『千年旅人』


第56回ヴェネツィア国際映画祭国際批評家週間正式招待作品
11月シネマ・下北沢/11月27日より全国ロードショー
オメガ・プロジェクト株式会社

1999年/日本/カラー/ビスタサイズ/DTS/1時間54分  (C)1999 千年旅人 製作委員会

◇監督・音楽監督・脚本:辻仁成 ◇エグゼクティブ・プロデューサー:横浜豊行 ◇プロデューサー:河井真也 ◇共同プロデューサー:陶山明美、和田倉和利 ◇撮影監督:渡部眞 ◇プロダクション・デザイナー:種田陽平 ◇録音:柿澤潔 ◇照明:和田雄二 ◇編集:阿部浩英 ◇サウンド・エフェクト:柴崎憲治 ◇助監督:村上秀晃 ◇製作担当:山本章 ◇音楽:Arico ◇原作:「千年旅人」(集英社刊) ◇サウンドトラック:『kanata』Arico(Passaggio Discs) ◇劇中歌:『Aria』yuma(Passaggio Discs)  ◇キャスト:豊川悦司、yuma、大沢たかお、渡辺美佐子 ◇配給:オメガ・プロジェクト株式会社 ◇オメガ・プロジェクト/ポニーキャニオン/ジェイティコミニケーションズ/オメガピクチャーズ提携作品





| 解説 | DIRECTOR'S COMMENT | ストーリー | キャスト&監督プロフィール |




【解説】

◆辻仁成

ミュージシャンそして芥川賞受賞作家としての肩書きを持つ表現者辻仁成が、長年の構想期間を経て完成された本作品では、脚本・監督、そして音楽監督までを手掛けた。今までの表現者として積み重ねてきた経験や実績の集大成として『千年旅人』では新たな表現者としての可能性を感じさせる。


◆キャスト

主演のツルギ役には豊川悦司。言うまでもなく人気と実力を兼ね備えた、日本を代表する俳優。本作品では抑えた演技ながらも確かな存在感を醸し出し、見事に辻監督の演出に答えている。

トガシ役の大沢たかお。最近ではスタンリー・ファン監督の映画『Tale of an Island』に出演するなど海外からも非常に注目されている、まさに旬の俳優。今回は、サイレント的な映画の中で唯一「動」の存在であり、今までとはひと味違った面を見せてくれている。

ツルギとトガシは、片や「死を受け入れなければいけない男」と、片や「死を願望する男」、両極の立場として存在している。二人によって、人間の生への希望・絶望、死への願望・不安、このような誰もが必ず持っている感情を浮き彫りにしていく。  そして『千年旅人』の鍵を握っているのが君江役・渡辺美佐子。君江は全てを知っており、物事の流れを静かにじっと見つめている。君江の口から語られる言葉は、本作品のキーワードになっている。



◆“ユマ”の誕生

少女・ユマの選出は、新聞を通しての一般公募により、1200名の応募総数の中から、最も適した少女を選出することに成功した。オーディションで“Yuma”はイタリア歌曲を歌い上げ、その響く高音と安定した歌唱力に、辻監督は魅了された。彼女と出会った瞬間、辻監督のインスピレーションに火がつき、彼は瞬く間に10曲を書き上げた。その中の1曲が本作品で主要となる「ARIA」である。その曲は『千年旅人』そのものであり、本編の中で歌う彼女の姿はまさに辻監督がイメージしていたユマなのである。


◆石川県 能登半島門前町

荒々しい日本海。荒涼とした自然の残る能登半島。本作品はその中で、1999年3月末から1ヶ月間撮影された。時代の流れに取り残されたような町並み。1日に春夏秋冬を感じられるような4月の気候。そして、海に向かって立つ民宿。このような不思議な雰囲気を持つ能登半島を舞台に『千年旅人』の世界は作られた。


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【DIRECTOR'S COMMENT】

◆千年を旅する人

千年旅人という不思議なタイトルが最初にあった。

脚本はニューヨークで書いた。その時、自分の頭の中にあったものは、人間の孤独、不安、そして希望であった。アジア人の輪廻感のようなものを描きたかった。人間はどこから来てどこへ行くのか、という永遠のテーマがこの作品の根底に流れている。

映画の中では一言も千年旅人という言葉は出てこない。脚本を推敲していく過程の中で削除してしまったためだ。

タイトルだけが残った。

ベネチア映画祭で上映された後、大勢の外国人が近づいてきて、ありがとう、と感謝された。アジア的輪廻感が彼らの心に何か希望のようなものを残した様だった。

その中の一人が千年旅人というタイトルの意味について質問してきた。私は苦手な英語で必死に説明をした。するとその女性はにこりと微笑み、すばらしい意味だ。と告げた。表現し続けてきた者にとってもっとも嬉しい瞬間であった。

