『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』/"CROSSING OVER"


2009年9月19日よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて公開

2008年/アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/1時間53分/SRD・SDDS・DTS/日本語字幕:岡田壯平/原題:Crossing Over/【PG-12】/サウンドトラック:ランブリング・レコーズ/提供:博報堂DYメディアパートナーズ、ショウゲート/配給:ショウゲート/(c) 2008 The Weinstein Company, LLC All Rights Reserved.

◇監督・脚本:ウェイン・クラマー ◇製作:フランク・マーシャル ウェイン・クラマー ◇製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、マイケル・ビューグ ◇共同製作:グレッグ・テイラー ◇撮影:ジェームス・ウィテカー ◇美術:トビー・コーベット ◇編集:アーサー・コバーン ◇音楽:マーク・アイシャム ◇音楽監修:ブライアン・ロス ◇衣装:クリスティン・M・バーク ◇キャスティング:アン・マカーシー ジェイ・スカリー

◇キャスト:ハリソン・フォード、レイ・リオッタ、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス、クリフ・カーティス、アリシー・ブラガ、アリス・イヴ、ジャスティン・チョン、サマー・ビシル、メロディ・カザエ、ジャクリーン・オブラドーズ、メリック・タドロス、マーシャル・マネッシュ、ニナ・ナエビ、シェリー・マリル、リジー・キャプラン、マハーシャラルハズバズ・アリ



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【解説】

捜査官にも人情がある。「彼ら」にも事情がある。

◆ハリソン・フォードが「悩める主人公」に挑んだ、新たな代表作!

1970年代から数々のヒット作に出演し続けるハリウッドを代表する大スター、ハリソン・フォード。その長いキャリアの中で、初めてメジャースタジオ以外の出演作となったのが本作『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』だ。脚本の完成度の高さとテーマ性にハリソンが惚れ込み、低予算ながら出演を快諾。「これは『インディ・ジョーンズ』シリーズとは180度かけ離れた作品だ。今までとは違うこうした役柄を演じることで、新たな可能性が得られたことを自分でも嬉しく思っているよ」と力強く語る。従来の娯楽性の高い出演作での「ヒーロー」的な役柄とは一味異なり、グローバル化による社会問題と「正義」の間で揺れ動く等身大の主人公を熱演、俳優として新たな局面を切り開くことに成功している。


◆真の「正義」とは……?
国境をめぐる犯罪に、たったひとりで立ち向かう


ロサンゼルス ― 南北アメリカの国境に近く、東洋と西洋が交差するこの街には、夢を追って来た若者、一家で移住してきた家族、そして無断で国境を越えてきた不法就労者まで、あらゆる人種が集まってくる。マックス(ハリソン・フォード)は移民局I.C.E.に所属するベテラン捜査官。不法滞在者の取り締まりが任務だが、正義感が強く良心的なために、彼らの立場に同情的だ。母親の逮捕後に取り残された幼い子供が気になってメキシコに送り届けるなど、つい彼らの面倒をみてしまう。そんなある日、同僚の捜査官の妹が殺される。遺品の服に偽造グリーンカードを発見したマックスは、独自に調査を始めるのだが……。「国を守る」ために彼らを逮捕しなくてはならない立場にいるマックスは、はたして本当の意味で彼らを「救う」ことができるのだろうか。


◆現代社会が抱える問題をリアルに描いた、衝撃の社会派ヒューマンドラマ

現在、全米に1,100万人以上いるとされる不法滞在者。オバマ大統領の誕生を機に、大きく変わりつつある「いま現在のアメリカ」を舞台に、国境をめぐるリアルで衝撃的なドラマが次々と展開し、観る者の眼を捉えて離さない。本作で描かれているテーマは、決して「対岸の火事」ではない。日々のニュースを思い起こすと、私たち日本人にとっても「傍観者」ではなく「当事者」となりうる問題であることに気づくはずだ。脇を固めるのは、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス、レイ・リオッタなど、実力派にして個性的な面々。監督・脚本は『ワイルド・バレット』(2006)を手がけた注目の新鋭ウェイン・クラマー。


