『トゥモロー・ワールド』/"CHILDREN OF MEN"





トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション [DVD]
2006年11月18日より日劇1ほか全国にて公開

2006年/イギリス=アメリカ/109分/ユニバーサル・ピクチャーズ提供/ストライク・エンタテイメント製作/ヒット・アンド・ラン・プロダクションズ製作協力/ビスタサイズ/カラー作品/提供:ポニー・キャニオン、東宝東和/配給:東宝東和

◇製作総指揮:トーマス・A・ブリス、アーミアン・バーンスタイン ◇製作:ヒラリー・ショー、マーク・アブラハム、トニー・スミス、エリック・ニューマン、イアイン・スミス ◇監督:アルフォンソ・キュアロン ◇撮影監督:エマニュエル・ルベッキ,A.S.C. ◇原作:P.D.ジェイムズ "The Children of Men(人類の子供たち)"(文庫化名「トゥモロー・ワールド」ハヤカワ文庫刊) ◇脚色:アルフォンソ・キュアロン、ティモシー・J・セクストン、デビッド・アラタ、マーク・フォーガス、ホーク・オツビー ◇編集:アレックス・ロドリゲス、アルフォンソ・キュアロン ◇プロダクション・デザイナー:ジェフリー・カークランド、ジム・クレイ ◇衣装デザイン:ジェイニー・ティーマイム ◇オリジナル楽曲:"フラグメンツ・オブ・ア・プレーヤー"ジョン・タヴナー ◇SFXスーパーバイザー:ポール・コーボールド 

◇キャスト:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、キウェテル・イジョフォー、チャーリー・ハナム、クレア=ホープ・アシティ、マイケル・ケイン



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【解説】

◆もう、空想ではない人類滅亡へのシナリオ。
ついにSF映画が"今"を描く時代が来た。


1902年に製作されたリュミエール兄弟による世界初のSF映画『月世界旅行』から104年、フリッツ・ラングの『メトロポリス』(1926)から80年、ジョージ・パルの『タイムマシン/80万年後の世界へ』(1959)から47年、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968)から38年、リドリー・スコットの『ブレードランナー』(1982)から24年、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』(1987)から19年、ジェームズ・キャメロンの『ターミネーター2』(1991)から15年、ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』(1999)から7年、そして、スティーブン・スピルバーグの『A.I.』(2001)から5年、世界最高の映像クリエイターたちが無限のイマジネーションによって創り出してきたSF映画の傑作とその驚異の未来像の数々。

だが、いまや現実はかつて多くの天才クリエイターが想像した未来に追いつき、ある意味それを追い越してしまった。そして、進化したデジタルVFXが映像表現におけるすべての不可能を可能にし、ファンタジックな空想を映像にすることが誰にでも簡単にできるようになった中、SF映画はもはやリアリティのない夢や空想といった"絵空事"を描くことはできない。

2006年、SF映画は、明日起こるかもしれないリアルな未来を描き、人類に警告する。強烈なメッセージと壮大なアクション・エンターテインメントを融合させたまったく新しいおもしろさと興奮、21世紀の世界が待っていたSF映画の進化型、それが『トゥモロー・ワールド』だ。

4度の英国推理作家協会賞に輝く<イギリス・ミステリー界の女王>P.D.ジェイムズの大ベストセラー『人類の子供たち』を、<キューブリック、スピルバーグを凌ぐ才能>として今ハリウッドで最も期待されているアルフォンソ・キュアロン監督(『天国の口、終りの楽園。』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』)が完全映画化。その完成度の高さと衝撃度の大きさ。世界のジャーナリストが注目するモニュメンタルな傑作の誕生である!!

ある日を境とした急激な出生率の低下の果て、遂に人類は繁殖能力を完全に喪失。それから18年を経た西暦2027年、世界は秩序を失い、内戦やテロが地球規模で発生して既存の国家が次々と崩壊していた。そんな中、イギリスは独裁的な政権が軍事力によって暴徒や反体制勢力を封じ込め、すべての移民をキャンプに隔離して、国家機能をどうにか維持していた。かつて平和活動家だったエネルギー省の官僚セオは、反政府組織"FISH"のリーダーとなった元妻ジュリアンから助けを求められる。それは国家に対する重大な犯罪だったが、同時にわずかに残された人類の未来を守るために、人としてやらなければならない愛と勇気の試練だった……。狂気の戦場と化した近未来のロンドンを舞台に暗躍するさまざまな武装勢力、未来を握る少女の秘密と彼女をめぐる壮絶な争奪戦、そして、残された人類が最後の希望を託す"ヒューマン・プロジェクト"の存在……。果たして、人類に明日<TOMORROW>は来るのか?


出演は、人類の未来を守るために命をかける男セオに『クローサー』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた『キング・アーサー』『シン・シティ』のクライヴ・オーウェン。セオの元妻で反政府組織のリーダー、ジュリアンに『ことの終わり』『エデンより彼方に』でアカデミー主演女優賞にノミネートされた『ハンニバル』『フォーガットン』のジュリアン・ムーア。セオの奮闘を手助けする活動家時代の友人ジャスパーには『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』で2度のアカデミー賞に輝く『殺しのドレス』『バットマン ビギンズ』などの名優マイケル・ケイン。反政府組織の副官ルークに『キンキーブーツ』『インサイド・マン』のキウェテル・イジョフォー。同じく組織の武闘派戦士パトリックに『コールド マウンテン』『フーリガン』のチャーリー・ハナム。その他、『マチルダ』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のパム・フェリス、『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『マグダレンの祈り』のピーター・ミュラン、『アビエーター』『ナイロビの蜂』のダニ−・ヒューストンら、演技派俳優たちが脇を固める。

