『フローレス』



2000年9月2日より全国ロードショー

1999年/アメリカ/1時間51分/ビスタビジョン/DTS SR/翻訳:古田由紀子 メトロ・ゴールドウィン・メイヤー映画提供/トライベッカ・プロダクション/UIP配給

◇監督・製作・脚本:ジョエル・シューマカー ◇撮影:デクラン・クイン ◇プロダクション・デザイナー:ジャン・ロエルフス ◇衣装デザイナー:ダニエル・オーランディ ◇編集:マーク・スティーブンス

◇キャスト:ロバート・デ・ニーロ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ウィルソン・ジャメイン・エイレイジャー、ダフニ・ルービン・ヴェガ、バリー・ミラー、スキップ・サダス



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【解説】

◆この世に完璧(フローレス)な人間などいない…名優デ・ニーロ最新作!!

名作『お熱いのがお好き』のジョー・E・ブラウン(ジャック・レモン)を追いかけ回す初老のプレイボーイ)曰く"この世に完璧な人間などいない"。
少々モンダイありの男2人が、時にはケンカ腰に、いろいろトラブルを起こしながらも、心の絆を深めてゆく。1968年『真夜中のカーボーイ』、1973年『スケアクロウ』、1988年『レインマン』…アメリカ映画の最も良質な部分が生んだ名作の隊列に、この2000年、『フローレス』が加わる。それは、天下の名優ロバート・デ・ニーロが選んだ最高のバディ・ムービー!

大都会ニューヨークの片隅に生きている“こだわり人”2人。ローワーイーストサイドのアパートに住むウォルトは、元警官の独身中年男。典型的な共和党支持者って感じのたたきあげ。一方、斜め上の部屋に住むラスティは派手な衣装で闊歩するドラッグ・クイーンでもあるプロの歌手。保守的な頑固者と革新的な自由人。性に関する考え方も当然天と地の開きがある。2人の共通項といったら同じアパートの住人ということぐらい。太陽が西から昇っても彼らが仲良くなることはない“犬猿の仲”のはずだったが、ウォルトは医師に、脳卒中から来る発音障害のリハビリには歌がいいとアドバイスされ、ほかに選択肢のない彼は恥を忍んでラスティの部屋の扉を叩いたことがきっかけで、気が付いて見たら“無二の仲”になっていた。だから人間って面白い、人間って素晴らしい!
ウォルト役には『ゴッドファーザーPARTll』でアカデミー助演男優賞、『レイジング・ブル』でアカデミー主演男優賞に輝き、現代ハリウッドの最高の名優、カリスマ、個性派の名を欲しいままにするロバート・デ・ニーロ。元警官で手柄をたて“街のヒーロー”だったプライドの高い中年男が脳卒中で体の一部が麻痺してしまうその歯痒さ、いらだちを演じて絶妙にして絶品。スタッフやキャストは、デ・ニーロが本当に発作を起こしたのか、と思ったほど迫真の演技。まさに“デ・ニーロ・アプローチ”の真髄だろう!

デ・ニーロが出演する、というだけでその映画の格が上がるといわれているほどだが、今回は自ら主宰する製作プロ“トライベッカ”が肝入りで作った作品。自ら監督を兼任した『ブロンクス物語』など“トライベッカ作品”には、ニューヨークの片隅に生きる人々への思いが目立つ。実際にニューヨーク生まれのデ・ニーロは、この街に生きる人々に常に愛惜を込めており、本作も例外ではない。



そんな“デ・ニーロ・ブランド”だけでも素晴らしいのに、共演者もまた実に魅力的。ラスティには『ブギーナイツ』『ハピネス』で人気急上昇のフィリップ・シーモア・ホフマン。ギンギラギンのドラッグ・クイーンの外見だけでなく、繊細な内面も見事に演じて、天下の名優デ・ニーロ相手に一歩も引かない熱演を見せる。その演技力は“ヤング・デ・ニーロ”だ、と本作のスタッフにも絶賛されたほど。そのほかブロードウェイで有名な「レント」の“トニー賞俳優”ウィルソン・ジャメイン・エイレイジャーがドラッグ・クイーンの一人に、同じく「レント」のダフニ・ルービン・ヴェガがいかにもデ・ニーロ好みのキレイどころを演じ、さらに『サタディ・ナイト・フィーバー』のバリー・ミラー、『RONIN』のスキップ・サダスなどの個性派役者が脇でいい味を出している。そして、ホンモノのドラッグ・クイーンのおネエさま方も多数出演、映画を一層引き立てている。