 


【ストーリー】

◆捜査官マックスと不法移民ミレヤ

カリフォルニア州ロサンゼルス市内の港町サンペドロ。ICE(移民税関捜査局)の拘置所には、逮捕された不法滞在者が昼夜を問わず移送されてくる。ベテラン捜査官のマックス(ハリソン・フォード)の職務も、密入国者や不法就労者の捜査だ。だが、良心が強いためか、容疑者の健康や事情をつい気遣ってしまい、同僚からは「人道的すぎる」「処分が甘い」とからかわれることが多い。

ある日、マックスら捜査官は市内の縫製工場に踏み込み、不法就労者を一斉逮捕する。メキシコから国境を越えてきた若い女性ミレヤ(アリシー・ブラガ)は、「幼い息子を人に預けているの。住所を書くから助けて」とマックスにすがりつく。気の毒に思いながらも、マックスは「そこまでは無理だ」と断らざるを得ない。結局、母親のミレヤだけがメキシコへ強制退去になってしまう。それを知ったマックスは、深夜、捜査現場に戻り、残されたメモを発見する。ミレヤの息子ホアンを探し当てたマックスは、親子が暮らした部屋からメキシコの住所を突き止め、自分の車で国境を越えて、祖父母の暮らす家までホアンを送り届ける。だが、アメリカに残された息子のことを心配して、ミレヤは昨夜、再び一人で国境へ向かったというのだ。マックスはミレヤの行方を追うことにする。



◆ミュージシャン志望のギャビンと女優志望のクレア

プロのミュージシャン志望で南アフリカ出身のギャビン(ジム・スタージェス)は、ユダヤ人学校の講師という職を得たばかりだ。実際はユダヤ教徒ではなく、ヘブライ語もわからないが、「宗教関係者」と認められればグリーンカード(永住査証)が取得できる。まずは生活のため安定した収入と永住権を得て、いつかは音楽で成功することを願っている。恋人のクレア(アリス・イヴ)はオーストラリア出身でハリウッド女優を目指している。出演のチャンスが巡ってきたが、条件は労働許可を得ること。どうしても役が欲しいクレアは、グリーンカードの偽造さえしようとする勢いなので、ギャビンは心配している。

クレアはビザ申請のため入国管理課を訪れるが、滞在延長手続きは受理されていなかった。落胆した彼女は自動車事故を起こしてしまう。相手は偶然にも移民判定官だった。コール(レイ・リオッタ)と名乗るその男は、グリーンカードが欲しいクレアの弱みを見抜き、彼女をホテルに誘う。偽造はできないが、経歴をねつ造した申請書類を自分のところに回せば、許可を与えるというのだ。条件は2カ月間、いつでも体を自由にさせること。クレアは承諾せざるを得ない。その後、クレアがグリーンカードを手にすることを不信に思ったギャビンは、コールとの関係に気づいてしまう……。





◆イスラム教徒の少女タズリマと移民弁護士デニス

バングラディシュ出身の高校生タズリマ(サマー・ビシル)は、ヘジャブ(ベール)を着用する敬虔なイスラム教徒だ。ある日、自分の論文を発表する授業で「メディアは9.11の実行犯を怪物や殺人鬼と決め付けるけれど、人間扱いすべきです」と発言し、クラス中の非難を浴びてしまう。その晩、彼女の家はICEとFBIの強制捜査を受ける。「テロを支持する危険分子だ」と言うのだ。弟と妹はアメリカで生まれたので市民権があるが、3歳で米国に来たタズリマは、両親ともども不法滞在者ということで、一家を代表して拘置されてしまう。

デニス(アシュレイ・ジャッド)は、不幸な境遇に陥っている不法移民に手を差し伸べる人権派の弁護士だ。ナイジェリア出身の孤児アリークを養女として引き取ることも検討しているが、夫の判定官コールとはあまりしっくりいっていない。デニスはタズリマの弁護を引き受けるが、FBIはタズリマに対する厳しい処分を曲げようとしない。結果的に、デニスが一家に示せる選択肢は三つしかなかった。「家族全員で自主退去する」か、「強制退去になる可能性が高くても裁判で争う」か、「タズリマと両親のどちらかがアメリカを去り、家族離れて暮らす」か。しかも「アメリカに残る親は、タズリマと再び会うことも許されない」というのだ……。