スタッフにも、キュアロン監督が創造する近未来をリアルに映像化すべく超一流の専門家たちが集められた。撮影監督は、本作において本年度のヴェネチア国際映画祭でオゼッラ賞(技術貢献賞)を受賞した、『ニュー・ワールド』『スリーピー・ホロウ』のエマニュエル・ルベッキ。衣装デザインは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のジェイニー・ティーマイム、プロダクション・デザイナーは『ラブ・アクチュアリー』『マッチポイント』のジム・クレイと『アンジェラの灰』『ダイヤモンド・イン・パラダイス』のジェフリー・カークランド。編集は『天国の口、終りの楽園。』のアレックス・ロドリゲス。また、エグゼクティブ・プロデューサーのトーマス・A・ブリス、アーミアン・バーンステイン、プロデューサーのマーク・アブラハム、エリック・ニューマンは、『エアフォース・ワン』や『スパイ・ゲーム』、『ドーン・オブ・ザ・デッド』などを次々と送り出しているヒットメイカーである。

総製作費120億円、壮大なるスケールの中に、決して絵空事ではない恐怖と戦慄の未来図をリアルに描いて人類に警鐘を鳴らす空前のSFアクション・エンターテインメント『トゥモロー・ワールド』! これは、今すでに地球で起こり始めている真実である。



 


【プロダクションノート】

◆アルフォンソ・キュアロンが追求するリアリズム。

映画製作者アルフォンソ・キュアロンにとって、彼の映像手腕はストーリーに勝る。鋭い社会の記録や、犯罪ドラマ、子供向けのクラシック、ディケンズ作品のリメイク、洞察力のあるロード・コメディ、大ヒット作の魔法の話……。彼の作品はすべて、スクリーンで繰り広げられる物語を完璧に魅せるため、ミスがなく職人的である。それぞれの作品が、少しずつ、"アルフォンソ・キュアロン"とは誰か、ということを教えてくれる。そんな彼の最新作が、イギリスのミステリー作家、P.D.ジェイムズの原作"THE CHILDREN OF MEN"の映画化である。それは、メキシコ人映像クリエイターに何かをもたらす……希望だ。

監督は言う。「私が映画を創る時、私の観点から創る。ということは、この映画を"汚染"するのだ。人間は、破壊に対してとてつもない才能を持っている……。それと同時に、皆で一致団結して問題を解決することもできる。『トゥモロー・ワールド』の最後では、人類の破滅を伝えているのではなく、人間の判断と行為のイデオロギーだ」。

キュアロンがこの作品に参加したのは、少し遅れてのことだった。ジェイムズの原作が、まずプロデューサーのヒラリー・ショーの目に留まり、作家に了承を得て(彼女はサスペンスで有名だが、原作は明らかにサイエンス・フィクションだった)、9年前に映画化の企画が上がり、プロダクション・カンパニーにヒット・アンド・ラン・プロダクションズを選んだ。ストライク・エンターテインメントのプロデューサーであるマーク・アブラハムも、この原作のファンだった。同僚がアブラハムに本のコピーを渡し、映画化するにはもってこいではないか、と話しかけたのだ。アブラハムは同意し、互いに『トゥモロー・ワールド』の映画化に情熱を持っていることを確認し、一緒にプロジェクトを立ち上げることとなった。プロジェクトはさまざまな紆余曲折を経て、最終的に、キュアロンが興味を示したことで前進した。「アルフォンソはユニークな才能のある監督。彼の情熱は否定しがたく、彼の参加は、全員を再活性化させた」とアブラハムは言う。

キュアロンは脚本の最初のドラフトを渡されたが、数ページを読んだだけとなった。その後の休暇中のこと……「そのドラフトには同意できなかったが、作品の設定が数週間私の中に残った。思い出すよ、サンタ・バーバラのビーチにいて、突然作品のすべてが見えたんだ。目の前にね」。

"サイエンス・フィクション"や"未来派"という名の下にある、技術的なものには一切興味を示さなかったアルフォンソだが、現在、人類が目の当たりにしている問題を、映像化せずにはいられない気持ちになった。キュアロンは続ける。「この設定は、現在を語る素晴らしい機会になると思ったんだ。"近未来"というエクスキューズを使って。現在の環境こそが未来を創るから、未来についての作品ではなく、今の話を創りたかったんだ」。そして付け足す。「これはSFではない。これは、2027年のチェイス・ムービーだ」。

キュアロンは、脚本のパートナーであるティモシー・J・セクストンに話を持ちかけ、ビーチで見た映像をストーリーとつなげるよう相談した。2人は、原作者が持つ荒涼とした近未来の見解をより強めた。 一 もう一度、人類が未来を信じてみようと思う理由 一 世界中で問題となっている小子化というジェイムズのコンセプトを、撮影可能な脚本へと縮小改編した。

当時、著者ジェイムズは、30年後の未来を描き、人類の絶滅までにはまだ時間があるということを読者に伝えた。脚本家たちはそれを22年に縮め、より現在に近付け、"もしかしたら?"と観客を悩ませることにした。『トゥモロー・ワールド』は現在の道しるべとして、2027年の近未来にゆっくりと飲み込まれていく。

2001年初頭にこのプロジェクトに参加したキュアロンは、21世紀になったばかりということもあり、この話に夢中になった。彼にとって多くの"未来的"な作品は、何らかの独裁政治を予知させるものだが、セクストンは違い、専制政治のようなものを思い描いた。「未来を描くほとんどの作品は、"ビッグ・ブラザー(ヒーロー的存在)"が出てくるが、それは20世紀の専制政治の見方だ。今起きている専制政治は変わっている。21世紀の専制政治は民主主義と呼ばれる。原作から、とても興味深いコンセプトを見つけた」。

