は将来、女優を続けていきたいそうだ。


■レイチェル・ポートマン(音楽)

イギリス出身。幼いときからあらゆる音楽に親しみ、13歳のころからすでに作曲活動を始めていた。オックスフォード大学でクラシック音楽を専攻。特に作曲とオーケストレーションについて学んだことが現在までの作曲活動に大きな影響を及ぼしている。作品の多くがピアノを主旋律としたいわゆるクラシック系の音楽となっているために、「キャラクターを深く描く音楽」ということで映画監督にも彼女のファンが多い。『スモーク』などのウェイン・ワン監督などもその一人である。映画音楽家としてのキャリアは80年代初頭から始まり、90年代に入り続々とハリウッド映画を担当。1996年『エマ』でのアカデミー賞音楽賞受賞が彼女を世界的に有名にした。現在でもアカデミー賞を受賞した唯一の女性作曲家である。代表作は『マイ・ルーム』『恋におぼれて』『サイダーハウス・ルール』(アカデミー賞ノミネート)。最新作はロバート・レッドフォード監督の『バガー・ヴァンスの伝説』。


■ギャヴィン・エマソン(製作)

イギリスのケント大学卒業後、ロンドンの王立美術大学の映画科で博士号を取得したギャヴィン・エマソンはその後、ライムライト・プロダクションズに入社。プロダクション・コーディネーターとしてルパート・エヴェレット、ティルダ・スウィントン主演の『リメンバランス〜記憶の高速スキャン〜』(ジョン・メイブリー監督)を手掛けた。その後、1992年に歩けミー・プロダクションズに籍を移したエマソンは、50以上もの国際的なコマーシャルやプロモーションをプロデュースしている。1996年にホーリー・カウ・フィルムズを設立した後、ナショナル・フィルム・スクールの卒業試写でリン・ラムジーの短編映画をプロデュースしつつ、有名ブランド、プラダの世界的規模の広告キャンペーンやロックグループ、レディオヘッドのドキュメンタリー制作も手掛けた。


■アルウィン・カックラー(撮影)

ドイツ出身。ナショナル・フィルム・アンド・テレビジョン・スクールに入学する以前は、プロの写真家として3年のキャリアを積んでいた。1994年に同校卒業後、リン・ラムジーの短編作品『Small Deaths』『Kill the Day』、そして『Gasman』すべての撮影を担当した。カックラーの長編映画デビュー作は、1994年バーミンガム映画祭及び1995年コロン映画祭で作品賞を、そして1995年にヴェローナで観客賞を受賞した、ンゴジ・オンウラ監督の『Welcome ll the Terrordome』。その他にもカックラーは数々の短編映画、コマーシャル、そしてドキュメンタリーの撮影を手掛けている。


■ルチア・ズケッティ(編集)

イタリア出身。1995年にナショナル・フィルム・アンド・テレビジョン・スクールの編集科を卒業した後、ラムジーの短編映画すべての編集を手掛けている。ラムジー作品の他にも数多くの短編映画の編集を手掛けてきた彼女の近年の代表作には、BFIとチャンネル4が推進している“ニュー・ディレクターズ・プロジェクト”に参加したサラ・シュガーマン監督『Antrakitis』や、フレイザー・マクドナルド監督『Lay of the Land』等がある。また、ドキュメンタリーの編集も多く手掛けている。


■ジェーン・モートン(美術)

エクセター・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインを卒業後、フリーの彫刻家、劇場設計者、そして花火の製造者としてのキャリアを積む。その後、ナショナル・フィルム・アンド・テレビジョン・スクールの美術家に入学し、1995年に卒業。同校でリン・ラムジーと出会い、カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した『Small Deaths』では、美術とアシスタント・ディレクターを務めた。ラムジーのその他の短編映画をはじめ、数多くの短編映画やコマーシャルの美術も手掛けている。