『マグノリア』来日記者会見
 2月3日(木)ホテル西洋銀座にて
●出席者:ポール・トーマス・アンダーソン監督
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【挨拶】

■ポール・トーマス・アンダーソン: 今回、私を日本に招いてくださいまして本当にありがとうございます。こんなにフラッシュを浴びて嬉しく思っております。ありがとうございます。どんな質問でもお答えいたしますので、恥ずかしがらずに、どんどん質問をしてください。

【質疑応答】

◆質問: この作品で、トム・クルーズが(ゴールデン・グローブ賞の)助演男優賞を獲ってますけれども、トム・クルーズが、ズボンを脱いでパンツ1枚になるシーンがあるんですけれども、トムのインタビューを読んだのですが、監督が、撮影の時にノリで「パンツを脱いで」と言ったということなんですが、トム・クルーズの股間に詰め物をしたというのが話題になっているんですけれども、事実なんでしょうか。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 大変上品な質問から始まったようです(笑)。ノー。答えがノーということで興奮なさってますか? それとも残念ですか? 失望なさいましたか?

◆質問(同): 『ブギーナイツ』で使った特注のものが入ってらっしゃったのかと思ったんですけど。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 僕は、ディック・ディレクターとして有名ですので、大きな股間を作品には常に入れるようにしております。そのほうが皆さんも喜んでいただけるようなので。あの、なにか、トム・クルーズの股間、もしくは、個人的に身体の質問がありましたならお受けしますが……(笑)。もしも私が、トム・クルーズの下着について長々とお話ししてこの作品が日本でヒットするのなら、まだお話ししますが、どうでしょう?

◆質問: 今回、トム・クルーズのようなビッグ・スターを、このような群像劇に起用した理由と、最後にカエルのようなものが降ってきますが、それは何かシンボルのようなものなのでしょうか。この2つをお聞かせください。


■(ポール・トーマス・アンダーソン): トム・クルーズについてですが、ちょうど彼がロンドンにいる時、『ブギーナイツ』が公開になりまして、大変気に入ってもらいまして、僕に会いたいと言ってくれたんですね。僕もトム・クルーズの映画は好きで、いつかトム・クルーズと仕事がしたいと思っておりましたから、両者の希望が合ったということなんです。それで、今回の脚本の中に、彼のためにあの役を書き入れました。したがって、彼を念頭にあの役を書いたわけなんですけれども、何か、今までのトム・クルーズとは違った、悪い感じの、または、変わった役を彼のために書きたいと思いまして、そういった意味で、彼はあの役をとてもうまくこなしてくれたと思っております。あと、彼のようなビック・スターが、アンサンブルとしてうまく群像劇に機能したかということなんですが、僕自身は、他の共演者たちとうまく均衡がとれていたと思います。そして、悪い意味で、スターとして目立ったということはないと思います。もちろん、彼は、本当に素晴しい演技を見せてくれたわけで、そういう意味では大変目立っていましたけれども、彼がスターだから目立ったということは今回はなかったと思います。あと、カエルなんですけれども、私は、皆さんに楽しんでいただきたいと思いましてカエルを出しました。うまくいったと思います。それから、シンボル的なものはあるかということですが、それは、皆さんそれぞれの感じ方によりますので、皆さんが、何かシンボル的なものがあると思うのなら、そう考えてください。

◆質問: 単純な質問なんですが、なぜ、『マグノリア』というタイトルをつけたのかということをお伺いしたいのですが。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): この語感が好きなんです。

◆質問: お父さんのことをお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): どんなことでしょう。

◆質問: 確か、お父さんは、TVショーのホストをされていたと思うのですが、確か3,4年前にお亡くなりになりましたよね。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): ええ。

◆質問: 癌ですか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): そうです。

◆質問: 監督の映画は、3本ともお父さんと息子の関係性の物語だと思うのですが、それはやはり、お父さんのことなのかということと、今回の映画は、TVショーのお父さんの話で、癌で亡くなられるのですが、それはやはり、お父さんが関係しているのでしょうか。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): あの、いつも自分の父親のこととか、自分のプライベートのことについてご質問を受けまして、大変それを答えるのは、僕は躊躇してしまうんです。なぜならば、僕の書いた作品というのは、皆さんご想像の通り、自分自身の実生活が題材になっていることが多いのですが、それと同時に、僕の空想の世界も多く含まれているわけです。書いている僕自身、どれが本当に起きたことで、どれがそれをベースにして僕自身が想像を逞しくしたものかということがわからなくなるくらいなんです。ですから、僕が、僕と父のことを描きましたといったら、皆さんは、僕と父の関係はそういう関係なんだと思ってしまわれる。それも困るわけでして。1つ言えることは、私と父は本当に親しい関係でしたし、素晴しい関係が持てたと思います。あと、癌なんですが、僕の場合、父に限らず、周りに癌を患っている人が多くて、たとえば、『ブギーナイツ』に出演しましたロバート・リズリー(Robert Ridgely)もそうなんですけれども、ですから、父が癌を患って癌で亡くなったから癌を取り上げたわけではありません。