キュアロンとセクストンの形式ばらないリサーチでは、幅広い人種に、この世界を象徴しているものは何かを聞いた。すると2つの答えが中心となって返ってきた。1つは、世界的に移住者数が圧倒的に増え、政治的に猛反対するという変動(過去10年間の移住者数は、地球上過去最大となった)、2つ目は、300年以上続いた植民地主義の波及効果と、それに対する反発。この現在起きている問題にプラスして、大陸的な流行病、国際テロリズムの増加、世界的な気象の変化も、『トゥモロー・ワールド』に関連した近未来の憶測だ。

確かに、キュアロンとセクストンにとっての明日の世界というのは、現在のリアルな世界が基となっている。2人はそのアイデアをテーマに取り上げ、彼らのかかげる未来世界へのシナリオが始まる時間設定を、2027年11月16日のロンドンにした。その結果、近い将来、人類に起こることへの警戒を促すストーリーとなった……空想的にも現実的にも。

『トゥモロー・ワールド』で描かれている未来のヴィジョンは、荒涼としているのか、それとも希望に満ちているのか……脚本家兼監督いわく、映画は観る人のマインドが映し出される鏡。キュアロンは、「私たちが映画の始まりとなる架空の時間を考えている時、過去に起きていたことが実際に動き出した……TVをつけると、映画で使用した映像が映る。おそらく21年後には必ず。しかし私は観客に、私のアイデアや質問への答えを簡単に教えたくない。それより、観客が考えるように質問を投げかける。ということは、この映画はあなたと同じで、未来の希望を描いている」。



◆未来の世界を現在のロンドンで撮影する。

イギリスで撮影を行う最大の冒険は、そこに居座る悪評高い気候にあった。強風や嵐、身を切るような風の攻撃……水たまりができて泥だらけになり、雲が空を覆い……。問題が山積みとなり、挑戦以外の何物でもなかった。しかしストーリーにとって、そのグレーな近未来の世界は願ってもないことだった。

ロケは常に挑戦なくしては成立せず、ロンドンで最も人が多い名所での撮影は、それを象徴していた。2005年7月7日にロンドン中心部で起きたテロにより、セキュリティが通常よりも厳しくなった中にあっても、魅力あるロケーションを選ぶことに意欲を燃やした。その決断は、数カ月後、ウェストミンスター、トラファルガー・スクエア、イギリス王室の前庭セント・ジェイムズ公園を確保する結果になる。

ロケーションの責任者、マイケル・シャープは、その過程をシンプルに言う。「アルフォンソは初日から、アドミラルティ・アーチと王室騎兵隊を使うことを決めた。それは、許可を得るのに長い時間がかかり、たくさんの獣医テストを受けなければならないことを意味するんだ!」

『トゥモロー・ワールド』に示されているその世界は、希望のない世界。裕福な人とそうでない人は明確に分けられ、マーキングされる。映画の大半、観客は荒涼としたコミュニティを旅するセオの目線となり、裕福である"違う側面"は、通行証を得るために、従兄弟を訪ねる時、わずかに垣間見ることができる。そこに行くのにセオは車に乗り、特別なゲートをくぐる。金持ちは世界の動物を陳列し、それらを子供の代わりとして楽しむ。しかしそれ以外は、キャストとクルーがイギリス郊外を走り回り、時に冬の厳しさに立ち向かいながら、ハートフォードシャーの牧場や、ケントの廃止された造船所、ハンプシャーの兵舎などで撮影されている。

早い段階で、観客に時と場所を認知させるため、『トゥモロー・ワールド』は、ロンドンのフリート・ストリート(ブリティッシュ・プレスが昔から所在し、裁判所や法廷などがある)で、セント・ポール寺院を背景にしたショットから始まる。しかしその親近感と安心感は、コーヒーショップ(改築されたパブ)からセオが出てきた瞬間に爆破されることで、すぐに崩される。そこで観客は、社会が崩壊していることを知らされる。その後、セオは拉致され、倉庫にいる元妻のジュリアンの前に連れてこられる。そこは、実際にはケント州チャータムの歴史的な造船所で、1613年から1984年まで王室の船舶修理を行っていたことで有名であり、昔の複雑な航海術の例がある場所として今も残っている。

国際的な現代芸術があるナショナル・ギャラリーであり、芸術省庁の入り口となっているテイト・モダンは、セオの従兄弟、ニジェールが所有している。劇中でニジェールは、自己崩壊した国から芸術作品を救いコレクションしている。ミケランジェロの代表的彫刻のダビデ像もそうだ。2000年に建築されたテイト・モダンは、テムズ河の南岸にあるバターシー元発電所の中に造られた(この建物に豚のバルーンが浮いているのは、ピンク・フロイド「アニマルズ」のジャケットへのオマージュ)。

ギルフォード近くのサットンにあるジャン・ポール・ゲティの建物は、1週間ほどクルーのベースとなり、鋪装された道や車道、森の中など屋外での撮影が行われた。

他にも興味深いロケーション場所がある。アルダーショットのブルネヴァル兵舎は、移民の検問所となり、世界大戦と冷戦の時に使用されたイギリス空軍アッパー・ヘイフォードは、セオが半狂乱でキーを探す(一番長いワンテイクのシーン)移民キャンプとなり、昔イギリスの国鉄が通っていて今は蒸気機関車の鉄道として文化遺産でもあるウォータークレス・ライン(ミッドハンツ鉄道)は、セオがジャスパーに会うために使われた道で、ロンドンの南にあるウィンブルドン・ドッグ・レース場は、セオの行きつけの場所であり、セオがジュリアンの使者と会うポイントでもあった。

