『Hole』監督・主演舞台挨拶・ティーチインレポート
 1999年8月26日(木)20時30分より渋谷シネマライズにて
 ゲスト:ツァイ・ミンリャン監督(写真中央左)、主演のリー・カンション(写真右)




【舞台挨拶】

司会:今日は、この秋の話題作『Hole』をイチ早くご覧になりたい方のために、先行上映会を企画したわけですけれど、なんと、このイベントのために台湾からお2人が駆けつけてくれました。ツァイ・ミンリャン監督とリー・カンションさんです。

会場、拍手。ツァイ・ミンリャン監督と主演のリー・カンションが登場。

司会:ではお2人に、ひとことずつご挨拶を頂きたいと思います。

ツァイ・ミンリャン監督:東京の皆様こんにちは。え〜(会場笑い)、え〜、これで、私の映画は日本で4本目の公開になります。とても嬉しく思っております。特に、この『Hole』に関しては、プレノンアッシュの方々の宣伝その他、大変感謝しております。しかも今回は、劇場の前で4人の女性の方々に、カリプソダンスをしていただいて、私はとても感動しまして、もう一本音楽の芝居を撮りたいと思いました(会場、拍手)。特に、私は日本の観客の皆様にとても感謝しておりまして、日本の皆様と縁があるなと思っております。こうして、皆様に私たちを支持していただくということは、次の私たちの作品への励ましになると思います。是非、この映画を観終ったら、お友達に話していただいて、お友達にも観にきていただきたいと思います。で、その時には是非、傘を持参していただきたいんです。といいますのは、この映画、ずっと雨が降っていますので。ありがとうございました。

リー・カンション:また東京に来て、皆様とお会いできることをとても嬉しく思っております。この映画が日本で成功することを祈っております……(会場、笑い)。それと、明日は私のファンクラブの集いがあるそうなので、みなさんに来て頂きたいと思います。この映画が気に入っていただけることを願っております。ありがとうございます。

司会:それでは、カリプソシスターズ(チャイナドレス風の格好で身を包んだ女性2人。映画のミュージカル・シーンに登場する人物を真似たプレノンアッシュの女性スタッフ2名)から花束の贈呈です。

ゲスト2人に花束が贈呈される。会場、拍手。

司会:それではこれより、『Hole』をご覧いただいて、その後に、またお2人にはご登場いただいて、ティーチインを行いたいと思います。



【本編上映】

上映が終ると場内拍手。
ツァイ・ミンリャン監督、主演のリー・カンション再び登場


【ティーチイン】

司会:お楽しみ頂けましたでしょうか。感動も冷めやらぬところではございますが、折角ですから、皆様の感想とか質問とか、これだけは聞きたい!とか、ありましたなら、それではどうぞ。

質問者:今までのツァイ・ミンリャン監督の映画で、一番面白かったんですが、今までは、監督の映画は音楽が少なかったんですが、どうして今回は、こういうミュージカルというか、音楽映画を撮られたのですか?

ツァイ・ミンリャン監督:この映画は、今までの3本の映画とは違って、私の私生児という感じなんです。といいますのは、これまでの作品というのは、私自身が長い時間をかけて練り上げて撮った私の心の中を描いた作品なんですけれど、今回は、フランスの方から2000年というテーマを与えられまして、2000年の台湾はどうなっているのかというのを撮った映画なんです。それで、フランスの方からこのテーマでどんな映画を撮るか、一日で考えてくれと言われたものですから、私がその時に思いついたのは、とにかく、雨が降りしきって止まないタイペイを撮りたいと思ったんです。私は雨が好きですから。私は2000年以降、実は、悲観的な見方をしていまして……。私はアジアに住んでいて、アジアでは乱開発が進んでおりまして、環境が破壊されているわけです。そんなものですから、最初、この作品を撮る時は、絶望的な感じで撮っておりまして、初めの構想では、ラン・クイメイが自殺するという構想だったんです。ただ、制作を進めるうちに、私としては、あまりに悲観的な未来だけじゃいけないんじゃないかという、自分の中で反骨精神が生まれまして、そしてこういう映画になったわけです。それで、この映画で使った数々の古い曲は、非常に熱情を持っていて、愛情を渇望している歌だと思うんですね。そういう歌をバック・ミュージックだけではなくて、もっと作品のメインに据えたいと思いました。で、これらの歌を通しまして、観ていただいたお客さんとともに、そういう熱情、愛情を取り戻そうじゃないかと思ったわけです。

