アイズ・ワイド・シャット
 EYES WIDE SHUT


1999年7月31日公開
丸の内ルーブルほかにて上映
配給: ワーナー・ブラザース映画
(c)1999 Warner Bros. ALL RIGHTS RESERVED.



監督・製作:スタンリー・キューブリック、脚本:スタンリー・キューブリック、フレデリック・ラファエル、原典:アーサー・シュニッツラーによる"Traumnovelle"、製作総指揮:ジャン・ハーラン、ライティング・カメラマン:ラリー・スミス、美術:レス・トムキンズ、ロイ・ウォーカー、編集:ナイジェル・ゴルト

出演: トム・クルーズ、ニコール・キッドマン、 シドニー・ポラック、 マリー・リチャードソン

1999年/アメリカ映画/原題:EYES WIDE SHUT/上映時間:2時間39分、9巻、4357m/ビスタビジョンサイズ/ドルビーSR/SRD/DTS/SDDS/字幕翻訳:菊池浩司/オリジナル・サントラ盤:ワーナーミュージック・ジャパン/原作:スクリーン・プレイブック(角川文庫刊)/配給:ワーナー・ブラザース映画

アイズ ワイド シャット [DVD]


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巨匠キューブリックが死の直前に完成させた、最後の作品のテーマは愛(セックス)

「この作品が自分の最高傑作だ」――スタンリー・キューブリックが自らそう語った『アイズ ワイド シャット』が、ついに公開される。撮影に18か月、編集に約1年をかけたこの作品は、『フルメタル・ジャケット』以来12年ぶりの新作。完成直後の99年3月、キューブリックはイギリスで死去した。『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』…時代を予見していたのか、それとも彼が時代を創ったのか、キューブリックが提示したテーマは、つねに模倣され、追従され、無数のバリエーションを生み出してきた。そのキューブリックの最後の映画は、これまでのどの作品よりもセンセーショナルだ。主演はトム・クルーズとニコール・キッドマン。キューブリックが選んだのが、このもっともハリウッド的なカップルであり、映画の中でも夫婦を演じさせたことが、まず大きな話題を呼んだ。しかもテーマは愛(セックス)なのだ。

成功した医師、美しいその妻。映画の冒頭、まずニューヨークの豪壮なアパートメントのバスルームの中、ドレスを身にまとったキッドマンが便座に座っているその横で、クルーズが鏡を眺めてネクタイを直しているシーンでは、観客はこの二人のプライベートを覗いているような錯覚に襲われる。そこからすでに、キューブリックの“たくらみ”が始まっているのだが。その後、二人は知人のパーティーに出かけていき、そこから異常な事態が次々に展開していく。

淡々と過ぎていく日常と、そこから一歩踏み出したところにぽっかりと口を開けている性の深淵。一見理想のカップルに見える二人が抱いている嫉妬や妄想、性的願望が、サスペンスフルな展開の中で暴かれていく。「幸福な結婚生活に存在するセックスについての矛盾した精神情態を探り、性的な妄想や実現しなかった夢を現実と同じくらい重要なものとして扱おうとした」というのがこの作品に関するキューブリックの公式コメントだ。

巨匠キューブリックのもとで、この大スター夫婦がどんなセックスシーンを演じるのかが全世界のマスコミの興味をかきたて、その意味でもこの作品は公開前からセンセーショナルな話題に事欠かなかった。撮影・編集は異常なまでの秘密主義で進められ、99年3月2日、キューブリック死去のわずか5日前にニューヨークで行われた初試写を見たのは、クルーズとキッドマン、そしてワーナー・ブラザースから2名の計4名のみ。 映写技師もフィルムをセッティングした後は映写室を出されるという極秘試写だったという。






クルーズとキッドマンが加担したキューブリック最後の罠

『アイズ ワイド シャット』は、キューブリックがこの世に残した最後の罠。クルーズとキッドマンという、世にも贅沢で危険な悪だくみだ。クルーズとキッドマンは、キューブリックのもとで、これまでのどんな作品にもない存在感を見せており、二人にとってこの作品が転機となることは間違いない。二人が鏡の前で抱き合い、激しくキスをかわす様子が延々と映し出されるだけの、ナレーションも台詞も一切ない劇場用の予告編はセンセーションを巻き起こし、過激なセックス描写が公開前から世界中で話題の的となった。

しかし、世界一有名なカップルの扇情的なラブ・シーンを見に来たつもりの観客は、みずからの奥底に眠る欲望と妄想に直面させられ、「見てはいけないもの」を見せられることになる。映画を見ることによって、自分の奧に眠っている何かが暴かれ、犯される――『アイズ ワイド シャット』の観客が否応なしにさらされるのは、そんな体験だ。

キャスティング、性描写、次々に異常な事態が展開するストーリー、見る者のセックス観をくつがえす衝撃的なテーマ。巨匠が最後に残した映画は、その存在自体がセンセーショナル。圧倒的な映像の力でどこへ連れて行かれるのかわからないサスペンスフルな快感を堪能し、最後にはキューブリックならではの裏切りに出会うことができる。

 映画館に入る前と出た後で、同じ自分でいることを観客に許さない…そんな映画を作ってきたのはキューブリックだけであり、だからこそ彼の映画は時代を超えて人々を魅きつけ、さまざまな分野に影響を与え続けてきた。