多くの場合、製作がロケーションの許可を取るために動く。特にトラファルガー・スクエアとアドミラルティ・アーチ(セント・ジェイムズ公園からバッキンガム宮殿に続く道の入り口にある)が大変だった。シャープは言う。「トラファルガー・スクエアでの撮影は、プレ製作の2005年から2006年2月の第2週目までの間の、本当に1日しか与えられなかった」。

本来、ロケーションでの撮影には、撮影許可を得るために山のような書類作業がある。アドミラルティ・アーチとトラファルガー・スクエアでの撮影は民主主義的システムにより管轄が違い、大変な作業となった。プロデューサーのイアイン・スミスは言う。「スクリーンで観る3秒のシーンは、実は数カ月かけてつなげているんだ」。

2005年にロンドン中心部で起きたテロ以降、特に"レッド・ゾーン"(特に混雑しているロンドン中心部でホワイトホールとバッキンガム宮殿の間)での撮影には、さらに通常以上の努力が必要とされた。製作は、限られた中で何が本当に必要かを見極め、詳細を正確に把握しつつ、不慮の出来事を想定した。すべては、安全を第一に考えてのことだった。



◆8分間を超える、クライマックスのワンショット撮影。

キュアロンは『トゥモロー・ワールド』で、可能な限りワンショット(長回し)での撮影をしようと決めていた。現在の映画に多い律動的で人工的なカットは排除し、シネマヴェリテ風(ドキュメンタリー・タッチの映像製作法)にした。「フレームはできる限り絞り、そして常にセオの知覚を追った」とキュアロンは言う。それを可能にするために、彼はワイドレンズを装着したカメラで移動しながら、俳優の感情的なリアクションを引き出し、さらに特定の場所で正確なタイミングを要求される撮影を試みた。これは俳優と撮影クルーが、長く難しいショットをうまく連携していかなければならないことを意味する。本番よりリハーサルの時間の方が長くとられたこれらのショットは、編集の時間を縮小し、途切れ目を減らす撮影技術である。目的は、観客を映像の中に取り残し、セオが旅するドラマに惹き付けることだ。

キュアロンが望む映像を可能にするために、カメラ・オペレーターのジョージ・リッチモンドは16週間もハンディカメラで撮影をした。その結果、ショットはリアルな触感になり、観客をセオが体験する旅の中にいるような気分にさせた。ルベッキは言う。「カメラも、セットの中にいる俳優と一体化させた。探究的なカメラが主人公を追い回し、時にはとても不安な感情を煽る。これにより観客をその状況に誘い込み、リアルな時間を味わってもらうことができる」。

映画の終わりに近づく場面で、8分間以上続くアクション満載のワンショットがある。「このシーンは路上で紛争が行われている中、主人公たちがビルの中に入っていき、自由の戦士と共に外からの攻撃から身を守り、反撃をするシーンだ。部屋から部屋へ、フロアからフロアへ、ワンショットでのシーン。私は本能で皆にこう言った。"大丈夫、いつでもカットすればいいんだ"と。でも皆はそれに反発し、"何を言っているんだ、カットするわけにはいかない! すべて一発でやってみせる!"と言ったんだ」と、キュアロンは言う。このシーンは、カメラ以外の準備に4日間かかった。5日目にいくつかの計画が崩れた。そして、その日が終わる直前にヴィジョンがひとつになった。監督は言う。「予想以上のものができた。それまでにいくつかのアクシデントがあったが、それがむしろこのシーンをイキイキとさせた!」

ワンショットでの撮影の中で、いくつかのシーンは限られた日にしか撮影ができなかった。プロデューサーのアブラハムは言う。「撮影するための光が充分になく、真冬のイギリスで撮影することは難しかった」と。すべてのシーンのディテールは、撮影前に念入りに準備され、ミスを犯す間もなくなっていた。

車の中に5人いて、セリフと行動を撮影する12分のシーンは、大きな挑戦だった。カメラの後方にいるクリエイティブ・チームは、このシーンのために新たな仕掛けを発明した。それにより、カメラが同乗者の邪魔にならずに車の中で動くことができ、また、まるで途中でカットされていないような継続したシーンを撮影することができた。フランク・ブオーノは、新たな仕掛けの達人だ。「車の中ならどこでもカメラを取り付けることができて、窓の外も含め360度撮影が可能だ。装置も見えないし、障害物もない」。

新たな仕掛けを作った人物は、この撮影法が使用し続けられることを望んでいる。ブオーノは言う。「アルフォンソは頭をかきながら、どうすればこのアイデアが特許を取れるか考えていた。皆がすぐに飛びついて使い始めるからだ。彼はこの仕掛けにとても誇りを持っているし、私たちも同じだ。私たちはこの作品で象徴的な撮影をしたという感じがする。本当に、車の中のジェットコースターみたいなんだ」。



◆500年後ではなく、20年後の未来をデザインする。

"現在"のロンドンでの撮影は、映画製作者たちにとって大きなチャレンジとなった。事実、『トゥモロー・ワールド』は21年後のロンドンが設定となっている。それはプロダクション・デザイナーと撮影チームにとって、乗り越えなければいけない問題が山程あることを意味する。2027年、イギリスの社会は崩壊し、ニュー・モダンとトラディショナルの違いも、警察の手によって縫い合わされたように見える。ある意味、それは戦後の風景を表わし、人々がただ生き延びようとする部族生活の再現となった。キュアロンはこう指摘する。「この作品にはアイコンになるものがひとつもなく、それは現在ではあり得ない」。

