『ソフィーの世界』ヨースタイン・ゴルデル&シルエ・ストルスティン来日記者会見
 2000年7月19日(水)ウェスティンホテル東京にて

●出席者(敬称略):ヨースタイン・ゴルデル、シルエ・ストルスティン、吉野紗香(ゲスト)
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【挨拶】

■シルエ・ストルスティン: 今回が日本も初めてですし、アジアに来るのも初めてなんです。本当に興奮してます。そして映画を皆さんに楽しんでいただけることを祈っております。ありがとうございます。

■ヨースタイン・ゴルデル: 本当に、私も日本に戻って来られて嬉しく思います。以前、3回ほど来日はしているんですけれども、全てその3度というのは、「本」のための来日でした。今回、初めて「映画」のための来日ということで、非常に私も嬉しく思います。そして、今回は、想像していたソフィーではなく、本物のソフィー、生身のソフィーを連れて参りましたので、本当に嬉しく思います。


【質疑応答】

◆質問: シルエさんにお聞きしたいのですが、実際に見ると成長していて、凄く可愛らしいと思ったのですが、昨日、日本で少し観光したと思うんですね。どこら辺に行ったのでしょうか。それと、日本人の同じ年の若い女の子を見てどう思ったのか、お伺いしたいのですが。

■(シルエ・ストルスティン): 昨日は、銀座の方に買い物に行きました。そして、若い、私と同じような女性にも沢山会いましたけれども、服装は、我々ノルウェーの若い女性と同じような服装をしています。非常にヨーロッパ的な服装だと私は感じました。日本は初めてなので、お寺とか神社を見に行きたいと思っているんですが、どこかに連れて行っていただけるというお話もあるんですけれど、ちょっと今、名前が思い出せないです。

●司会者: やはり撮影の時よりも身長がだいぶ伸びたという感じですね。16歳ですか?

■(シルエ・ストルスティン): ええ。16歳です。

◆質問: ゴルデルさんに質問ですが、『ソフィー』を創作するにあたって、実在のモデルのような方はいらしたのでしょうか?

■(ヨースタイン・ゴルデル): 本を書いた時には、モデルになった人物というのはいないんですね。全くの想像で描き出した人物なんですけれども、初めて今回、『ソフィーの世界』の映画を観た時には、正に彼女だと、シルエの事を観て思いました。非常に映画にも感動しましたけれども、ボンヤリと想像していたソフィーの顔が、正に、自分がイメージしていたソフィーの顔とピッタリでした。


◆質問: シルエさんに伺いたいんですが、多分、日本のシルエさんと同年代の女の子たちは、この映画に出てくるようなソクラテスとか、ルネッサンスとか、学校では習うのですが、実生活の中ではほとんど無知なんですが、シルエさんのまわりの友達とかは、この映画で書かれている哲学とか歴史のことについて、この映画を観て、初めて「ああ、そうなのか」ってわかるような感じなのか、あるいは、ある程度、この映画で書かれていることを知っている人が多いのでしょうか。もう1つ、ゴルデルさんに伺いたいのですが、3回、過去に来られた中でも聞かれているとは思うのですが、これを若い人たちに「人類の知の遺産」として見せるにしては、日本人から見ると欠けているものがあまりに多い。例えば、ソクラテスと同時代にはお釈迦様が生まれましたし、孔子もいたわけで、「人類の知の遺産」というには、「ヨーロッパの知の遺産」というのならば、非常に好きな映画ですけれども、これを「人類の知の遺産」という風に子供たちに教えると、一寸欠けているのではないか。今度は、そういうものを全て含めた「世界の人類の知の遺産」の映画を作っていただく計画などはありますでしょうか。

■(シルエ・ストルスティン): あまり、ノルウェーの学校でも哲学の話、授業がないので、あまり教えられていないんです。ですから、無知であるとか、全くそういったことに興味がないということではなく、単に知らない人が結構多いです。要するに、自分の年代より上、高校2、3年になって、こういう授業を受けるようになって、また学んでいくと思います。

