『ハンニバル』アンソニー・ホプキンスほか来日記者会見
●3月5日(月)パークハイアット東京ボールルームにて
●出席者:アンソニー・ホプキンス、ディノ・デ・ラウレンティス、マーサ・デ・ラウレンティス(共に製作)
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【挨拶】


■ディノ・デ・ラウレンティス: 今日は本当に皆さまに来ていただいて、嬉しくそして幸せに思っております。日本語が話せないのがとても残念です。私が話すのはナポリタン(イタリア語でナポリの言葉)です。

■マーサ・デ・ラウレンティス: 私たちは東京に来られて嬉しいです(日本語で)。

■アンソニー・ホプキンス: 私も日本語がダメなので…ごめんなさい。

【質疑応答】

◆質問: アンソニー・ホプキンスさんとディノ・デ・ラウレンティスさんにお伺いします。まずはホプキンスさん、10年ぶりのレクター博士、とても恐かったです。それで、前作の終わりで南米とかにいらしたと思うのですが、今回は、イタリアのフィレンツェに潜伏していました。この十年間、レクター博士は何をされていたと思いますか。それと、ラウレンティスさん、数ある作品の中での選択の仕方があるとすれば(それを)お教えください。

■(アンソニー・ホプキンス): 年をとっていたのでしょう(会場笑い)。パスタを食べ過ぎてちょっと髪も薄くなって…。

■(ディノ・デ・ラウレンティス): 非常に簡単です。良いシナリオと良い監督です。映画界というのは刻々と変化しています。特撮あり、CGあり、コンピューターあり…テクノロジーがどんどん入ってくる。でも、良い話と良い監督がいなければお客は来ないわけです。ですから、シナリオと監督です。

◆質問: 十年後にハンニバル博士の靴を履いたわけですけれども、その空白の10年間の靴を履くのが難しかったでしょうか。また、新しく考え方を変えて挑戦したんでしょうか?


■(アンソニー・ホプキンス): 全然、10年ぶりでも何も難しいことはなかった。確かに数年、『羊たちの沈黙』以降「難しかったか」とよく聞かれるんですけれども、私は俳優です。俳優の仕事ですから、全然難しい事ではない。自分の仕事を容易にするように調整しています。ですから、数年間、よく続編があるのかとも聞かれましたけれども、私はいつも「トム・ハリスに聞いてくれよ」と言いました。彼が本を書かなければ始まらないわけですから。そして、彼が書いてシナリオが出来て監督が決まって…今回はジュリアン・ムーアが主演することに決まりました。すべてお膳立てが出来た上でやるわけですから、非常に簡単でした。

◆質問: アンソニー・ホプキンスさんに質問ですが、ハンニバル・レクターにとってクラリスはどんな存在でしょうか。

■(アンソニー・ホプキンス): また繰り返すようですけれども、私はただの俳優です。ですから、誰かが書いたシナリオを分析して自分で演じるということをしているだけです。まあ、私が思うところでは、レクターは彼女の何に惹かれているのかといえば、“力”と“勇気”、“正直であること”、“腐敗に強い、絶対に汚れない”という道徳観を持っている点だと思います。

◆質問(ブラジルの記者): アンソニー・ホプキンスさんに質問ですが、ブラジルでは、数十年前、とっても文学運動がありまして、文化的なカニバリズムをうたうことがあったんですが、アンソニー・ホプキンスさんは、この映画、レクター博士について、俳優としてどのように思っていらっしゃいますか。

■(アンソニー・ホプキンス): わかりません。私はただ彼を演じているだけなので。全く簡単で、時間通りにセットに行って、カメラの位置を確かめて、指示通り動くだけです。仕事です。たまたまそれが主な仕事であることは事実です。とっても楽しい仕事です。しかし、私はレクター以外のいろいろな役柄をたくさん演じています。私はハンニバル・レクターではありません。私は、食べ物に関して全然関心がありません。私は寿司も食べられないんです。ベジタリアンなんです(会場笑い)。夕べは、野菜の天ぷらとご飯をたくさんいただきました。これは大変美味しかったです。フィレンツェではパスタだけ食べておりまして、とにかく私は俳優で、観客は俳優と役柄とを混同されるようです。私は正気の人間です。あのような狂気は全然持っておりません。

◆質問: アンソニー・ホプキンスさんに質問ですが、レクター博士を10年ぶりに演じられるにあたって、監督と役柄について話し合いをされたんでしょうか。もう一点、作品のオファーがたくさんある中で、二度もこの作品を選ばれたということは、この作品に思い入れというのはあるんでしょうか?