500年後の世界をデザインするほうが、20年後の世界をデザインするより簡単だ。そのような世界をリアルに表現するには、現在と未来を上手にブレンドし、観客に"まだ起きていない"ということをしっかりと刷り込みつつ、"現在"あるスタンダードなものも提示しなければならない。たとえば、キュアロンと彼のデザイン・チームは、フィアットのマルチプラをヒーローが乗る車に選んだ。その突飛なデザインは、少しだけいじれば通用したからだ。衣装デザイナーのジェイニー・ティーマイムも、見覚えのあるような近未来、しかも混乱している世界を反映した。車や洋服といった物が平凡であるのには理由がある。それらは21年の間に劇的に変化はしない。最終的に、少しの道しるべがある、僅かな変化しかない世界。ほとんどが同じような世界となった。

プロダクション・デザイナーのカークランドとクレイの仕事は、広大でリアルな世界の質感を創り上げ、アクションが充分にできるスペースを提供することだった。クレイは言う。「それはすごくエキサイティングだったけれど、シーンとシーンを縫い目が見えないようつなぎ合わせ、ひとつの時間枠にしなければならなかったから、クルー全員にとって大きなチャレンジになった。アルフォンソはディテールに関しては素晴らしい目を持っているが、大きな作品のデザインをしていたら、ディテールを取り入れることを忘れる時もある。彼は、いかにリアルに見せられるか、ディテールを忘れないよう常に意識させてくれた」。

『トゥモロー・ワールド』が持ち合わせている危険は、そう遠くない未来である。大陸的な病気が発生し、移住に対する絶え間ない争い、自然気候のバランスの悪化は、未来にある問題ではない。事実、ある医療機関は、子供を産めない女性が増えていることを警告している。原因は愚かなダイエットや薬物摂取、公害などである。

最年少の俳優であるアシティはこう言う。「『トゥモロー・ワールド』の世界で最も怖いのは、世界中で起きていることに対する政府の反応と反発です。協力して助け合うのではなく、真逆のことをする。これは本当に恐ろしい未来です。その自己中心的な政策が、慈善事業や良心よりも優先されるのです」。

この未来のヴィジョンは、1人の映画製作者が生んだものである。人間の行動を批評するのではなく、ただ注意深く観察する。そして、観客自身に気付かせる終わり方だ。プロデューサーのヒラリー・ショーいわく、「『トゥモロー・ワールド』でのキュアロンのスタイルは、観客と少しだけ距離を保ち、独立的」。ショーは続ける。「アルフォンソのプロセスとカメラマンとの仕事をみて感激しました。彼らは私たちから何も奪うことなく、私たちから最高のものを引き出してくれる」。

プロデューサーのエリック・ニューマンは言う。「アルフォンソの長所のひとつには、自分の信念に対して勇気を持ち合わせていることだ。彼は決して揺らぐことがない」。

クライヴ・オーウェンが付け足す。「私は数多くの映画に出演してきたが、このような作品は初めてです。アルフォンソは、明確なヴィジョンを持ち合わせて撮影をし、とてもユニークなことをする数少ない監督です」。

『トゥモロー・ワールド』が映画ファンにとって何を意味するか、プロデューサーのマーク・アブラハムは自身の個人的な経験から自信を覗かせる。「どんなに素晴らしい映画製作者でも、たとえそのキャリアが長かろうと、その好奇心と技能を維持する。アルフォンソ・キュアロンも例外ではない。正直、観客が彼の芸術性をキャッチして、映画を好きになってくれることを、ただ望むだけだ」。

最終的にキュアロンは、世界にあるおびただしい数の課題についての議論の行き着く先を期待している。今現在起こっている世界中のニュースは、『トゥモロー・ワールド』に近未来のヴィジョンを想起させる。彼はこう締める。「エンド・ロールが流れると同時に、映画が終わるようには創りたくはなかった。その代わり、エンド・ロールが流れるところから映画を創りたかった。それが、映画の本当の始まりだから」。



 


【ストーリー】

◆子供が誕生しない未来を変える少女の出現。
唯一の希望を失えば、人類に明日はない。


西暦2027年、人類に子供が誕生しなくなって、すでに18年の歳月が経過していた。あらゆる研究もその原因を解明することができず、人類はただ静かに地球を明け渡す時を待つばかりだった。そして、その年の11月16日、18年前にブエノスアイレスで生まれた"人類最後の子供"が障害事件に巻き込まれて死亡したというニュースが世界を駆けめぐり、人々の心はさらに重苦しい空気に包まれた。

未来への希望を失った人間たちは秩序を失って暴徒と化し、世界中の多くの国家が次々と崩壊していった。イギリスでも各地で反政府勢力による爆破テロが頻発していたが、軍事力を使った徹底的な抑圧で、どうにか国家機能を維持していた。

エネルギー省官僚のセオ(クライヴ・オーウェン)は、ある日、武装した集団に拉致される。アジトに連行された彼を待っていたのは、元妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)だった。彼女は今、反政府組織"FISH"のリーダーとして活動を行っていた。セオもかつては理想に燃えた平和活動の闘士だったが、20年前に我が子を事故で失ったことで生きる意味を見失い、自分の将来にも人類の未来にもまったく興味がない、希望を捨てた男になっていた。そして、今では体制側の人間に成り下がっていたのだった。ジュリアンがセオを拉致した目的は"通行証"。1万ポンドの報酬と引き換えに、政府の検問を通過できる通行証を手に入れてほしいと依頼してきた。セオはあまりにも無謀なその依頼を一度は断るが、ジュリアンが政府の目を逃れ接触してきたことに、重要なわけがあることを感じていた。そして、何よりセオは今もジュリアンへの想いを断ち切れないでいたのである。