死因も遺言もいっさい明かされていない巨匠の死。しかし、キューブリックは世界中の観客に遺してくれた。彼が仕掛けたショッキングで妖しい罠に墜ちるという、もう二度と味わうことのできない悦びを…。



■トム・クルーズとニコールキッドマンが語る

●ニコール・キッドマン
スタンリーは私たち夫婦のことをとても大事にしてくれたの。ラブ・シーンを撮るときは、最初から夫婦別々に話し合いの場を設けてくれた。 「夫婦で演技をつけあったり、教えあったりしてほしくない」って言われたの。 キューブリックは一緒にいて楽しい人。ただ彼のそばにいたくて、撮影がないときは、オフィスヘ遊びに行ったものよ。

あらゆることを話すの。政治、戦争、ピーター・セラーズ、飛行機、コンピュータ…彼は天才なのよ。今は一緒にいられないのが寂しい。

●トム・クルーズ
スタンリーは時間を無駄にせず、昼夜を問わず仕事をする人。よく朝3、4時頃にその日の撮影に関するファックスを送ってきた。

僕自身も彼みたいなワーカーホリックだから、一生懸命働くのは全然苦痛じゃなかった。彼は確かにピリピリしている人ではあるけれども、学ぶことが多いし、面白い人物だよ。それに深みもあるしね。キューブリック監督との仕事はお金に代えられない価値があった。

この映画をカットしたいなら、まず僕を説得することだ。これらはぼくらの映画、スタンリーの映画だ。誰にも触らせない。

●クルーズ・キッドマン夫妻
彼は希にみる人間で、その人生は映画という空気を吸い、映画という食事をして生活する人生だった。彼は本物の天才でその死は悲しい。




 





ストーリー

女は閉じた目で見つめ、男は開いた目をそらす――

ビル・ハーフォード(トム・クルーズ)は裕福な内科医。 9年前に結婚した妻のアリス(ニコール・キッドマン)、6歳になる娘とともにニューヨークの豪華なアパートメントで暮らしていた。

ある晩、知人宅で催されたパーティから帰った後、彼は寝室で妻の意外な告白を聞く。家族で出かけたバカンス先のホテルで視線を合わせただけの海軍士官に心惹かれ、夫に抱かれながら、その男のことを考えていたというのだ。「もしあの人が私を欲しがったら、すべてを捨てて、彼について行っていたわ。あなたも、娘も」。妻であり、自分の娘の母親である女が他の男に欲望を抱くはずなどないと思っていたビルは、これまで知らなかった彼女の一面をかいま見て動揺する。

担当していた患者が急死して呼び出された彼は、海軍士官の制服を着た男にアリスが抱かれている妄想が頭から離れないまま、深夜の街をさまよい歩く。そして、ニューヨーク郊外の舘で開かれている秘密のパーティに参加する。

黒装束に身を包んだ無数の男たち。身につけているのは仮面だけの裸の女たち。そこに繰り広げられていたのは、あまりにも妖しく危険な世界だった。禁断の世界に足を踏み入れたビルが目にしたもの。それは、平穏な日常生活を続けて行こうとする男が決して見てはいけないものだった!



 



ドキュメント

◎1972年、この頃からキューブリックは"Traumnovelle"の企画を立てていた。 "Traumnovelle"、英語題"Rhapsody:A Dream Novel"の映画化権を取得。

◎1995年12月15日:"EYES WIDE SHUT"ワーナー映画製作を発表。スタンリー・キューブリック監督の最新作はトム・クルーズ、ニコール・キッドマン主演による"EYES WIDE SHUT"に決定。嫉妬と異常性欲をテーマにした作品で、撮影は96年夏、ロンドンで開始予定と発表。

◎1996年11月4日:英国で撮影開始。パイン・ウッド・スタジオをキー・スタジオとし、ロンドン周辺で撮影。トム・クルーズ、ニコール・キッドマン夫妻は家族共々ロンドンに移り住む。

◎1997年2月:主要キャスティングだったハーヴェイ・カイテルが降板。代わってシドニー・ポラック監督が配役される。後に、ジェイソン・リーからマリー・リチャードソンへの交代劇もあった。

◎1998年4月:撮影終了。これからが編集、音入れなどキューブリックの独壇場へ。 ◎1998年9月9日:ワーナー映画は『アイズ ワイド シャット』の全米公開を7月16日に決定、全世界同時公開すると発表。

◎1999年3月2日:ニューヨークWB試写室にて、トム・クルーズ、ニコール・キッドマン、ワーナー・ブラザーズ側から2人の計4人が極秘試写を敢行。

◎1999年3月7日:スタンリー・キューブリック死去。全世界に衝撃のニュースが飛んだ。 ◎1999年3月10日:キューブリック監督編集になる90秒予告編が、全世界から映画業界人が集まったショーウェストで披露上映される。これを期に全世界のTVで放映されセンセーションをまき起こす。

◎1999年5月:雑誌「スター」が掲載した“撮影現場にセックスセラピスト”の掲載記事に対して、クルーズ夫妻は事実無根と訴訟を起こす。

◎1999年7月13日:LAにてプレミア披露試写開催。

◎1999年7月16日:全米公開。