『花様年華』 IN THE MOOD FOR LOVE
mainpicture 3月31日よりBunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマにてロードショー

2000年/香港/カラー/1時間38分/ドルビー/ヨーロピアンビスタ/日本語字幕:岡田壮平/提供:松竹・衛星劇場・レントラックジャパン・メディア・スーツ・博報堂/配給:松竹

◇製作・監督・脚本:ウォン・カーウァイ ◇製作:ブロック2ピクチャーズ、パラディ・フィルム ◇製作総指揮:チャン・イーチェン ◇共同プロデューサー:ジャッキー・パン ◇撮影:クリストファー・ドイル、リー・ピンビン ◇美術:ウィリアム・チャン、マン・リンチャン、アルフレッド・ヤウ ◇編集・衣装:ウィリアム・チャン ◇音楽:マイケル・ガラッソ

◇キャスト:トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン、スー・ピンラン



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【解説】

◆ウォン・カーウァイの素顔がここにある


世界中が待ち望んだウォン・カーウァイの新作。2000年カンヌ国際映画祭に出品され、彼の新たな方向性を示した演出によって熱い興奮をもって迎えられた注目の作品である。これまではセンシュアルで奔放な映像感性が評価されることの多かったカーウァイが、この作品では明確な計算のもとにむしろ内省的で、文学的ともいえる世界を構築している。何気ない台詞に込められた深い人間洞察。大胆なスタイルの語り口。主人公ふたりに徹底して寄ったミニマムな設定を課し、男と女の内幕に分け入る。そこに漂う人の憐れ、情の強さとともに、1960年代前半という、もはや帰り来ぬ記憶としての時代に対する憧憬が滲み出る。はじめてカーウァイが素直に想いを吐露した脚本と、その演出力の素晴らしさに酔わされる。

スタイリッシュだが、映像はこれまでのように動き回ることも過剰なところもない。むしろ静かに対象をみつめている。撮影はカーウァイの盟友、クリストファー・ドイルと、『童年往事/時の流れ』(1986)や『恋恋風塵』(1987)などホウ・シャオシェン作品で知られるリー・ピンビンのみごとなコラボレーション。スクリーンにはまどうことなき本物の感情がみなぎる。切なさ、苦悩、怒り、とまどい、愛。匂い立つような情感が映像に溢れている。なお当時の雰囲気を再現するために、香港、タイ、カンボジアのアンコールワットがロケ地に選ばれた。
最小限度の意匠で時代の空気を再現してみせた美術はウィリアム・チャン、マン・リンチャン、アルフレッド・ヤウ。カーウァイ作品すべてに参加しているチャンは衣装と編集も引き受けている。音楽は国際的な作曲家、ヴァイオリニストとして知られるマイケル・ガラッソ。『恋する惑星』でガラッソの曲が使われたことから今回の起用となった。加えて、カーウァイはナット・キング・コールの名唱を効果的に挿入するのをはじめ、既成のナンバーを巧みに織り込み、映像をさらに補強している。


◆紫煙とチャイナドレスの息を呑む美しさ


キャスティングがまた絶妙である。『欲望の翼』以来、『恋する惑星』、『楽園の瑕』、『ブエノスアイレス』と4本のカーウァイ作品に出演し、カーウァイの想いの代弁者として画面から魅力を発散するトニー・レオンが、ここでは内省的なおとなの男を演じきる。感情を押さえながら、ふとした煙草を喫う仕草に垣間見せるあたりでも、その存在感と円熟した演技力が心に残る。カンヌ国際映画祭主演男優賞に輝いたのも頷けるところだ。対するのは『欲望の翼』、『楽園の瑕』に出演し、スタンリー・クワンの『ロアン・リンユィ 阮玲玉』(1991)や、ピーター・チャンの『ラヴソング』(1996)で情感溢れる演技を披露したマギー・チャン。節度と慎みをもちながら、沸き上がる感情に抗しきれない心の揺らぎを、しっとりとみせてくれる。なによりもほっそりとした肢体をチャイナドレスに包み、色香を漂わせる。その姿の美しさには溜め息が出るばかりである。共演は歌手として伝説的な存在であるレベッカ・パン。香港映画界1960年代の名優ライ・チン。そして、表情が60年代的であるという理由で小道具係から抜擢されたスー・ピンラン。