協力を決心したセオは、通行証を手に入れると、再びFISHとコンタクトを取った。そこで彼は、彼らの計画の全貌を知らされる。それは、彼らが保護しているキーという名の移民の少女を安全に、そして極秘裏に"ヒューマン・プロジェクト"に届けるというものだった。ヒューマン・プロジェクトとは、世界中の優秀な頭脳が結集して新しい社会を作るために活動している国境のない組織。しかし、その存在を確認したものは、皆無に等しかった。そしてまた、セオはこの少女こそが人類の未来を変える存在であることを、知る由もなかった。

一方、FISH内部にはキーを政治目的に利用しようと、ジュリアンの計画の阻止を狙う過激派が存在していた。彼らの陰謀を偶然知ってしまったセオは、キーを連れアジトからの逃亡を図る。しかし、外は政府軍と反体制勢力との激しい戦闘が続く最前線だ。存在するかどうかもわからないヒューマン・プロジェクトにキーを無事届けるため、セオは必死にミサイルと銃弾の嵐をかいくぐる。しかし、ここからヒューマン・プロジェクトとの接触ポイントまではあまりにも遠すぎた……。





 


【キャスト&スタッフ】

◆P.D.ジェイムズ異色のSFを120億円の巨費で
アルフォンソ・キュアロンが映画化。


■アルフォンソ・キュアロン(監督・脚本)

1961年11月28日、メキシコ・シティ生まれ。メキシコ国立自治大学で映画と哲学を学ぶ。1993年にTVの「堕ちた天使たち(FALLEN ANGELS)」(1993)の一話「都合のいい女(MURDER OBLIQUELY)」の演出でアメリカに進出、ケーブルエース賞監督賞を受賞。続けて『リトル・プリンセス 小公女』(1995)でハリウッドに進出し、ロサンゼルス映画批評家協会新人賞に輝く。長編第3作『大いなる遺産』(1997)ではディケンズの著名な小説を、舞台を現代に移して大胆に映画化。イーサン・ホーク、ロバート・デ・ニーロ、グウィネス・パルトロウ、アン・バンクロフトという豪華キャストでも話題を呼んだ。その後、メキシコに戻り、2001年の『天国の口、終りの楽園。』が、アカデミー賞脚本賞にノミネート。ヴェネチア国際映画祭で主演のガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナが最優秀新人賞をダブル受賞。本国メキシコではハリウッドの大作を抑えて2001年の年間興行成績第1位を記録する大ヒットとなった。その後も、シリーズ最高傑作とも評される世界的大ヒット作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』等のブロック・バスターな作品から『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』など小規模な作品まで監督、脚本と幅広くその才能を使い分け、"キューブリックの後継者"として今後活躍が最も期待される監督のひとりである。今後には、『MEXICO '68』、『THE HISTORY OF LOVE』、『THE MEMORY OF RUNNING』が控えている。


■P.D.ジェイムズ(原作)

1920年、イギリスのオックスフォード生まれ。クリスティを継ぐ現代ミステリーの女王。イギリス推理作家協会(CWA)賞を4度も受賞している実力派。どの作品も文学性に優れた高い水準を保ち、ほとんどが映画化・TV化され放送されている。幼い頃はケンブリッジで過ごす。1941年に医師と結婚し娘を2人もうけるが1964年、死別。国民健康保険協会、警察局などに30年間勤務する傍ら、その経験を活かしミステリーの執筆を始め、1962年、処女作「女の顔を覆え」で作家デビュー。1971年の第4作「ナイチンゲールの屍衣」がCWA(イギリス推理作家協会)賞のシルバー・ダガー賞を受け、世界のミステリー界にその名を知らしめた。その後、可憐な女性私立探偵コーデリア・グレイ、アダム・ダルグリッシュ警視シリーズで人気を博す。1975年「黒い塔」でCWA賞シルバー・ダガー賞、1986年「死の味」でCWA賞シルバー・ダガー賞、および1987年度マカヴィティ(国際ミステリー愛好家クラブ)賞を受賞。1987年CWA賞のダイヤモンド・ダガー賞、1999年アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の巨匠賞を受賞している。その作風は、意外な犯人像よりも、登場人物の心理を細かく描写することにある。1991年には爵位も授与され、2000年には80歳を祝う自伝を発表。現在も新作を生み出す驚異の執筆活動を行っている。「THE CHILDREN OF MEN(邦題:人類の子供たち)」は1992年作の異色SF。


◆ナチュラルな映像と1970年代UKロックが融合する未来。
2006年ヴェネチア国際映画祭オゼッラ賞(技術貢献賞)受賞


■エマニュエル・ルベッキ(撮影)

1969年メキシコ生まれ。その色彩感覚あふれる大胆なアプローチによって、現在世界で最も賞賛を集める撮影監督のひとり。1991年の『赤い薔薇ソースの伝説』で一躍国際的な注目を集めた。アルフォンソ・キュアロン監督とは『LOVE IN THE TIME OF HYSTERIA(SOLO CON TU PAREJA)』(1992)以来4本の長編劇映画すべてで組み、『リトル・プリンセス 小公女』(1995)でアカデミー賞にノミネート。『大いなる遺産』(1997)での仕事に注目したティム・バートン監督のたっての要望で『スリーピー・ホロウ』(1999)を手掛け、絵画的な美しさにあふれた画面で評価を不動のものとする。本作では一転して手持ちカメラを多用した生々しい映像を生み出している。他の代表作に『リアリティ・バイツ』(1994)、『雲の中で散歩』(1995)、『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)、『彼女を見ればわかること』(1999)がある。本作ではワンショットを多用した臨場感あふれる映像が評価されヴェネチア国際映画祭でオゼッラ賞を受賞している。今後の作品としては、『ニュー・ワールド』(2006)に引き続き、テレンス・マリック監督の最新作『TREE OF LIFE』が控えている。