◆質問: 『マグノリア』のタイトルの語感が好きとおっしゃいましたけれども、私もマグノリアという花は大好きなんです。何か神秘的な神様の花みたいな感覚でとらえているんです。監督は、語感以外にシンボリックな印象をお持ちなんでしょうか。


■(ポール・トーマス・アンダーソン): 僕もシンボリックなものは感じます。この花はミステリアスだとおっしゃいましたよね。僕もそう思います。だからこそ、僕は、僕が感じていることを敢えて言いたくないんです。ミステリアスにしておきたいので、先ほどからあまりちゃんとお答えしていないんですけれども。それから、この花について僕の考えを言ってしまいますと、あとあと、何であんなことを言ったんだと嫌われてしまいそうな気がします。英語では、今晩打ち明けたことを、もし何かを打ち明ければ、翌朝になったら、その打ち明けたことによって相手が自分を嫌ってしまう、憎んでしまうということがあるんですけれども、正にそういう状況になってしまいますので、お答えしないでいます。

◆質問: この映画における宗教感をお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): この映画は、やはり僕の映画なので、僕の宗教感が反映されていると思います。ただ、僕の宗教感はなにかというと、特に僕は持ってないんです。僕は、基本的には、カトリック教徒の家に生まれましたけれども、あまり宗教心もなくて、ですから、カトリック教でありながら、カトリック教についてあまりわかっていませんし。ですけれども、なんらかの形でここに宗教的な意味があるとしたならば、空からカエルが降ってくるという記述は聖書の中にも書かれております。それと、皆さんは驚くかもしれませんが、この映画はスピリチュアルな映画とも言えると思います。それで、もしかしたら、僕がこの脚本を書いている当初求めていたものかもしれません。そして、この映画が黙示録的だと言いましたけれども、僕はそうは思っていない。黙示録的というのは、あまりイイ事ではないと思っております。そして、あと、実際にカエルが空から落ちてきたというのは起きています。それが書かれた本を読んだ時、これは使えるなと僕の中でベルが鳴って、これを使おうと思いました。何か、僕の中でもそういったスピリチュアルな部分を求めていたのかもしれません。

◆質問: 『ブギーナイツ』は、セックス、ポルノ業界を取り上げた映画。今回の映画では、トム・クルーズがセックスの伝導師みたいなキャラクターとして登場しています。あなたの映画でセックスを取り上げるなんらかの意味はあるんでしょうか。


■(ポール・トーマス・アンダーソン): 好きなんだ。『ブギーナイツ』の作品は、僕は、家族の関係を描いた作品だと思っております。たまたまキャンバスがセックス。そのキャンバスの中で家族が描かれていると僕は思います。あと、トム・クルーズのキャラクターにしても、彼は、そんなにセックス自体には興味を抱いていなくて、彼が何を求めているかというと、パワー、支配力だと思います。それが彼を駆り立てているものだと思いますし、もしかしたら、そんなにセックスには興味さえ持ってないかもしれません。そして、彼の中には怒りというものがあって、そのはけ口の形が、ああいった間違った方向で出ているように書かれてあるんですけれども、彼は、基本的に、人を支配したと考えていると私は考えています。そして、私はセックスが好きなので、どんどん映画の中にセックスが出てくることを祈っております。

◆質問: オスカーを手にする気持ちはありますか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): それだけはセックスよりイイかもしれません。

◆質問: 監督自身がこの映画の中で気に入っているシーンを聞かせてください。それから、以前、雑誌で、ジョナサン・デミ監督に影響を受けたという話を聞いたのですが、それがもし本当でしたなら教えてください。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 2つ、いや、3つ気に入っているシーンがあります。まず1つ目は、トム・クルーズが、死にかけているお父さんに会いに行くシーンですね。それと、クローディアが警官とデートをするシーン。あと3つ目が、登場人物が1曲ずつ歌を唄うシーンです。これが気に入ってます。ジョナサン・デミ監督は、大変尊敬しておりますし、彼のような監督になりたいとかねがね思っております。で、なぜならば、彼はすごくヒューマニストですし、人道主義者と思うんです。それと、人間が置かれている状況に対して、とても心を配って映画を作っていると思います。ですから、僕もそういう姿勢で作品を作っていきたいと思っております。『Melvin and Howard』など大変僕は好きですし、技術的には、彼の音楽の使い方が素晴しいと思います。そういった点を見習いたいと思いますし、『羊たちの沈黙』などは、本当に名作だと僕は思っております。