カーウァイ世界はここで新たな頂点に到達した。人間を描ききる21世紀の匠としての確かな手応えがこの作品にはある。



 


【ストーリー】

女は顔を伏せ
近づく機会を与えるが
男には勇気がなく
女は去る。

時は移ろい
あの頃の名残は何もなかった。

男は過ぎ去った年月を思い起こす。
埃で汚れたガラス越しに見るかのように
過去は見るだけで触ることはできない。
見える物はすべて 幻のようにぼんやりと…


1962年、香港。新聞社の編集者であるチャウ(トニー・レオン)と、商社で秘書として働くチャン(マギー・チャン)。二人は同じアパートに同じ日に引越してきて、隣人となる。やがてふたりは、互いの伴侶が不倫関係にあることに気づき、次第に時間を共有するようになる。誰にも気づかれないよう、慎重に会っていた二人だが、周囲の人は気づきはじめる。家庭を持つ貞淑な男と女は戸惑いつつも、意外な方向へ気持ちが揺れ動いていくのだった…。



 


【キャスト&スタッフ】

■王家衛=ウォン・カーウァイ(監督・脚本・プロデューサー)

1958年上海生まれ。5歳のとき両親と共に香港へ渡る。監督デビュー作『今すぐ抱きしめたい』(1988)で強烈な映像スタイルを確立し、香港映画界の若き才能ある監督の一人として高く評価された。同作品は、1989年カンヌ映画祭の「批評家週間」に招待されている。1990年には、1960年を鮮やかにイメージした『欲望の翼』で、香港で最も人気のある若手俳優たちを起用。このプロジェクトは二連作として創られる予定だったが、第二部は製作されなかった。同作品は香港アカデミーで最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)を含む5部門を受賞。1992年、ウォンは『楽園の瑕』のために再びスター俳優を招集。製作に約二年費やし、1994年度ヴェネチア映画祭でプレミア上映された。この映画の後に製作した『恋する惑星』(1994)は国際的なヒットをおさめ、『天使の涙』(1995)はトロント映画祭で初公開されるや批評家たちに絶賛された。アルゼンチンで撮影された『ブエノスアイレス』(1997)は、カンヌ映画祭で、最優秀監督賞を獲得。現在ウォンは初のSF映画『2046』に取り組んでいる。

<フィルモグラフィー> 『いますぐ抱きしめたい』(1988)
『欲望の翼』(1990)
『恋する惑星』(1994)
『楽園の瑕』(1994)
『天使の涙』(1995)
『ブエノスアイレス』()
『花様年華』(2000)



■梁朝偉=トニー・レオン(ミスター・チャウ)

1962年6月12日広東省台山生まれ。アジアで最も人気のある俳優のひとりである。チョウ・ユンファを輩出したTVBの俳優養成所で演技を学び、80年代半ばの映画デビューから、一躍、才気溢れる監督たちの指名を受けるようになった。彼の代表的な出演作品は、スタンリー・クワンの『地下情』(1986)、ホウ・シャオシェンの『悲情城市』(1989年度ヴェネチア映画祭で金獅子賞受賞)と『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)と、ジョン・ウーの『ワイルド・ブリット』(1990)と『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1991)、チン・シュウタンの『チャイニーズ・ゴースト・ストーリーlll』(1991)、トラン・アン・ユンの『シクロ』(1995年度ヴェネチア映画祭で金獅子賞受賞)、パトリック・ヤウの『ロンゲスト・ナイト』。とはいえ国際的な名声に拍車をかけることになったのは、ウォン・カーウァイとの長きに渡るコラボレーション。『花様年華』以前に、『欲望の翼』『恋する惑星』『楽園の瑕』『ブエノスアイレス』の4作品をともにし、多数の賞を受賞している。