■ジョン・タヴナー(オリジナル楽曲)

1944年1月28日、ロンドン生まれ。イギリスで絶大な人気を誇る現代作曲家タヴナーは、1970年代初期にストラヴィンスキーの影響を受けたアバンギャルドなスタイルから転じて、1980年代からは、主に神秘主義的な声楽作品でメシアンやシュトックハウゼンと並び称される。その強烈なインパクトと可能性を最も早く認めていたのがビートルズだったのは有名。全編のバックに流れる、1960〜1970年代の音楽シーンを象徴する深遠で宗教的なクラシック風の音楽と、1960年代後半に現れ渾沌と創造を予見させる英国ロックの正統(レノン&マッカートニー/ミック・ジャガー&キース・リチャーズ)からプログレッシブ・ロック系(キング・クリムゾン)の選曲、ディープ・パープルからリバティーンズまで、現代感覚あふれる両極端の選曲が本作に深みを与えている。

ロンドン王立音楽アカデミーにおいて、レノックス・バークリーに作曲を学ぶ。劇的カンタータ<鯨>(1968年)はロンドン・シンフォニエッタによって初演された後、<セルティック・レクイエム>と並んで、アップル・レコード(特にジョン・レノンの紹介)から発売された。2000年2月に、1990年代の作品を集めたCD「魔法のア・カペラ2」が、米グラミー賞(ベスト・スモール・アンサンブル部門)を受賞した。シャンティクリアのジョーゼフ・ジェニングズは、「この音楽は、あらゆる人々が本来持っている心の平和と安らぎを、信仰が宿る場所へと流してくれる。魂を豊かにするための音楽である」と激賞している。また、1997年、ダイアナ元妃の葬儀用曲が演奏されて脚光を浴び、2002年には第45回グラミー賞を受賞。1977年にロシア正教会に入信し、多大な影響を受ける。その一方で、中世スペイン神秘主義からも影響を受けている。2002年にナイトを授与される。2004年にイスラム教に再改宗、さまざまな波紋を呼んだ。



■クライヴ・オーウェン

1964年10月3日、イギリス南中部のコヴェントリー・ワーウィックシャー生まれ。1984年〜1987年の3年間、著名な演劇学校・英国王立演劇アカデミー(RADA)で演技を学び、ヤング・ヴィク・シアターに所属、数々の舞台に出演する。1988年、舞台「ロミオとジュリエット」でロミオ役を演じ、ジュリエット役のサラ=ジェーン・フェントンと恋に落ち、1995年に結婚。また1988年には、イギリスの青春映画『ブルーム』でスクリーン・デビュー。しかし、その後は役柄に恵まれず、TV出演等の下積み時代を経て、1997年、『ベント/堕ちた饗宴』で同性愛の男性を好演。翌1998年に主演した『ルール・オブ・デス/カジノの死角』はアメリカでも評判を呼び、1999年のTV作品「SECOND SIGHT」の警部ロス・タナー役でお茶の間の人気を博した。ロバート・アルトマン監督の『ゴスフォード・パーク』(2001)では、殺人事件の鍵を握るミステリアスな男を演じ、豪華な共演陣と共にその演技を絶賛される。2002年、マット・デイモン主演の『ボーン・アイデンティティー』でハリウッド大作へ初進出、翌2003年は『すべては愛のために』でアンジェリーナ・ジョリーの相手役に抜擢され、さらに2004年、ヒットメイカーのジェリー・ブラッカイマ−製作の歴史超大作『キング・アーサー』でも主演を果たし、知名度を飛躍的に高めた。続いて、かつて出演したヒット舞台劇の映画版、マイク・ニコルズ監督の『クローサー』に、舞台とは別の役で出演。ジュリア・ロバーツ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマンと競演し、その演技が各方面から絶賛され、ゴールデン・グローブなど数々の映画賞を獲得。名実共に世界のトップ・スターの仲間入りを果たす。新作は大ヒット作『エリザベス』(1998)の続編『THE GOLDEN AGE』や『シン・シティ2』などが待機中。

●主要作品

 『インサイド・マン』(2006)
 『シン・シティ』(2005)
 『キング・アーサー』(2004)
 『クローサー』(2004/NY批評家協会賞助演男優賞、ゴールデン・グローブ賞助演男優賞受賞)
 『すべては愛のために』(2003)
 『ボーン・アイデンティティー』(2002)



■ジュリアン・ムーア

1960年12月3日、アメリカ、ノース・キャロライナ州生まれ。1983年、ボストン大学芸術学部で演劇の学士号を取得し、卒業後、1990年に女優としては遅い映画デビュー。それまで、オフ・ブロードウェイを中心とした舞台で豊富な経験を積み、またTVの昼メロ(「AS THE WORLD TURNS」のフラニー役で1988年エミー賞受賞)でも活躍していた。映画界に入った彼女は、作品ごとに異なるタイプのキャラクターに挑戦し、演技派としての地位を確立。ハリウッドの異端児ロバート・アルトマン、インディーズから台頭した新鋭トッド・ヘインズやポール・トーマス・アンダーソンなど、独自の感性で既成の価値観に揺さぶりをかける監督たちと積極的に交流し、『ショート・カッツ』(1994)、『9カ月』(1995)、『暗殺者』(1995)などの話題作に出演。1994年、ルイ・マル監督の『42丁目のワーニャ』での演技が高い評価を受け、悪女からコメディエンヌまでを鮮やかに演じ分け、その演技力が注目を集めた。ポルノ産業の内幕を描いた、1997年の『ブギーナイツ』ではアカデミー賞助演女優賞に、2000年には『ことの終わり』で主演女優賞にノミネート。2001年には『羊たちの沈黙』(1990)の続編『ハンニバル』で、前作でジョディ・フォスターが演じたFBIの捜査官クラリス・スターリング役を獲得。その後も『エデンより彼方に』(2002)、『めぐりあう時間たち』(2002)と必ず賞レースに顔を出す実力派として活躍が続いている。