それはつまり魂の問題だね、彼女は言い、私は、イエス、と頷いた。笑顔で去ったその女性の後ろ姿が目に焼きついていつまでも離れない。彼女の心の中には逆にいつまでも主人公ツルギの姿が生きつづけることになるのだろう。

千年を生きることが出来る人間はいない。百年後この映画を観た人達はもうこの世界には存在していない。それほど生きることは儚いものなのだ。しかし生きたという記憶は我々の心に豊かな今を焼き付けていく。

素晴らしい、生きていて良かった思える尊い一瞬。それが生のもっとも美しい躍動の一瞬の輝きなのである。 辻仁成



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【ストーリー】

荒涼とした雄大な海岸線。

余命1ヶ月と医者に宣告されたツルギ(豊川悦司)は、自分の人生の中で最愛の女性・洋子に会うために、青春時代を過ごした懐かしい海に帰ってきた。ピアノ弾きとして東京で過ごしてきたツルギであったが、今では、人間としての生活を守るために、モルヒネに頼らなければいけなくなった。鞄の中には1ヶ月分のモルヒネが入っている。

ツルギは難破船の隣で発声練習をしているユマ(yuma)に逢う。ユマは洋子の娘。洋子はツルギと別れた後、二人の幼なじみの良太と結婚していたが、ユマが5歳の時、車で事故に遭ってしまった。ユマはその時、母親を亡くしたのと同時に、片足も失い義足だった。現在は学校には行かず、祖母の君江(渡辺美佐子)と民宿「風花」を切り盛りしていた。君江の口から洋子の死を知らされたツルギ。ユマの案内で洋子の墓に行くと、そこには断崖から望む海。

『この海から死者を船に乗せて流すと、その魂は余所には行かず、この海に戻ってくる』という言い伝えを思い出し、自分の運命を感じるツルギであった。

モルヒネが減っていくのと同時に親しくなっていく二人。ユマは漂流物を集め、沖を通る船に手旗信号を送り続ける日々を過ごしている。

ある日、今まで送り続けてきた手旗信号が、初めて交信することに成功した。興奮している二人は偶然、自殺しようとしているトガシ(大沢たかお)に出逢う。自殺を止めに入った二人は、トガシを民宿まで連れていく。「俺には死ぬ権利もないのか!」と嘆くトガシと、死が目前に迫っているツルギはことごとくぶつかってしまう。

何度も何度も自殺を試みるトガシが気になり続けるユマは、いつしかトガシに恋心を抱くようになる。トガシもまた、いつでも明るい笑顔を見せ励ましてくれるユマに惹かれていくようになる。しかし、自分は義足だという負い目を感じるユマは素直に心を開くことが出来ないのであった。

モルヒネの残りが少なくなっていくツルギは、難破船を修理し始める。その行動はトガシにとっては無駄なものと写り、理解することが出来ない。その姿を遠くから見ている君江。

祭りの夜、ツルギはとうとう倒れてしまう。「自分にとって、この春が最後の春になる」とツルギに付きそう君江・ユマ、そしてトガシに告白する。そして、「あの難破船に乗せて欲しい」と頼んだ。君江とユマは、洋子のことを思い出す。ツルギは洋子の魂に呼ばれてここに辿り着いたのだろうか。そしてトガシはツルギの代わりに難破船の修理をはじめるのだった。



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【キャスト&監督プロフィール】

■ツルギ役/豊川悦司(TOYOKAWA ETSUSHI)

1962年3月18日生まれ。大阪府出身。

人気と実力を兼ね備えた、日本を代表する俳優・豊川悦司。数多くのTV・ドラマ・映画に主演している。若い女性を中心に幅広い層から支持され、日本国内アジア各国でも、熱烈な人気を得ている。また、最近では役者だけに留まらず、CM・TV・ドラマの監督・演出なども手掛け、各方面でその才能を発揮している。


映画:「NIGHT HEAD」(94)監督/飯田譲治
「Undo」(94)監督/岩井俊二
「ラブレター」(95)監督/岩井俊二
「八つ墓村」(98)監督/市川昆
他多数

TV:「愛していると言ってくれ」(95)TBSV 「青い鳥」(97)TBS
「兄弟」(98)ANB 他多数

一番嬉しかったのは、辻仁成の世界には常に風が吹いていた事。
その風にさらされ、立ち続ける僕は、映画の中でとても幸福だった。

豊川悦司



■ユマ役/yuma(YUMA)