司会:よろしいでしょうか。一杯話していただいたんですが、ここで、ちょっと宣伝させてください。『Hole』のサウンドトラックCDがもうすぐ発売されます。実は、この映画を私どもが配給することに決まって、どうしてもサントラを出したいと思ったんですね。この機を逃しては、ツァイ・ミンリャン監督の映画のサントラなんて実現出来ないと思ったんです。それで5曲、'50年代、'60年代にヒットした歌姫の素晴しい曲が使われているのですが、それだけではもの足りない気になってきまして、それで昨日、スタッフに音楽プロデューサーの松尾清志さんを連れてきていただいて、試写を観ていただいたんです。そうしたら、これは凄い大エンターテイメントだと、凄く気に入っていただいて、プロデュースを買っていただいたんです。それで、カリプソのリミックスバージョンが2曲出来まして、これでと思っておりましたなら、今度は、先日プロモーションで、監督とヤン・クイメイさんとリー・カンションさんが来日しまして、盛り上がっちゃいまして、声での参加をしようということになりまして、先日完成しました。みんなの愛の結晶です。よかったら聞いてみてください。それでは、長くなってごめんなさい。次の方。リー・カンションさんに聞いてみたいという方、どうぞ。

質問者:ダンスシーンはいかがでしたか?

リー・カンション:あの、僕のほうから聞きたいんですけど。僕の踊りはいかがでしたか?

会場、笑いが起こる。

質問者:以前監督が、リー・カンションさんのことをギコチナイ動きをする俳優だと言っていたので、まさか踊っているとは思わなかったんです。驚きました。でも、良かったです。

リー・カンション:ありがとうございます。僕の踊りで、最後の方に滑稽な振りがあるんですが、あれは僕が考えたんです。

司会:これでヤミツキになっちゃうかもしれませんね。それでは次の方。

質問者:大変楽しく面白かったです。

ツァイ・ミンリャン監督:私は映画にユーモアがあってほしいと思っております。といいますのは、私の映画はストーリーがそんなにないものですから、細かな一部一部に面白さがあったらいいなぁと思っております。是非、私の映画を観て、 1人1人、様々な感じを持って貰いたいなぁと思っております。で、最後のラストシーンなんですけれど、あそこは何度も撮り直したんですけれど、絵のように、何度も感じて頂きたいシーンです。

司会:はい、次の方。

質問者:私がこの作品の情報に触れた時、近未来だとか、ミュージカルシーンがあるとかがあったものですから、ツァイ監督ならではのカラーが失われるのではないかと心配したのですが、これまでの監督の作品と同じで、凄く良かったと思います。しかし、一つだけ、リーさんが、これまでの作品でもシャオカンという役名だったんですけれど、この映画では上の階の男という、固有名詞が使われてなかったんですけれど、これは何か意味があるのでしょうか。

司会:あ、それは、すみません。実は、台本にはシャオカンという役名があるんです。でも、映画の中ではその名前が一度も呼ばれないので、配給会社が勝手に上の階の男と下の階の女としてしまったんです。

会場、笑いが起こる。

司会:実は今日、ここに来る前に、ツァイ監督は、大島渚監督と会ってきたんです。そうしたら開口一番、「私は、この映画、最初から最後まで、大スキだ」っておっしゃってくれたんです。大島渚監督はやはり見抜いておられて、もともとあった監督のユーモアなどの魅力が出たんだろうなぁ、と言っておられました。

会場、拍手が起こる。

ツァイ・ミンリャン監督:先ほどの名前の件なんですが、やはりこの映画が、そういう意味では、抽象的なものを描いたと思っているんです。1人の男と1人の女。女は見るからに男より年は上である。この映画をただの愛情物語にしたくなかった。この映画を人の運命みたいなものにしたいと思っていたんです。それから今日、大島渚監督に会えたことは、非常に嬉しかった。 '95年のヴェネチア映画祭で、大島渚監督は審査員をされていて、審査員とは会話を交してはいけないので、離れたところに彼はいて、会うたびに目で挨拶をしていたんです。で、私がどうして大島渚監督が好きかと申しますと、監督は、常に新しいものを求めて止まない映画監督だと思うからです。映画というものは、一定の型にはまったりするものではないと思うのです。常に自由で、新しい形を望んでいるものだと思うからです。大島監督の作品の中には、そういうものがあると思いますし、私はそれを学びたいと思っております。

司会:大島監督も、ツァイ・ミンリャン監督の素晴しいところは、誰にも似てないところだと言っておられました。

ツァイ・ミンリャン監督:(照れながら)僕の髪みたいなものです。

司会:ありがとうございました。それでは最後に、ご挨拶をお願いします。

ツァイ・ミンリャン監督:みなさんとこうしてお話しできて名残り惜しいので、もう一言話させてください。日本の皆様はとても幸福だと思います。ハリウッド映画も含めて、私のような作家性の作品も観られる。私はマレーシア人ですけれど、私の国の人たちは私の映画を観ることができません。ですから私も、日本で自分の作品が公開されていることを大変幸福に感じます。で、次の映画も是非、日本に持ってきますので、宣伝も、皆様よろしくお願いします。どうもありがとうございました。今日はラッキーなことに、外は雨が降っておりませんので、安心してお帰りください。本当にありがとうございました。

会場拍手。
ゲスト退場。


『Hole』は、9月4日(土)より、渋谷シネマライズにて公開。