◆韓国出身の高校生ヨン、捜査官ハミードと妹のザーラ、そして捜査官マックス

家族4人でLAに暮らすヨン(ジャスティン・チョン)は、市民権取得式典への出席を目前に控えた高校生だ。普段はおとなしく暮らしているが、同じ韓国系の不良グループからの誘いを断ることができない。彼らは「コリアタウンの一角にあるリカーショップが、毎週金曜の夜に5万ドル持っている」という情報を得て、拳銃を突きつけて強奪する計画をヨンに持ちかける。

マックスの相棒ハミード(クリフ・カーティス)は、イラン出身。兄弟含め既にアメリカに帰化しており、父親も今週の土曜日には市民権を取得する予定だ。その祝賀パーティに招かれたマックスは、妹のザーラ(メロディ・カザエ)を紹介される。家族の中で唯一アメリカ生まれのザーラは、勤務先の店長と不倫中で、一家の中で浮いた存在だ。離婚を経験し、結婚を控えた一人娘と連絡が取れないマックスは、ザーラの境遇に同情する。ところが翌日、ザーラと店長が死体で発見される。店長の上着には、偽造グリーンカードが残されていた。事件に不法移民ビジネスの匂いを嗅ぎ取ったマックスは、独自に調査を開始する。

ヨンは不良グループに誘われ、覆面姿でリカーショップを襲撃する。単身パトロール中だったハミードは、事件現場に出くわす。その頃、マックスはザーラ殺人事件に関する衝撃的な事実を突き止めようとしていた……。





 


【キャスト&スタッフ】

■ハリソン・フォード(マックス・ブローガン/移民局の捜査官)

1942年7月13日、イリノイ州シカゴ出身。 ウィスコンシン州リポン・カレッジで哲学と英文学を専攻するも役者を志し中退、LAの演技学校で学ぶ。1966年に『現金作戦』の端役で映画デビュー。『テキサスの七人』(1968)などに出演するが陽の目を見ず、一時は俳優をあきらめ大工として生活していた。

1973年のジョージ・ルーカス監督作『アメリカン・グラフィティ』から注目され始め、『スター・ウォーズ』旧三部作(1977年/1980年/1983年)のハン・ソロ役で大ブレイク。さらに『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)に始まるインディ・ジョーンズ役でトップスターとしての地位を確立し、以後は次々と話題作に出演。1990年代には『パトリオット・ゲーム』(1992)、『今そこにある危機』(1994)でさらなる当り役ジャック・ライアンを演じ、2008年には19年ぶりのシリーズ第4作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』で現役っぷりを見せつけるなど、まさにハリウッドを代表する大スター。

初期は「タフな中にも繊細な心を秘めた現代版ヒーロー」といった役柄が目立ったが、1990年代以降は内面的な苦悩を描く社会派ヒューマンドラマに一層の冴えを見せ、アクションとロマンス双方で円熟味を増した演技を披露、幅広いファンを獲得している。

1985年の『刑事ジョン・ブック/目撃者』ではアカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされた(ゴールデングローブ賞には『モスキート・コースト』(1986)、『逃亡者』(1993)、『サブリナ』(1995)でもノミネート)。1998年には「ピープル」誌の「もっともセクシーな男性」に、1999年にはピープルズ・チョイス賞の「映画史上もっとも人気の高い映画スター」に選ばれている。2001年には「世界で最も裕福な俳優」としてギネスブックに認定され、2003年にはハリウッドの殿堂「ウォーク・オブ・フェイム」に名前が刻まれている。