監督は『バットマン・フォーエヴァー』『フォーリング・ダウン』『評決のとき』など良質のハリウッド映画の作り手であると同時に、ヒットメーカーでもあるジョエル・シューマカー。製作、脚本も兼任しているこの作品は監督14本目。ちなみに本作のインスピレーションは、小さな脳卒中発作を何度も起こした親友の体験に立ち会った時に生まれたものだという。歌のレッスンが言葉のリハビリに効果的だと知り、その友人のボイス・コーチに取材し「卒中を起こした人と歌の先生の出会いが映画にならないだろうか」と思い立った、という。そんな小さなインスピレーションが、名優の心を揺り動かし、ユニークな設定、スリリングな展開、ユーモアとペーソスあふれる傑作の誕生につながったのだ。

スタッフももちろん一流揃い。撮影は『リービング・ラスベガス』『母の眠り』『カーマ・スートラ 愛の教科書』のデクラン・クイン、プロダクション・デザイナーはアカデミー賞ノミネートの実績を持つ『若草物語』『ガタカ』のジャン・ロエルフス、衣装デザイナーは『ザ・ファン』のダニエル・オーランディ、編集は『バットマン フォーエヴァー』『バットマン&ロビン Mr.フロストの逆襲』のマーク・スティーブンス。「人はみな裸で生まれたのであり、その後に身につけたものはどれもつまらないものである」…ル・ポール。同じ人間であることの意味を、外見や考え方にこだわって見失ってはいけない。表紙を見ただけで本の中身を決めつけてはいけないように、ズボンを見ただけでその人を判断してはいけない。人間はしばらく向き合えば、違いよりも共通点を見いだすことが出来るはず。長年敵対してきた北と南の指導者がとりあえず握手してみようか、という時代です。少しおおげさに言えば、“共生と融和の時代” 21世紀へのメッセージがさりげなくこめられた愛すべきバディ・ムービー。それが『フローレス』!



 


【ストーリー】

◆オカマ嫌いの元警官とドラッグ・クイーン…犬猿の仲から真の友情が?

ニューヨークのローワーイーストサイド。ビルに囲まれた狭い公園で壁を利用したハンドテニスに興じる中年男ウォルト(ロバート・デ・ニーロ)。その後方で、マフィアのミスターZ一味のヤバい金を一瞬の隙を衝いて奪った男が、追っ手に追われて屋根伝いに逃げてゆく。それは一見、ウォルトには直接関係のない出来事に映った。
アパートに戻ったウォルトは斜め上に住むドラッグクイーンのラスティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)といつものように口げんか。ウォルトは共和党びいきの保守的な男の例に漏れず、オカマ嫌いだ。彼の誇りは、かつて警官だった時に強盗事件で手柄を立て、それが仲間内で語り継がれている“街のヒーロー”であることだ。行きつけのダンス・クラブではなじみのダンサー、カレン(ワンダ・デ・ジーザス)とひと踊りしてベッドを共にする。ウォルトを慕う娼婦のティア(ダフニ・ルービン・ヴェガ)がアプローチしても、「俺は娼婦とは遊ばない主義だ」と冷たくあしらう。“金で女を買わない”こだわりもウォルトのプライドのひとつだった。一方、プロの歌手、芸人であるラスティはゲイクラブで軽妙な司会を拍手喝采でこなしていた。

ある日、ラスティの部屋でマフィアがらみのトラブルが発生した。ミスターZの金を奪った男アンバーを友人としてかくまっていたのを、フロント係のレオナードが密告し、マフィアに押し入られたのだ。銃撃音が聞こえ、元警官の血が騒いだウォルトは、おっとり刀でかけつけるが、階段で突然発作に襲われ、昏倒した彼は病院に運ばれる。意識は回復したものの、脳卒中で右半身が麻痺したままだった。しばらくして退院したが、不自由な生活を強いられる。運動神経が発達しタフが売り物だった男だけに、洗面の簡単な作業もままならない自分の体に思わず涙が出てしまう。惨めな姿を見せたくないと友人のたまり場にも足が遠のき、アパートの自室で抜け殻のような時間を過ごす。
一方ラスティは、殺されてしまった友人アンバーの遺灰を手に自室に戻ってくるが、マフィアに待ち構えられ、奪った金のありかを言え、との脅迫にも屈しなかった。ラスティはウォルトがアンバーを助けようとして、脳卒中で倒れたことを 知って、お礼を言おうとするが、いじけたウォルトの態度にまた口ゲンカ。だが、ウォルトはラスティを無視するわけにもいかなくなっていた。医師がリハビリに歌のレッスンを勧めるが、歩行に苦労するのと外出して自分の姿を人目にさらしたくない彼にとって唯一の歌のコーチになりそうなのは同じアパートのラスティだけなのだ。ウォルトは意を決して、部屋を訪ねる。金を払うから歌のレッスンをしてくれ、との頼みを「ヒトラーにフェラするほうがマシよ」とあしらわれるが、根は優しいラスティは「明日からいらっしゃい」と受け入れる。