■(ヨースタイン・ゴルデル): もちろん、この本を書いた時も、映画の時も、「ヨーロッパの思想」、「西洋の知の遺産」という風に私は考えて書きました。映画もそれに基づいていますから、全く私は東洋の思想や哲学に無知なわけではなく、非常にこの分野も勉強しています。私は非常に、仏教にインスピレーションを与えられています。非常に皮肉なのは、結構、若い日本の方々よりも、ノルウェーだとかヨーロッパの方々の方が、禅とか仏教に興味を持っていて、非常に知識を持っているということも言えると思います。それから、今回のこの本では、ソクラテスから現代までの西洋の流れを書いてきました。映画ももちろんそれに基づいております。大体が、この『ソフィーの世界』のような哲学の歴史を書くということ自体が、非常にクレイジーなことです。きちがいじみた事です。こういう哲学の本が売れるとは全く思ってみませんでした。ですから、これが世界中でベストセラーになったというのは、非常に驚いております。そして、この、映画に1番なりにくい本を映画化するということは、もっとクレイジーなことだと私は思っております。ですけれど、この本が、そして、映画が前菜のようなものであってほしいと思っているんです。映画はコメディタッチですし、童話的なフェアリーテイルの部分もありますし、そのように作られていますが、若い人たちがこれを見て、刺激を受けるといいと思います。また、ストーリー自体が、若い少女が真実の探求という旅に出るという物語ですので、若い人たちにそういう刺激が与えられるといいと思います。それから、私は、東洋の哲学や思想の教科書も沢山書いているんです。ですから、よく今のような質問を受けるんですが、私自身は、今そういうものを書くというプランはないです。しかし、私がこういうものを書いたがために、他の人に刺激を与えて、全世界の、東洋も西洋も全部含めた思想や哲学の本を書いて下さればいいなという気持ちもあります。

●司会者: そうですよね。禅とか私達の方が知らない時ってありますよね。私なんかは、それで恥ずかしい思いもしたことがあります。


■(ヨースタイン・ゴルデル): 逆にですね、今回、前回と日本の高校、大学に行ったんですけれども、日本の学生や先生たちは、非常にドイツの哲学とか私より遙かに知っていたりするんです。

●司会者: カントとかデカルトとか結構勉強しましたよね。

■(ヨースタイン・ゴルデル): 本当に、この本を書いた時には、まさか、この本が翻訳されて日本で出版されるなんて思ってもみなかったんです。ですから、もし知っていたなら、もっともっと仏教や東洋の哲学も書きたかったんですけれども、そんなことは全然夢にも思っていなかった。私が言いたかったのは、西洋の人たちに、自分のルーツとか伝統を思い出しなさい ― もっともっとそういう歴史についてもっと勉強しなさい ― という刺激を与えたかったんですけれども、日本の若い人たちも、仏教とか神道ですとか、いろんな思想、哲学に興味を持っていただければいいと思います。

◆質問: シルエさんに伺います。映画の中では2役を演じてらっしゃいましたが、その上で、演じるのに気を遣ったことや、大変だったことはありますか。あと、もう1つ、ゴルデルさんに伺いたいのですが、この原作を映画化したいという話が監督からあって、それを作っていく過程で、監督や脚本家に注文を出したことがあったのでしょうか。

■(シルエ・ストルスティン): まず、ソフィーの方がずっと大きな役で、ヒルデというのはあまり出てこない役ですね。2役といっても、同じように演じ分けたというよりも、ずっとウエイトが大きいのがソフィーで。監督が、いろんなアドバイスとか手伝ってくれましたので、演じやすかったです。特に問題はなかったです。なるべくこの2つの役を演じ分けて、ミックスしないようにとは言われましたが。ただし、ヒルデのお父さんが本を書いている。そして、その本の主人公がソフィーですから、かなりヒルデの影響はソフィーは受けているんです。

■(ヨースタイン・ゴルデル): 本当は2役ではなく、もっと他の役を演じているんだよ。たとえば、フランス革命に出てくる女性も彼女が演じています。まあ、これは今、ソフィーが感じている女性の権利とかそういうことを運動していた女性ということで、彼女がその役もやっているんで、正確には2役だけではないんです。