気に入った脚本がないと出演せず、山奥でのんびりと過ごすことでも有名で、ワイオミング州に広大な農場を所有。自ら操縦する飛行機やヘリコプターで人命救助を行い「インディ・ジョーンズばりの私生活」と話題になったことも。二度の離婚を経験し、2009年女優のキャリスタ・フロックハート(「アリー・マイ・ラブ」)と結婚。1982年の『ブレードランナー』で初来日以降、2008年の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』まで公式には計9回来日を果たしており、さらにお忍びでも度々日本を訪れていると言われる親日派である。

■主な出演作

『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008) 『ファイヤーウォール』(2006) 『ハリウッド的殺人事件』(2003) 『K-19』(2002) 『ホワット・ライズ・ビニース』(2000) 『ランダム・ハーツ』(1999) 『6デイズ/7ナイツ』(1998) 『デビル』(1997) 『エアフォース・ワン』(1997) 『サブリナ』(1995) 『今そこにある危機』(1994) 『逃亡者』(1993) 『パトリオット・ゲーム』(1992) 『心の旅』(1991) 『推定無罪』(1990) 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989) 『フランティック』(1988) 『ワーキング・ガール』(1988) 『モスキート・コースト』(1986) 『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985) 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984) 『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(1983) 『ブレードランナー』(1982) 『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981) 『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980) 『地獄の黙示録』(1979) 『スター・ウォーズ』(1977) 『カンバセーション…盗聴…』(1973) 『アメリカン・グラフィティ』(1973)


■インタビュー

●キャラクターについて

私が今回演じたマックス・ブローガンは、ICEで働くベテラン捜査官だ。ICEの職務は、移民問題に関わる法執行官ということになる。比較的最近になって、アメリカの安全保障のために新たに設置された機関だ。

彼は、ちょっとくたびれた感じの男というのかな。プライベートでは離婚を経験して、さらに一人娘との関係も疎遠になっている。仕事のうえでも、昔気質でルールよりも感情で動いてしまうところがあって、新米刑事や同僚とぶつかることも多い。自分の周りの人たちと、どうにもうまく馴染めなくなっているんだ。

●移民問題について

アメリカの移民問題に関して、私たちは狭い考え方で捉えがちだ。だが実際は、幾つもの国とさまざまな人種が絡んだ複雑な問題だと思うよ。

●監督ウェイン・クラマーについて

ウェインは非常に明確な映像プランの持ち主だね。あらかじめ全シーンの絵コンテを用意しているんだ。あそこまで綿密なプランを持った監督には、今まで出会ったことがない。ただそれだけじゃなくて、撮影現場では周囲の意見を聞く余裕をちゃんと持ち合わせている。一緒に仕事をするうえで、本当にありがたい存在だ。

●他作品との比較に関して

『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』と『インディ・ジョーンズ』シリーズほど、かけ離れた作品はないよ。全く異なるタイプの作品に出演して、自分が演じる役に今までとは違う新たな可能性を得ることができたのは、素晴らしいことだと思う。客層の幅も広がるしね。俳優としてさまざまな役を演じることができることは最大の喜びだし、そんな機会を与えてもらったことに、感謝の気持ちでいっぱいだよ。



■ウェイン・クラマー(監督、脚本、製作)

1965年、南アフリカ出身。1986年に映画監督を目指して渡米後、1992年に短編“BLAZELAND”で監督デビュー。『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』の基になった短編“Crossing Over”(1996)で注目を集める。2000年に米国市民権を取得。2003年、ラスベガスを舞台にした“THE COOLER”で初めて長編映画に挑み、出演したアレック・ボールドウィンとマリア・ベロがアカデミー賞とゴールデングローブ賞にノミネートされるなど、高い評価を得る。2004年に『マインドハンター』(レニー・ハーリン監督)の脚本を担当。2006年に長編監督2作目となる『ワイルド・バレット』を手がける。『ワイルド・スピード』シリーズのポール・ウォーカーを主演に迎えたサスペンスアクションで、全米初登場9位を記録するスマッシュヒットとなる。タランティーノは、「俺が待ち望んでいたのはコレだ!! ウェイン・クラマーは、本作でウォルター・ヒルやロバート・アルドリッチのようなアクション映画監督の偉人が住む神殿に飛び込んで来た脅威の監督だ」と惜しみない賛辞を寄せている。本作は3作目の長編作品。次回作は、ブルース・ウィリスが孤独な探偵を演じる“INVENTORY”が予定されている。