◆質問: 監督は、とても映画オタクと聞いているんですけれども、日本の監督で好きな方がいましたならば、お聞きしたいのですが。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 澤明監督には、僕はとても大きな影響を受けております。日本では公開されていないと思うんですが、僕のデビュー作は、明らかに『生きる』に影響を受けて作った作品ですし、この『マグノリア』の中で、警官が拳銃をなくしてしまいます。これはそのまま、『野良犬』から取ったものです。そういったことから、常に、黒澤監督から影響を受けておりますし、僕の作品の中にも反映されております。彼の影響力というのは、僕のDNAに組み込まれているので、彼の影響から逃れようとしても無理なくらい、黒澤監督には影響を受けております。

◆質問: 音楽を担当したエイミー・マンと、ミュージック・スーパーバイザーのフィオナ・アップルがどのようにこの作品に関わっているのかと、ロックやポップスが大変お好きな監督という風にお見受けしましが、10代の時には、どんな音楽に影響を受けたかを教えてください。


■(ポール・トーマス・アンダーソン): エイミーに関しましては、本当に彼女の曲、彼女の歌、彼女自身にインスピレーションを受けて作ったと言っても過言ではないです。当初、この作品を作る前に、僕にはいろんなアイディアがあって、なかなかそれが1つにまとまらずに困っていたんです。その時に、彼女のデモテープを聞きまして、それで、どんどん考えがまとまるようになっていきました。彼女にいろいろ話をしまして、彼女の意見を取り入れたわけですけれども、それで、実際に彼女に曲を書いてもらって、それで、僕自身も彼女に脚本を見せて、それでまた話し合って、彼女が曲を書くといった形で作っていきました。それで、『ブギーナイツ』も曲が前面に出ているわけですけれども、僕は、この『マグノリア』も一種のミュージカルだと考えておりまして、大変大きな位置を占めていると考えております。それと同時に、彼女の歌詞の中に大変素晴しい言葉がありまして、そのままセリフの中にも反映させております。10代に聞いた曲なんですけれども、やはり、ビートルズには大変な影響を受けております。それと同時に、ダニー・エルフマンには、彼のポップ・ミュージックと彼の映画のスコアなどには、大変影響を受けて大好きです。

◆質問: ジュリアン・ムーアさんが『ブギーナイツ』と今回出ておりますけれども、今回、非常に個性的な役で、かつ母性を感じさせる役だと思うんですけれども、彼女を、連続してそういった役に起用している理由をお教えください。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 実は、彼女のことは、彼女と一緒に仕事をする前から1番好きな女優さんだったんです。実際、彼女を知って、彼女と会って、彼女と一緒に仕事をするようになって、より彼女を好きになりました。それで、彼女が素晴しい点は、脚本を彼女を念頭に置いて書いています。すると、僕の頭の中で、彼女の声が響くわけですよね。それと、彼女はまったく同じように現場でもセリフを言ってくれるのです。ですから、僕のイメージ通りに演じてくれるから、僕も素晴しいと思ってしまうわけですけれども、また、彼女を心から愛していますし、彼女にもっといい役を書いてあげたいと思っているわけです。

◆質問: 今回など、ロバート・アルトマンの映画を思い出したりしたのですが、なんらかの形で影響を受けた監督の1人なんでしょうか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): もちろん影響を受けておりまして、さきほどもお話しをいたしましたけれども、彼の作品も僕のDNAの中に組み込まれていまして、逃れるに逃れられない。やはり、彼の物語の語り方に1度触れてしまいましたら、影響されない人はいないと思います。あれだけインパクトが強い映画を見せられると、忘れようったって、わすれられません。この『マグノリア』という作品も、彼の『ショート・カッツ』の姉妹映画という感じで考えております。ただ、彼と僕の映画の違う点といえば、僕の方が、いくらかでも彼よりは希望的な映画を作っているかもしれません。もちろん、彼はシニカルだからこそ僕は好きなんですけれども、彼の方がいささかシニカルだと思っております。

◆質問: 看護士をやっているフィリップ・シーモア・ホフマンのファンクラブを作ろうと思っているんですけれども……。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 本当? ならば、僕が会長になります。

