『ミラクル・ペティント』 ハビエル・フェセル監督来日記者会見
 4月24日(月)スペイン大使館にて
●出席者:ハビエル・フェセル監督、フォアン・レーニャ スペイン大使
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【挨拶】

■フォアン・レーニャ スペイン大使: 皆さま、本日はスペイン大使館にようこそお出でいただきました。ありがとうございます。スペイン大使館では、日本におけるスペイン映画のプロモーションの催しを、ほんの数ヶ月の間に3回行いました。今回が3回目です。スペイン大使として格別に喜ばしく思いますし、スペイン映画がますます日本で知られるように期待しております。

スペイン映画は、近年、たびたび日本で賞を受けております。フリオ・メデム監督の『バカス』、アレハンドロ・アメナーバル監督の『オープン・ユア・アイズ』、ベニート・サンプラノ監督の『アローン 〜ひとり〜』の各作品は、東京国際映画祭での受賞を果たし、ニュー・スペイン・シネマを雄弁にアピールしました。また最も新しいところでは、ペドロ・アルモドバル監督が、ハリウッドにおいて最優秀外国語映画部門でオスカーを獲得したのは、つい1ケ月前のことです。これらすべての事実は、スペイン映画の健全性と最盛期を反映するものです。

スペイン映画は、芸術面でも産業面でも、近年のスペイン社会の進歩を映し出す最良の鏡です。今日は、日本の専門誌を代表する方々に対し、新たなスペイン映画、ハビエル・フェセル監督作品『ミラクル・ペティント』を紹介いたします。監督のフェセル氏も御同席いただいております。ハビエル・フェセル監督は若い映画製作者ですが、多くの実績と長いプロとしての経験を持っています。フェセル監督は、広告から長編映画、TV用映画まで豊かな経験を持っています。フェセル監督は、プロデュースも手掛けております。1995年には、最優秀短編映画の部門でゴヤ賞を受賞するなど多くの重要な賞を受賞しております。監督の作品は、フランス、スペイン、ドイツで公開され、このたび、日本の観客の皆さまには、監督の長編映画第1作である『ミラクル・ペティント』をご覧いただくことができます。ユーモアのセンスと独創性、創造性に溢れたこの映画を、パルコの事業局が配給なさることは、大変意義深いことだと考えます。そして、非常に要求が厳しく洗練され、目のこえた日本の観客の皆さまが関心を持ってくださることと私は確信を持っております。本日は、お越し下さいましてありがとうございました。


■ハビエル・フェセル(以下、フェセル): 皆さま、本日はこの会場にお越し下さいましてありがとうございます。これから、今、ここにいることについての幸運についてお話ししたいと思います。私は、これまでにあらゆる道を歩んできました。そして、映画という物語や感情をいろんな人間と共有できるメディアに出会ったのです。この映画によって、私は、自分の幼少時代の思い出や、自伝的要素を語ることが出来るわけですが、こういった形で、映画を通して私の知らない日本という文化に届くことができるのです。たとえこれがある国のことであっても、語り方が正直なものであれば非常に国際的なものになる。つまり、自分の真摯な態度が、国境を越えて、あらゆる国の人の心に届くと思います。

この“ペティント”についてですけれども、私もスペイン人ですから、スペインについてあらゆることが溢れています。ただし、このスペイン映画への評価で私がもっとも気に入った中の1つに、この映画はジャンル分けできないという批評がありました。ある国についての引用ではありますけれども、これは非常に普遍的なものであると思います。というのは、この映画の中で語られていることは、愛や家族、また嫉妬、不寛容といったテーマであるからです。以上です。私の方で、皆さまのご質問に答えることが出来ることがありましたならばお答えいたします。




【質疑応答】

●司会者: これより質疑応答に移らせていただきますが、その前に、私の方からいくつかお話をさせていただきます。ハビエル・フェセル監督は、今回が初めての来日で、『ミラクル・ペティント』は、監督の初監督作品でございます。ですが、この『ミラクル・ペティント』は、すでに世界各国の映画祭に出品されており、スイスのロカルノ映画祭では、審査員特別賞も受賞しております。また、1つ大変興味深いエピソードがございます。ただ今、アメリカのNASAでは、火星探索ロボットを実験的に開発しているようなんですが、この火星探索ロボットを実験している傍に、スペインのティント川が流れていること。また、NASAの開発チームがこの『ミラクル・ペティント』という映画を大変気に入ったことから、今度NASAで開発される火星探索ロボットには、“ペティント号”という名前が付けられることが決定したということです。こちらは公式に決定したものでございますので、皆さまにもご紹介させていただきました。

◆質問: いきなりこんな質問で申し訳ありませんが、「タラリン タラリン」というのは、造語だと思うのですが、もし、語源があれば教えていただきたいのですが。実は、日本の漫画で「タリラリラーン」というのがあるんで、もしかしてコレと関係があったりするのでしょうか。

■(フェセル): まず最初に「タリラリラーン」というのは、何か日本語で意味があるんでしょうか?

