『ヤンヤン 夏の想い出』/"YIYI / A ONE AND A TWO"
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ヤンヤン 夏の想い出 [DVD]
2000年12月16日より渋谷シネパレスにて公開

2000年/台湾・日本合作映画/2時間53分/カラー/ドルビーデジタル/日本語字幕:石田泰子/提供:ポニーキャニオン、オメガ・プロジェクト、博報堂/共同配給:オメガ・エンタテインメント、KUZUIエンタープライズ/制作:アトムフィルム

◇監督・脚本:エドワード・ヤン ◇プロデューサー:河井真也、附田斉子 ◇アソシエイト・プロデューサー:ユー・ウェイン、久保田修 ◇撮影:ヤン・ウェイハン ◇照明:リー・ロンユー ◇編集:チェン・ポーウェン ◇録音:ドゥー・ドゥーツ ◇美術・音楽:ペン・カイリー

◇キャスト:ウー・ニエンジェン、エレン・ジン、イッセー尾形、ジョナサン・チャン、ケリー・リー



| 解説 | ストーリー | キャスト&スタッフ |
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【解説】

現代の台北を舞台に、都市に住む人々の現実と彼らが直面する問題をみずみずしく、リアルに描いてきた監督エドワード・ヤン。『恐怖分子』(1986)『クーリンチェ少年殺人事件』(1991)『エドワード・ヤンの恋愛時代』(1994)『カップルズ』(1995)と、常に台湾の若い作家たちをリードし、アジアン・シネマ・ムーブメントの先駆者と称される彼の、集大成ともいえる傑作が登場した。 小学生のヤンヤンを取り囲む、老いた祖母と両親、そして姉という三つの世代の人々の心を深く静かにあぶり出すこの作品は、見る者をおだやかな感動で包み込む。そして、見終わったときには、そっと目から涙が零れ落ちてくる。そのとき、私たちは気づくはずだ。殺伐としていた自分の心がこの映画によって癒され、砂漠に水が浸みわたるように潤いを取り戻していることを……。

2000年5月、新ミレニアムの幕を切って開かれた第53回カンヌ映画祭に出品されたこの作品は、みごと監督賞を受賞。世界中のジャーナリストは透き通るような美しさに魅了されるとともに、涙を浮かべ、そして絶賛の嵐をよせた。既に、アメリカ、フランス、イタリアをはじめ世界中での公開が決まっており、この映画で監督は“世界のエドワード・ヤン”へと大きく飛躍したのである。

ヤンヤンは、優しい祖母、友人と共にコンピューター会社を経営する父NJ、母ミンミン、そして高校生の姉ティンティンの5人家族で台北の洒落たマンションに住んでいる。一家は典型的な中流家庭であり、何不自由なく暮らしている。ところが、母の弟アディの結婚式の日から一家に様々なトラブルが起こり始める。
祖母は脳卒中で昏睡状態に陥り、叔父の元恋人が式場に乗り込んできて三角関係が発覚し、父は偶然初恋の女性に出くわしてしまう。祖母の入院のために、母は精神不安定になって新興宗教に救いを求め、姉は隣家の少女のボーイフレンドと交際を始める。そして、ヤンヤンにも幼い恋心が芽生えようとしていた。

私たちの身の回りに存在する、ごく日常的な人生の出来事。若くても、年老いていても、人は問題を抱え、自分と向き合う過程は同じであり、それはとても難しい事なのだ。監督は、ヤンヤンが人の背中の写真を撮る行為を象徴的に描く事により、人には見えない、もう一つの側面を切りとって見せている。
監督がこの映画のアイデアを思いついたのは12年も前のこと。しかし、本人も認めるように、この作品には歳を重ねて50代になったエドワード・ヤンだからこそ語れる人生の機微が感じられる。静かにゆったりと、対象に適度な距離を保ちつつ、人肌の温もりをもってみつめる人の心。毎朝目を覚ます度に、新しい経験をするヤンヤンには私たちの原点を注ぎ込み、不惑の年を過ぎてなお人生をやり直そうと考えるNJ=中年世代の悲哀を色濃くにじませながら、どの世代にも向ける共感とやさしさ。リアルに“今”を捉えた映像世界の中に、登場人物たちの息づかいと胸の鼓動が聞こえてくる。そこには迷いながらも、恥ずかしくてもたった一度の人生を愛おしむ監督のまなざしがある。それが、じわじわと私たちの心に染み入り、知らぬ間に涙が頬を伝うゆえんなのだ。
監督は「この映画を見終わった観客に、“一人の映画監督”に出会ったというより、“ただの友だち”と一緒にいたかのような気分を味わってほしい」と語っている。確かにこの映画にはそんな自然さと、親密な空気が流れている。これは世界のどこの都市もが抱えている現代社会の縮図であると同時に、「人生と向き合い、いかに新しい経験を生きていくことが重要なのだ」という21世紀へ向けた監督のメッセージなのである。

