『バガー・ヴァンスの伝説』、『ザ・ダイバー』シャーリズ・セロン来日記者会見
●2月22日(木)東京プリンスホテル、プロビデンスホールにて
●出席者:シャーリズ・セロン
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【質疑応答】

◆質問: (あなたはモデルをしていらしたわけですが、)モデルの経験が役に立っていることなどはありますか?

■(シャーリズ・セロン): モデルと女優というのは全然違う職業なので、モデルをしていたからといって女優として助かったことなんてありません。ただ、スーパーモデルの役をした時には、少しは役に立ちましたけれど。

◆質問: これから挑戦したい作品などありますでしょうか。それと、『バガー・ヴァンスの伝説』でマット・デイモンさんに積極的に近づくシーンがあるんですが、実際の貴女は男性に積極的なんでしょうか?

■(シャーリズ・セロン): 実際の私が男性に積極的な感じに見えますか(笑)? 私のキャリアを見てもおわかりいただけると思いますけれども、非常にバラエティに富んでいるんです。昔からこの役をやりたかったという選び方をしているわけではないということをわかっていただけれると思います。つまり、シナリオを読んで、それから受ける反応で「今までやったことのない役だからやりたい」という風に決めていきます。たとえば、「スーパーモデルをしたい」と思ったこともないし、「社交界の令嬢をやりたい」と思ったこともないんです。たまたまこういうシナリオを読んで、面白そうだということで出るわけです。ですから、今後の方針も、とにかくシナリオを沢山読む。そして、自分自身を驚かせるような役をやっていきたい。『バガー・ヴァンスの伝説』と『ザ・ダイバー』も全然違う役でとても楽しくさせていただきました。それから、私はプロデュースも好きです。2年前から自分のプロダクションを作りまして、プロデュースですとか、シナリオを掘り起こすような仕事をしております。この8ケ月間は女優の仕事はしていません。主に、新しい映画を開発するほうの仕事をやっています。私は、この仕事もとても好きで、いわゆる俳優では、現場にいて自分の場面が終わるとすぐに帰ってしまう人もいますけれども、私はそうではなくて、シナリオのリライトにも口を出すし、製作の過程すべてに関わっていくということが凄く好きです。そういう方面でも新しいことに挑戦していきたいと思っています。それから、『バガー・ヴァンスの伝説』で演じた女性は、もちろん、私が心の中で作り上げた女性ですけれども、この人は、1930年代に南部のサバンナで生きた人です。もちろん、私はその時代を知らない。でも、南部の女性には『風とともに去りぬ』のスカーレットのように、とてもプライドがある。南部の女性というのは、心の中が非常に傷付いても、表面ではそれを隠す特徴があるんです。つまり、二重の精神構造になっているんです。そこが今回の役作りで面白かった点でした。

◆質問: 5年後ですとか、仕事のビジョンがあったらお伺いしたいんですが。それと今、大変多忙だと思いますが、セロンさんにとって大切な時間とはどのような時間なのでしょうか。

■(シャーリズ・セロン): 私は不幸なことにそれほど先の読める人間ではないんです。それは私がブロンド(ジョーク。頭が良くないという意味)だからです(笑)。それに意識的に先を読まないようにしております。あまり先のことを考えていますと、そこにはかならず失望というものがくるわけです。それを避けるためにも、私は今という時間をエンジョイしている。そして、今、演じることに情熱を持っています。そこの延長線上にプロデュースというものがある。ですから、今はそれほど先を読まず、演じることとプロデュースに専念しています。次の質問ですが、この女優業というものをはじめてから、自分の時間も他の人との共有時間に属する、つまり、自分の時間が無いということを学びました。私がかろうじて確保している自分の時間で、友人や家族たちと過ごす時間が非常に重要なわけです。私の時間は、概ね様々な人の目にさらされているわけです。そういう意味でも、自分の時間は凄く大切なんです。

◆質問: 貴女は、ベテラン俳優から若手まで様々な俳優の方と共演されていますが、ベテランと若手の俳優から学んだこと、そして、その違いをお伺いしたいのですが。


■(シャーリズ・セロン): アル・パチーノやロバート・デ・ニーロという、この世界では神様みたいな方と一緒にお仕事をして学ぶことは、経験の深さです。彼らが長年の歳月を通して得たものというのは、私たちが時間を飛ばして学ぶことはできないんです。本当に、一歩一歩歩いて彼らが見つけてきたものなんです。ですから、マット・デイモン、ウィル・スミスや私たちの想像を絶することを、彼らは経験から知っているんです。そのあたりは大変な勉強になるわけです。たとえば、パリへ映画のキャンペーンに行った時、私はアル・パチーノと食事をしたことがあります。そうしましたら、パパラッチが追いかけてくるんです。私はその時、やっとキャリアがスタートした21歳でした。ですから、パパラッチに追いかけられるのは悪夢のような経験でした。そしてやっとレストランにたどり着いた。21歳の私が、あのアル・パチーノと一緒にお食事できる。夢みたいな話です。そこで、アル・パチーノは、一瞬、デビューしたての私の前で恐ろしい事を言いました。「もしも俳優という仕事が、こうしてプライベートな時間まで人の目にさらされる仕事だと知っていたら、僕は俳優にならなかったかもしれない」と。それは、目の前がバラ色になっている新進女優にとっては恐いこと。でも、それは彼の経験を経なければ言えないセリフなんです。彼らははかり知れない知識を持っているということを実感しました。アル・パチーノは、演技をすることが何よりも好きで今までやり遂げてきた。その素晴らしさ、彼の知識と人間を見る目の鋭さというものを彼は身につけたわけです。ですから、先ほど言った、プライベートな時間が如何に重要かということ。私もプライベートな時間を守らなければいけないということを学びました。それから、ベテランの人たちは真実を知っている。それは貴重なことだと思います。