■(アンソニー・ホプキンス): あまりディスカッションはしていません。私が非常に嬉しかったのは、ディノ・デ・ラウレンティスさんから、監督がリドリー・スコットに決まったと聞いた時 ― あれは本当に嬉しかった。前回もジョナサン・デミという素晴らしい監督でしたけれども、良い監督というのは俳優を信頼するわけです。ですからとてもやりやすい。リドリー・スコット監督も信頼してくださって、自分のやらなければならない仕事がわかっていると思ってくださっていたので、本当に全面的に「自由にやりなさい」という感じでした。今回、少しアイディアは話し合いましたけれども、本当に私は自由を満喫することが出来た。だからといって、セットを支配するわけではありません。支配するのはやはり監督です。リドリー・スコット、ジョナサン・デミ、スティーブン・スピルバーグ、オリバー・ストーンなどのような力のある監督、しかも頭が良い監督、俳優に自由にさせるのが良いという事がわかっている監督、また、撮影監督にも自由にさせる監督、そういう寛容な監督が良い監督です。とてもやりやすい監督でした。


■(マーサ・デ・ラウレンティス): こう言っていますが、彼(アンソニー・ホプキンス)はとても天才でして、みんなでビックリしているんです。この作品には彼のアイディアが一杯あるんです。たとえば、“オーキー・ドーキー”という言い方、口笛を吹く、“グディ、グディ”という言い方をする。レクター博士が非常にリラックスしているということを考えつくというのは、彼が天才だからだと思います。

■(アンソニー・ホプキンス): この作品を二度やったということは、自分でも特別な意味があると考えています。このハンニバル・レクターという人物は、全世界でとても知られるキャラクターになったわけです。お客さんが惹かれるキャラクターであれば私も惹かれる。これが、いつも私が考える事です。今回二度目だったわけですが、次に三度目のオファーがあるとすれば、シナリオと監督さえ良ければ受ける可能性があります。そして、この二作目でジョディ・フォスターが降りました。あの時、私はちょっと失望しました。別にそれで眠れなくなるというような深刻なものではありませんが。「まぁいいや。なるようになる」という感じで受け止めました。そうしましたら、素晴らしいシナリオが出来てきて、今回やったわけです。

◆質問: ディノ・デ・ラウレンティスさんにお聞きしたいのですが、原作とラストが違うと思うのですが、その点についてどのようにお考えですか。

■(ディノ・デ・ラウレンティス): 確かに、原作では大変美しいエンディングになっているのですが、プロデューサーとしての分析は、やはり、映画としての結末が正しいか正しくないかという判断が分かれるところです。原作は600ページもある長い本で、これを映画としてそのままやるのは良くないと私は判断したんです。非常にショッキングな結末があるんですけれども、その方が、映画的に終わらせるにはいいのではないか。そして、何度もスタッフ、監督とミーティングを重ねました。そうしましたらある日、リドリー・スコット監督が良いアイディアがあると。あのショッキングな場面を最後に ― あの場面があるのとないのとふたつのパターンを撮りましたら、ディレクターズ・カットのあのショッキングな場面があるほうが映画的だということで、あのラストになりました。

◆質問: ディノさんとマーサさんにお伺いします。まず、マーサさんにですが、リドリー・スコット監督を起用された理由をお聞かせください。それと、ディノさんにですが、かつてイタリアで活動されていて、活動の場所をアメリカに移された理由をお伺いしたいのと、かつて『バイブル』という映画で日本人の音楽家を起用されていましたが、今後、アジアの才能と一緒に仕事をされることとか考えていらっしゃるんでしょうか。