■インタビュー

●映画について

今の米国が抱える移民問題を、LAに住む人々を通してリアルに描こうと思ったんだ。帰化、グリーンカード、9.11後 の移民とテロの関係、取り調べの際に受ける扱いなど、あらゆる角度からこの問題を取り上げている。この国に移住して働こうと思ったら、役所での手続きがどれほど煩雑で大変なことなのか、普通にアメリカに生まれた人や世界中の人々に知ってもらいたかったんだ。

●アメリカへ移住することの魅力について

移民問題に関しては、ずっと考えさせられてきた。私も渡米して、グリーンカードを得て、帰化しているしね。アメリカは自分たちが一番で、この国に来れば自由と素晴らしい人生が待っていると、世界中に喧伝し続けている。そのメッセージを受け取った人が「そうか、アメリカに行ってみたいな」と願うけれど、いざ行こうとしたら扉は固く閉ざされている。こんなにも多くの人が移住を願って行動を起こすこと自体、凄いことだと思うよ。

●ハリソン・フォードを主役に選んだ理由

人間くささを表現できる人が必要で、ハリソンは最適だった。こういう堅気で真面目な捜査官役は演じたことがないんじゃないかな。『今そこにある危機』のジャック・ライアンみたいな役はあったけれど。あるいは『刑事ジョン・ブック 目撃者』の20年後の姿と言えるかもしれない。もちろん俳優としての素晴らしさは折り紙つきだ。自分の出番は当然だけど、全ての状況を把握している。どのレンズを使っているか、とかね。全てにおいて正確なんだ。一緒に仕事ができたことを光栄に思っているよ。

●アシュレイ・ジャッドについて

彼女はとても優しく、穏やかで、人間味のある女性だ。もちろん美しいし、実際に世界中の難民キャンプなどで活動している。悪者をやっつけるというよりも、人々のために献身的に何かをする、というこの役はピッタリだと思ったんだ。この役に興味を持ってくれて、とても嬉しかったよ。

●レイ・リオッタの演技について

レイはとにかく特殊な俳優だよ。この役に必要な棘と危険な香りを持っていて、なおかつ不思議な優しさも感じられる。男同士なら一杯飲みに行きたくなるような親近感も抱かせてくれるけど、その裏にあるダークな部分も時折垣間見えるんだ。今回はかなり強力なパフォーマンスを見せてくれているから、彼の演技にビックリする人も多いんじゃないかな。

●キャストとスタッフの多様性について

アリス・イヴはイギリス人だけれどオーストラリア人女優、クリフ・カーティスはニュージーランド人だけれどイラン系アメリカ人でマックスの相棒を演じている。さまざまな役者が、自分の出自とは異なる役を演じているんだ。衣装や制作担当はじめ、主要スタッフも5、6人は帰化したアメリカ人じゃないかな。まさに「人種のるつぼ」といっていい撮影現場だった。エンドクレジットに多種多様な民族を思わせる名前が並んでいるのを見ると、素晴らしいと思う。なにしろ本当にLAに住む移民と、その経験を描いた作品だからね。

●映画を作るにあたって一番大変だったこと

とにかく役者の数とロケ現場の数が多くて大変だった。予算も限られていたし、全部で100近い役柄があった。一人の役者やロケ地に慣れて、撮影が乗ってきたなと思ったら次のシチュエーションに変わってしまう。週替わりで、別な話を撮っているみたいだった。エピソードごとに違うリズムを作っていかなくてはならなかったけれど、だからこそ新鮮さが保てたから、結果的には良かったと思っているよ。



■フランク・マーシャル(製作)