翌日、ウォルトが現れるが、あまりにも価値観が違う2人だけに、すぐケンカ。「オカマに同情されたくない」「人生から逃げる気?」と言い合いになるが、やがてウォルトのドラッグ・クイーン仲間も現れて賑やかな騒ぎとなり、ウォルトの心も少しなごんでくる。ある日、ラスティに電話が入ると、電話口の彼の顔が曇り、今日のレッスンは中止だという。寂しさを紛らわせるため、ウォルトはダンサーのカレンに電話するが、彼がお金が乏しいことを知ると、あからさまに言い訳を作って避けてしまう。そういえば、いつも家賃が払えないから助けて、とお金をせびっていたっけ、金の切れ目が縁の切れ目か、モテてたつもりが、単なる金づるだったのか…ウォルトの中で一つの価値観が崩れていった。
何日かして、ラスティは戻ってきた。母の葬儀があったのだという。これを機に、ラスティは自分の生い立ちを含めて、洗いざらいをウォルトにぶちまけ、ウォルトもそれを聞き入った。そんな時、ラスティのたちの悪いボーイフレンドが金をせびりにやってきたが、鉄板を入れて強化した別室に逃げ込んで難を逃れ、この“事件”を機に2人の間の溝がまた縮まった。そんな折り、ウォルトの元の警官仲間で今は警備員をやっているトミー(スキップ・サダス)が心配して、なじみの友達を引き連れ、カードをしに押しかける。そこに、ティアもまた現れた。気を利かせて退散するトミーたち。ティアはウォルトの好きなタンゴの曲を録音したテープと花束で癒してくれた。2人はタンゴを踊り、ティアがウォルトを誘ってくれないの、と口説く。金はないよ、とウォルト。いらないわ、とティア。そんないいムードにウォルトが水を差す。「そうか、トミーが金を渡して、頼んだんだな」という無粋な一言は、無償の彼女の好意を踏みにじってしまう。ティアは当然のごとく「本当に哀れな人ね」と怒って帰ってしまう。


やがてラスティから歌のレッスンはもう卒業よ、と言われるウォルト。言葉のリハビリとともに、彼の歪んだ狭い心も矯正されつつあった。部屋を訪ねると、ドラッグ・クイーン仲間が、ウォルトの“卒業パーティー”を催してくれた。下のピザ屋のマッチョ青年も飛び入りして、ハチャメチャの中にもあったかい人間同士のふれあい。パーティーの後、ウォルトとラスティは真の友人として心ゆくまで語り合った。今度はウォルトが自分の生い立ちも秘密も打ち明ける番だった。
そこでラスティは驚くべき告白をした。「実はアンバーが奪った、ミスターZが血眼で今も探している大金を隠し持っているの。部屋にあるマネキンのヒップとおっぱいが隠し場所よ」と。ここでまた、ウォルトの不用意な発言で大ゲンカ。

ウォルトはケジメをつけるべく、ダンス・クラブに向かう。花を手に、ティアに非礼を詫び、仲直りのダンスをするべく。それをティアは受け入れてくれて、ウォルトは脳卒中で倒れて以来初めてセックスをする。それは何の打算もない純粋な営みだった。
アパートに帰ったウォルトにフロントのレオナードが今夜物音がしても気にしないように、と因果を含める。不審に思ったウォルトが探りを入れると、案の定ミスターZが内偵して、ラスティが金を隠していることを嗅ぎ付けたのだ。ラスティの身が危ない。ウォルトは真の友だちを守るべく、本当のヒーローになるために立ち上がった…。
 