◆質問者: ないと思います。


■(フェセル): まず、スペインで「タラリン タラリン」ということですが、これは造音、音からきた言葉でありまして、まったく意味はございません。実は、私が小さい頃、父親に、夜が遅くなりますとベットの中に入れられたんですが、私は父親を、ベットに入って「タラリン タラリン」と呼んだんですが、そうすると父が部屋に入ってきて、子守歌というか、物語を語ってくれました。映画の中では、いわゆる無邪気な語彙といいますか、無邪気な俗語が使われていると思います。これらは、今になって使われていない言葉も多くあるんですが、これらのことは、私が幼少の頃を思い出させるものがあるんです。私は、両親や祖父たちへの思い出を、これらの言葉を使うことによってより豊かにすることができました。それから、「カルパンタ」という「脅し言葉」がありますけれども、これは、スペインの漫画から出てきている言葉ですが、そういった語彙が多くこの映画には含まれています。「カルパンタ」と言いますのは、“テーベーオー”というスペインの子供向けのコミック雑誌があるのですが、そこに出てきた登場人物の名前でして、この人物はいつもお腹を空かしていたということで、「カルパンタ」という軽い「脅し言葉」が出来上がったわけです。ただし、この映画を作った後となってしまっては、ベッドに入って父に「タラリンタラリン」という気持ちは起こりません。もしかしたら、誤解が起きるかもしれません。

◆質問: 映画の中の引用として印象に残るのが、コミカルな、サブカルチャー的なものが印象に残ると思うのですが、今おっしゃったスペインのコミック以外で、アメリカのワーナーのアニメですとか、強くインスパイアされたのは、どういった国のどういったものなのでしょうか。また、日本のジャパ(ア)ニメーションといわれているものは、どこまでスペインのお国では浸透しているのでしょうか。

■(フェセル): 引用については、無意識なものであると考えています。この映画の中では、今までの映画についてだけでなく、少年雑誌の“テーベーオー”や、アニメーションなどを無意識の内に引用していると思います。たとえば、今の質問にもありましたように、『アヒルのルーク』ですとか、『コヨーテ』などの黄金時代のワーナーの作品は、私に非常に大きな影響を与えたと考えております。また、フランスの『タンタンとミル』なしにしては、私の影響というのは考えられないと判断しております。こういった“テーベーオー”や雑誌、アニメを中心に、私のものの世界が構築されていると思います。たとえば、私は登場人物の1人が押しつぶされて、その後に、生肉になって現れるという物語は作ることが出来ないのです。コミック、“テーベーオー”を私が好きな理由といいますのは、この中で暴力という扱いが特殊であるからです。暴力の場面はありましても、私をおぞましくさせる血だとかが全然出てこないんですね。そういったことなどがありまして、この“テーベーオー”などを引用しております。それから、日本のアニメに関してですが、特にスペインの若者を魅了する力を持っていると思います。たとえば、私の6歳になる娘はまだ文字が読めないのですが、『ポケモン』に登場する180人の登場人物を全部記憶していると思います。それから、私が小学校の頃は、歴代のスペインの国王の名前を覚えなければならなかったんですが、30人にも満たない国王の名前を覚えることは私には不可能でした。

◆質問: さきほど、ご挨拶の方で、映画に盛り込まれた幼少の頃のエピソードとして、お父様のお話をお聞きしたのですが、この映画の中に盛り込まれているご自身の体験って他に何があるんでしょうか。とてつもないストーリーなのに、ご自身の体験ばかりなのでしょうか。あと、脚本にご兄弟の方がクレジットされていますが、役割分担等、どのようになっているのか。この2点についてお教えください。