■(シルエ・ストルスティン): 後半の方に、ソフィーとヒルデが2人同時に出てくるというシーンがありまして、そういうのは演じ分けるというよりも、目線ですとか、印ですとか、ここを見るとか、非常に技術的なこともありましたので、そういうことにも注意をはらって演じました。

■(ヨースタイン・ゴルデル): まず、本が出てベストセラーになった後、沢山のハリウッドの映画会社からオファーがありました。私は、ビックリして失神しそうになりました。これは本当なのか!? 彼らは本気なのか!? って疑問に感じるくらい驚きました。そして、いろんなオファーが来た中で、ノルウェーのテレビ放送局(日本で言えばNHKのような放送局)があるんですが、そこからもオファーが来ました。もちろん、金額的には、ハリウッドの映画の足下にも及びませんが、いろいろ考えた末、やはり、この本はノルウェーの本で、映画もノルウェーで作るべきではないかというふうに思いました、ですから、ハリウッドからのオファーは全部断りまして、このノルウェーの放送局に映画化権を渡しました。最終的には、ノルウェーで最も予算の大きい映画になりました。映画に関する注文ということについては、映画製作会社と一緒にいろんな話をしましたが、脚本家が来て、監督も決まった段階では、もう一切、私は手を引いて、私の芸術は、全て本で完成しておりましたので、映画に関しては、脚本家、そして監督に全てを任せるという姿勢をとりました。ですから、最初に映画を見せられた時は、どういう映画になるかという予想もまったくついていなかったんです。しかし、観てみますと大変感動しました。そして、新たな発見、たとえば、フランス革命、ルネッサンスの時代とか、凄く大がかりな撮影もあったということで非常に満足しました。私の中心にある1番のメッセージ、若い女性の真実の探求ということはしっかりと描かれていたと思いますし、また、非常に観客が楽しめる童話的な娯楽作品に仕上がっていたとも感じました。

◆質問: お2人にお聞きしたいのですが、実際に、この映画の主人公のように時空を旅できるとしたなら、どの時代の誰に会ってみたいですか。

■(ヨースタイン・ゴルデル): 欲張って3人に会ってみたいです。まずはソクラテス。彼は何にも書いていない。書物を残していない謎の人物です。是非とも彼にあって、いろいろ聞いてみたいことがあります。後は、イエス・キリストです。彼も誰なのかわからない。そして、何も書き残していない。でも、我々に非常に大きな影響を与えているので、彼に会いたい。そして、ソクラテスの200年前に戻ってブッタに会ってみたい。彼も何も残していない。教えは我々には伝わってきているんですけれども、何も書物を残していない彼らに会って、いろいろと質問責めにしてみたいです。

■(シルエ・ストルスティン): 私は、ゴルデルさんについて行きたい。

会場、笑い。

ここで、特別ゲストとして、この映画を観て『ソフィーの世界』のファンになってしまった若手女優の吉野紗香が花束を持って会場に駆けつけた。「『ソフィーの世界』の映画を観て、この作品の大ファンになって、今、こうして花束を渡せるのがとても嬉しいです」。もともと哲学とか中世に興味があったという彼女は、シルエの案内するこの作品のわかりやすさにますます興味を持ち、幸せな感じをおぼえたという。この『ソフィーの世界』が、彼女の思想、哲学への扉を、また1つ開けてくれたようだ。シルエよりも2つ年上という彼女は、「いつまでも純粋な感じで大人になってほしいです」と彼女にエールを送った。この若い2人を見て、以前、教師を生業としていたゴルデル氏は、「いつの日か、2人が共演できると素晴らしいと思うんです。その映画は、ノルウェーと日本の共同製作の映画で、そして、タイトルももう決まっております。そのタイトルは、『サーモン&シルク』です。“シルエ”、“サヤカ”、“サーモン”、“シルク”全て頭に“S”が付くんです。」と語り、会場を湧かせた。


『ソフィーの世界』は2000年7月29日より有楽町スバル座にて公開。