【解説】
◆この世に完璧(フローレス)な人間などいない…名優デ・ニーロ最新作!!
名作『お熱いのがお好き』のジョー・E・ブラウン(ジャック・レモン)を追いかけ回す初老のプレイボーイ)曰く"この世に完璧な人間などいない"。
少々モンダイありの男2人が、時にはケンカ腰に、いろいろトラブルを起こしながらも、心の絆を深めてゆく。1968年『真夜中のカーボーイ』、1973年『スケアクロウ』、1988年『レインマン』…アメリカ映画の最も良質な部分が生んだ名作の隊列に、この2000年、『フローレス』が加わる。それは、天下の名優ロバート・デ・ニーロが選んだ最高のバディ・ムービー!
大都会ニューヨークの片隅に生きている“こだわり人”2人。ローワーイーストサイドのアパートに住むウォルトは、元警官の独身中年男。典型的な共和党支持者って感じのたたきあげ。一方、斜め上の部屋に住むラスティは派手な衣装で闊歩するドラッグ・クイーンでもあるプロの歌手。保守的な頑固者と革新的な自由人。性に関する考え方も当然天と地の開きがある。2人の共通項といったら同じアパートの住人ということぐらい。太陽が西から昇っても彼らが仲良くなることはない“犬猿の仲”のはずだったが、ウォルトは医師に、脳卒中から来る発音障害のリハビリには歌がいいとアドバイスされ、ほかに選択肢のない彼は恥を忍んでラスティの部屋の扉を叩いたことがきっかけで、気が付いて見たら“無二の仲”になっていた。だから人間って面白い、人間って素晴らしい!
ウォルト役には『ゴッドファーザーPARTll』でアカデミー助演男優賞、『レイジング・ブル』でアカデミー主演男優賞に輝き、現代ハリウッドの最高の名優、カリスマ、個性派の名を欲しいままにするロバート・デ・ニーロ。元警官で手柄をたて“街のヒーロー”だったプライドの高い中年男が脳卒中で体の一部が麻痺してしまうその歯痒さ、いらだちを演じて絶妙にして絶品。スタッフやキャストは、デ・ニーロが本当に発作を起こしたのか、と思ったほど迫真の演技。まさに“デ・ニーロ・アプローチ”の真髄だろう!
デ・ニーロが出演する、というだけでその映画の格が上がるといわれているほどだが、今回は自ら主宰する製作プロ“トライベッカ”が肝入りで作った作品。自ら監督を兼任した『ブロンクス物語』など“トライベッカ作品”には、ニューヨークの片隅に生きる人々への思いが目立つ。実際にニューヨーク生まれのデ・ニーロは、この街に生きる人々に常に愛惜を込めており、本作も例外ではない。
そんな“デ・ニーロ・ブランド”だけでも素晴らしいのに、共演者もまた実に魅力的。ラスティには『ブギーナイツ』『ハピネス』で人気急上昇のフィリップ・シーモア・ホフマン。ギンギラギンのドラッグ・クイーンの外見だけでなく、繊細な内面も見事に演じて、天下の名優デ・ニーロ相手に一歩も引かない熱演を見せる。その演技力は“ヤング・デ・ニーロ”だ、と本作のスタッフにも絶賛されたほど。そのほかブロードウェイで有名な「レント」の“トニー賞俳優”ウィルソン・ジャメイン・エイレイジャーがドラッグ・クイーンの一人に、同じく「レント」のダフニ・ルービン・ヴェガがいかにもデ・ニーロ好みのキレイどころを演じ、さらに『サタディ・ナイト・フィーバー』のバリー・ミラー、『RONIN』のスキップ・サダスなどの個性派役者が脇でいい味を出している。そして、ホンモノのドラッグ・クイーンのおネエさま方も多数出演、映画を一層引き立てている。
監督は『バットマン・フォーエヴァー』『フォーリング・ダウン』『評決のとき』など良質のハリウッド映画の作り手であると同時に、ヒットメーカーでもあるジョエル・シューマカー。製作、脚本も兼任しているこの作品は監督14本目。ちなみに本作のインスピレーションは、小さな脳卒中発作を何度も起こした親友の体験に立ち会った時に生まれたものだという。歌のレッスンが言葉のリハビリに効果的だと知り、その友人のボイス・コーチに取材し「卒中を起こした人と歌の先生の出会いが映画にならないだろうか」と思い立った、という。そんな小さなインスピレーションが、名優の心を揺り動かし、ユニークな設定、スリリングな展開、ユーモアとペーソスあふれる傑作の誕生につながったのだ。
スタッフももちろん一流揃い。撮影は『リービング・ラスベガス』『母の眠り』『カーマ・スートラ 愛の教科書』のデクラン・クイン、プロダクション・デザイナーはアカデミー賞ノミネートの実績を持つ『若草物語』『ガタカ』のジャン・ロエルフス、衣装デザイナーは『ザ・ファン』のダニエル・オーランディ、編集は『バットマン フォーエヴァー』『バットマン&ロビン Mr.フロストの逆襲』のマーク・スティーブンス。「人はみな裸で生まれたのであり、その後に身につけたものはどれもつまらないものである」…ル・ポール。同じ人間であることの意味を、外見や考え方にこだわって見失ってはいけない。表紙を見ただけで本の中身を決めつけてはいけないように、ズボンを見ただけでその人を判断してはいけない。人間はしばらく向き合えば、違いよりも共通点を見いだすことが出来るはず。長年敵対してきた北と南の指導者がとりあえず握手してみようか、という時代です。少しおおげさに言えば、“共生と融和の時代” 21世紀へのメッセージがさりげなくこめられた愛すべきバディ・ムービー。それが『フローレス』!
|