1980年10月4日生まれ。静岡県出身。

監督である辻仁成が一目逢って惚れこんだ少女yumaは、本作品のヒロインオーディション、応募総数1,200名の中から選ばれた。どこか遠い空を見上げる瞳と、澄んだ歌声をもつyumaは、ヒロイン・ユマにぴったりとはまったのである。

既に辻仁成プロデュースによる、デビューアルバムをリリースし、秋以降には本作品の公開が待ち受け、彼女の周りの環境は急激に変化し始めている。

1999年5月21日 Debut Album「光の子供」リリース


完成した映画を観て初めて、自分が長い間探し求めていた物がそこに存在していることに気がついた。探しても探しても容易に見つからなかった物…私の「居場所」が確かにそこにはあった。あのまま、スクリーンの中で生きていたかった。深い喪失感の中にあった私を大きく変えてくれた映画との出会いと、この作品に関わった全ての方々に心から感謝したい。いつか「映画の人」と呼ばれるようになりたい。そんな風に思う。

yuma



■トガシ役/大沢たかお(OSAWA TAKAO)

1968年3月11日生まれ。東京都出身。

常に高い好感度を誇る大沢たかお。ヨージ・ヤマモトのパリコレクションに出演するなどモデルとして活躍していたが、94年から本格的に役者に転身。次々と新しい役に挑戦し、現在ではTV・映画の他にも舞台や歌手としてデビューするなど、活躍の場を広げている。また、99年末公開予定、スタンリー・クァン監督の映画『Tale od an Island』に出演するなど、海外からも注目されている。


映画:「ゲレンデがとけるほど恋したい」(95)監督/廣木隆一
「チンピラ」(96)監督/青山真治
TV:「星の金貨」(95)NTV
「続・星の金貨」(97)NTV
「デッサン」(97)NTV
「劇的紀行 深夜特急'97」テレビ朝日(97)(98)他多数
さまざまな経験を経て培われた辻仁成監督の死生観、それに共鳴するように存在する海、山そして人びと…。
文学的であり、映像的であり、そして何より辻哲学が根底にどっしりと根をはったすばらしい映画ではないかと思います。

大沢たかお



■君江役/渡辺美佐子(WATANABE MISAKO)

東京生まれ。俳優座養成所を経て、俳優座スタジオ劇団新人会入団。舞台を中心に活動。代表作「化粧」では数多くの賞を受賞し、フランス・アメリカ・ベルギーに続き、東南アジア巡業を果たし、各国で高い評価を得た。また活動の場は舞台だけでに留まらず、多くのTV・映画に出演し熟練された演技を披露している。

映画:『典子は今』(81)監督/松山善三
『つぐみ』(90)監督/市川準
『月光の夏』(93)監督/神山征二郎
舞台:「マリアの首」(60)
「オッペケペ」(63)(79)
「小林一茶」(79)
「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」(78)
「化粧」(82)

今年の三月から四月にかけて、辻仁成さんのオリジナル脚本、監督の『千年旅人』の撮影で、能登の輪島の隣、門前町で過ごしました。日頃舞台の仕事が多いので、太陽を浴び、潮騒の音の中でゆったりと進む映画の日々はとても新鮮でした。登場人物たったの四人、今の日本では想像できないほど静謐な映画ができたのではないでしょうか。

渡辺美佐子



◆辻仁成(つじ じんせい)

1959年10月4日東京に生まれる。作家・詩人として「つじ ひとなり」ミュージシャンとして「つじ じんせい」の名を持つ。父親の仕事の関係で、福岡、帯広、函館等で暮らす。

■1985年4月 CBSソニーより「ECHOES(エコーズ)」デビュー。
(1991年5月バンド解散。それまでに9枚のアルバムを発表。解散後ソロ活動へ。)
■1989年 処女小説『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞し作家デビュー。
■1994年1月 小説『母なる凪と父なる時代』(新潮社刊)が第110回芥川賞の候補作となる。
■1996年 小説『アンチノイズ』(新潮社刊)が第9回三島由紀夫賞の候補作となる。
■1997年 小説『海峡の光』('96年「新潮」12月号)で116回芥川賞を受賞。『海峡の光』は30万部を売上げ、純文学として年間の単行本売上第1位を記録している。
■1998年1月 辻仁成をゼネラル・プロデューサーとする新レーベル「パッサジオ DISKS」発足。新人アーティストのプロデュースを手掛け、自らアルバムもリリースを続ける。 毎年恒例の、「渋谷公会堂」ライブは変わらずチケット発売後SOLD OUTが続く。現在も、執筆、音楽、映像と活動を続ける。




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