1946年LA出身。1982年にスティーヴン・スピルバーグとアンブリン・エンターテイメントを創設。『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1982)、『グレムリン』(1984)、『ファンダンゴ』(1985)、『カラーパープル』(1985)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」三部作など数多くのヒット作、アカデミー賞ノミネート作品に携わってきた。1991年には妻のキャスリーン・ケネディと共にケネディ/マーシャル・カンパニーを設立し、『シックス・センス』(1999)、『サイン』(2002)、『シービスケット』(2003)、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)、「ボーン」シリーズ三部作などを製作。監督作として『アラクロフォビア』(1990)、『生きてこそ』(1993)、『コンゴ』(1995)などがある。


■マイケル・ビューグ(製作総指揮)

LA在住。スタンフォード大学でMBA/公共政策学部の学位を取得後、イェール大学卒業。映画界に入る前は、ホワイトハウス予算室(行政管理予算局)エネルギー・環境政策部、さらにボストン・コンサルティング・グループの経営相談奨励部で働いていた。2006年にアカデミー賞を受賞した『リトル・ミス・サンシャイン』や、『サンキュー・スモーキング』(2006)など、30本以上の映画でプロデューサーやラインプロデューサーを務めている。


■グレッグ・テイラー(共同製作)

LA在住。2003年、ケネディ/マーシャル・カンパニーに入社。『ボーン・スプレマシー』(2004)、『ミュンヘン』(2005)、『ボーン・アルティメイタム』『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)、『スパイダーウィックの謎』『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2009)などに携わる。


■ジェームズ・ウィテカー(撮影)

1970年ミズーリ州出身。専門学校でスチール写真を学んだ後、LAに移住し、映像も手がけるようになる。ナイキ、ソニー、AT&T などのCMを手がけ、広告業界で数多くの賞を獲得。音楽ビデオでも、レディオヘッド、ブラック・アイド・ピーズ、などの撮影に参加。短編映画では、アカデミー賞にノミネートされた『EVERYTHING IN THIS COUNTRY MUST』(2004)、ヴェネチア映画祭でプレミア上映された『それでも生きる子供たちへ』(2005)の中の「ジョナサン編」(ジョーダン・スコットとリドリー・スコット監督)などがある。長編映画としては『サンキュー・スモーキング』(2006)、『カリフォルニア・トレジャー』(2007)などがある。ウェイン・クラマー監督とは3本目のコラボレーション。


■トビー・コーベット(美術)

ワシントン大学で、アーティストのジェイコブ・ローレンスに絵画を学び、さらに映画学者リチャード・ジェームソンのもとで映画理論を学び、学士号を取得。トレイシー・ウルマンのエミー賞受賞番組「TRACEY TAKES ON」(1996ー1999/米HBO放送)で美術を担当し、3度エミー賞にノミネートされた。ウェイン・クラマー監督とは、3度目のコラボレーションとなる。


■アーサー・コバーン (編集)

ニュージャージー育ち。ダートマス・カレッジとハーバード大学法学大学院を卒業。『シンプル・プラン』(1998)、『スパイダーマン』(2002)、など現在まで24本の映画を編集。「シスターズ・イン・クライム(女性のミステリー作家の組織団体)」、「全米犯罪小説作家団体」、「南カリフォルニアのインディペンデント作家団体」のメンバーでもある。2005年小説「Rough Cut」により、南カリフォルニア作家協議会の小説賞を受賞。ウェイン・クラマー監督とは、3度目のコラボレーションとなる。


■クリスティン・バーク(衣装)

カリフォルニア州オレンジカウンティ出身。ノースウェスタン大学在学中に、オペラや舞台で活躍するデザイナー、ヴァージル・C・ジョンソンのもとで衣装デザインを学ぶ。映画衣装に関する著書を2冊出版しており、世界中の映画学校や大学でテキストとして使用されている。2005年には「ハリウッド・レポーター」紙が選ぶ「35歳以下の次世代の1人」に、映画芸術科学アカデミーからは「50人のデザイナー:50着の衣装」に参加する1人に選出されている。


■マーク・アイシャム (音楽)