【キャスト&スタッフ】

■ロバート・デ・ニーロ(ウォルト)

1943年8月17日ニューヨーク生まれ。数多い映画出演のスタートを切ったのは、1969年、ブライアン・デ・パルマの『The Wedding Party』だった。彼が一躍注目を浴びたのはマーティン・スコセッシの『ミーン・ストリート』(1973)で見せた演技で、ニューヨーク映画批評家賞の助演男優賞を受けた。1974年には『ゴッドファーザーPARTll』で、アカデミー賞助演男優賞を受け、彼のキャリアを決定づけた。そして1980年にはスコセッシの名作『タクシー・ドライバー』(1976)で見せたトラヴィス役、マイケル・チミノの『ディア・ハンター』(1978)のベトナム帰還兵、ペニー・マーシャルの『レナードの朝』(1990)の昏睡病患者、スコセッシの『ケープ・フィアー』(1991)の弁護士家族を執拗に狙うストーカー役がある。 デ・ニーロの華々しい作品リストには、エリア・カザンの『ラスト・タイクーン』(1976)ベルナルド・ベルトリッチの『1900年』(1976)、『恋におちて』、セルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)、スコセッシの『キング・オブ・コメディー』(1983)、『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977)、『グッド・フェローズ』(1990)、『カジノ』(1995)、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』(1985)ロン・ハワードの『バック・ドラフト』(1991)、マイケル・マンの『ヒート』(1995)、クエンティン・タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』(1997)、ジョン・フランケンハイマーの『RONIN』(1999)、ハロルド・ライミスの『アナライズ・ミー』(1999)などがある。 1988年に自分のプロダクション会社、トライベッカ・プロダクションとトライベッカ・フィルム・センターを設立し、プロデューサー、監督、俳優の役割を全てこなしている。 トライベッカの主な作品には『ケープ・フィアー』(1991)、『マイ・ルーム』(1996)、『ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ』(1997)、最近作には『The Adventures of Rocky and Bullwinkle』(2000)などがある。

■フィリップ・シーモア・ホフマン(ラスティ)

1967年7月23日ニューヨーク生まれ。個性的なキャラクターと確かな演技力で話題作に多く出演、作品によって様々な役柄を演じ分ける才能を持つカメレオンのような俳優として近年評価が高い。
ニューヨーク大学で演劇を学ぶ。ヤン・デ・ボン監督の『ツイスター』(1996)で注目され、ポール・トーマス・アンダーソン監督の出世作『ブギー・ナイツ』(1997)でポルノ映画界の取り巻きスコットJを演じ、コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』(1998)では大金持ちの忠実な秘書役、ロビン・ウィリアム主演の『パッチ・アダムス』(1999)での嫌味なクラスメイト役で強い印象を残した。『マグノリア』(1999)ではナショナル・ボード・オブ・レビューの最優秀助演男優賞を受賞。その他、『ハピネス』(1999)『リプリー』(1999)などの話題作に出演している。ホフマンは映画とともに舞台でも活躍している。オフ・ブロードウェイ作品「Shopping and Fucking」で高い評価を受けたほか、シカゴ、パリ、ロンドンで上演されたピーター・セラー演出の「ヴェニスの商人」にも出演した。その他の出演作には『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』(1992)『ノーバディーズ・フール』(1994)『ゲッタウェイ』(1995)などがある。


■ジョエル・シューマカー(監督)

1942年、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。アメリカ映画界のヒットメーカーの一人である。テレビCMのアートディレクターからキャリアをスタートしたシューマカーはその後、ウディ・アレンの『スリーパー』(1973)、『インテリア』(1978)などで衣装デザイナーを務めた。
映画監督のデビュー作はリリー・トムリン主演の『縮みゆく女』(1981)で、その後脚本も手がけた『D.C.キャブ』(1983)を監督。1985年の『セント・エルモス・ファイア』は青春映画の名作として評価が高く、この作品で監督としての地位を確立した。その後、『ロストボーイ』『フラット・ライナーズ』(1990)『愛の選択』(1991)、ジャンルを問わず多彩な作品を手がけ、1994年には『依頼人』、1995年の『バットマン フォーエヴァー』はその年のアメリカ国内で最高のヒットを記録した。その他の作品には『フォーリング・ダウン』(1993)『評決のとき』(1996)『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1977)『8mm』(1999)がある。