■(マーサ・デ・ラウレンティス): リドリー・スコットとの経緯に関してはとてもラッキーで、彼を呼ぶことが出来ました。最初は、ジョナサン・デミがやると言ったんです。それで握手もした。ところが、握手をしたのに、一週間後に、理由はわかりませんが電話で降りると言ってきた。そしてその時、私たちはマルタ島で撮影をしておりました。リドリー・スコットは、その隣りで『グラディエーター』を撮っていたんです。そして、私たちが知り合いなので彼の撮影現場にコーヒーなどを飲みにいったりしていて、私たちの現場に彼が来た時に『ハンニバル』のシナリオを渡して、これをやってくれよと言いました。リドリー・スコットは、アルプス越えをしたハンニバルと勘違いをしまして、「私は今、ローマ時代の話を撮っているのに、またそれは撮りたくない」と言いました。私たちは、「そうじゃない。あの『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターだよ」と言いました。それで、とにかくこのシナリオを読んでくれと。本来、彼は撮影中で非常に多忙だったのですが、週末にそのシナリオを読んで、これは素晴らしいと。そういう経過で、本当にラッキーで素晴らしい仕事をやってくれたと私は感謝しています。

■(ディノ・デ・ラウレンティス): アメリカには1974年に移ったんですが、その理由は、イタリアで悪い法律が通過してしまったんです。これは、イタリア映画は、全て、監督、スタッフまで全てイタリア人で撮らなければいけないという法律です。これでは活動が出来ないということで、私はアメリカに移りました。それから、アジアのフィルム・メーカーや芸術家たちを招くことはもちろんで、どんなプロデューサー、監督でも、クリエイティブな映画を作ろうという人は、何処の国の人であろうと、良いものを持っている人は大歓迎です。映画産業は若い血を必要としているのです。それは何処の国の人でも構わないんです。


◆質問: アンソニー・ホプキンスさんにですが、以前TVで、ハンニバル・レクターを猫にたとえて、彼は優雅な人物であると言っておられたんですが、今回、ハンニバル・レクターをどのように分析なさったのでしょうか。それから、ディノ・デ・ラウレンティスさんにですが、以前、『ハンニバル』の続編があるならば、東京から始まるかもしれないと雑誌で言っておられたのを拝見したのですが、予定はあるんでしょうか。

■(アンソニー・ホプキンス): 私は、前作の『羊たちの沈黙』をやった時にシナリオを読んで、ハンニバル・レクターという人は、とてもパワフルな攻撃的な力を持った人物であると認識して役作りをしました。ですから、トム・ハリスの原作とシナリオに基づいて第一作で彼のキャラクターをかなり完成させました。具体的に申しますと、この男には非常に影があって、暗闇の中にいる。普通の人々では手が届かないところにいるのです。そういう男というのは、普通の観客は興味深く感じられるんです。謎が多く、私も非常に興味深くとらえました。特に第一作では、彼は、狭い牢屋に入れられているので動けないんです。狭い空間で猫のように動く男というイメージが第一作でほぼ完成していたんです。私も猫は好きで飼っておりまして、猫科の動物、チータとか豹も好きなんです。本当に、見ていて美しい動きをするのが猫科の動物です。そんなところから、私は、ハンニバルを猫科の動物でやろうとイメージしました。それから、女性っぽいところもあると私は感じました。このハンニバル・レクターは、女性が持つクリエイティブな面も多く持つ男だと思いました。それを演じたんです。まぁそれは、シナリオにあることに少し付け加えて演じただけです。

■(ディノ・デ・ラウレンティス): 三作目はイエスです。幸運なことに、アンソニー・ホプキンスさんもやるよと言ってくださったので、三編目は出来ると思います。この二編目の最後では、彼は飛行機に乗っていました。最後に出てくる子供は日本人です。日本人の子供が乗っているので、たぶん着陸は東京ではないかと思うのですが、それはまだわかりません。具体的な内容はまだ何も考えておりません。でも、私は東京という街が大好きですし、日本の方が大好きなので、ここで映画の撮影のために数ヶ月過ごすのも悪くないなぁと思っていますので、出来ることなら東京で話が進む方向で持っていきたい。でも、真面目に申しますと、全然内容は決まっていません。新しいストーリーは、もうちょっと時間をかけて煮詰めてから決まっていくと思います。