■(フェセル): この物語は私の経験が一杯詰まっていますが、この物語を語る必要性ということも語っておきたいと思います。この物語をどうして語りたかったかといいますと、初めて娘が生まれる前に、私の妻と、彼女にどのような教育を与えることができるかということを非常に心配をしておりました。その点について、まず、お話ししておきたいと思います。しかし、娘や私の家族の物語を直接前面に押し出すのではなく、間接的に語っていこうというのが私の手法なわけです。そこから物語を作っていく作業が始まりました。この中で、私を興味深く引きつける物事について語っていますけれども、なるべくその点があまり目立たないようにしながら、注意して物語作りを進めていきました。この物語の脚本についてのご質問がありましたけれども、私は、この脚本を兄と共に書きました。興味深いことなんですが、私は、一緒にコラボレートしてくれる人間をずっと探していたんですが、やっと見つかった最適の人物が、偶然にも私の兄だったわけです。その逆では、逆のことが起こったわけではありません。それぞれのパート分けについてですが、この映画の脚本は、あらゆる意味において半々で作っていきました。また、この脚本作りにおいて、少年時代の思い出というのを再発見することができたりもしました。けれど、厳密にどこからどこまでというように分けるのは難しいと思います。きちんとお答えできたどうか分かりませが、努力してみましたので、ご勘弁ください。

◆質問: 私は、冒頭のオドロオドロしい怪奇映画が始まるようなところと、ペティントの話の鮮やかな色彩の対比が気に入ったんですが、私が一番気に入ったのは、使えそうで使えないようなウシリュスの発明品だったんです。このアイディアっていうのは、やはり、幼少の頃からの蓄えた結果なんでしょうか。それとも、撮影の過程で生まれたアイディアなんでしょうか?

■(フェセル): まず、冒頭の短編についてなんですが、これは、脚本でオリジナリティーを持たせるために作ったのではなく、一応、問題の解決法として用いられた解決策とご理解ください。“ペティント”は、映画全編において、「子供を持ちたい」という夢を捨てられずに、最後にその夢を叶えるわけですけれども、また、もう一方では、父親が欲しいという子供の夢も叶えられております。観客が2人の出会いを観る時に、もし他のやり方で脚本が書かれていたら、父と息子が出会うシーンというのは前から予知できるわけですけれども、そういう感じにはこの物語は構成されていません。つまり、この映画の秘密と言いますのは、冒頭の場面でパンチート=ホセを示しておいて、それから、別の本編がはじまり、パンチートが戻ってくるまでは彼のことを忘れさせるというのが、この映画の仕組みだったわけです。それから、ウシリュスが作るミカサ星の製品についてお話しします。第一に、私は、アンティーク調のもの、または役に立たなくなってしまったガラクタのようなものに、非常に愛着を持っております。それから、少なからず、私が普段やっている広告の仕事への反動といういう面も持っていると思います。その広告の仕事の中では、常に新しい豪華なものが扱われているのですが、その反抗心も私は持っているわけです。ウシリュスの使う道具なんですが、これらはゼロから発明されているものではなく、今までになんらかの形で作られていたものがリサイクルされていると思います。非常にシュールな変な格好をしたものばかりなのですが、以前に誰かの手に渡ったということの事実が、観客がこの道具に愛着を持つ要因になると考え、このアイテムを使っています。

◆質問: 映画の中で、家族愛ですとか、笑いの場面もあったと思うのですが、そのふたつは、監督にとって実生活でも映画の中でも、どのような位置を占めているのでしょうか。


■(フェセル): 正しい事。そうでない事。これらは切って離せない事だと思うのですが、映画の中で用いられたユーモアというのは、あえて観客を笑わすことのみのために作られていないと考えています。兄と私は、こういった物事の見方を共有しているわけです。つまり、日常で会う人々、日常で起こる物事について同じ考えをしているわけですけれども、たとえば、悲しい出来事が、後に笑って許せることが人生には起きると思うのですが、そういった信念を持って私は物語作りを進めています。

◆質問: 素人の俳優を使うことについてお聞きしたいということと、プロでない俳優、スクリーンで観たことのない俳優を使う傾向についてお聞かせください。

■(フェセル): まず私は、私よりも重要な人物が撮影現場にいることが許せないということがあります。観客としては、私が知らない俳優を使っている時の方がより感動します。それから、こういったタイプの物語については、有名な俳優たちの顔よりも、他の顔を求めていると考えています。

◆質問: “ペティント”という名前ですが、これはスペインではポピュラーな名前なんでしょうか。

■(フェセル): いいえ、ポピュラーではありません。“ペティント”というのは、私の第二の姓、つまり、母方の姓なんです。これは非常に珍しい名字なんですけれども、母についている名字なんですが、母からは、珍しいという理由で、この名字を使わないでくれと言われました。ですので、Peの「e」を取って、そこにピリオドを置いて、P.Tintoとしたわけです。いずれにしても“ペティント”になりますので、そういう細工をしました。母を騙すことは非常に残念ですが、これが人生です。

『ミラクル・ペティント』は、6月上旬よりシネクイントにて公開。