●主要作品

 『フォーガットン』(2004)
 『エデンより彼方に』(2002/ヴェネチア国際映画祭主演女優賞、LA批評家協会賞主演女優賞、アカデミー賞主演女優賞ノミネート)

 『めぐりあう時間たち』(2002/ベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞)、アカデミー賞助演女優賞ノミネート)

 『シッピング・ニュース』(2001)
 『ハンニバル』(2001)
 『ことの終わり』(1999/アカデミー賞主演女優賞ノミネート)
 『マグノリア』(1999)
 『ブギーナイツ』(1997/LA批評家協会賞助演女優賞、アカデミー賞助演女優賞ノミネート)



■マイケル・ケイン

1933年3月14日、イギリス・ロンドン生まれ。本名モーリス・ジョゼフ・ミクルホワイト・ジュニア。16歳からさまざまな職を転々とし、やがて朝鮮戦争に従軍。帰国後ロンドンに戻って舞台監督助手の仕事につく。働きながらロンドンの演劇学校で学び、やがて劇団の舞台監督助手から役者としてTVに出演。芸名を『ケイン号の叛乱』(1954)からとって、マイケル・ケインにする。1956年の『韓国の丘』で映画デビュー。1963年の『ズ−ル戦争』から注目を集め、1965年に『国際諜報局』のハリー・パーマ−役で一躍有名となった。1966年には『アルフィー』で、全米批評家協会賞最優秀男優賞を受賞。名実共にイギリスの実力派俳優としての地位を確立。その後、ハリウッド作品にも出演を重ね、『ハンナとその姉妹』(1986)、『サイダーハウス・ルール』(1999)で2度のアカデミー賞助演男優賞を受賞している。以降も飄々とした演技で活躍を続け、1993年に英女王エリザベス2世からCBE勲章を授与される。1998年ナショナル・ボード・オブ・レヴュ−功労賞受賞。2000年6月17日には、Sirの称号を与えられた。

●主要作品

 『奥さまは魔女』(2005)
 『バットマン ビギンズ』(2005)
 『ウォルター少年と、夏の休日』(2003)
 『愛の落日』(2002/アカデミー賞主演男優賞ノミネート、英国アカデミー賞主演男優賞ノミネート、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ドラマ)ノミネート)

 『サイダーハウス・ルール』(1999/アカデミー賞助演男優賞/ゴールデン・グローブ賞助演男優賞ノミネート)

 『リトル・ヴォイス』(1998/ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)/英国アカデミー賞主演男優賞ノミネート)

 『ハンナとその姉妹』(1986/アカデミー賞助演男優賞/ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)ノミネート/英国アカデミー賞主演男優賞ノミネート)

 『リタと大学教授』(1983/アカデミー賞主演男優賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(コメディ/ミュージカル)/英国アカデミー賞主演男優賞)

 『アルフィー』(1966/アカデミー賞主演男優賞ノミネート/全米批評家協会賞主演男優賞/英国アカデミー賞主演男優賞)

 『国際諜報局』(1964/英国アカデミー賞主演男優賞)



■キウェテル・イジョフォー

1974年7月10日、イギリスのロンドン生まれ。映画デビューはスティーブン・スピルバーグ監督の『アミスタッド』(1997)。出世作は、サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞を受賞した『堕天使のパスポート』(2002)。その後、大ヒット作『ラブ・アクチュアリー』(2003)や『メリンダとメリンダ』(2004)、『キンキーブーツ』(2005)などに出演。『インサイド・マン』(2006)では、NY市警のミッチェル役で犯人役のクライヴ・オーウェンと共演している。

●主要作品

 『インサイド・マン』(2006)
 『キンキーブーツ』(2005/英国インディペンデント映画賞主演男優賞ノミネート)
 『メリンダとメリンダ』(2004)
 『ラブ・アクチュアリー』(2003)
 『堕天使のパスポート』(2002/サンディエゴ映画批評家協会賞主演男優賞/ヨーロッパ映画賞主演男優賞ノミネート/英国インディペンデント映画賞主演男優賞ノミネート)

 『アミスタッド』(1997)



■チャーリー・ハナム

1980年4月10日、イギリスのニューキャッスル生まれ。映画進出は、ピーター・ヒューイット監督の『ハロルド・スミスに何が起こったか?』(1999)。続く『ケイティ』(2002)でも陰のある大学生を演じ、非凡な才能と甘いマスクが話題となった。その後、『コールド マウンテン』(2003)、『フーリガン』(2005)など、出演作ごとに大胆にイメージを変え、演技の幅を広げている。現在はハリウッドに進出し、今後の活躍が最も期待される若手スターの1人である。

●主要作品

 『フーリガン』(2005)
 『コールド マウンテン』(2003)
 『ケイティ』(2002)



■クレア=ホープ・アシティ

1987年、イギリス生まれ。ルワンダ内戦をテーマにした衝撃作『SHOOTING DOGS』で彗星のように現れたニュースター。ルワンダの希望と称されたアスリートで、フツ族の虐殺に遭遇するツチ族の少女マリーを演じ、ジョン・ハートらベテランに一歩もひけを取らない演技で注目を浴びた。本作出演後は、大学の学業に専念するため俳優活動を休止しているが、将来有望なイギリス若手女優の1人。