1951年ニューヨーク出身。12歳でクラシックのトランペット奏者として交響楽団に参加すると共に、20代前半にはビーチ・ボーイズのツアーや、ローリング・ストーンズ、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソンなどのレコーディングに参加。2枚のソロ・アルバムをリリースし、グラミー賞にもノミネートされている。映画音楽デビューは1983年の『ネバー・クライ・ウルフ』。以降、作曲家として50本以上の映画に関わっている。主な作品に『ヒッチャー』 (1986)、『ブレイド』(1989)、『リバー・ランズ・スルー・イット』 (1992)、『ショート・カッツ』(1993)、『遠い空の向こうに』(1999)、『クラッシュ』(2004)、『告発のとき』『ミスト』(2007)など。


■レイ・リオッタ(コール・フランケル/移民判定官)

1955年12月18日、ニュージャージー州出身。マイアミ大学在学中から『欲望という名の電車』などで舞台を踏み、TV出演を経て、1986年にジョナサン・デミ監督作『サムシング・ワイルド』で映画デビュー。ゴールデングローブ賞にノミネートされた。1989年には『フィールド・オブ・ドリームス』でシューレス・ジョー・ジャクソンを好演し、マーティン・スコセッシ監督作『グッドフェローズ』(1990)で実在した元マフィアを演じて注目を集める。以降、『不法侵入』(1992)、『乱気流/タービュランス』(1997)などでサイコな悪役を演じて、強烈な印象を残す。他の主な作品に『ハンニバル』(2000)、『ブロウ』(2001)、『アイデンティティー』(2003)、『ダウト』(2005)、『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』(2007)などがある。


■アシュレイ・ジャッド(デニス・フランケル/移民弁護士)

1968年4月19日、カリフォルニア州出身。ケンタッキー大学でフランス語を専攻するも、女優になる夢を追って大学を中退しハリウッドへ。ウェイトレスなどの仕事をしながら演技を学び、1991年のTVシリーズ『新スタートレック』で女優デビュー。TVドラマなどで活躍後、『カフス!』(1992)で映画初出演を飾る。その後『ヒート』(1995)、『評決のとき』(1996)で注目を浴び、1997年のサイコサスペンス『コレクター』で主役に抜擢された。『ダブル・ジョパディー』(1999)ではアクションもこなせる芯の強い女性を演じている。他の主な作品に『氷の接吻』(1999)、『恋する遺伝子』(2001)、『ハイ・クライムズ』(2002)、『ツイステッド』『五線譜のラブレター』(2004)、『BUG/バグ』(2007)などがある。


■ジム・スタージェス(ギャビン・コセフ/ミュージシャン志望のユダヤ学校講師)

1981年5月16日、ロンドン出身。英国ソルフォード大学で映画製作と演技を学ぶ。卒業後1993年から2年間、英国ナショナル・ユース・シアターに在籍。その後、音楽活動もしながら、英国のTVドラマに出演。2007年にビートルズの楽曲による異色ミュージカル『アクロス・ザ・ユニバース』で主役を演じて、スクリーンデビュー。2008年の『ラスベガスをぶっつぶせ』で数学理論を身に付けた天才学生役を演じてハリウッド初進出、作品が全米で大ヒットしたこともあり、一躍話題の存在に。『ブーリン家の姉妹』(2008)では、スカーレット・ヨハンソン、ナタリー・ポートマン姉妹の弟役を演じるなど、今後期待の若手俳優として熱い注目を集めている。次回作は『FIFTY DEAD MEN WALKING』。


■クリフ・カーティス(ハミード・バラエリ/移民局の捜査官/マックスの相棒)

1968年7月27日、ニュージーランドのロトルア出身。マオリ族をルーツに持つ。ニュージーランド・ドラマ・スクールを経て、スイスのテアトロ・ディミトリ・スクオラで演技を学ぶ。1993年に『ピアノ・レッスン』でピアノを運ぶマオリ族の1人を演じて映画デビュー。マオリ族の現状を描いた『ワンス・ウォリアーズ』(1994)でニュージーランド映画賞の助演男優賞にノミネートされ注目を集める。1998年からハリウッドにも進出し、個性派俳優として活躍。主な出演作に『救命士』(1999)、『トレーニング・デイ』(2001)、『コラテラル・ダメージ』(2002)『クジラの島の少女』(2003)、『ダイ・ハード4.0』『サンシャイン2057』(2007)、『紀元前一万年』(2008)などがある。


