『コーンウォールの森へ』
1999年/イギリス/シネマスコープ/SR/6巻/1時間53分 配給:松竹株式会社

◇製作総指揮:クリス・オーティ ◇製作・監督:ジェレミー・トーマス ◇脚本:エスキー・トーマス ◇原作:ウォーカー・ハミルトン ◇撮影:マイク・モロイ ◇音楽:リチャード・ハートリー ◇美術:アンドリュー・サンダース ◇編集:ジョン・ヴィクター・スミス ◇キャスティング:セレスティア・フォックス

◇キャスト:ジョン・ハート、クリスチャン・ベール、ダニエル・ベンザリ、シェーン・バークス、ジェームス・フォークナー、ジョン・オトゥール、エイミー・ロビンス



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【解説】

◆<妖精と出逢ったあの夏>を僕は忘れない…


作品賞を含む合計9個のオスカーを受賞した『ラストエンペラー』(1987)を筆頭に、『戦場のメリークリスマス』(1983)『シェルタリング・スカイ』(1990)といった数々の話題作・名作を生み出し、北野武監督のアメリカ進出第一作『BROTHER』の製作にも名を連ねるジェレミー・トーマスは、過去20年以上にわたり、国際舞台の第一線で活躍を続けるイギリス屈指の名プロデューサーだ。その彼が、ついに念願の監督デビューを果たした。『コーンウォールの森へ』は、夭折の作家ウォーカー・ハミルトンが1968年に発表した長編処女小説の映画化。1970年代の始めに原作と出会って以来、映画化を熱望してきたトーマスにとっては、まさに夢の実現と呼べる作品である。

主人公は、少年時代の事故の後遺症と薬物治療の影響で脳に障害を負った青年ボビー。母の死後、冷酷な継父に怯えながら暮らしていた彼は、施設に送るという継父の言葉を聞いて家出を決意。一度夢に見たことのある憧れの地コーンウォールをめざしてヒッチハイクの旅に出る。その途上で待ち受けていたミスター・サマーズとの運命的な出会い。車にひかれた動物の埋葬をライフワークにするサマーズは、「どんな命にも等しく価値がある」をモットーに、自然と共存する暮らしを送っていた。そんなサマーズとの生活を通して、次第に自分自身の命の価値に目覚めていくボビー。だが彼の人生は、再び継父の魔の手が忍び寄ってくる…。

自然との触れ合い、自分もその大きな宇宙の一部だと感じることで成長を遂げていくボビーの物語は、<大人のフェアリーテイル>と呼ぶにふさわしいさまざまな寓意を含んでいる。ボビーの継父デ・ウィンターは、合理主義と貪欲さが最優先される文明社会を象徴する存在だ。かたやミスター・サマーズは、自然への回帰を切望する人物だ。デ・ウィンター(冬)の世界から逃亡をはかったボビーは、サマーズ(夏)の世界に安らぎと癒しを見出し、さらにデ・ウィンターと対決を演じることで自分自身の世界を発見していく。そんな彼をディケンズ作品の流れを汲むヒーローとみなし、サスペンスフルに展開していくドラマは、「冬の世界」の抑圧下に生きる現代の我々に、自然と人、人と人の関わりを深く考えさせるものになっている。

純粋すぎるほど純粋なボビーを演じるのは、スピルバーグに見出されて『太陽の帝国』(1987)に主演し、『ベルベット・ゴールドマイン』(1998)『AMERICAN PSYCO』で演技派スターへの転身を成功させたクリスチャン・ベール。監督のトーマスが「最初にして最後のチョイスだった」と言うだけあり、キャラクターの変貌ぶりを細やかに物語る演技は素晴らしいの一語だ。そのボビーの心の師となるミスター・サマーズには、『エレファント・マン』(1980)でその名声を確立したジョン・ハート。ボビーの人生に脅威を与えるファットことデ・ウィンターには、『エビータ』(1996)『サンセット大通り』(1950)のヒット・ミュージカルの舞台で知られるダニエル・ベンザリ。エキセントリックで複雑なキャラクターに類稀なる個性を発揮するふたりの演技対決も、本作の大きな見どころだ。

初監督のトーマスを支えるのは、彼が長年にわたるプロデューサー生活で信頼を培ってきたスタッフたち。撮影は『スキャンダル』(1976)のマイク・モロイ。プロダクション・デザインは『シェルタリング・スカイ』(1990)のアンドリュー・サンダース。衣装デザインは『魅せられて』(1996)のルイーズ・ストジェーンスウォード。編集は、『HELP! 四人はアイドル』(1965)をはじめリチャード・レスター監督とのコンビで知られるジョン・ヴィクター・スミス。ザ・ペンギン・カフェ・オーケストラをフィーチャーした音楽は、『魅せられて』のリチャード・ハートリーが担当。彼らは絶妙のコラボレーションで、コーンウォール地方の神秘的な自然にマッチした寓話の世界を作り上げている。 本作で、トーマスはカンヌ映画祭のカメラドールにノミネート。また、ディナード・ブリティッシュ映画祭のゴールデン・ヒッチコック賞、サン・セバスチャン国際映画祭の観客賞の候補にもあがった。