映画の製作過程で最も大変だったのはキャスティングだという。ただ一人、脚本段階から決定していたのがNJ役のウー・ニエンジェン。監督は自作『海辺の一日』(フェスティバル上映)やホウ・シャオシェンの『恋恋風塵』(1987)『悲情城市』(1989)『戯夢人生』(1993)などの優れた脚本家であり、『多桑/父さん』(1994)の監督、テレビ番組の司会者でもある彼を“台湾屈指の俳優”と評価し、前作『カップルズ』でのエキセントリックなヤクザ役に続いて起用した。そんな監督の期待に応えて、ニエンジェンは見事に抑制された演技を見せてくれる。妻ミンミンを演じるのは『宗家の三姉妹』(1997)『The Island Tale』(2000)のエレン・ジン。他作品の撮影中ということで一度は監督を落胆させたが、その後運良くスケジュールが合って出演できることになった。そして、最も苦労したのはティンティンとヤンヤンに扮する子役たち。まず、新人を発掘するためのワークショップを開設し、そこでみつけたズバ抜けた才能の持ち主ケリー・リーとジョナサン・チャンの年齢に合わせて脚本が書き直された。また、NJの人生観に大きな影響を与える日本人ゲーム・プログラマー大田の役で、イッセー尾形が誠実で滋味あふれるいい味を出しているのも見逃せない。
フィックスを主体とした落ち着いて悠々たる映像は、『海辺の一日』でクリストファー・ドイルのアシスタントにつき、『タイペイ・ストーリー』(フェスティバル上映)で撮影監督を務めたヤン・ウェイハン。照明のリー・ロンユー、編集のチェン・ボーウェンも『*嶺街少年殺人事件』以降、監督と組んでいる気心の知れたスタッフだ。『私をスキーに連れてって』(1987)『病院へ行こう』(1990)『スワロウテイル』(1996)『リング』(1998)など多くの話題作、ヒット作を送り出してきた河井真也と、ポニーキャニオンの附田斉子がプロデュースに当たり、ロケは台湾と日本で行われた。スタッフ、キャストとも両国より参加した日・台合作映画である。




 


【ストーリー】

8歳のヤンヤン(ジョナサン・チャン)は、優しい祖母と40代半ばの父NJ(ウー・ニエンジェン)と妻ミンミン(エレン・ジン)、そして姉のティンティン(ケリー・リー)と共に台北の瀟洒なマンションで暮らしている。
今日はミンミンの弟アディの結婚式。ヤンヤンは親戚の女の子にからかわれ、居心地の悪い思いをしている。そんなヤンヤンにNJはカメラを渡し、気分を紛らわそうとする。一方、式の準備中にアディの元恋人ユンユンが乗り込んできて、危うく修羅場になりかける。そんな時、祖母の気分が悪くなり、NJと娘ティンティンが家まで送り届けることに。混乱に拍車をかけるように、式場に帰ってきたNJは、偶然、初恋の人シェリーと再会する。今は結婚してアメリカに住んでいる彼女は、NJに去られた心の傷を未だに抱えていた。
式は無事終了したものの、帰宅した彼らを待っていたのは祖母の入院の知らせだった。ゴミを出すために階下に降り、脳卒中で倒れたのだ。自分がゴミを捨て忘れたせいにちがいないと思い悩むティンティンは、昏睡状態の祖母を見て呵責の念にかられる。
ヤンヤンは、父からもらったカメラで人々の後ろ姿を撮り始める。人の後ろ姿には、本人には見えない別の側面が映っていると思ったからだ。そんな彼も学校で一人の少女に心惹かれ始める。しかし彼女にイタズラしたせいで先生から問題児としてにらまれてしまうのだった。

不況の台湾で、友人のダーダーらと共に経営しているNJのコンピューター会社は倒産の危機に立たされていた。友人らは出資者をつなぎ止めるために、日本の有名なゲーム・プログラマー大田(イッセー尾形)との契約を提案する。大田は誠実な人物で、彼のアイデアは新しい発想に貫かれていた。一転して、ダーダーらが、高い契約料を節約するため、コピー屋の小田に偽物を作らせようと考えていることを知ったNJはそんなやり方にストレスが溜まり始める。
女子校に通うティンティンは隣家に越してきたリーリーと仲良くなった。彼女は銀行重役の母親と暮らしているが、母は男遊びに忙しく、リーリーの学校の教師さえも家に連れ込んでいた。そんな母を軽蔑する一方で、リーリーも恋人ファティとの間にひびが入りかかっている。ティンティンはファティから手紙を預かったのがきっかけで、彼と付き合うようになる。

家族の面々は、昏睡状態のまま家に戻ってきた祖母が蘇生するように必死に語りかけるが、いざとなると話すことがない。ミンミンは急に今までの生活も自分自身も空虚なものに思えてくる。やがて神経衰弱に陥った彼女は、職場の友人に勧められて新興宗教の修験場がある“山”へと赴いてしまう。
NJは大田と契約するために東京へと赴くことになった。何度かシェリーから電話を受けていた彼は、東京でシカゴから来る彼女と会う算段をする…。



 


【キャスト&スタッフ】

■ウー・ニエンジェン(NJ)