■張曼玉=マギー・チャン(ミセス・チャン)

1964年9月20日香港生まれ。マギー・チャンは、1992年度ベルリン映画祭で最優秀主演女優賞を獲得した初の中国人女優である。ジャッキー・チェンが監督した『ポリス・ストーリー』(1985)などのアクションでヒロインを演じ、1989年『仔猫のように抱きしめて』で香港電影金像奨主演女優賞を受賞。また、ウォン・カーウァイの初監督作品『いますぐ抱きしめたい』(1988)での演技が絶賛され、同監督のお気に入り女優の一人となった。カーウァイ以外にも、『フルムーン・イン・ニューヨーク』(1989)や『ロアン・リンユィ 阮玲玉』(1991)ではスタンリー・クワンと、『客途秋恨』(1990)ではアン・ホイ、『青蛇転生』(1993)ではツイ・ハーク、『ラヴソング』(1996)ではピーター・チャンと、香港を代表する他の監督作品にも次々と出演。香港電影金像奨での最優秀主演女優賞4回、台湾金馬奨4回など、香港出身女優の中で誰よりも多く賞を受賞している。また『ロアン・リンユィ』では、1992年度のベルリン映画祭で最優秀女優賞に輝いている。最近の出演作品は、オリヴィエ・アサイヤス監督の『イルマ・ヴェップ』(1996)と、アンドリュー・ラウ監督の『ひとめ惚れ』(2000)などがある。


■レベッカ・パン(ミセス・スーエン)

中国の伝説的人気歌手レベッカ・パンは、上海で生まれ、1949年に香港に移る。1959年から1975年にかけて、英語と中国語でレコーディングしながら世界中で公演、アメリカで活躍する、初の中国人歌手となった。1964年にロンドンのEMIと契約し、中国語シングル「Rendez-bous on the Bridge」を発表。レコード会社を設立するまでに至り、「My Hong Kong」(1965)、「Didn'nt We?」(1970)など、東アジアを中心に大ヒットとなった多くの歌をリリースした。1975年、最後のアルバム「A Christmas Carol」をレコーディング後、1972年に彼女が制作・主演したミュージカル・ドラマ舞台の「白蛇」で女優デビュー。アン・ホイから『今夜星光燦爛爛』(1988)への出演依頼があり、その出演がきっかけで、同年クラレンス・フォーの『公子多情』に出演。相次いでウォン・カーウァイの『欲望の翼』とホウ・シャオシェンの『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)に出演している。


■ライ・チン(ミスター・ホー)

1933年上海生まれ。1955年に中国映画界でユー・フェンの『青山翠谷』でデビュー。1年後、同監督の大ヒット作品『金蓮花』(1956)で伝説的なスター、リン・ダイと共演し、香港製北京語アクション映画での主役スターとしての地位を確立する。最初はさわやかな好青年の役が多かったが、反抗的な若者を演じたウー・ジャーシャンの古典的名作『Father and Son』(1961)以来、暗い影を背負ったキャラクターで知られるようになる。コメディから時代劇まで様々なジャンルの映画に50本以上出演。1966年には金鷹影片公司という会社を設立し、引退するまでに7つの剣劇映画を製作し成功させた。アンドリュー・ラウ監督の『欲望の街 古惑仔』シリーズへの特別出演を別とすれば、『花様年華』は、久々のスクリーン復帰作。その他の主演作は『空中小姐』(1958)、『愛的教育』(1964)などがある。


■スー・ピンラン(アーピン)

スー・ピンランは香港で生まれ、1980年代に小道具係として映画業界に入った。小道具係としてチン・シュウタンの『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1985)、『スウォーズマン 女神伝説の章』(1992)、ユン・ブンの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ4 天地覇王』(1993)、そして特撮小道具も担当したツイ・ハークの『青蛇転生』(1993)などの映画がある。ウォン・カーウァイの前4作(『欲望の翼』『楽園の瑕』『天使の涙』『ブエノスアイレス』)でも小道具係として参加。今回、彼の60年代風の容貌に感銘を受けた監督がアービン役を作り出し、これが彼にとっての本格的な演技となった。新しい経験は楽しかったとのことだが、今後も小道具係として働いていくつもりである。