マット・デイモン、ウィル・スミスという二人は、才能がとてもあるということが共通しているところです。このまま仕事を続けていけば、彼らこそ、未来のロバート・デ・ニーロやアル・パチーノになる、そういう素質がある人たちです。私の世代にも本当に優秀な方がいますけれども、その上の方にいるのがこの二人だと思います。彼らからは、いつもチャレンジ精神を感じるんです。彼らに追いついていくには、いつも神経を立てて緊張していなければならないという興奮があります。それから、彼らは冒険をするのを恐がらない。どんな役柄にも挑戦する。その素材の選択がうまい。作品の選び方も非常に面白い。そういうところも、一緒にやっていて学ぶべきところで楽しいんです。


◆質問: バガー・ヴァンスでは、(主人公が)自分のスウィングを見失ってしまいますけれども、セロンさんもそういう時はありますでしょうか。それと、バガー・ヴァンスのような影響力のある人にあったことはありますか?


■(シャーリズ・セロン): この映画のメッセージであり、また私もそれに同感するんですが、自分のスウィング、つまり、自分自身を見失った時に自分を取り戻す唯一の道は、自分の中の悪魔と対決することです。これは、決してやさしいことではありません。自分の間違い、失敗、昔の傷と向き合うということです。人はそれをいやがって安易に避けようとするけれども、やはりそこで直面しなければいけない。自分を正直に見つめるということが必要だと思います。自分を見失った時には、自分の内なる宇宙の中で自分の悪魔と対決すること。そして、自分と仲直りしないと先に進めないと思います。ですから、この映画のひとつのテーマは“許し”です。間違いを犯した自分をも“許す”ということです。自分を許しそこに平穏を見つけるという生き方を、この映画は教えていると思います。それと、影響を与えた人ですか、私の人生の上で、バガー・ヴァンスのように消えてしまった人はいませんが、人間は、自分の人生を変える人と絶対逢っていると思うんです。でも、自分で(その人の存在を)認めない、もしくは自分で気付いていないということはあると思います。自分が予期しない時、予期しないところで、誰かが言ったことで自分が変わるということがみんなあると思うんです。振り返った時にわかること。そういうことは私にもありました。

◆質問: モデルをやられていて、衣装などにも貴女の意見が反映されていると思うのですか、如何でしょう。


■(シャーリズ・セロン): モデルをしていたからというわけではありません。人物のメイク、衣装などは、その人物を描く重要な要素となっています。俳優さんで、衣装の人が用意してくれたものを黙って着るような人はまずいません。必ず、自分の意見を持っているものです。幸い、ハリウッドというところは才能がある人たちが集まっていますから、彼らは、ほとんど完璧な衣装を揃えてきます。でも、自分の意見というものはありますし、それで演技を組み立てていきます。たとえば、『ザ・ダイバー』の女性の役ですが、私の解釈では、この女性は人生で夢はあったけれども、それを果たせなくてアル中の女性になってしまった。そういう感じがある。この女性は1950年代に映画スターになりたかったに違いない。それが、夢破れて、今は海軍のお嫁さんになっている。彼女は、あの頃のエリザベス・テーラーとか、マリリン・モンローとかに憧れている女性が着るような服を絶対着ているに違いないということで、ああいう映画スターっぽい格好をしているんです。つまり、そういうところから、メイク、衣装、小道具から役作りをしていくという。そうすれば役作りもやさしくなっていくんです。

◆質問: ロバート・レッドフォード監督と仕事をされて印象に残ったことはありますか?

■(シャーリズ・セロン): もちろん、やりやすいのは自由をくれる監督さんです。要所要所で指示をくれる監督さんというのが、俳優からみて素晴らしい監督さんなんです。そういう意味でも、ロバート・レッドフォード監督は本当に素晴らしい監督で、ご自分が俳優さんでもありますから、俳優が持つ忍耐力、フラストレーション、理解といった部分もよくわかっていらっしゃる。たとえば、あるシーンで、私が演じた女性が自分の気持ちを吐露する場面がありました。シナリオを読んだ時、私は、この場面が一番この女性にとって重要なシーンだと思いました。凄く短いシーンなんですが、ここが大切だと自分に凄くプレッシャーをかけてしまった。で、その日現場に行きましたら、そのプレッシャーから何も演技が出来なくなってしまった。もちろん3テイクくらいは撮りましたが、何も起こらなかった。でも、そんな時、レッドフォード監督はどうすればいいかわかっていらっしゃる。ある監督などは何回もやらせたりしますけれども……。その時、レッドフォード監督は、5分間休憩をとり、私に、トレーラーに入ってすべてこのことは忘れなさいと言いました。で、5分間休憩をとり、すべてこのことを忘れて、また現場に戻ってやってみたら1テイクで撮れました。その理解力の深さには驚きました。ガイダンスの素晴らしさ、これ以上の監督はいません。最高の監督でした。

(通訳者の表現をもとに採録。細部の言い回しなどには若干の修正あり)


●『バガー・ヴァンスの伝説』は3月3日(土)より日比谷映画ほかにて公開。
●『ザ・ダイバー』は5月下旬より日比谷映画ほかにて公開予定。