 


【ストーリー】

◆大人のフェアリーテイル


子供のころの交通事故と薬物療法が原因で脳に障害を負ったボビー(クリスチャン・ベール)にとって、人生はままならないものだった。仕事や勉強に対する意欲はあるのに、それを実現させることができない。歯がゆい思いをかみしめながらも、彼には自分の生き方をどうすることもできなかった。そんなボビーに突然の不幸が襲いかかる。人一倍傷つきやすい自分を外の世界から守ってくれていた母親が、この世を去ったのだ。悲しみと孤独にうちひしがれるボビーには、いまやネズミのピーターだけが、唯一心を打ち明けられる友達だった。 ボビーの母は、ロンドンで百貨店を営んでいた。店の経営を仕切っているのは継父のファットことデ・ウィンター(ダニエル・ベンザリ)。やり手の実業家だが冷酷なサディストの横顔を持つ彼は、葬儀のあと、さっそくボビーを自室に呼びつけると、「遺産相続の権利を放棄する書類にサインしなければ施設に入れる」と言ってボビーを脅す。ボビーには遺産などどうでもよかったのだが、店を人手に渡さない約束を母としていた彼は、ファットの申し出を泣きながら突っぱねた。怒ったファットは、ボビーが寝ている間にピーターを殺し、ボビーにも同じ運命が待ち受けていることをほのめかした。

恐怖にかられたボビーは家を飛び出し、あてもないままひたすら歩き続けた。ファットからできるだけ遠くに離れたい一心で。しかし、疲れ果てて道端にすわりこんでいる彼を車に乗せてくれるカップルが現れたとき、ボビーは自分がコーンウォールを目指していることに気づく。そこは、彼が一度だけ夢のなかで訪れたことのある場所だった。 ヒッチハイクのやり方を覚えたボビーは、トゥルーロー行きのトラックに便乗し、半島の入り口にさしかかった。そのとき、予期せぬ出来事が起こった。運転手が、道路に飛び出したキツネをわざとひき殺そうとしたのだ。驚いたボビーは夢中でハンドルに飛びつき、運転手を制止した。が、もみあいになり、トラックは横転。間一髪で外に飛び出したボビーは無事だったが、トラックの下敷きになった運転手は助からなかった。その事故の一部始終を目撃していた男がいた。彼は、キツネの代わりに犠牲になったウサギの死骸を抱えると、運転手には眼もくれずに森の中へ歩み去った。興味をひかれて後をつけたボビーは、男がていねいにウサギを埋葬するのを木陰からじっとみつめ続けた。





「人間が動物を殺し、私は埋める」 それが自分の仕事だという男に、ボビーは直感的に親しみを覚え、仕事を手伝わせてくれとうったえた。そのあまりの必死さに根負けした男は、しぶしぶボビーを助手にすることに同意し、彼を小屋に連れ帰った。 これが、ボビーとミスター・サマーズ(ジョン・ハート)との出会いだった。サマーズに連れられ、野山をめぐる日々のなかで、あらゆる命が等しく尊いことを学んでいくボビー。神秘的な自然を肌で感じ、自分もその一部であることを知った彼は、薬物療法を免れたことも手伝って、少しずつ20代の若者らしい生気を取り戻していく。いっぽう、動物を殺す人間に敵意しか抱いていなかったサマーズも、純粋なボビーとの触れ合いを通して、人を愛する心に目覚めていく。

ふたりの夏の日は永遠に続くかに思われた。しかし、海岸へアイスクリームを買いに行ったボビーがファットの弁護士と会ってしまったことから、彼の人生には再び悪夢の影が忍び込んでくる。自分の居場所がファットにみつかるのは時間の問題だ。そう思ったボビーは、家出にいたるまでの出来事を洗いざらいサマーズに告白した。辛抱強く、黙って耳を傾けるサマーズ。やがて彼は、自らの驚くべき過去を語り始めた…。



 


【キャスト&スタッフ】

■クリスチャン・ベール(ボビー)