1952年8月5日、台北近郊のルイファン生まれ。80年代には、台湾国内で最も優れた脚本家として頭角を現し、数多くの優れた俳優と組んでいる。代表作に『海辺の一日』(1983)、ホウ・シャオシエンの『恋恋風塵』(1987)『非情城市』(1989)『戯夢人生』(1993)、アン・ホイの『客途秋恨』(1990)等が挙げられる。また、俳優やエッセイスト、そして台湾で大人気のトークショー番組の司会としても知られている。1997年には、『カップルズ』で重要な脇役を演じている。また、自身で監督・脚本を務めた作品には『多桑/父さん』(1994)『Buddha Bless America』(1996)等がある。


■エレン・ジン(ミンミン)

台湾生まれ。歌手としてデビューし、香港でも活躍。アルフレッド・チャン監督のコメディー作品『笑いましょう』(1983)への出演で映画女優として人気を得る。香港・台湾の一流監督に認められ、『宗家の三姉妹』(1998)『The Island Tale』他数多くの作品に出演している。


■イッセー尾形(大田)

1952年福岡県生まれ。1975年より自作自演の演劇活動を開始。1980年ごろから一般人を抜け目なく観察することで知られる、ユーモア溢れる一人芝居シリーズで人気を博す。1993年からは、国際舞台での活動を続ける。舞台との関わりが深いせいか、映画やテレビの出演が少ない彼にとって、本作品は初の重要な役どころである。脚本・出演・プロデュースの他にも、イラストや小説を発表している。


■ケリー・リー(ティンティン)

1986年台湾生まれ。台北アメリカンスクールに在学中。父親の仕事の関係上、コマーシャルに出演した経験を持つが、本作品が女優としてのスクリーンデビューとなる。勧められて参加したワークショップでエドワード・ヤンの目にとまる。


■ジョナサン・チャン(ヤンヤン)

アメリカ生まれ。アメリカと台北で育つ。現在8歳の彼は、ワークショップで監督にその素晴らしい才能を見出される。本作品がスクリーンデビューとなる。


■エドワード・ヤン(監督)

1947年11月6日、上海生まれ。1949年に台北に移住。交通大学電気科学士号取得後、アメリカに留学し、電気工学の修士号を取得する。サウスカリフォルニア大学で映画を学ぶが一学期で中退し、その後7年間はワシントン大学でコンピューターデザイナーを務める。1981年に帰国し、シナリオライター、監督としての新たなスタートを切る。1989年には、“Yang & The Gang”と呼ばれる自主製作会社を設立し、『*嶺街少年殺人事件』を製作。その後も活動の分野を広げながら、1992年にアトムフィルムと社名を変更する。現在は映画や演劇への出資、製作のほかに、ハイテク・マルチメディアの分野にも進出している。


■河井真也(プロデューサー)

1958年12月10日、大阪生まれ。1981年慶応大学法学部卒業後、フジテレビに入社。『南極物語』制作デスクを務める。1987年には、馬場康夫の『私をスキーに連れてって』(1987)をプロデュース。その他、代表作としては、大ヒットとなった滝田洋二郎の『病院へ行こう』(1990)、岩井俊二の『Love Letter』(1995)『スワロウテイル』(1996)、中田秀夫の『リング』(1998)等がある。1999年には、日本映画プロデューサー協会から製作の功績を称えるプロデューサー賞を受賞している。


■附田斉子(プロデュサー)

1960年北海道生まれ。北海道大学卒業後、ニューヨーク大学大学院にて映像学の修士号を取得。帰国後は、シネセゾンで配給業務に従事し、1990年には東京で開催されたサンダンス映画祭のコーディネーターを務める。1996年、ポニーキャニオンに入社。本作品とスタンリー・クワンの『The Island Tale』(2000)が、初プロデュース作品となる。


■ヤン・ウェイハン(撮影)

1949生まれ。エドワード・ヤン監督のデビュー作『海辺の一日』でクリストファー・ドイルの第一アシスタントを務め、その後も同監督の『タイペイ・ストーリー』で撮影監督として従事する。台湾では一流の撮影監督として評価されており、台湾中央動画協会の撮影科の主要メンバーでもある。


■リー・ロンユー(照明)

台湾で最も尊敬を集める照明監督であり、『*嶺街少年殺人事件』以降エドワード・ヤンと組んでいる。


■チェン・ポーウェン(編集)

1952年生まれ。エドワード・ヤンが脚本を担当した余為政の『1905年的冬天』で編集を担当。最近では、香港のウォン・カーウァイやスタンリー・クワンなどとも仕事をしている。


■カイリー・ペン(美術・音楽)

1965年生まれ。1990年にニューイングランド音楽学校の音楽修士号を取得。コンサートにピアニストとしてクラシックレパートリーを演奏する一方で、自作作品の作曲、録音も手掛ける。最新アルバム「Earnest Wish」は、ベストセラーとなる。表現とデザインに関するコメンテーターとしても高い評価を受けている。本作品が、初の映像作品への参加となる。