◆質問: アンソニー・ホプキンスさんに質問をしたいのですが、テロップには出ていませんが、ゲイリー・オールドマンとクラリス役のジュリアン・ムーアさんなど、共演者の印象をお聞かせください。

■(アンソニー・ホプキンス): ゲイリー・オールドマンは、10年前、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』で共演いたしまして、素晴らしい俳優だと思っています。本人は、とてもファニーでユーモアがあって面白いんですが、やはり、役柄にパワーをそそぎ込む力は凄いものを持っている。彼がなぜクレジットに名前を出していないのかわからないんですが、この映画に、本当に素晴らしいものを与えてくれたと思っています。それから、ジュリアン・ムーアに関しましては、さきほど、ジョディ・フォスターが降りて失望したと言いましたが、ジュリアン・ムーアに決まりまして、彼女にはフィレンツェで会いました。やはり、ジョディ・フォスターの役を演じるので、とても勇気があると思いました。初めは撮影に来た時もナーバスでしたが、本当にプロフェッショナルで才能もあるし、また、女性らしい魅力をたくさん持った方です。ですから、俳優にしろ監督にしろ、私が一番仕事をしやすい相手というのは、準備をちゃんとしてくるプロ、その知識と力を備えている方です。よく俳優と俳優の間の目に見えないケミストリーということが言われますけれども、私は、目に見えないものではなくて、準備をしてくる、才能がちゃんとある、そして時間通りにセットでちゃんと仕事をするというのが一番重要なことだと思います。それは、ゲイリー・オールドマンもジュリアン・ムーアも、ジョディ・フォスターもレイ・リオッタも、この映画に出られた方はみなプロに徹した方なのでやりやすかったと思います。

◆質問: プロデューサーのお二人に質問です。先程の続編についてですが、トマス・ハリス抜きですか? それともありで? あとひとつ、映画の中で絵はがきが出てきますが、あの絵は誰の絵なんでしょうか?

■(ディノ・デ・ラウレンティス): トマス・ハリスの本ができるのを待つほど私は若くありません(会場笑い)。ですからオリジナルになるんですが、もちろん、トマス・ハリスはこちらからいろいろな質問をすれば答えてくれます。彼には素晴らしい才能があるので、コンサルトはしてくれます。でも、まだ何も決まっていません。

■(マーサ・デ・ラウレンティス): 観てから時間が経っているので(定かではないのですが)…ウィリアム・ブレイクではないでしょうか。

◆質問: この映画で、原作にある部分でカットしたくなかったところですとか、編集でカットしたくなかった場面などありますか?

■(マーサ・デ・ラウレンティス): フィレンツェという素晴らしい町で映画を作ったのですが、あれはただのロケ地ということではなく、映画を描く象徴としても素晴らしいんです。原作では、イタリアの連続殺人事件の話がずいぶん入ってくるんです。あれで、追われている連続殺人犯(イルモストロ)とハンニバル・レクターのように自由な連続殺人犯とを並行して描けたんです。実際そう撮っていきました。それで、二人の絡みも撮ったんですが、映画ではどうしても入れきれなくて、ハンニバルの宮殿で床掃除をしている人がいましたよね。あれが本当はイルモストロなんです。でも、そこまでは説明しきれないので…この事件の担当にハンニバルが解決の糸口を与えてやるという場面もあったんです。でも、残念ながらカットせざるを得ませんでした。

●司会者: 最後に、アンソニー・ホプキンスさん、日本での会見はいかがでしたでしょうか?

■(アンソニー・ホプキンス): ワンダフル! サンキュー。

(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


『ハンニバル』は4月7日より丸の内ルーブルほか全国で公開予定。