◆質問: 彼の魅力と、次の作品でも彼の出演を予定されていますか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): いいえ、二度と彼の顔は見たくないです(笑)。実際の彼は、映画と違って、すごいイヤなヤツで、しかもゲイなんです(会場、笑い)。フィルのかわいそうな点は、彼ほどストレートな人間がいないほどストレートで、ゲイじゃないんですけれども、とにかく、ドラッククィーンとかゲイの役が多いものですから、みんなからそう思われて、いつも不平不満を言っております。やはり、今までの彼というのは、実際の彼とは違う役が多かったですから、それを見かねて、僕は今回は、本当に今回は、彼に近い彼に似たキャラクターを書いてあげようと思いまして、あの役を考えて書いたわけです。実際の彼も、あれだけ本当に心が優しい男です。でも、ゲイですよ(会場、笑い)。

◆質問: トム・クルーズのキャラクターですが、最近、アメリカへは行ってないので分からないのですが、ああいった人が今、アメリカで出現してきていて、ああいったキャラクターを書いたのでしょうか?


■(ポール・トーマス・アンダーソン): あのキャラクターが基になった人がいるんですけれども、エリック・ウェバーという人がいまして、彼は1970年代に、女の子をナンパする攻略本を書いたんです。それは、それほど悪意のあるような本ではなかったんですけれども、そういった人物が1970年代にいて、20年後の今は、そこから、さらに発展した人物がいます。彼らが説いていることというのは、催眠に近いものを使って女の子を引っかけるとか、言葉巧みに女の子を引っかけるわけなんですけれども、それがあまりにも馬鹿らしくてですね、どちらかと言うと、真剣にとらえるというか、笑ってしまうことが多いわけです。普通の女の子ならばこんなことで引っかかるわけないじゃないかということを、真面目に説いている人たちが何人かいます。そういった実際の人たちと共に、実際に、テレビショッピングとかありますよね。そういった人たちの喋り口調とか物を売る口調などを参考にして、2つ合わせました。さらに、トム自身が、実際にこういったセミナーに行って参考にしたらしいです。それと、モハメド・アリの喋り方。彼の口調は非常にリズム感があって、それで、人の気持ちを惹きつけるようなああいった喋り方も参考にしました。

◆質問: この映画の、インパクトあるエンディングについてお伺いしたいんですが。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): 実はこの作品は、最後にクローディアがカメラに向かって微笑みかけますね。あの映像が先に浮かんで、そこからどんどん物語を作っていったわけなんです。で、あのシーンが最初に有りきで作った映画なんですけれども、やはり、『ブギーナイツ』もインパクトのあるエンディング・シーンで終わりました。僕自身は、本当にこれはストーリーによると思います。どういう風に作品を終わらせるのかというのは。でも、僕がいつも目標としているエンディングというのは、もっともハッピーで、もっとも悲しいということを念頭に置いて作ります。

◆質問: ご自身は、自分の映画ほどドラマチックな生活を送ってらっしゃいますか?

■(ポール・トーマス・アンダーソン): あああ(マイクを噛るように)……ほとんどつまらない人生なんですけれども、時にはすごいことが起きたり、空からカエルが降ってきたりすることもあります……それは嘘ですけれども、あのいろいろあって大騒ぎをして、それが終わるとまたつまらない日々が続きます。

◆質問: すみません。つまらない質問をしてしまいまして。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): ノー。つまらない質問じゃないです。僕がつまらない答え方しかできなかったんです(会場笑い)。


◆質問: なぜ、あなたのガールフレンドの歌をあなたの映画に使わなかったんですか。

■(ポール・トーマス・アンダーソン): (ミュージック・スーパーバイザーのフィオナは監督のガールフレンドである)彼女と出会う前にこの脚本を書きはじめました。今回は、音楽はエイミーが念頭にありましたので、エイミーに頼みましたけれども、この脚本を1番最初に読んだのもフィオナですし、彼女の影響はこの作品に色濃く出ていますから、次回作ではフィオナにお願いするかもしれません。あと、フィオナのプロデューサーのジョン・ブライアンという人物なんですが、彼がこの映画のスコアを全部書いて作曲してくれましたから、そういった意味で、フィオナの影響がこの映画には、色濃く出ています。

●司会者: ありがとうございます。先ほど会見前に、この映画の上映は3月上旬ということでお伝えしたんですけれども、たった今公開日が決定しまして、2月26日となりましたのでお伝えいたします。それでは、本日はありがとうございました。




『マグノリア』は2000年2月26日(土)より丸の内ルーブルほかにて公開。