■アリシー・ブラガ(ミレヤ・サンチェス/メキシコ出身の不法移民)

1983年4月15日、ブラジルのサンパウロ出身。『蜘蛛女のキス』(1985)などで知られる女優ソニア・ブラガの姪。父親がTV関係の仕事をしていたことからフェルナンド・メイレレス監督と知り合い、19歳で『シティ・オブ・ゴッド』(2002)で長編映画デビューを飾る。その後、ブラジルの映画やTVドラマに出演し注目を集め、2007年には『アイ・アム・レジェンド』でウィル・スミスと(ほぼ唯一の)共演という大役を得てハリウッド進出。メイレレス監督の『ブラインドネス』(2008)にも出演しており、今後が大いに期待される新星である。


■アリス・イヴ(クレア・シェパード/オーストラリア出身の女優の卵)

1982年2月6日、ロンドン出身。1970年代から英国で活躍する俳優トレヴァー・イヴと、女優シャロン・モーンの娘。ロンドンのウェストミンスター高校を卒業後、女優を志し、LAのビバリーヒルズプレイハウスと英国オックスフォード聖キャサリンカレッジで演技を学ぶ。在学中より舞台に立ちながら、2004年よりBBCのドラマに出演。2006年に出演した2本の英国映画「Starter for 10」(共演:ジェームズ・マカヴォイ)、『ビッグトラブル』で注目を集める(日本ではいずれも劇場未公開)。2006年夏には英国を代表する劇作家トム・ストッパードの舞台「ロックンロール」に出演、2007年のブロードウェイ公演にも参加するなど、英米を股にかけて活躍する若手実力派。


■サマー・ビシル(タズリマ・ジャハンギル/バングラディシュ出身の少女)

1988年7月17日、カリフォルニア州パサデナ出身。アメリカ人の母とサウジアラビア人の父の元に生まれ、4歳から14歳までをサウジアラビアとバーレーンで過ごす。2001年の同時多発テロ発生後カリフォルニアへ戻り、高校で演劇のクラスを専攻し女優を志す。17歳でTVシリーズ「Just for Kicks」(2005)で女優デビュー、その後数本のTVドラマに出演。2008年にはレバノン人の少女の成長を描いた「Towelhead」(共演:アーロン・エッカート)で主役に抜擢され、高い評価を集める。米「バラエティ」誌の「今後注目の10人の女優」でも取り上げられるなど、今後も目が離せない存在。


■ジャスティン・チョン(ヨン・キム/高校に通う韓国出身の移民)

1981年5月29日、カリフォルニア出身。韓国系アメリカ人俳優として2005年より活動をはじめ、TVシリーズ「Jack&Bobby」「Taki&Luci」に出演。2006年のTV映画『カンフー・プリンセス・ウェンディー・ウー』では、在米日本人俳優の小山田真(『ラストサムライ』)と共演。映画では、麻薬を題材にしたブラックムービー「Puff, Puff, Pass」(2006/未)、ホラー映画「HACK!」(2007/未)に出演。近作では、日本でも翻訳本が出版され話題のヴァンパイア小説の映画版『トワイライト』(2009)に出演している。


■メロディ・カザエ(ザーラ・バラエリ/イラン系アメリカ人女性)

イラン、テヘラン出身。幼少期をギリシャで過ごしたのち、家族と共に南カリフォルニアに移住、演技の虜となる。カリフォルニア大学アーバイン校演劇科卒業後、ラリー・モス・スタジオとステッペンウルフ・ウェストでも演技を学んだ。以来、ユニークな経歴を生かし、舞台「Lysistrata」のインド人少女をはじめ、TVドラマ、短編映画でもラテン系、イラク人、イタリア人といった多様なキャラクターを演じてきた。得意のペルシャ(ファルシ)語を活かして、本作が長編映画としてはキャリアのなかで最も大きな役となった。