■クリストファー・ドイル(撮影)

シドニー郊外に生まれたドイルは、中国語を学ぶため台湾に定住するまでは、世界中を放浪していた。劇団に所属したことから、やがて映画撮影に引き込まれ、1983年にはエドワード・ヤンの初長編映画『海辺の一日』の撮影を担当。アジア太平洋映画祭で1983年度最優秀撮影技術賞を受賞した。フランスで短期に滞在していた頃には、クレア・デヴェルスの『Noir et Blanc』に共同撮影監督として参加。1986年にシュウ・ケイの長編第2作『ソウル』(香港映画賞で最優秀撮影技術賞を受賞)を撮影するために香港に渡り、以後、香港をベースにアジアとアメリカと幅広い活躍をみせている。ドイルはスタンリー・クワンの『赤い薔薇 白い薔薇』(1994)、スタン・ライの『暗戀桃花源』(1992)、パク・キョンの『モーテルカクタス』(1997)、そしてチェン・カイコーの『花の影』(1996)などの作品に参加。アメリカでの長編作品はガス・ヴァン・サントによるリメイク版『サイコ』(1998)や、バリー・レヴィンソンの『Liberty Heights』がある。また1999年には初長編映画となる『孔雀/KUJAJKU』を監督、撮影した。『花様年華』は、ウォン・カーウァイとの6作目のコラボレーションになる。


■リー・ピンビン(撮影)

台湾生まれのリー・ピンビンは、1977年から映画業界に入り、台湾や香港で40本以上の作品の撮影監督を担当している。1984年からホウ・シャオシェンの側近として、『童年往事 時の流れ』(1985)『恋恋風塵』(1986)、台湾金馬奨撮影技術賞を受賞した『戯夢人生』(1993)、『憂鬱な楽園』(1996)、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)を含む、同監督の作品を撮影してきた。香港では『上海の休日』(1990)や『女人、四十。』(1995、台湾金馬奨撮影技術賞受賞)などで、アン・ホイと仕事をしている。ウォン・カーウァイの『天使の涙』に参加、その仕事ぶりを評価されて今回の起用となった。


■マイケル・ガラッソ(音楽)

国際的に賞賛されている作曲家、ヴァイオリニスト、そして音楽監督であるマイケル・ガラッソは、ロバート・ウィルソンの「The Life and Times of Joseph Stalin」の音楽を作曲し、作曲家としての活動をスタートさせた。ルシンダ・チャイルズ、アンディ・ディグロートなど、名だたる振り付け師とのコラボレーションは高く評価されている。1981年ガラッソは、スイス人監督フランシス・ルッセル作品『Seul』で始めて映画音楽を作曲。1994年には『恋する惑星』で彼の曲が使用された。ガラッソの最近の活動は、主に映画、ダンス、舞台に重点を置いている。


■ウィリアム・チャン(美術・編集・衣装)

ウィリアム・チャンは、香港映画界でアート・ディレクターとして活躍している。ウォン・カーウァイ作品の他に、最近の香港メジャー映画に数多く関わっている。イム・ホーの『ホームカミング』(1984)と『レッド・ダスト』(1990)、スタン・ライの『暗戀桃花源』(1992)、ツイ・ハークの『蜀山奇傳 天空の剣』(1983)、『スウォーズマン 女神伝説の章』(1992)、『スウォーズマン 女神復活の章』(1993)、『バタフライ・ラヴァーズ』(1994)、『トワイライト・ランデヴー 花月佳期』(1995)、『金玉満堂 決戦!炎の料理人』(1995)、『ブレード/刀』(1995)、他に『夢中人』(1986)、『キラー・ウルフ』(1993)、『花の影』(1996)などに参加。また、『楽園の瑕』からウォン・カーウァイ作品の編集も担当している。