1974年1月30日、英ウェールズ生まれ。10歳のとき、ローワン・アトキンソン共演の舞台で役者デビュー。1987年、4000人の候補者から選ばれてスピルバーグ監督の『太陽の帝国』に主演し、繊細な演技を高く評価された。その後は学業中心の生活を送りながら『ヘンリー五世』などに出演。1992年の『ニュージーズ』で本格的にハリウッドに進出し、『若草物語』(1994)『ある貴婦人の肖像』(1996)で若手演技派の地位を確立。『ベルベッド・ゴールドマイン』(1998)『真夏の夜の夢』(1999)に続く『AMERICAN PSYCO』(2000)でポスト・ディカプリオの筆頭候補に躍り出た。今夏はサミュエル・L・ジャクソン共演の『Shaft』も全米公開される。


■ジョン・ハート(ミスター・サマーズ)

1940年1月22日、英ダービシャーのチェスターフィールド生まれ。1962年にRADAを卒業、舞台で活躍するかたわら、ジェレミー・トーマスの父ラルフが監督をつとめた『The Wild and The Willing』で映画デビューを飾った。その後『わが命つきるとも』(1966)『二人だけの白い雪』(1972)などに出演。1978年の『ミッドナイト・エクスプレス』でゴールデン・グローブ助演男優賞を受賞、他の代表作は『エレファント・マン』(1980)『エイリアン』(1979)『スキャンダル』(1989)『ロブ・ロイ』(1995)など。近年は『ラブ&デス』(1997)で同性愛に目覚める作家を熱演。また、『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)には製作者として名を連ねている。


■ダニエル・ベンザリ(デ・ウィンター)

1950年1月20日、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ生まれ。NYで育ち、ブロードウェイとロンドンの舞台で活躍。『エビータ』『サンセット大通り』などで名声を築く。映画デビューは1984年の『Home Free All』。『007/美しき獲物たち』(1985)『ホワイトハウス狂騒曲』(1992)『エンド・オブ・バイオレンス』(1997)『ホワイトハウスの陰謀』(1997)などに出演するかたわら、TV「LAロー」「NYPDブルー」にレギュラー出演。「Murder One]のシリーズで人気を博した。


■ジェレミー・トーマス(監督・製作)

1949年7月26日、英ロンドン生まれ。父も叔父も監督という映画一家で成長し、編集助手からキャリアをスタート。オーストラリアで『デニス・ホッパーのマッド・ドッグ・モーガン/賞金首』(1976)を製作したのち、イギリスに戻ってレコーデッド・ピクチャーズ・カンパニーを設立。『ザ・シャウト/さまよえる幻響』(1978)『ジェラシー』(1979)『戦場のメリークリスマス』(1983)といった作品でプロデューサーとしての名声を確立する。1987年の『ラスト・エンペラー』では、トーマス自身の作品賞を含む9個のオスカーを受賞。その後も『シェルタリング・スカイ』(1990)『裸のランチ』(1991)『クラッシュ』(1996/エグゼクティブ・プロデューサー)といった話題作を世に送り続けている。大島渚監督の『御法度』(1999)にはアソシエート・プロデューサーとして参加。北野武監督の『BROTHER』では共同製作を手がけている。


■ウォーカー・ハミルトン(原作)

1934年、スコットランドの鉱山労働者の家庭に生まれ、20代まで肉体労働に従事。1960年代の初めに妻とコーンウォールに移住し、海辺の小屋で暮らしながら執筆活動を続けた。その後、長く不遇時代が続いたが、1968年に本作の「All The Little Animals」で文壇デビュー。ロアルド・ダールから「並外れて感動的な本」と絶賛されるなど、英国内で高い評価を受けた。が、長年の持病をこじらせ、翌年35歳の若さで他界した。第二作「A Dragon's Life」は、死後の1970年に出版されている。


■エスキー・トーマス(脚本)

本作で脚本家デビューを飾る前は、英文学の講師、研究者として活躍。アートと科学に関するノン・フィクションを執筆するなど、活動のフィールドは多岐にわたっている。本作のあと、オリジナル脚本の『In A Season of Soft Rains』を執筆。リチャード・スタンリー監督で映画化が予定されている。


■マイク・モロイ(撮影)

ジェレミー・トーマスがオーストラリアで製作したフィリップ・モーラ監督の『デニス・ホッパーのマッド・ドッグ・モーガン/賞金首』(1976)で撮影監督デビュー。その他に『ショック・トリートメント』(1989)などがある。


■リチャード・ハートリー(音楽)

カルト・ミュージカル「ロッキー・ホラー・ショー」の作曲者として知られるハートリーは、舞台、映画、TVで幅広く活躍する才人。ジェレミー・トーマスとは『ジェラシー』(1979)の音楽を手がけて以来の間柄だ。代表作に、『愛と哀しみのエリザベス』(1975)『ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー』(1984)『魅せられて』(1996)などがある。